ドキッ!美少女だらけの勉強会!(ポロリじゃ済まねぇよ)

第1話 近頃はひょんなことで事案になる


「勉強会をしようと思います!」


開口一番、やけに気合いの入った様子でゆかりんが宣言した。


時刻は午後4時過ぎの放課後。どんどん人数が減っていく教室の一角で、ゆかりんに招集をかけられたのは俺を含む4人の生徒。


シェリーたん、カレーパン、ヨシツネ。そこに俺を加えた面子が、ゆかりんの机の周りを囲んでいる。


「勉強会……ですか。素晴らしい提案だとは思いますが、唐突にどうしたんですの?」


シェリーたんの言うことは尤もだ。さしてテストも無いこの時期に、果たして勉強会なんぞ必要あるのだろうか?中間テストも俺が転校してくる前に終わったらしいし。


ひょっとしてゆかりんは普段から頻繁に勉強会なるものを開催しているのか……と思ったが、皆の反応を見るにそういう訳じゃなさそうだ。


「まぁ、たまには良いんじゃない?紫子に教えてもらうと分かりやすくて助かるのよねー」


と、意外にも肯定的なのはカレーパン。ラブレター事件の傷はすっかり治ったようで、もういつものテンションに戻っていた。


エイミー達と決闘してから二日。つまりカレーパンが傷心してから二日経ったワケだが、女子って回復すんの早いんだな。


俺なんて、フラれた時は小学生なのに軽く一週間は鬱になってたぞ。


「明日は土曜日でお休みだし丁度いいかな、って思ったの。いつでも勉強はしっかりやらないとね」


それにしてもこのゆかりん、すごいやる気である。


「不洞さんも大丈夫?」


「うん、いいよ。特に予定は無いから」


嘘です。本当は録り溜めしてた深夜アニメの一人鑑賞会をする予定でした。


ゆかりんに誘われちゃ断れんよ、畜生。

 

仕方ない、鑑賞会は日曜日に延期としよう。


「決まりですわね。それで場所は何処にしますの?」


「学校でもいいけど、どうせなら違う環境の方が新鮮で勉強も捗ると思うの。だから、できれば誰かの家がいいかなぁ、って」


「じゃあシェリーんちで良くない?広そうだし」


「神楽坂さん、勝手に決めないでください。第一、わたくしのあれは留学用の別荘であって本邸ほど広くはありませんわ」


「いや別荘って時点で期待度マックスでしょ」


なにやら楽しそうに話が進んでるな。こうしていると超人じゃなくて普通の女子高生にしか見えないから不思議だ。


うーむ、リアルJK……感慨深いものがありますなぁ。


今俺は全国の中年オヤジの夢を実現している。そう考えるとオラなんか興奮してくっぞ。


しかもそんじょそこらのJKとはレベルが違う。


可愛さ満点のゆかりん。


ボインボインなシェリーたん。


黒髪ロングのカレーパン。


そして猫耳生やした――――、


「ん?」


そこで俺はようやく気付いた。


普段から人一倍やかましいヨシツネが、何故か今に限って誰よりも静かに直立しているのだ。


「ねぇヨシツネちゃん、聞いてる?」


ゆかりんの呼び掛けにも微動だにしない。ネコミミはぺたりと閉じられ、視線は真っ直ぐのままで一体どこを見ているのやら。


どうしたんだろうか?


「ヨシツネさん、ちゃんと聞いていますの?」


「もしもーし、ヨシツネ~?」


「……………………」


シェリーたんが読んでも、カレーパンが目の前で手を振っても反応は無し。ただの屍のようだ。


これはもしかすると……。


「ねぇヨシツネ、明日みんなで焼き肉でも食べに行こうかって話なんだけど」


「にゃぬ!?焼き肉とな!?」


俺が耳元でウィスパってやると、スイッチが入った洗濯機のように騒ぎ出すヨシツネ。


なるほど、お前勉強会スルーするつもりだったろ。

 

まぁ勉強が嫌という気持ちは分からんでもない。俺だって好きな訳じゃないし。


せっかくの休日を勉強で潰したくないというのは、生真面目な奴以外なら別に普通のことだろう。


「店はどこにするのじゃ!?食べ放題かえ!?」


「落ち着け落ち着け」


「ウチぁ腹が減ってきたぞい!」


「焼き肉イベントがあると言ったな。あれは嘘だ」


「に、にゃんじゃと!?」


オーバーリアクション過ぎんだろ。どんだけ焼き肉食べたいんだお前は。


「本当は焼き肉じゃなくて勉強会だよ。明日誰かの家に集まってみんなで――」


「……………………」


勉強の話になった途端、ネコミミを畳んだヨシツネはまたも石像と化した。


くっそ、なんかムカつく。


「聞、か、ん、かぁ~~!」


皆の心境を代弁すべく、俺はヨシツネのネコミミを無理矢理開いてやった。断じて腹いせではないとここに宣言しておく。


「嫌じゃあ!勉強は嫌じゃあ!!」


「だったら最初からそう言えばいいでしょ!」


まったく……面倒臭い奴だなホントに。勉強の“べ”の字が出てきた瞬間に拒絶反応が起きやがるみたいだ。


まぁそれはそうとして、この調子じゃヨシツネは不参加ということに……、


「駄目よ。ヨシツネちゃんは絶対に参加すること」


おぉう、ゆかりん鬼畜だな。


ヨシツネがこの世の終わりみたいな顔してんぞ。

 

てっきり物静かで優しい性格だとばかり思っていたが、予想外にアグレッシブな一面。どうやらゆかりんは甘さだけでなく厳しさも持ち合わせているみたいだ。


「そもそも、今回の勉強会はヨシツネちゃんの為に企画したんだよ」


「要らんお世話じゃ!猫にミカンを献上するかの如く迷惑な話じゃ!」


「でもちゃんと勉強しないと、いつまで経ってもおバカさんのままだよ?ヨシツネちゃんはいつも遊んでばかりだし、ちょっと可哀相だけど荒療治でいくね」


「死ねと!?ウチに死ねと!?」


もうヨシツネの嫌がりっぷりが半端じゃない。勉強すると死ぬような病でも患ってんのか、コイツは。


「ヨシツネさん、一つ伺いますが……」


やれやれといった様子で、シェリーたんがゆかりんサイドに参戦。ヨシツネの顔が更に険しいものへと変わる。


「前回の英語の宿題……確か貴女は12ページほど課されていましたが、結局どれだけ消化出来たのです?」


「うっ……そ、それは……そのぉ……」


そういえば、俺にランニングで負けた奴は宿題増やされてたっけか。


しかもヨシツネは反則したから増加量は更に倍。元々の量と合わせて計12ページという鬼畜仕様の宿題になってたな。


宿題提出の締め切りは今日だし、まぁ流石にあの量は全部出来なくても仕方が無いと俺も思う。こいつらまだ2年生だし。


「4……」


「ほらみなさい。半分も出来ていないではありませ――」


「……もん


「って1ページも出来ていませんの!?」


シェリーたんが心底驚いている。その気持ち分かるよ、俺も色んな意味でビックリだ。


英語の宿題は、最初の方は1ページに大問が5つくらい用意されていた。後の方になれば長文なども混じって数自体は少なくなるが、大体全部で4、50問くらいはあるんじゃないだろうか。


それが宿題が出されてから今日まで3日もあったのに、たった4問しか解けなかったとは。


エイミー達との戦いがあったからとか、そういうのは理由にならない。だってあれ難易度的に30分ありゃ1ページは出来る内容だったもん。


よっぽど頭が悪くない限りは、半分くらいは出来るのが普通だろう。

 

「しかしじゃな、英語なんぞ出来なくとも繋がる心さえありゃ人は誰だって――」


「お黙りなさい!」


「ぴゃいっ!?」


なんかカッコイイこと言って誤魔化そうとしたらしいが、シェリーたんの一喝で全て吹き飛ばされてしまう。


うはっ、迫力ぱねぇっす。


「その体たらくで何を言いますか!クラスにこのような生徒がいるとは由々しき事態ですわ!委員長として見過ごす訳にはいきません!」


「だ、大丈夫じゃ委員長。ウチが本気を出せば英語の一つや二つ楽勝なのじゃ。今はちょっぴり手を休めているだけ――」


「問答無用ですわ!」


「そ、そんな殺生な……」


助けを求めるような視線が俺の方に向いてきたが、正直救済するのも面倒なので目は合わせないようにしておいた。


諦めろヨシツネ、お前がバカなのが悪い。


「うぅむ……かくなる上は脱走の準備を……」


「神楽坂さん、明日は何が何でもヨシツネさんを引っ張って来てくださいまし」


「あいよー。部屋隣だしね」


「ウチの味方はおらんのか!?」


ああ、今日も他人の不幸で飯が美味い。これをメシウマという。


ん……?ちょっと気になることがあったな。部屋が隣ってどういうことだろうか。


そこんところをカレーパンに尋ねてみると、


「あ、そういや新菜は自宅通いなんだっけ?私たちは家が遠いから寮に住んでんのよ」


とまぁ、夢いっぱいな答えが返ってきた。


なるほど寮があったのか。シチュエーションがエロゲすぎんだろこの学園。


「ウチも家が無いから寮に住んでるのじゃ。にゃっはっはっは!」


いや、そんなこと自慢されても……。

 

何はともあれ、これで明日の予定は決まった。


人生初となる女子高生ら4人に囲まれた勉強会。いや初というか、大多数の男子には機会すら訪れない超レアなイベントだろう。よっぽどのリア充じゃないとフラグすら立たない程の。


あれ?そう考えると今の俺ってリア充?まさかの脱負け組ワロタ。


ドキドキが止まらんわ。


「それじゃ、明日はシェリーたんの家に集まればいいんだね。でも場所知らないから誰か教えてほし……ん?」


確認をとる最中、期待が籠もったゆかりんの瞳に気付いた。


その期待が向けられている先は……たぶん、俺。


なんぞ?


「ねぇ不洞さん。私、不洞さんの部屋で勉強会したいなって思うんだけど……駄目かな?」






無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。






絶対に無理だ。いくらゆかりんの頼みでも、それだけは頷く訳にはいかない。


だって俺の部屋だぞ。ギャルゲとエロゲが積み重って小さな塔になってんだぞ。ラノベと漫画と同人誌が大量に並んでんだぞ。少ないけどフィギュアもあんだぞ。


おまけにPCの中身はえらいことになってんだぞ。


もはや国家機密レベルで守られるべき神秘の間だ。俺以外の入室は断固として認められん。


それにもし仮にオタク部屋でなかったとしても、我が家には一匹、とんでもないクリーチャーが巣喰っている。


勉強中に乱入されたが最期、クトゥルフ神話級の混沌に陥るのは間違いないだろう。

 

「悪いけどゆかりん、私の家は他人を招けるような場所じゃないんだ」


「どうして?」


「引っ越してきたばかりだから、家の中がダンボールだらけでね。私の部屋もそれでスペースが埋まってるんだよ」


ここで転校生という設定を活かさずしてどうする。ナイス機転だ、俺。


ゆかりんも自然に納得してくれたようで、「それじゃあ仕方ないよね」と頷いてくれた。


将来は策士になれるやもしれん。


「じゃ、結局シェリーんちで良いわね。場所はまぁ……とりあえずみんな学校に集合してから行けば大丈夫でしょ。ってワケで明日は校門に1時集合!」


カレーパンがそう締め括り、本日はこれで解散という運びに。


「不洞さん、一緒に帰ろ♪」


「ぶほぁっ!?」


「ふ、不洞さん!?」


あまりの可愛さに鼻血を吹いてしまったが、なんとか誤魔化して保健室行きだけは免れた。


そろそろ俺も輸血パックを携帯しないといけないかもしれんね。






でもって、翌日。


昼ご飯を食べ終えた俺が出発の準備をしていると、いつもと違う雰囲気を察してか、母さんが不思議そうに俺に尋ねてきた。


「あら新斗、どっか出かけるの?アキバ?」


「勝手に決めつけんなし。友達の家だよ」


趣味が趣味だから全否定は出来ないところだが、今日に限っては胸を張って否と言わせてもらおう。


「へぇ、学生らしくて良いじゃな……ってちょっと待ちなさい」


「ん?」


「あんたの友達って、確か女の子だったわよね?」


「まぁそうだけど。ちなみに今日行くところはまた別の友達の家だけどな」


「ってことは、その子も女の子?」


「おう」


「そっか。じゃあ失礼の無いようにしなさいね」


「……?」


一体何だったんだろうか?分からん。


そのまま電話の受話器を取る母さんを尻目に、俺は玄関へと向かう。




「あ、もしもし警察ですか?」


「ストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオップ!!」




ガシャン!と俺は慌てて受話器を奪い元の所に叩き付けた。


いきなり何通報してやがんだこのババァ。俺が女の子の家に行くのがそんなに悪いのかよ馬鹿野郎。


その「なんで邪魔すんのよ?」みたいな顔を今すぐ止めろマイマザー。鼻フックで歪めたくなる。


「あんたは本当に俺の親なのか時々本気で疑うんだが」


「愚問ね。息子を愛する理想的な母親よ、私は」


「今通報しようとしてましたよね!?」


「息子が道を踏み外す前に正してあげるのも母親の役目よ」


正す以前に罰しようとしてんじゃねぇか。しかも謂われようのない罪で。


「いいか、俺はただ勉強会をしに行くだけだ。断じてやましい事などするつもりは無い」


「あのね新斗、他人の下着を盗むことを“やましくない”とは言わないのよ?」


「知っとるわ阿呆!!」


そんなもん興味も無……いやありますけど、実行に移すほど俺は人間が腐っちゃいない。


大体、盗むならシェリーたんよりもゆかりんの方が良ゲフンゲフン。




「にーちゃん、下着が欲しいなら私のをあげるよ?はい」




ポン、と隣から俺の手の上にピンク色の布切れが置かれる。


出たな神話生物。


「クーリング・オフだ。これを持ってさっさと土に還るがよい」


「当店ではそんな制度は採用しておりません。なーんちゃって♪」


このやろう。鬱陶しくて直視してられん。


「大丈夫だよ。にーちゃんが気に入るようにサービスをしといたから」


「あん?……って、この生暖かさはまさか!?」


「おう、脱ぎたてだぜべいびー!」


きたNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEッ!!」


汚物が手にこびりつく前に、俺は急いで布切れを床に叩き付けつけた。


俺は認めない。こんなものがパンティーだなんて絶対認めない。

 

「まだ不満なの、にーちゃん?……あ、匂いが足りなかった?待っててね、今すぐ穿き直すから」


足りないとかじゃねぇよ。そして漢字を間違えるな。


お前のは“におい”じゃなくて“におい”だ。


「どれくらい穿いてれば良いかな?3日?」


「科学兵器になるから止めれ。日本でバイオハザードを起こすつもりか」


悪臭で日本中の人が発狂すんぞ。


新種の感染症とか発生しそうだ。


「分かった、それじゃあこうしよう。私はパンツをあげないから、代わりににーちゃんが今履いてるパンツを私にプレゼントするの」


「おかしい。その理屈はおかしい」


駄目だこいつ……冗談でも何でもなく本当に何とかしないと。


とんだサイコパスを産んでくれたもんだな、我が母よ。


「さ、早く脱いで」


「仕方ない……箪笥にある俺のパンツの中から好きなやつを一つ持っていけ。姉ちゃんに脱ぎたてパンツはまだ早い」


「よっしゃああああああああああああああああああああッ!」


ヨダレを撒き散らしながら、神話生物は俺の部屋にダッシュしていった。


パンツを取られるのは気色悪いが、それでこの場をやり過ごせるなら安いもんだ。パンツならまた新しいのを買えばいい。


と、アホなことをしてる間に時間もヤバくなってきた。いい加減に出発しないと。


「いいか母さん、もう通報とかするなよ?絶対にするなよ?」


「フリね?」


「フリじゃねぇよ!」


もし本当に逮捕されたら呪ってやるからな。覚悟しとけよオカン。


そうして一抹の不安要素を抱えながら、俺は家を後にした。

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