第6話 あらやだ、オタクの息子さんってばモテモテね

タイムリミットは30分。


もしそれまでに決闘の場所に行かなければ大変なことになるという。


しかし田中先生はあっけらかんと言い放つ。


「文句なら敵さんに言って頂戴ね。ほらほら、早く着替えてグラウンドに集合よ」


本当に?何かの間違いじゃ?


誰もがそう言いたげで、しかし時間が無い故に急がざるを得ない。


男子たちは慌てて教室から飛び出して行き、女子も急いで着替え始める。


つい一緒に飛び出そうとした俺の首根っこは、「貴女はこっちでしょう」とシェリーたんに引っ張られてしまった。


危なす危なす。


「しっかし、まさかこんなことになるなんてねぇ」


「どうする?私たちだけでも今の内にフォーメーション考えとく?」


「いや移動中でいいでしょ。今はそんな時間無いって」


「むぅ……せっかく1時間目は寝るつもりじゃったのに」


背中越しに聞こえてくる不満に (一部を除き)共感しながら、俺も着替えを始める。


といっても俺の場合は一瞬なのでそんなに急ぐ必要は無い。


時計のボタンを押すとあら不思議。瞬く間に制服からミニスカでムチムチなコスプレ衣装へと早変わりだ。


この姿への変身はこれで3度目だが、猛烈なコスプレ臭を放つ戦闘服に俺何やってんだろ感が未だに拭えない。

 

着替えを済まさせた俺は深く溜め息をついた。気を緩めたら地面に膝をついてしまいそうだ。


「なんてこったい……」


時間が経ち冷静になればなるほど絶望感が込み上げてくる。


作戦が無い。つまり実力だけで戦えということ。当たって砕けろの精神ですね分かります。


洒落になんねぇわ。


落ち着け俺。絶望するのはまだ早い。さっき女子が言っていたように移動中に説明されるのかもしれない。


というかそうでないと困る。


「……行くか」


これ以上考えてると変なフラグが立ち兼ねん。


無理矢理自分を納得させ、それでも憂鬱な足取りで俺は教室を後にした。


と、


「もぅ最悪……」


そんな俺の隣を、俺よりも憂鬱そうな様子で歩く人物が一人。


随分と萎れた揚げ物だ。


おっと訂正、カレーパンだ。


やたらとテンションの低いカレーパンが、何やらブツブツ唱えながら俺の隣を歩いていた。


まぁその気持ち、分からんでもないよ。これから死ぬかもしれない危険な戦場に赴くんだから仕方ない。


「あぁ新菜、おはよう……」


今ようやく俺の存在に気付いたのか、生気の失せた視線を向けてくる。


「おはようカレーパン。なんかこの世の終わりみたいな顔してるけど大丈夫?」


「聞いてよ新菜、みんな酷いんだよ……」


なんと。カレーパンって呼んでも怒らないとは。どんだけ追い込まれてんだお前。


ん?……“みんな”って言った?


どういうことだってばよ。

 

「何かあったの?」


「それがさぁ!」


「うぇいッ!?」


直球で尋ねると、カレーパンはいきなり俺の両肩をガシっと掴んできやがった。


げっそりとした顔が目の前に。どこぞの先生も驚きの絶望ぶりに俺も戸惑いを隠せない。


「昨日のね、アレね、覚えてる?」


「アレ?」


「ルァヴレトゥア―」


妙に発音が濁ってて聞き取りにくかったが、辛うじて“ラブレター”だと理解できた。


そして同時に忘れていた昨日の事件を思い出す。そういえば男子から渡されたラブレターを全部内緒でカレーパンに押し付けたっけな。


あの後どうなったのか聞いていないが、今のコイツの様子を見てればある程度は想像がつく。


っていうかテンション低い理由そっちかよ。


「言われた場所で言われた時間に待ってるのに誰も来ないしこっちから聞きにいけば渡す相手を間違ったとか言われたし逃げる男子もいたし結局みんな間違えてやがったし糠喜びさせんじゃないわよ私のドキドキ返しなさいよケツの穴2つに増やしてやろうかコラ」


うっわ、見事にダークサイドに堕ちていらっしゃる。今のこいつなら某ベーダー卿も余裕で倒せそうだ。


ご愁傷様でぇす。

 

とはいえ、流石にちょっと可哀相なことをしたかな?


だが俺も真相を話す勇気なんて無いので、ここはテキトーに慰めておくか。


「元気出してカレーパン。思春期の恋愛なんてそんなもんだって。だいたいラブレターなんかで告白しようとする軟弱な輩にロクな男はいないよ。やっぱり公衆の面前で告白してくるくらい勇気がある男じゃないとね」


人のことは言えんが。


「ぐすん……ありがと、新菜」


ようやく錯乱が終わったらしい。俺は一安心し、涙目になるカレーパンの背中を軽く叩いて元気付けてやる。


俺の慰めスキルって意外と高いんだな。ニート予備軍にこんな社交的ポテンシャルが秘められていたとは思わなんだ。


「ほら、行こう。急がないと先生に怒られる」


テンションが微回復したカレーパンを連れてグラウンドへと急ぐ。


いやそれにしてもここまで凹むなんて、思春期の女子って色々と難しい。現実の恋愛事なんて小学生以降ずっと無縁だったからよく分からんわ。エロゲじゃ無双だったのに。


まぁ最近はゆかりんに胸キュンしてる自分が居るけどさ。


「新菜は良いわよね……可愛いし髪キレイだし胸もおっきいし……ラブレターも沢山貰ってるんじゃないの?」


「そ、そんなことないよ。私なんて大根に生えたひじきみたいなもんだよ」


こやつ鋭いな。


だがラブレターについてはもう貰わないから大丈夫だ。昨日の失敗を活かし、靴箱の名前のプレートを“ブラジリアン長谷川”に変更しておいたからな。


ネーミングセンスは気にしちゃいけない。

 

「不洞さん、神楽坂さん、何をもたもたしていますの?急がないと指定された時間に間に合いませんわよ」


甲冑姿に着替えたシェリーたんが、巨大銀髪ドリルを揺らしながら俺たちを追い越していく。


他の奴らもぞろぞろと走り去ってしまい、気付けば俺達が最後尾。


まずいな、急がないと。


が、足を速めた俺達を阻むように、数人の男子が立ちはだかった。


「……?」


いきなり何の用だろうか。全然見覚えがないし他のクラスの奴らっぽいけど。


加えて挙動不審ときた。場所が場所なら職質されても文句は言えんぞ。


そんな風に俺が怪訝な顔つきをしていると、男子の中の一人が意を決したように叫んだ。



「ふ、不洞さん!好きです!俺と付き合ってください!!」


「いや、俺の方が好きです!俺と付き合ってください!!」


「俺とやらないか」


「LOVEの強さなら僕の方が上です!だから付き合うなら僕と!!」


「一目惚れしました!あぁ可愛い!美しい!是非ともお付き合いしてください!!」



……ごめん、リアルに吐き出しそうになった。体中に鳥肌が立ちまくってるよ、いやホント。


まさかダイレクトアタック部隊が現れるとは。ある程度予想はしていたけど、いざ告白されると本気で気分が悪くなる。


せめてもう少しタイミング考えようよ。こっちは今から生きるか死ぬかの戦いをしに行くっつーのに。

 

「え、えっと……」


どうやって断ればいいんだろうか。


生理的に受け付けない?いやそんな断り方だと俺の評判が下がる。


ここは無難に“他に好きな人がいる”とでも言っておくべきだな。


あ、でも“じゃあ二番目で良いから”なんて言われたらどうしよう……考えすぎか?いやDQNドキュン気質の奴なら更に強引な手口で攻めてくる可能性だってある。


「……なんて……」


ん?今何か聞こえたような。


声がしたのは隣から。見れば、カレーパンがぶるぶると震えている。


……ッ!やばいな、今のカレーパンにこの状況は非常にマズイ!傷口を抉って切り開くようなものだ。


「男なんて……男なんてぇえええええええええ!!キェェエエエエエエエエエエエエエッ!!」


「ぷげら!?」


男子の集団に強烈なタックルをかまし、カレーパンはそのまま走り去っていった。


キェエエエッ!って叫ぶ人初めて見たよ。


「痛たた……な、何だったんだ?」


お前らマジで空気読め。流石に今回はカレーパンが不憫だ。


可哀想だから今度カレーパンでも奢ってやろう。あ、食品のほうね。


「……で、どうなんですか?俺と付き合ってくれますか!?」


「なに寝言ほざいてんだ。俺に決まってんだろ」


「こんな奴らは放っておいて、是非僕と!」


お前らもお前らで強かな奴らだな。その図太い神経にだけは感銘を覚えるよ。


だがいくら神経が図太かろうがイケメンだろうが、貴様らが男である以上俺が付き合うことは絶対にない。恨むなら男に産んだ両親を恨め。


といった本音は包み隠して、俺は頭を下げた。


「ごめんなさい……私は私よりも強い人にしか興味が無いの。具体的にはスカウターでカンストするくらい強い人じゃないと」


まぁ地球人には無理だろう。


「ふ、不洞さんよりも強い奴だって!?」


「確か不洞さんって、あのアーナト・ファミリーをたった一人で撃退したんだよな?」


「それって教師より強いじゃねぇか!」


え?俺ってそんなに強いの?


またまた、大袈裟な。

 

とりあえず無理難題に打ち拉がれている奴らの脇を抜け、俺は脱出に成功した。


しかし男子からの告白がこうもウザく気色悪いイベントだったとは……これから気をつけなければ。


まぁチョココロネを倒した件も話が広がっていたみたいだし、俺の好みについても噂が広がれば告白してくる輩も少なくなるだろう。


口コミってほんと大事ね。






そうしてグラウンドに着くと、装甲車の横に立つ先生が腕を組んで俺を待っていた。他の皆はもう装甲車の中らしい。


「遅いわよ不洞さん。集団行動を乱すような真似は慎みなさい」


「はぁ、スイマセン。でも男子が告白してきて足止めを喰らってたんです」


「じゃあもっとモテないようにしなさい」


俺にどないせぇと?


「次からは気をつけて頂戴ね」


「了解しました……」


そんな感じで先生から理不尽な注意を受け、最後になった俺は急いで装甲車の中に乗り込んだ。


隅の方でカレーパンが真っ白になっていることを除けば、決戦に向けて全員気合いが入っている。なんとも頼もしい限りだ。


その気合いでエイミー達を倒してくれたら非常に有り難いんですけどね。


「それじゃ出発するわよ。時間が無いから安全運転できないと思うし、みんな衝撃には常に備えておいてね」


運転席から先生の声が聞こえた途端、装甲車のタイヤが甲高い摩擦音を鳴らす。


そして次の瞬間には強烈な負荷が掛かり、法的に許されざる速度で走行を開始。壁で頭を強打し涙目で振動に耐えている皆の姿がなんだか切ない。


無論俺も負傷者の一人だお。

 

車内は厚い装甲で囲まれているため外は見えないが、公害レベルのエンジン音と半端じゃない振動が壮絶なドライブを物語っている。


いつイナーシャルドリフトがきても構わないよう椅子に掴まっている俺は間違いじゃないはず。


「今日の運転は……ッ、荒っぽいね!」


何故かゆかりんが楽しそうだ。遊園地の絶叫マシンと勘違いしてません?


鋼鉄の箱に揺さ振られること20分。指定された場所の付近に到着したようで、先生から下車するよう指示が出された。


あれだけの荒い運転にも関わらずパトカーが1台も来なかったのは何故だろうか。


まぁその辺りは学園が何かしら手回ししているんだろう、ということで勝手に納得しておく。


「今日こそは勝ちますわよ!」


先陣を切ったのはシェリーたん。後部ハッチを豪快に開け放ち、差し込んできた光へ向かって飛び出して行った。


ヨシツネや他の奴らもそれに続き、車内に残っているのは俺とゆかりんだけに。


あれ?もしかして、ここでこっそり待機してりゃ戦わずに済……、


「私たちも行こう、不洞さん!」


……なんて考えていた俺の心を見透かしてでもいるかのように、ゆかりんが俺の腕を掴んで強制連行を始めなさった。


「ゆかりん今だけは君が悪魔に見える!」


「え?私、悪魔族とかの血も混じってない純粋な人間だよ?」


いや、そっちの業界用語でマジレスされても困るんですけど……。

 

結局ゆかりんの手を振り払う訳にもいかず、戦場という名の地獄に引きずり出されてしまった。


悪意の無い迷惑は何よりもタチが悪いと心底実感する。


で、


「ここが……指定された場所?」


周りに広がるのは、とっくの昔に廃棄されたであろう寂れた工場の跡地だった。


幾つかの建物が集まって大きな敷地が形成されている。今俺達が居るのはその敷地内だが、建物の中ではなく屋外。ヘリポートが何個も用意できるくらいのスペースがある広場だ。


なるほど、超人同士の戦闘でもこの広さなら差し支えは無いだろう。


空を見上げれば、灰色の雲が太陽を遮り不吉な空気を醸し出している。決戦フラグ全開といったところか。


惜しむべきは時間が早すぎるということ。まだ10時にもなっていないというのに。


朝一の決闘とかロマン無さすぎ。


「……来たのじゃ!」


ヨシツネが敵の姿を捕捉したらしい。


クラス総勢30人。俺はそれを盾にして最後尾に陣取り、敵から見えないように少し身を屈めた。


今頃この最前列では、きっとシェリーたんとエイミー達が睨み合っている。そしてすぐに総力戦が始まることだろう。


前回は皆ボロ負けだったが、今回は俺が居る。ここまで来てしまっては“戦いたくないでござる”も通用しない。


なら、勝つ可能性を少しでも増やす。


俺はチョココロネとなら互角以上に戦えるし、シェリーたん達に加勢すれば勝機が見えてくるかもしれない。


この足の震えが止まってくれたら、の話だけどね。

 

「「………………」」


緊迫した空気が心臓に悪い。銃口を突き付けられたまま時間が止まっているかのような感じだ。


いい加減どっちか喋れよ。引きこもりだらけのお見合いパーティじゃないんだからさ。


あ、人のこと言えない……。


「すぅ……」


ようやく耳に入ってきたのは、誰かが息を大きく吸い込む音。


不洞イヤーは地獄耳。なのです。


まぁ皆が黙ってるからっていうのも……、




「高町なのはぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」




聴き耳を立てていた俺の鼓膜を、壮絶なくぎゅうボイスが容赦なく叩いた。


なんて大声だ。声で耳鳴りがするとかマジ迷惑。


「な、何ですの突然……?」


「早く高町なのはを出しなさいよ!連れて来いっつったわよね!?」


おぉう、エイミー様がお怒りになられている。そんなにチョココロネ泣かしたのを根に持ってたのか。


どう考えても正当防衛だろ、あれは。


「そのことについてですが、わたくし達からも質問がありますわ」


「あん?なによ?」


「その“高町なのは”というのは一体誰のことですの?わたくし達のクラスは疎か、どの学年のどのクラスにもそんな名前の生徒は居ませんでしたわよ」


「はぁ!?ちょっと待っ……そ、そんなワケ無いでしょうが!」


「ですが、事実は事実ですわ。何なら全生徒の名簿でも用意致しますけど」


「なによそれ!?意味分かんない!隠してるだけでホントは居るんでしょ、高町なのは!」


架空の人物の名を連呼するエイミーは、傍から見れば実に滑稽だ。


アカン、笑いが止まらへん。

 

「あんたらの中で一番いけ好かない奴よ!ほら、ピンク色で長い髪の女!あと無駄に巨乳!」


「ピンク色?……というと、まさか……」


クラス全員の視線が一斉に俺の方に向いた。


なにこれ、新手の視姦?


「ピンクで巨乳……思い当たるのは不洞さんくらいよね」


「でも高町なんて名前じゃないぜ?」


「あれでしょ、たまたま特徴が一致してるだけでしょ」


ざわ……ざわ……。


色んな意見が飛び交う中、確認の為にとシェリーたんが皆を左右に退けて道を作る。


露わになる俺の姿。わなわなと震えるエイミーの肩。


うん、これは詰んだ。


しゃーなしだな。


「私の名前は不洞新菜なんですけど。高町なのはって誰?幻覚?妄想?夢の中の住人?」


「お前だぁあああああああああああああああああああッ!!」


エイミーが俺を指差して叫ぶ。恥かいてやんの、ざまぁ。


「不洞さん、貴女でしたの?」


「いや、私もそんな名前で認知されてるなんて知らなかったよ。意外」


「あ、あんたねぇ……!!」


とまぁ、これ以上コケにしていたら今すぐにでも殺されそうな雰囲気なので、俺は観念して前に歩み出た。


「とりあえずアレね、その何ていうか、昼ご飯も食べてないしお互いもう帰らない?」


「あんたをぶっ飛ばしてからね!」


無駄だと分かってたけど、やっぱり話し合いじゃ解決せんか。

 

こうなったら仕方が無い。クラスの皆と一緒に即攻でエイミーを倒しに掛かろう。


敵四人を分担して相手にするから倒せない。一人に集中して先に倒しておけば、残りは三人だ。後はそれを繰り返せば全員撃破出来るんじゃないだろうか。


まぁそんなに上手く事が運ぶとは思わないが、前回のように無闇に突っ込むよりはマシな筈。


嗚呼それにしても……まさか先生まで作戦を全く考えていなかったとは。この学園ホントにやる気あんの?


「高町……じゃかった。不洞新菜って言ったわよねあんた?」


「ん?そうだけど」


「よし、今からあんたに決闘を申し込むわ!一対一で正々堂々と勝負しなさい!」


「だが断る」


「拒否権は無しよ」


エイミーが手で合図をすると、他の3人が一歩前に出た。


「邪魔する奴らはコロネ達に面倒を見てもらうわ。つまり誰もあんたに加勢出来ないってワケ。分かる?」


「救いは無いんですか!?」


「あんたが大人しくぶっ飛ばされたら考えてあげてもいいわよ」


要するに潔く死ねと?嫌なこった。


どうにか出来ないものか……チョココロネらの方に注意を向けると、目が合ってしまった。


「……んふっ」


なんかほくそ笑まれた。


「今日は武器を新調してきた。前のやつよりずっと丈夫。だから負けない。今日は勝つ」


そう言うチョココロネの手には、前回よりも更に大きな斧が握られている。何事も大きけりゃ良いってもんじゃないと思うよ。

 

「ちょっとコロネ、あんたはこの間たっぷり楽しんだでしょ。今日は私の番よ」


「……ちっ」


「舌打ち!?あんた今舌打ちしなかった!?」


「分かった。じゃあ早く負けてきて」


「それがリーダーに言う台詞!?」


チョココロネの奴め、見た目に依らずなかなかの毒舌家だ。幼女の段階からアレでは色んな意味で将来が楽しみですな。


虚淵辺りにスカウトされるかもしれん。


「コバヤシ!エリカ姉ぇ!ちゃんとコロネの面倒見といてよね!」


「あいあい」


「大丈夫よ~、お姉さんに任せておきなさい♪」


エイミーの呼び掛けに、和田○キ子並のノッポさんとレオタードのセクスィお姉さんが笑いながら頷いた。


どうやらノッポの方がコバヤシ、お姉さんの方がエリカという名前らしい。


いやはや、余裕たっぷりな奴らだ。こっちはさっきから膝が笑ってんのに。


「……さて、そんじゃ始めましょうか」


「――――ッ!?」


エイミーがそう呟いた瞬間、ゾクッと、体中を得体の知れない何かが走り抜ける。


思わず拳に力が入り、手汗が酷いことに気づく。


ただエイミーが武器を構えただけで、緊張感の無い空気が一瞬で異質のものへと変化した。


プレッシャーというやつなんだろうか。肉体が超人とはいえ、中身がてんで素人な俺には分からない。


そんな俺でさえ思わず息を呑んでしまう。少しでも気を緩めれば今この瞬間にも膝をついてしまいそうな、重厚かつ攻撃的な威圧感が俺の肌を突き刺してくる。


これが本物の超人。これがアーナト・ファミリーのリーダー。


俺の表情を変えたことに満足したのか、鼻で笑い、とても楽しそうにエイミーは口角を上げる。


「さぁいくわよ。せいぜい、簡単にぶっ壊れないように気張りなさい?」

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