第11話 神速の双剣

急にダリに話しかけられ、振り向きながらそちらを向くと、マリアの視界は白かった。肌には少しひんやりとした感覚が残る。そこには、マリアの嫌がっていた生物?が。


「き″ぃ″や″あ″ぁぁあああぁ!!!」


「おい!誰かそこに居るのか!」


その声に彼らは気付き、唾を飛ばす。ボウガンを向け、刀をこちらに向けて迫ってくる。

ミシアは二人を左手一本で抱きかかえ、唱える。


刹那せつなのレイヴン』


ダリとマリアは急の出来事に目を瞑る。次に開いた時には、雷鳴の轟く室外へと飛び出ていた。


「どうして無理かは後で聞く。今は逃げる、加速するよ。」


そう言って、彼女は黒い閃光となって、二人を連れて闇へと消えていった。残された男達は呆れていた。


「また、アイツか。何度も何度も。はぁー、偽善者ぶるのもやめて欲しいね。」


まばたきをすれば景色は変わる。高速移動というより瞬間移動に近かった。灯りの点っていない部屋へと辿り着く。二人は床へと落とされる。奥から足音が迫って来て、マリアは身構えるがその必要は無かった。ミシアが出て来た。彼女の左手には蝋燭が握られ顔が下からぼんやりと照らされている。その姿に安心するが、マリアの心の底からは恐怖が湧き出てきた。


「さっき、大声を上げてしまってすみませんでした。でも、白いお化けを見たんです。」


先程ギルド内で彼女の目の前に現れたのは噂通りのそれだった。しかし、ミシアはなんでもない風に正体を明かす。


「あぁ、それかい。よく勘違いされるんだよ。それはね、お化けじゃなくて、魔獣なんだ。この国に住むボクらはね、主に情報屋として働いているんだけど、その相棒として皆んな、一人一匹飼っているんだ。」


フィンツとは、情報業で栄えた国であった。仕事にとってその魔獣は必要不可欠だった。彼女に暖かいお茶を渡され、マリアは啜った。


「え?そうなんですか?お化けじゃないんですか。はぁぁぁ。良かった。」


「まあ、本物も出るけどね。」


マリアの両手に握られていたコップは下に落ちて割れてしまう。それを見て、ミシアは目尻を下げる。


「ごめん、ごめん。冗談だよ。そんなに驚くと思わなかった。」


「冗談でも言っていい事と言ってはいけない事があるんです!!」


そう言って、マリアは床に散らばる破片を拾おうと手を伸ばす。その時、柔らかい何かに手が触れる。少しひんやりとした感覚は経験があった。


「ああ、そいつだよ。ボクの言っていた魔獣っていうのは。」


「き″ぃ″や″あ″ぁぁあああぁ!!!」


「全く、騒がしいな。」


「くーん」


ダリは溜息を吐く。マリアの触れたそれは、ミシアの頭の上に乗る。それは、真っ白な一枚の布を何か生き物が被った様な見た目をしている。全長十五センチ程で顔と思われる所には丸い小さな目が二つちょこんと付いている。そのビジュアルは愛くるしさを生んでいる。

彼女の頭上でそれは鳴いていた。マリアは離れて、瞑った目をゆっくりと開き確認する。それを見て、マリアは直ぐに抱きついた。


「あら〜、柔か〜い。可愛いです〜。私もこの子欲しいです〜。お名前はなんて言うんですか?」


「くーん」


「クリミネンスと言う魔獣なんだ。可愛いだろ?壁をすり抜ける事も出来る。」


マリアに撫でられクリミネンスは目を細めていた。人懐っこい性格であった。

ミシアはギルド内での会話を思い出し、ダリの方へ青い瞳を向ける。


「さっきの話、聞かせて貰っていいかな。」


「くーちゃんはこっちで一緒に遊びましょ。」


マリアはすっかり愛くるしい魔獣に気を引かれていた。ミシアの言葉にダリは壁に空いた穴から外を見ながら答える。


「僕らはある目的の為に旅をしてて、冒険者ランクとしてはまだ低いけれど、一人である程度の魔人なら倒せる程の実力があるんだ。だから、マリーはあの様な発言をしたんだ。でも、僕らには条件がある。それを満たした敵しか倒せないんだ。ある程度予想はしているけど魔人について教えてくれないか。」


側ではマリアの高い声が響いている。

天井からは月の光が差し込んでいて、ダリがこの国に来て三時間程経過したが夜が明ける気配はない。外からの冷たい風が肌をなぞっていく。


「ああ、この国に居るのは魔人一体だ。でも、そいつは何体もウルフを連れてこの国に来ているんだ。ボク達はそいつらに畑を荒らされ、家もこのザマだになってしまった。本体を倒せば、魔獣も止まると思うけど本体はボクと同じくらい速いんだ。そして、強い。」


彼女の膝元には濡れたシミができている。ダリには、今回の敵は個人では倒せない敵である事は明白だった。ダリの攻撃は低範囲で、素早い敵に合わせずらい。また、マリアの攻撃も敵単体にしか攻撃を加えられない。


「やはりか、僕達は一体ずつしか倒すことが出来ないんだ。それに、素早い敵というのも戦いずらいんだ。」


ダリは視線を落とす。そこには彼女の短剣が二本あった。先程の戦闘が蘇る。


「ミーシャは倒すことが出来ないのか?さっきの速い攻撃、通用するんじゃないのか?」


ミシアは短剣を手に取り、刀身を眺める。


「あれか、確かに通用するかもしれない。でも、奴の方に行く通路は一つしかないんだ。だから、その道程、何体もの魔獣を倒さなくてはいけないんだ。それに、この腕じゃあ・・・」


彼女はそう言って、右腕の方の袖を捲る。ゆったりとした服装でダリ達には見えていなかったが彼女の右腕は途中で途切れていた。

彼女の無理した笑顔は悲しさが滲み出ている。


「見苦しいものを見せたね。奴に初めて会い、握手をした時にやられたよ。これじゃあ、この双剣は扱えないし、まともに戦えない。」


(片腕がないのに、あの強さだったのかよ。化け物じゃねぇか。でも・・・)


「それは、憂いに及ばないよ。マリア、お願い出来るか?」


彼女は遊びながらもしっかりと話は聞いていた。直ぐに近寄るとミシアの右の二の腕辺りを掴む。そして、そっと目を閉じる。


「はい!ちょっと失礼しますね。」


マリアがそこに意識を集中する。ミシアの存在しない右腕の辺りに緑の光が渦を巻く。やがて、目を開けられない程の強い光がその辺りを包む。そして、開く頃には右腕が戻っていた。

ミシアは急の出来事に目を見開き、膠着こうちゃくしていた。右手を開閉し確かめる。実体として右腕が存在していた。そこには血の通う温かさがあった。

マリアは下から彼女の目を覗く。


「へ?どうして・・・」


「どうですか?」


「あ、ありがとう。」


「これでも戦えませんか?」


彼女は袖にシミをつくると、笑顔で宣言した。


「いや、これなら、奴らを倒せる!!」


彼女の体からはすみれ色の蒸気が浮かび上がる。背中に夜叉を背負った様な気迫があった。


「今、無詠唱だったよね。それに、消えた腕を治してしまうなんて聞いた事ないよ。」


ダリはマリアに代わって自分の能力と共に説明する。彼女は終始驚いていたが、頷いた。

彼女は話を終えると、外に飛んだ。硬い大地をヒールが叩き、音が鳴る。彼女はゆっくりと足を進める。彼女の視線の先には二匹の巨大な灰色が子供に牙を剥いていた。その子供は下駄を投げつけるが逆効果だった。黄色い目が睨みつけた。


「いや!!やめろ!来るな!」


藤色のポニーテールは揺れる。銀狼は爪で子供に手を出そうと振りかざす。

しかし、次の瞬間には、空中に舞う灰と化していた。二つの魔晶石が地面に落ち、めり込む音が耳に届く。

彼女は手を差し伸べる。


「ここに現れる魔獣にはこちらから危害を加えなければ、襲われないから。変な事はよすんだよ。ほら、帰りな。」


「ありがとう!おねえちゃん!」


「うん。バイバイ!」


少年は走って闇へと消えていった。ダリ達には何が起こったのか確認出来なかった。彼らにはミシアはただ少年の方に歩いていただけのように見えたのだ。

彼女は腕組んで上に伸ばし、気持ち良さそうにうーんと背中を伸ばした。


「良いウォーミングアップになったよ。やっぱり両腕あると良いね。詠唱無しでここまで早く動けるんだから。マリー、ありがとう!」


彼らの目には動いた残像すら映らなかったが今、彼女の鮮麗な笑顔だけはしっかりと映っていた。

月の光は彼女の白い歯を照らした。まだ、この国の夜は明けない。しかし、着実に月は沈み始めていた。


(よし、これなら・・・)


「行くよ!ダリ、マリー、目指すは北西。古城フィルガンド!」



――――――――――――――――――――


今回も読んで頂きありがとうございます!!


報告なんですが、第1話と第2話の内容をかなり変更しました。

一度読んだ方でも楽しめるかと思いますので機会がありましたら、読んで頂けると幸いです。


引き続きよろしくお願いします!!

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