第8話 復讐への有力な手がかり

魔人を倒した時、ダリの脳内に機械的なアナウンスが響く。


『職業:農民が一定条件を満たしました。現在のピース1/20』


この時のダリは自分が疲れて幻聴でも聞こえているのでは無いかと勘違いしていた。


ダリ達はギルドへと戻ってきた。二人に抱えられた女店主を見てバイスは何があったのかと急いで駆けつけた。ギルドにいた冒険者達も何事かと視線を向けている。


「何があったんですか?カシリナさんは無事なんですか?」


「カシリナさん?ああ、この人ですか。はい、ただ気絶しているだけだと思います。」


(カシリナってどこかで・・・)


「そうですか・・・詳しい話は奥で聞きます。」


バイスは息を吐くと廊下を進んで行く。ダリ達は受付の奥の部屋へと連れて行かれる。部屋には木製の低い机一台、それを挟んでソファが二台並んでいた。外からは見えないようになっていて、窓がないせいか部屋は狭く感じる。


「まずは起こった事を教えてください。」


ダリは事のあらましをバイスに伝えた。バイスは驚くというより、顎に手を当て、やはりといった態度だった。


「やはり異常な魔獣達の出現でしたか。この件は実はマリアさんのおばあさんが関係しています。」


マリアが目を丸くして机に乗り出す。


「え?おばあちゃんが?」


「はい。これはオフレコでお願いしたいんですが・・・」


マリアの祖母、セイロン=ハイカーはこの国で働いていた。その役割は聖騎士隊長であった。勿論、セイロンの名を引くものとしてユニークスキルを持っていた。それが今回の件と関係している。それは、『完全結界』であった。


『完全結界』・・・自分の指定する範囲に結界を貼る。その範囲内の土地は自分の指定した者からは不可視化する。魔力は使用されず、効力は使用者の寿命。


結界は、マリアの祖母の死で弱まっていきついに消えてしまった。その為、魔獣たちがこの近辺に現れたということがバイスの推測だ。

それを聞いたマリアは違う方向からその話をつつく。


「え、おばあちゃん。この国の聖騎士隊長だったんですか!」


「え?知らなかったんですか?」


「はい・・・」


マリアのあからさまな態度にバイスは励まそうとする。


「き、きっと心配をかけたくなかったんじゃないですか?」


「そうですよね。というか、それよりも先ずはこっちですよね。また魔獣たちがここに攻めてくるなんてこともあるということですね。」


マリアは不安そうに尋ねたが、バイスは大きな瞳を細めて返す。


「はい、そうですが、安心してください。おばあさんの残した手紙にこうありました。『私が先立つ時、私の村のアリババという男を訪ねて欲しい。彼は私と同じスキルを持っている。彼のよくいる場所は三番通りの酒場だ。』とありました。マリアさんも知っているのではないですか?」


「アリババおじさんの事だと思います。私の村にその結界を貼ってくれているので・・・」


「まあ、今後の事は大丈夫ですよ。」


そう言うと、バイスの顔色を変えた。笑顔の裏に威圧を感じる。


「それはそうと、ダリくん、マリアさん。異常な事がもう一つあったのだけれど、魔人を倒したり、完全治癒を使ったりって、どういうことですか?」


「それは・・・あの職業判定のが本当だったというか・・・」


バイスは両手を広げて首を左右に振る。


「はあ〜。正直に言ってあなた達の能力は異常よ。異常。ランクで言うとAランクはあるんじゃないかしら。」


「ははは」


(無詠唱の事は絶対に言わない方が良さそうだな。)


「笑い事じゃない訳。あの時隠そうとしてたから怪しいとは思っていたけど、本当だったとはね。何かバレるとまずい理由でもあるんでしょうけど、私も弱みを握られてるから この事は国には言わないであげるわ。」


「なぜ、急にタメ口に?」


「うっさい。こっちも色々疲れてんの。」


そう言って、バイスは股を広げて背もたれにもたれかかってしまった。


(ああぁ。僕の清楚なバイスさんが大変なことに。)


バイスさんを後ろにダリ達はそうっと部屋を出ていった。

しかし、ダリが部屋を出ようとした時、後ろからバイスが抱きついてきた。ふわりとバラの香りが香り、胸の膨らみが背中を押し付ける。


「待ってよ。ダリくん。」


耳元でそう言われ、心臓が高鳴る。


「酔っ払ってます?」


その態度は酩酊した者の様だ。


「『ドミネヴィル』に関してなのだけれど、あのSランクパーティーの事よね。今は、どこのギルドかは分からなかったけど、二年前に頬は痩け、体はやせ細ってしまって、ギルドに何日も泊まっていたという情報があったわ。それ以外は何も分からなかったけど。」


「そうですか・・・ありがとうございます。」


(二年前だと。ちょうど、僕らのパーティーにあの子が近ずいてきて、ロキを・・・)


ダリの属していたパーティーとは『ドミネヴィル』という名だった。

バイスの声が急に低くなる。


「これって、君となんの関係があるのかなあ?もしかして、能力を隠している理由だったりする?」


Sランクパーティーを潰そうとしているなんて知れれば、勿論国側に邪魔をされる。ダリはその回された腕を振りほどき、その場を後にする。

ギルドの角にマリアは立ち止まっていた。誰かと話しているようだった。


「どうしたんだ?マリア。」


「このおじいさんがダリさんの仲間の事を知っていると仰っていて・・・」


そこには、緑のローブを羽織った小さな老人が座り込んでいた。ダリは近寄って詳細を仰いだ。


「なーに、何処にいるか知っているだけじゃよ。ヒッヒッヒ」


老人は皺の入った手の平をこちらに向ける。ダリは渋々魔晶石を換金して、宿代を払い、余った分の金を半分その手に乗せた。


「分かっとるのぉ。ヒッヒッヒ」


「どこにいるんですか?」


「この国の隣国であるフィンツの首都『ゴースフルト』にて、金髪の青年が魔人を連れてきたというのを聞いた。ヒッヒッヒ」


マリアがその老人に怒鳴る。


「人間が魔人を連れてくるなんてことある訳ないじゃないですか!それにどうして、髪の色を知っているのですか!」


「おぉ、ワシはこれ以上は何も話さんよ。怖い怖い。ヒッヒッヒ」


「いや、マリア。これは有力な情報だ。」


その日は、ギルドに隣接した宿で眠る事にした。その夜の事だった。


「起きてますか?ダリさん。」


隣のベッドで眠る少女から声が聞こえる。


「ああ。」


「とうとう、あの街にいって、復讐をするのですか?」


「いや、まだだ。僕達はその街に行くが、目的は仲間集めだ。アイツらもその街にはもう居ないだろうし。」


「え?ダリさん、こんなにも強いのですから、裏切った仲間に復讐出来るのではないですか?」


「それは無理だ。僕の魔法は特定の範囲にしか使えないし、素早い敵にも対応できないんだ。僕のいたパーティーには・・・」


自分のいたパーティーのメンバーを紹介する。

パーティーのリーダーにして最強の騎士。

近距離パワー型の騎士。

近距離スピード型のアサシン。

広範囲の魔法を使える魔術師。


「・・・という様々なメンバーで構成されているんだ。だから、後三人は仲間が欲しい。」


「その計算でいくと私入って無くないですか?」


「マリアには回復をお願いしたいんだ。攻撃能力は正直、今のところ、かないそうにないから・・・」


「そうですか・・・でも、それがなぜ『ゴースフルト』に行く理由に?」


「もし本当に魔人がいるのならその都市は今頃大騒ぎになっているはずだ。でも、この街にそんな情報が入ってきていない。つまり、ゴースフルトには誰か魔人に対抗する力を持つ者がいるかもしれないという事だ。」


「ダリさんを裏切った方がいないのであればやめませんか?」


マリアは少し震えた声で喋っていた。


「なんでだ?」


「だって有名じゃないですか、その街。魔人とか魔獣とかじゃなくて・・・」


ゴースフルトにて、そこには明けない夜が続いていた。荒廃した建造物が散らかっており、辺りには煙が立ち込めていた。その暗闇では金属音が響いている。


頭に角を生やした長身の魔人がある人物を見下ろして言う。


「貴様!我に歯向かうとは度胸のある奴よ。殺すには惜しい存在であるな。」


黒の服に身を包んだ、紫がかった黒の長髪の少女は答える。


「誰が殺されるって?ボクは君を倒してこの国の皆んなを守るよ。」


「やれるもんならやってみな!」


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これにて、『始まりの地 ベルンホルン』は終了です。ここまで、ありがとうございました!


次回からは『闇の街 ゴースフルト』の予定です。お楽しみに!!!

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