第2話 僕はここの領主になりたいんじゃなくて復讐したいんだ。

ダリ達は無事に森を抜け、開けた場所に出た。そこには小さな村があった。石造建築の小さな家が何軒か建っていてその横には小川が流れている。水車が音を鳴らし、畑で育つ野菜はこの村がのどかであると優しく報せる。広場では子供達が木の棒を振り回し遊んでいる。

その和やかな風景を横目にダリはその短い銀髪の少女に着いていき、色とりどりの綺麗な花の咲いた花壇が特徴的な家の前で停められる。花の臭いが鼻腔をくすぐる。庭には噴水が置かれていて、この辺りでも大きな家である。


「ここが、私の家なのです。どうぞお入り下さい。」


扉が引かれ、優しい声につられダリが中に入ると、彼女の父親らしき人物が現れた。彼は髭を生やしていて、肩からズボンへと茶色のサスペンダーを着けている。


「おかえり、マリー。急に居なくなるからどこに行ったのかと思ったよ。まさか、森には行ってないだろうね。」


「そ、それは・・・」


彼女の額に汗が流れる。彼女は森に行くことを禁圧されていた。背中で手をもじもじとさせて、黙り込む。


「まぁ、いい。そちらの方は?」


視線でマリアに説明を促す。彼女は手をダリの方へ向けて説明をする。


「こちら、私を助け・・・・・・私とあるお話で意気投合した・・・」


すぐさま口を紡ぎ、嘘を繋ぐ。しかし、その話も途中で途切れてしまう。彼らは互いに名も知らなかった。


「ダリです。シャルル=ダリです。」


一歩前へ出て紹介をする。マリアの父は顎に手を当てて、怪しそうに下から上へダリを見つめる。


「名前も知らなかったのに、意気投合して、家まで連れてくるね。本当かな?」


「本当なんです!本当に助けてくれたんです!」


マリアは父に疑われ、思わず口走ってしまった。ハッと気が付き、口元に手を当てる。しかし、それはもう遅かった。


「ほらやっぱり、何かあったんだね。少し奥で話を聞こうか。ね、マリア。

すみません、ダリさん。どうぞ上がってください。」


マリアは父親に体を抱えられながら、ダリに助けを乞う。じたばたと動く小動物をダリは可愛らしいと思った。


「ダリさーん。助けて下さい!」


ダリ達はテーブルを囲み座っていた。家の中は、木造で、ソファや絨毯まで敷いてある。床には埃一つ見られなく、手入れが行き届いているのが分かり、少し裕福であることを感じさせた。棚にはとある写真が一枚たててあった。


(ん?この写真に写っているのは、マリアとおばあちゃんかな?あれ、おばあちゃんはどこだろう。)


自己紹介も済ませマリアの本名は、セイロン=マリアであり、親しい人にはマリーと呼ばれているらしい事が言われる。

台所には、マリアの母親が立っている。ゆったりとした薄い橙色の服装に身を包んでいて笑顔でお茶を入れている。


「ダリさん。お飲み物は紅茶でよろしかったかしら?」


「いえいえ、お構いなく。」


「遠慮なさらずに。うふふ」


マリアは自分の物も取りに行こうと席を立とうとするが、マリアの父親は咳払いをしてマリアに説明を促した。

マリアは、最初はのらりくらりと父親の言うことに対して誤魔化していたが、マリアの性格上ボロが出やすく、片鱗を見せてしまい、事実を話す事になった。

聞いた父親は、マリアの事を説教した。しかし、マリアには効いていないようだった。紅茶を一気飲みすると笑顔で席を立つ。


「私だって、もう十五になるんです。お父様、お母様の世話にならなくたって一人で何とか出来ます!」


「だったら、ダリさんが今回来てくれなかったらどうしてたんだ。」


扉を強く開けて自分の部屋へと走って行ってしまった。すると、マリアの父親は突然思いもよらないことを言い出した。


「ダリさん、この村の領主にならないか。」


「は?・・・・・・・・・はあああぁぁ!!!」


「いや、すまない。冗談だよ。・・・半分は、」


(半分は本気なのかよ。マリアには感謝しきれない恩があるけど・・・)


彼女の焚き付けた炎は今、彼の復讐の心へと変わっていた。その為、復讐に関係の無い出来事へはなるべく首を突っ込みたくはないと考えていた。


「私達、セイロン家の人間は代々この村を治めてきた。」


そうして、セイロン家について語られた。

マリアはこの両親にとっての一人娘であるため、家を継がせたいこと。マリアの職業は攻撃に向いていないため冒険は危険である事。しかし、マリアは好奇心旺盛であるため、苦労している事。

彼女はこの家の悩みの種となっていた。父親は頭を抱える。ダリは彼の目を見て問う。


「で、どうして僕に領主になってくれと言うことになるんですかね。」


「見ていて思ったんだ。さっきの話中だって、マリーは君の事ばかり見ていた。絶体絶命から救われ、恋をしているのだろう。だから、うちの娘と結婚をして、この村に残ってくれれば、マリーもこの村で落ち着いて暮らすと思ったんだ。」


「僕の気持ちはどうなんですか。」


「半分は冗談。というのがその事だ。君の意見も尊重したい。」


「どこの馬の骨とも分からない男をそんな簡単に領主に決めちゃって大丈夫なんですか?」


セイロン家には代々ユニークスキルが伝わっていて、名にセイロンとつく者は全員持っていると、教えられる。


「それは、答えになっていないと思いますが?」


「失礼。私のスキルは読心でね。君の心を勝手にのぞかせてもらったよ。すると、君は、とてつもない魔力を持っていて、それを悪用しないと出る。さらに、君にはとても強い意志を感じる。」


(それ、復讐したい気持ちなんですけど・・・)


「それになにより、君はとても優しいらしい。まあ、じっくり考えてくれ。今日はもう暗い。家に泊まっていくといい。部屋に案内しよう。」


ダリは二階のとある部屋に案内され、そこで寝ることになる。


(あれ、マリーも相当だけど、あんなので領主を決めてしまうとか、父親も相当だな。親も親ならというやつか。)


ダリは明日の朝に断って街の方へと行こうと決めた。ゆっくりと目を閉じ、意識を離す。

その晩、その家内の全員が寝静まったと思われた。

翌朝になり、ダリは支度を済ましその家を出る事に。下の階では二人は既に着替え終わり、朝食を食べていた。そこにはマリアの姿はない。


「昨晩考えましたが、やはり結婚はお断りさせて頂きます。一晩泊めて頂きありがとうございました。やはり、マリア自身の意見も聞いておきたいと思いました。しかし、昨日から姿を見ていないんですがどこか知りませんか?」


「そうですか残念ですが、ダリさんそう仰られるのであれば。また、都合の良い時にでもこの地においでください。マリアはまたどこか冒険にでも行っているのでしょう。」


(あれ?案外あっさりだったな。それにしても、なにか隠してないか?マリアも居ないし。)


マリアの父親の話が一通り終わると、母親は外に目を向け話を始めた。


「外に馬車を手配しておきましたわ。そちらに乗って街へ行くと良いでしょう。歩いてでは時間が掛かりますよね。」


すぐ外には、綺麗な花壇の傍に馬二頭が繋がれている馬車が停められていた。

妖艶な声につられそうになったダリだったが聞き逃さなかった。すこし、叱るように疑問を投げた。


「どうして、言ってもないのに、僕が街に行くことを知っているんですか。」


両親は揃って目を泳がせる。額には汗が見られる。ハンカチを顔に当てダリを手で外に押し出していく。


「ま、まぁ、いいじゃないですか。早く乗ってくださいよ。」


そう言ってその夫婦はダリを馬車へと押し込んだ。


(なにか、隠しているな。まあ、馬車は有り難いから乗らせてもらうか。何かあっても魔法で対処できるか。)


苦笑いを浮かべている。


「では、またの機会におこしになってください。」


「は、はあ。」


そして、村を出て暫く経った頃。木製の車輪が地面との振動を直で感じさせる。


ガサゴソ、ガサゴソ


(ん?何か鳴ったか?)

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