同僚がプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した話。
坂田メル
りん子と前世
『ね、ほらこれ!見てみてよ。あんたこういうの好きでしょ?』
彼女が得意気に見せてきたスマホの画面には何人かの美男美女。根っからのゲーム厨である彼女はこうして私の好みそうなゲームを見つけては教えてくれる。
『うわ何これ最高かよ。え、待って私この子好き』
『さすが。その子悪役令嬢だから最後に断罪されるよ』
『え!?また~?何で私の推しってすぐ辛い目に遇うのかなぁ……』
がっくり
『まーまー、仕事しようぜ。もし神ゲーだったら教えてあげるよ』
『神ゲーじゃなくても教えて。その子めっちゃ好みだから』
▽
▽
ぱちり、と目を覚ましました。そのまま二度、三度瞬きをしてから私は呟きます。
「あら。あらあら。あらあらまあまあ。もしかしなくても今の、前世だったりします?」
何故そう思ったのかは分かりませんが
私はベッドから
「なんか私小さくありません?」
そうして自分の体を眺めます。小さな手。短い足。
子ども用……?
「そうでした。私は子どもですね。九歳なのでしたっけ」
その時、部屋の扉がキィと音を立てて開きました。顔を覗かせたのはお手伝いさんのナツです。
ナツは私と目が合うと数秒動きを止め、あんぐり口を開きます。
「あ、あ、お嬢様、お嬢様が目を覚ましました!!」
その途端、
「りん子!りん子大丈夫かっ!?」
「りん!ああ良かった、目が覚めたのね!」
お父様とお母様は大感激で私の目覚めを喜んでくれています。そんなに眠っていたのでしょうか?
「お父様、お母様ご心配をお掛けしてしまいすみませんでした。私は一体どのくらい眠っていたのですか?」
そう聞くけばぴしりとその場の空気が固まりました。な、何でしょうか、私変なことを聞いてしまったのでしょうか?
「……りん子?お前どうしたんだ?」
「どうもしませんが……私は私ですよ」
ざわざわ、ざわざわ。
使用人たちもこちらをちらちら見ながら何か話しています。そのうちにお母様がこそこそとお父様に何かを耳打ちしました。
「うむ、それもそうだな……。りん子、何でもない。気にしないでくれ」
「りん、体の方は大丈夫?貴女三日三晩高熱を出していたのよ。沢山
「まあそうなのですか。もうすっかり元気ですよ。ご心配
そう言って微笑めば二人は不思議そうな表情をしながら部屋を出ていきました。使用人たちは私の様子に首を傾げながらも、挨拶をしてから同じように部屋を出ます。
「りん子お嬢様」
「
最後までこの部屋に残っていたのは同い年の女の子。ナツの娘で
「お願いがあるのだけど。そこの
「手鏡ですね」
八重が手渡してくれた鏡を覗き込みます。
そこに映っているのは若干つり目気味で目鼻立ちのはっきりした美しい少女。先程夢で見たあのゲームの悪役令嬢を幼くした顔です。となると……。
「八重、私に婚約者はいたかしら」
「はい、
「え、ええ大丈夫ですよ。少し一人にしてくださいますか?」
「承知致しました」
八重は深くお辞儀をしてこの場から立ち去りました。同い年とは思えないくらいしっかりしていますね。きっとナツの教育が良いのでしょう。
さて、八重に引き取ってもらったのには訳があります。私の置かれている状況について考察しなくてはなりません。
恐らく、というか確実にここは前世で私の同僚がやっていたゲームです。彼女と私は実に良いオタク関係でした。私の専門は小説。純文学やミステリーだけでなく、Web小説やライトノベル等を読み漁り、彼女の好きな内容のものを薦めます。対して彼女の方はゲームやアニメが専門でしたから、その中から私に合うものを薦めてくれました。
今回のゲームもそのような流れで教えてもらったのですが、彼女もプレイし始めたばかりで詳しく教えてもらっていないので、私の知識は
分かっているのはそうですね、ここが大正時代であるということでしょうか。確かゲームの名前が……ええっと、なんでしたっけ……『大正なんちゃら恋物語』みたいな感じだった気がします。悪役令嬢、
それから、ヒロインとヒーローが居たと思います。ヒーローは多分私の婚約者とかいう人でしょう。悪役令嬢ということはヒロインと争うわけで、このゲームは恋愛ゲームでしたから必然的に彼女とヒーローを
ただ困ったことにヒロインとヒーローの顔も名前も覚えていないのです。会えば分かると思うのですが。
とりあえずこれからの私の身の振り方を考えましょうか。まず第一に婚約者には適度に好かれておくことが大切でしょうね。かといってあからさまに何かするのも良くないかも知れません。居ても居なくても同じ、くらいが丁度良いでしょうか。ヒロインに関してはまだアクションを起こさなくてもいいでしょう。
まったく、随分と面倒なことになりました。この後の展開も分からないので全て想像でやっていくしかありません。断罪がどのようなものなのか予想も付きませんが死ぬのだけは避けたいです。
ここで、生きていくしかないのです。
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