生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど
新矢識仁
第1話
さて。
俺、
小学校の入学式修了後、写真を撮っている時に突っ込んできた車によって目の前で両親を亡くした。
唯一の親族、父方の叔父さんが俺を引き取り、俺は小学生にして家事全般を自己流ながらマスターして、男二人暮らしで、学校から帰ったら買い物、料理、掃除、洗濯、と主婦並みには働いていた。叔父さんは無口な人で、あまり家には会話はなかった。
その叔父さんも俺が高校生の時に病に倒れ、帰らぬ人となり、俺は家に一人取り残され、一人で生きてきた。
ここまで聞くと、大抵の人が苦労したねえ、大変だったろう、と言って同情する。
のだが。
俺は一度たりとも、自分を不幸だと思ったことはない。
死ぬ時は誰でも死ぬ。遅かろうが早かろうが、みんな死ぬ。嘆いていても何にもならない。それが両親の通夜から葬式にかけて考えに考えて、幼心に辿り着いた結論だった。一年生になったばっかのガキが考える事じゃないとは自分でも思うけど、事実そうなんだから悩んでも仕方がない。
両親の死因は九十パー相手が悪い事故だったので、成長するまでの必要経費と学費を払ってもらうことができた。それの預かり役であるおじさんは、それを俺に無断で使うことなく、きっちり貯蓄してくれていた。無口で不愛想だったけど、非常に真面目な人だったので、入院直後に弁護士を呼び、家と、その貯蓄した財産を遺してくれた。
おかげで高校を中退することなく卒業できたのである。
もちろん大学は無理だったけど、家があって、高卒で働ける場所を見つけるまで食いつなげる程度には貯金もある。これの何処が不幸なんだ。
あっ。でも、まあ……。
確かに、十九で鬼籍に入るのは、不幸かもなあ。
「遠矢慎吾さん?」
名前を呼ばれ、俺は我に返った。
目の前には、死んだおじさんくらいの年恰好をした男がいた。
その人があんまりにも何処にでもいそうな人だったので、実感がわかず、しかし起きた現実は記憶にきっちり刻まれており、俺は思わず現実逃避をしてたんだ。
何でかというと、ついさっき死んだばかりだから。
ハローワークに行くために自転車に乗って走っていたところ、子供がボールを追っかけて車道に飛び出してきたのだ。
何とか避けたところ、子供はそのまま車道のど真ん中まで行ってしまい、対向車線を越え、走ってくる四トントラック。
俺は自転車を捨てて、子供を突き飛ばして歩道に押し込み。
一人で見事に跳ね飛ばされたわけである。
そして気が付くと、俺は全面ふわふわと白いものに覆われた空間で、デスクを挟んで座った男を目の前に立っていた、と、こういうわけなのである。
まさか親子そろって車で死ぬとはなあ。
俺の一族、車に祟られてたんだろうか。
「お気持ちは分かりますが」
男はお役所の職員さんみたいな感じで話しかけてきた。
「これは現実です。逃避しないでくださいね」
「いやあ、逃避したくもなりますよ死んじゃったら」
「その割には冷静ですね」
「冷静ですか?」
「特に事故の場合は」
お役所職員さんは頷いた。
「いきなりですからね。まず呆然として。唖然として、死んだことに気付いたら、何故自分が死んだ、悪いことは何もしていない、すぐ帰せ、さあ帰せと来ますね」
「だろうなあ」
「逃避する程度で済んでいる人は珍しいですよ」
「……死ぬことは覚悟の上だったからなあ……」
そこで思い出した。
「そうだ、あの子! 無事でした? ケガ、なかったですか?」
「あなたの助けた子供は、擦り傷程度で済みました。元気ですよ」
「よかったあ~」
心からの一言だった。
「これであの子が死んでたら、俺、無駄死にだったからなあ~」
はーっと息を吐く。死んでるのに息を吐くのはおかしいと言われるかもしれないけど、本当に安心したから。
「さて、ご承知の通りあなたは亡くなったわけですが」
職員さんはとん、と書類を整えて言った。
「この後どうなるか、御存知ですか?」
「え~と~……」
俺は悩んでしまった。
死んだら終わり、だと思ってたけど、どうやら続いているらしい。
俺がこうやって何処か分からない場所で職員さんと相対していることがその証拠。
それだけでも驚きなのに、更にその次があるとは思っていなかった。
「この後、どうなるんですか?」
「では、それを説明します」
どうぞ、と、俺の目の前に唐突に現れた、何処にでもありそうな木製の椅子に座った俺を確認して、職員さんは説明を始めた。
「転生、生まれ変わり、こういう単語はご存知ですね」
「そりゃ普通に日本人やってましたから」
「はい。本来は、生まれ変わる世界、立場、親、才能、能力、人生などは、ルーレットで選ばれます」
「宝くじかよ?!」
「はい、そんなものです」
職員さん、やっぱり職員さんだなあ……。ルーレットかあ……。
「しかし、あなたの場合は違います」
職員さんは、にこりと笑みを浮かべた。
「あなたはその人生において、前向きに、人のために、生きてこられた」
「はい?」
ルーレットに次の人生賭けるのか、とちょっと暗い気分になっていた俺に、職員さんは謎の言葉を繰り出してきた。
「人のために生きてきたあなたには、次の人生を選ぶ権利があります」
そして職員さんは、この言葉を繰り出してきた。
「あなたは一体、何になりたいですか?」
その言葉に、俺はつい三日前のことを思い出して、言った。
「生神になりたい」
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