プリヴィアスライフズ(1/3)~1000年ぶりのダンジョン攻略~
ゆうさむ
第1話 エピローグ
冷たい風が吹き荒れる空の下に建っている一つの小屋。10メートル四方のその小屋は、屋根や壁は一部剥がれ、床もところどころ抜けている。隙間風が吹き込む粗末なこの小屋の中心に、一人の老人が横たわっている。
骨と皮のみの枯れ木のようなこの老人は熱に侵され、息を切らしている。今にも目を閉じ、永遠の眠りについてしまいそうな意識を何とか奮い立たせていた。
「なぜ・・・こうなってしまったのか・・・」
老人は若いころに、とある学術を開拓した。自然術、仙術、錬金術などの要素を取り入れて作り上げた奇跡の術。後に魔術と呼ばれるその術を、老人は多くの人に無償で伝授した。狩猟に便利な術、農作物を豊かに実らせる術や身を守る術を次々と考案してい、人々の生活を豊かにしていった。
そんなことをしていると、一部の者がその老人を預言者と呼ぶようになる。預言者なんてガラじゃないと思いつつも、心のどこかで悪い気はしていなかった。
だがあるとき、そのことが国王の耳に入った。王は怒り、私の考えた術は”魔術”と名付け、非難し始めた。さらに工作によって信者に裏切られた形で国から追われてしまう。一部の信者が命からがら逃してくれたから生きながらえたものの、それからしばらくは隠れて生活する日々。親しい人々も失い、すべての人生を注ぎたかった魔術も失い、失意のどん底に堕とされた。
老人は考える。
確かに有名になりたいとか、人々に認められたいという欲求はあった。だが、だからといって誰かを不幸にしてやろうとか、資産を奪ってやろうとか、そんなことは一切考えてないつもりだった。ただ、人々全員が豊かに、幸せに暮らせていける国になればと、そのことに自分の技術が役に立てばと思っていただけだった。それなのにどうして自分が非難されなければならない?追い出されて、こんなところで震えていなければならない?私が何をしたっていうんだ?
だが、同時に老人は理解していた。自分の行動は大きな驕りを孕んでいるということに。自分が人のためにとしてきた行為は、必ずしもすべての人間を幸せにしたわけではない。既存のシステムを破壊するということは、そのシステムの中でしか生きられない人々を追い立ててしまう。私の作り出した道具や術は、いままでの道具を作り出していた鍛冶屋や道具やの職を奪った。それだけにとどまらず、私のしてきたことは、国王が崇められるからこそ成り立つ国家というシステムに陰りをもたらす事なのだ。
そんなことは知っていた。そんなことはわかっていた。だが、一部の人々が不幸になっていくのを見て見ぬふりをしていた。私は自分が持て囃される事に自惚れ、自分が人を救えると驕り、人気に上で胡坐をかいて、偉そうに生きてきた。賢者と言われていたが、その実私は無知で愚かな人間。私は所詮、その程度の人間なのだ。
「私は間違っていた・・・」
間違いを知っても、私はそれを正す力も気力もない。
「くだらない・・・。私はなんてくだらない人間なんだ・・・。ただのエゴイストでも、単なる悪人ではない。善人の皮をかぶった悪魔のような人間だ。そんな私が使う術が"魔術"とは。さすが国王様は心得ていらっしゃる」
すべてを失った私が、今思うことは一つ。
ただ・・・ただ私は魔術を極めるたい。私は始まりの魔術師と呼ばれながらも、魔術を使うことしかしてこなかった。もっと魔術には可能性があるはずだ。様々な人間が様々な才能を持ち込み、深く広い叡智にすることも可能だったはずだ。私はそれすら怠った。結果、半端にしか役に立たない魔術しか作り上げることができなかった。私がもし、まだ生きながらえることができるなら魔術をもっと極めたい。もっと知りたいことがある。もっとやりたいことがある。
「私は魔術を極めたい・・・極めたい・・・」
老人震えながらそう呟きながら目を閉じた。そしてそのまま絶命した。
そして時は流れて約1000年後のとある場所。すっかり晴れた空の下に、光がほとんど差し込まない深緑の森がある。その森の中の道なき道を、一人の少年が歩いている。身長は140センチにも満たない細身。薄手の服に身を包み、大きなリュックを背負って、一歩一歩大地を踏みしめががら進む。舗装されていない道を歩いているためか、頬には汗がつたい、息も少し上がっている。
「話によるともう少しで目的地だ」
まだ声変わりをしていない高い声で、嬉しそうにつぶやいた。始まりの魔術師と呼ばれた魔術師は、人生の幕を下ろした後1000年以上経って、この少年に記憶を引き継いだのである。
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