リズディアとイスカミューレン商会

第122話 イスカミューレン商会とリズディア達


 エルメアーナは、リズディアとヒュェルリーンに連れ出されて、フィルランカ達の3人をピックアップする予定なのだが、昼前にカインクムの店を出たので、それまでの時間を持て余していた。


「イルーミクから、終わりの時間は、聞いているけど、まだ、時間はあるから、どこかで、時間を潰しましょう。 それにお昼を食べないといけないわね」


 すると、リズディアは、御者に指示を出す。


「お店の方に向かってくれるかしら、イルーミク達の授業が終わるまで、お店で時間を潰す事にするわ」


 そう言うと、エルメアーナとヒュェルリーンを見た。


「今日のお昼は、うちのお店で食べましょう。 エルメアーナちゃんは、イスカミューレン商会には、はいった事はあるの?」


「いや、外から見た事はあっただけで、中に入った事はない」


「そう、だったら、ちょうどいいわ。 お店の方で、食べていきましょう。 それに、見てもらいたいものもあるから、ちょうどいいわ」


「ふーん」


 エルメアーナは、外の様子を見ながら、気のない返事をした。


 それを困ったと思った様子で、ヒュェルリーンが見ていた。


(全く、エルメアーナったら、もう、リズと友達感覚だわ。 もう少ししたら、リズと呼ぶのかもしれないわね)


「うちの店は、売るだけじゃなくて、作るための工房区もあるのよ。 そこも見ていってね」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 エルメアーナは、答えはするが、馬車の窓から見る景色に目がいってしまっていた。


 エルメアーナは、馬車を使っての移動は殆ど無い。


 フィルランカは、学校に通う際に毎日使っているのだが、休みの日に出歩くだけのエルメアーナは、モカリナの馬車に乗せてもらった程度なので、リズディアの馬車もとても新鮮に思えたようだ。


 その様子が、リズディアとヒュェルリーンには、とても、新鮮に思えたようだ。




 馬車は、カインクムの店の第3区画から、南に進み第5区画に入ると、東へ、第1区画へ向かう大通り入る。


 モカリナの家は、皇城の貴族街だったので、皇城前の大通りに入ると、皇城へ向かったが、今回は、反対の南門の方に向かった。


 そこは、今までとは違い、左右は、石造りの大きな建物が並んでおり、一階は、縦長の細長いスリッド状の窓がある。


 ただ、そのスリッド状の窓は、人の頭よりも狭く、石で作られているので、そのスリッドから中に入ることは、破壊しなければ入ることは不可能になっていた。


 2階、3階は、一般的な窓が有るが、2階の窓は、外に金属で出来た扉が、取り付けられていた。


 その扉は、有事の際には、閉じられて、1階2階は、破壊しない限り建物の中に入る事は出来ないようになっていた。


 建物の入り口は、中央部に門のような大きな入り口があり、馬車のまま、通過できるようになっていた。


 第5区画から第一区画に入ったときは、中央の大通りと第一区画の南門の城壁沿いの大通りの間には、途中まで、何本もの小さな通りがあるのだが、皇城の前の大通りの左右は、他の区画とは異なり、その小さな通りは無くなり、大きな石造りの建物が、建っていた。




 リズディアの馬車は、皇城の門の前から、南に伸びる大通りを南に向かって進むと、第1区画の南門が見えてくる。


その南門の手前、通りの東側の建物の手前は、小さいが、堀も掘られており、小さな帝都のようでもあった。


 壁は、その通りの建物と同じデザインとなっている。


 入り口は、建物の壁の中央に有り、門も大きな扉で閉めることができるようになっていて、その門を馬車で抜けると、その建物は、口の字型にできており、建物の中に入ると、東西南北に一つずつ入り口がある事が分かった。


 そして、建物の中に入ると、中央にも一つ建物が建っていた。


その建物は、口の字型の建物とは独立しており、周囲の口の字型の建物より高くなっているのだが、通りからは、周囲の口の字型の建物の影になって、その建物を見る事はできない。




 馬車は、中央の建物の東側に止まると、リズディアが馬車を降りる。


 その後を、エルメアーナとヒュェルリーンが続いた。


「ここは、外側に、店が出ているのではなく、内側に向かって、店が出ているのか」


 エルメアーナは、周りを見て驚いたように言った。


「ここは、もし、帝都が攻められた時に最後の砦になりますから、出城としての機能を持っているのですよ。 だから、門を閉めて、2階の扉を閉めれば、出城として機能するのです」


「ふーん。 そうなのか」


「ええ、でも、平時は、ここも大事な建物ですから、商業施設として利用されているのですよ」


 エルメアーナは、リズディアの説明を、何となく聞いていた。


 貴族は、帝国の危機に際しては、身を挺して守る義務があるので、個人の建物といっても、戦時は守りの要として機能させるようになっている。


 しかし、ただの帝国臣民である、エルメアーナには、戦争は、遠いものなので、言われてもピンとこないようだ。


 そんなエルメアーナをリズディアは、中央の建物の北側にあるラウンジの方を指差した。


「あそこに座りましょう」


 中央の建物の北側は、中で働く従業員や、そこに入っている店を訪れた人のために用意されていたが、時々、食べることを目的とした人たちも来ていた。


 時間的にも、昼時となっていたので、混み始めていたが、3人が座る席を見つけられ、座る事にした。


「ヒェル。 何か頼んできてよ」


 リズディアが、椅子に座ろうとしていたヒュェルリーンにお願いした。


「もう、少し早く言ってよ」


 ヒュェルリーンは、仕方なさそうに、座るのをやめて、建物の方に歩いていった。


「セルフサービスなのよ。 ここは、このモールに入っている人達のために格安にする為、徹底的にコストダウンを図っているのよ。 だから、食べるものも自分で運ぶのよ」


「だったら、私も手伝いに行った方が」


 そう言ってエルメアーナが立とうとするのをリズディアが制していると、そのテーブルに1人の男が来て、リズディアに挨拶を始める。

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