第40話 カインクムとミルミヨル


 カインクムの家族全員でミルミヨルの店に来たので、一瞬、ミルミヨルは、勝手にフィルランカを宣伝の道具にしてしまった事を、カインクムからクレームをつけられるのかと思ったが、カインクムも、どちらかというと、ミルミヨルに対して、申し訳ないと思っていたのだ。


 フィルランカの合格となったので、カインクムは、これまで、フィルランカが、世話になった店に、お礼を兼ねて回っていたのだ。


 そして、久しぶりにエルメアーナが出てくれたこと、そして、フィルランカの服を嬉しそうに着て、一緒に歩いてくれたことが、嬉しかったのだ。


 カインクムとしたら、エルメアーナを外に出す良い口実になったと思っていた。


 そして、これからも、フィルランカと一緒に外に出かけるようになってくれればと思っていた。




 一方、ミルミヨルは、ここまで、時々、フィルランカに自分のドレスを提供して、宣伝してくれたことで、店は潤っていた。


 そして、店員も雇えるほどになったのだ。


 今では、時々、イスカミューレン商会に所属する店から、新しいデザインの服の注文を受けるまでになり、その衣装が、貴族の間で流行っていると聞き、忙しい日々を送っていた。


(あの時、フィルランカちゃんが、私の店を、訪れてなかったら、今頃、この店は、別の誰かの手に渡っていたかもしれないのに、あの時のフィルランカちゃんのおかげで、店も持ち直したのよ。 感謝してもしきれないのよ)


 カインクムが、娘達2人を嬉しそうに見ている姿を見て、ミルミヨルは、感謝の気持ちをカインクムに示していた。


(そういえば、今、フィルランカちゃんが、合格したって言ってたわね。 そのお祝いで、私の店に来たのよね。 今日は、確か、第1区画の高等学校の合格発表の日よね。 えっ! フィルランカちゃんが、高等学校に合格したの、よ、ね)


 ミルミヨルは、驚いていた。


 そして、カインクムと、フィルランカ、そして、エルメアーナを見る。


(確かに、フィルランカちゃんは、頭も良かったわね。 そう、来年度からは、高等学校に通うようになったのね)


 すると、ミルミヨルは、カインクムの元に行く。


「カインクムさん、フィルランカさんの、高等学校の合格、おめでとうございます。 私の店も、ここまでになったのは、フィルランカさんが、私の作った服を着て、宣伝してくれたからなのです」


「ああ、そうだったのですか」


(俺は、てっきり、第1区画の店の料理が食べたいから、値切って、値切って、買ったのかと思っていたんだ。 宣伝を兼ねていたのか)


 カインクムは、ひとつ胸の支えが無くなったと思った様子で、ホッとしている。


「新しいデザインを考えたのですけど、中々、受け入れてもらえなかったのですけど、フィルランカさんが、着て、街を歩いてくれたら、その後は、私も欲しいという、お客様が、ドンドン増えてくれたのですよ。 最初の3ヶ月は、本当に、仕事をこなすのが大変でした」


(フィルランカが、着て、そんなに効果があったのか? いや、それは、ミルミヨルさんのデザインが良かったからだろう。 いくら、フィルランカが、宣伝したとしても、魅力のある服じゃなければ、売れることはないよな)


 カインクムは、ミルミヨルが、大袈裟に言っているように思えたようだ。


「そうでしたか、フィルランカが、お役に立てたのだったら、それは、良かった」


 カインクムは、フィルランカの良い話を聞けて嬉しそうだった。


「それで、カインクムさん。 ご相談なのですけど、私の店は、フィルランカさんのおかげで、ここまで良くなりました。 高等学校に入学ともなったら、今日、彼女達が選んだ服は、お祝いとしてプレゼントさせてもらえないでしょうか?」


 カインクムは、その話を聞いて、困ったような表情をする。


 カインクムとしたら、いずれにせよ、フィルランカの服は、ミルミヨルが、安く提供してくれたのだから、それなりに礼をする必要があると思い、今日は、2人分の服を購入して、ミルミヨルに対してお礼をと思っていたのだ。


 それが、購入しようとしていた、学校に着て行く服をプレゼントさせてもらいたいと言われては、カインクムの面目も立たないのだ。


「はあ、まあ、それは、有難いのですけど、今まで、フィルランカの服の面倒を見てもらっておりましたから、私としては、そのお礼も兼ねて、こちらのお店で買わせてもらって、恩返しをと思ったのです。 それにこんな機会でないと、私には、この店の敷居が高いので、それは、またの機会にさせてもらえないでしょうか」


(噂で、この店の服を買ったと、フィルランカが言っていたと聞いた。 その後、調べてみたら、俺が、フィルランカにくれる金額の3ヶ月分位だぞ、フィルランカが、いくら頑張ったって、年に1着、いや、2・3年に1着しか変えないだろ。 ミルミヨルからは、相当な金額の服を格安で売ってもらっているしかないんだから、ここは、親代わりとしたら譲れないだろう)


 カインクムは、このままだと、学校に通うための服を、ミルミヨルにせびりに来たように思えたのだ。


 しかし、ミルミヨルとしたら、フィルランカの食べ歩きで、帝都中の噂になるほどの、健気な話を利用して、自分の服を宣伝させた。


 フィルランカの噂を利用して自分の服の宣伝をしたのだ。


 落ちていた売り上げが、フィルランカのお陰で、V字回復し、そして、新たな商売にも結び付けることができたのだ。


 ミルミヨルとしたら、フィルランカには、返しきれない恩があると感じているのだ。


「そう言わずに、私は、フィルランカさんの健気な心を利用して、宣伝に使ったのですよ。 ですので、罪滅ぼしだと思って、プレゼントさせてもらえないでしょうか」


 ミルミヨルも、フィルランカの宣伝効果が、ここまで高かったとは思ってなかったので、後ろめたさがあったのだ。


 2人は、お互いに困ったような表情を浮かべている。


 カインクムとミルミヨルの2人の思っていることは、平行線を辿っている。


 カインクムは、ミルミヨルに安くフィルランカに服を売ってもらったと思っていたのだが、ミルミヨルは、フィルランカに提供した服以上の利益を得ているので、フィルランカの報酬額が、服の1着や2着では少なすぎると考えていたのだ。


「カインクムさん?」


「ん、ああ、有難い申し入れだがな、それだと、ちょっと、申し訳ないと思うんだ。 どう考えても、お店の方が、損をしていると思うんだ」


 それを聞いて、ミルミヨルは、一瞬だが、ニヤリとしたように思えたが、すぐに、硬い表情に戻した。

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