第22話 髪、洋服、靴の宣伝


 ミルミヨルとティナミムの2人は、フィルランカの受け答えが、しっかりしたものだったこともあり、上手くいきそうだと、喜んでいるようだ。


「はい、じゃあ、ブラッシング用のクシは、これね。 朝と寝る前に、手入れをしてね」


 そう言って、ティナミムは、フィルランカの髪の毛を、そのクシでブラッシングをする。


「はい、ありがとうございます。 今日から、ブラッシングをします」


 ティナミムは、フィルランカの答えに満足した。


 完成したので、フィルランカを椅子から立たせて、出来上がりをミルミヨルに見せる。


「すごい、綺麗になったわよ。 フィルランカちゃん」


 ミルミヨルは、フィルランカに、うっとりした表情で伝えた。


 フィルランカは、少し顔を赤くしているので、その表情を確認すると、ティナミムにお礼を言う。


「姉さん、ありがとう。 これなら、私の服も、カンクヲンさんの靴も、もっと良く見えるわ」


「そうよ。 こんないい話は、滅多に来ないからね。 こっちも気合が入ったわよ」


 ミルミヨルは、フィルランカに視線を合わせるようにする。


「じゃあ、フィルランカちゃん、練習よ」


 そう言うと、ミルミヨルは、にこりとする。


「フィルランカちゃん。 その髪の毛、とても綺麗ね。 どうしたの?」


「この髪は、ティナミムさんのお店でセットしてもらったのよ。 とても綺麗でしょ」


 フィルランカもノリノリで答えてくれたので、ティナミムは、そのミルミヨルの質問に喜んだ。


 自分の服を優先するのではなく、自分が行った髪の毛のセットをミルミヨルが質問してくれたので、ティナミムも質問した。


「フィルランカちゃんの服、とても素敵ね。 どうしたの?」


 ミルミヨルの気遣いに対して、ティナミムも同じように気遣った。


「はい、この服は、ミルミヨルさんのお店で買ってきました。 なんだかお姫様になった気分です」


 そう言って、頬を両手で覆った。


 それを聞いて、ミルミヨルも喜んだ。


 そして、ティナミムを見ると、フィルランカに、もう一つ質問をした。


「「じゃあ、その綺麗な靴はどうしたの?」」


 ティナミムとミルミヨルが、一緒に質問した。


「これはカンクヲンさんのお店で買いました。 カンクヲンさんは、足を見ただけで、ピッタリの靴を用意してくれたんですよ」


 それを聞いて、2人は、喜んだ。


 これなら、いい宣伝になると、お互いに思ったようだ。


「うん。 フィルランカちゃん、最高よ」


「聞かれたら、今のように答えてね」


 2人は満足していた。


「ありがとうございます。 ちゃんと、宣伝してきます」


 そう言うと、フィルランカとミルミヨルは、ティナミムの店を後にする。


 ミルミヨルの店に戻ると、着ていた服やら木靴やらを、ミルミヨルの母親が入れておいてくれた。


 それを持って、ミルミヨルにお礼を言うと、フィルランカは、カインクムの家に帰るのだった。




 ただ、フィルランカが、第3区画に入ると、綺麗になったフィルランカを、道行く人のほとんどが、見ていた。


 途中で、知り合いに会うたびに、綺麗になったフィルランカに声を掛けてきたのだ。


 フィルランカは、その都度、言われた通りに宣伝して帰って行ったので、通常の時間の倍は掛かって家に帰った。


 帰った時、店の入り口から入って、カインクムとエルメアーナに見られて、2人にびっくりされてしまい、カインクムは、慌てて店を閉めると、エルメアーナがフィルランカをリビングに連れていった。


 後から来たカインクムとエルメアーナに今日の話を全て話すと、カインクムは、納得したようだが、エルメアーナは、納得できない様子でフィルランカを見ていた。


「フィルランカ、綺麗になった。 フィルランカだけ、綺麗になった」


「エルメアーナ。 これは、フィルランカに価値が有ると、周りが認めたからなんだよ。 お前は、家で鍛治をしていた時、フィルランカは、外で俺たちの為に食事のレパートリーを増やしてくれていたんだ。 それが、周りに認められたんだ」


「うーん。 私の出来ない事が、フィルランカに出来たからなのか」


「そういうことだ」


 エルメアーナは、微妙に、納得したような、納得できないような、表情をしている。


「エルメアーナ。 今度、あなたも、このドレスを着てみない」


 フィルランカは、流石にエルメアーナに申し訳ないと思って提案したようだ。


「私もあなたも、体型はほとんど一緒だから、着れると思うわ。 それに、時々、あなたの服を着せてもらったり、私の服を着たりしているから、きっと、あなたにも着れるわ」


「ありがとう。 今度、お願いするよ」


 エルメアーナは、フィルランカの提案が嬉しいのだが、微妙に素直に喜べない自分がいた。


 その感情が、エルメアーナ自身にも、よく分からないのだ。


 2人の話もまとまったようなので、カインクムが、話をまとめるように話しだす。


「フィルランカ、それは、お前にそれだけの価値があると、思ったからなんだよ。 お前は、俺たちのご飯の為に、色々な店に行っていたからなんだ。 だから、今日受けた物は、ありがたく頂戴しておきなさい」


「はい」


「それとエルメアーナも、フィルランカが、その服を着せてくれると言うのだから、今度、着させてもらいなさい」


「分かった。 父」


 フィルランカは、カインクムに答えると、エルメアーナを見る。


 エルメアーナは、羨ましそうにフィルランカを見ていた。


「エルメアーナ、この服、着るのが少し面倒なの、だから、今度、エルメアーナに貸してあげる。 その時に私も、この服の着方を覚えるようにするね」


「ありがとう、フィルランカ」


 エルメアーナは、フィルランカが、服を貸してくれると言ってくれたので、喜んだ。


 エルメアーナも落ち着いたようだ。


「エルメアーナ、フィルランカに感謝するんだそ」


 カインクムは、娘達の喜ぶ姿が、嬉しかった。




 その後、フィルランカを利用した宣伝は、功を奏したのだが、思った以上の反響を呼んでいた。


 ミルミヨル、カンクヲン、ティナミムの店でフィルランカが、買ったと言った事で、通常の3倍から5倍のお客が詰め寄せたのだ。


 3人は、1ヶ月と半月ほど、休み無しで働く事になってしまったのだ。

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