第20話 初めての美容院へ行く為に


 フィルランカが、コルセットによって、自分の胸がわずかではあるが、大きくなった事に喜んで、姿見の前で、自分のスタイルを確認していると、ミルミヨルが声をかけてきた。


「フィルランカちゃん、下着によって、スタイルが変わる事が分かったでしょ。 服、下着、靴ときたら、もう一つ有るのよ。 なんだと思う?」


 楽しそうに自分の姿を見ていたフィルランカは、ミルミヨルの質問を聞いて、見ていた自分の姿から、視線をミルミヨルに移した。


 その表情には、他にも何かあるのかと、考えている様子だった。


「まだ、何かあるのですか?」


 フィルランカは、不安そうにミルミヨルに聞いた。


「うーん、多分、それだけでも、第1区画のお店でも、入れてくれると思うんだけど、より完璧にするなら、髪の毛もセットした方がいいわね」


 フィルランカは、言われて、納得した様子を見せる。


「お化粧は、あなたの歳なら、無くてもいいと思うわ。 どうしてもと思ったら、口紅をつける程度で構わないわ。 でも、初めて口紅をつけると、口紅の味が気になって、お料理が楽しめないと思うから、おすすめはしないわ」


 フィルランカは、時々、見る裕福そうなご婦人の口が赤く染まっているのを思い出した。


(ああ、あれが、口紅というものだったのね)


 ミルミヨルの話を聞いて口紅についての知識を得た。


「だけど、フィルランカちゃんは、料理を食べたいのよね。 だったら、化粧はおすすめしないわね。 口紅をつけない化粧は、思いつかないわね。 でも、花嫁修行中のフィルランカちゃんなら、化粧無しでもきっと見栄えがするわね」


 そう言って、ミルミヨルは、フィルランカの髪の毛を触る。


「でも、髪の毛は、別だから、ちょっと、見てもらった方がいいわ」


「はい」


 フィルランカは、不安そうに答えた。


 フィルランカは、孤児院の時は、庭置いた椅子に座らされて、髪の毛を切っていた。


 最近は、エルメアーナと一緒に、お互いの髪をハサミで切る程度だったので、子供同士ということで、前髪よりも後ろだけを切るようにしていたのだ。


 そんなフィルランカの様子を気にする事なく、ミルミヨルは、フィルランカに話しかける。


「じゃあ、行きましょう」


「えっ! どこに?」


「決まってるでしょ。 今の話の流れだったら、美容院よ」


 フィルランカは、まだ、行くお店が有るのかと、少しウンザリした様子をするが、ミルミヨルは、そんな事を気にする事なく、フィルランカの手を取って、店を出ていく。




 フィルランカは、何だか、自分が着せ替え人形のようになっている気がしていた。


 しかし、綺麗になっていく自分を見るのは、嬉しいので、自分自身としても、内心、楽しんでいたのだった。


 ミルミヨルは、フィルランカの歩幅に合わせずに、フィルランカを引っ張るようにして歩いているので、フィルランカは、慣れない革の靴で、しかも、踵もいつもの木靴よりも高いので、転ばないように、急ぎつつ、ミルミヨルの歩く速度に合わせていた。


 ただ、今度は、通りを挟んで向かい側だったので、直ぐに、美容院に着いた。


 ミルミヨルは、ドアを開ける。


「お姉さん、居る?」


 ミルミヨルが、ドアを開けた瞬間に声をかけた。


「はーい。 今行きます」


 奥から、ミルミヨルに応えてくれた。


 奥から出てきたのは、ミルミヨルより、少し歳上の女性だった。


 歳は30代半ばに見える。


「あら、ミルミヨルじゃない。 どうしたのよ。 あなたの髪は10日ほど前に、やってあげたでしょ」


「違うわよ。 今日は、新しいお客さんを連れてきたのよ」


 そう言って、自分の後ろに居たフィルランカを自分の前に出して、フィルランカの肩に両手を添える。


 それを見た美容院のお姉さんと呼ばれていたティナミムは、一瞬、驚いた様子をする。


 フィルランカは、11歳なら、その位の歳の子供は、ほとんどが、母親に髪を切ってもらうので、珍しく思ったようだ。


「へえー、この子が、お客さんなのね」


 フィルランカを見て、疑うような視線を送ったのを、ミルミヨルは見逃さなかった。


 ミルミヨルは、少しイヤラシそうに笑う。


「お姉さん。 この子は、フィルランカちゃん。 今日は、私のところの服と、カンクヲンさんのところの靴を用意したのよ」


「ふーん」


 ミルミヨルに相槌をうって、フィルランカを上から下まで、じーっと見る。


 フィルランカは、ジロジロと見られていると思い、少し恥ずかしそうにする。


「ねえ、お姉さん。 フィルランカちゃんなんだけど、第3区画のお店は、ほとんどのメニューを食べちゃったから、第1区画の飲食店に入りたいのよ。 でも、今日、行ったら、全てのお店で入店を断られたのよ。 それで、この第5区画で食事をしたんだけど、服装で断られたと聞いて、私のお店に来てくれたの」


 ミルミヨルは、少し意地悪そうな顔で、話をした。


「ふーん。 そうなんだ」


 ミルミヨルの話を聞きながら、フィルランカをジーッと見ていたのだが、何か腑に落ちない様子を表情に出している。


「ねえ、フィルランカちゃん。 お金は、どうしたんだ? ミルミヨルの店もカンクヲンの店も、それなりの値段の品物なはず。 それに今着ているのは、ミルミヨルが、最近作ったデザインの服のはずよね」


 ティナミムは、子供の払える金額じゃないと思って、フィルランカに聞いた。


「はい、お洋服は、ミルミヨルさんのお店で、靴は、カンクヲンさんのお店で買いました」


 フィルランカは、ミルミヨルとカンクヲンに言われた事を、緊張気味に、お姉さんの答える。


「いや、買ったのは分かったのよ。 そのお金はどうしたのか、私は、聞いたのよ」


 ティナミムは、柔らかい口調で、フィルランカに聞いた。

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