フィルランカの思いが報われる時  パワードスーツ ガイファント外伝 〜10年以上続けた思いが報われる時 結ばれる者と見守る者 あり得ない恋愛関係〜

逢明日いずな

第1話 エルメアーナの未来を考えるカインクム

 

 鍛冶屋のカインクムは、ジュエルイアンの勧めで、帝都にギルド支部ができるのに合わせて、第9区画の商店街に移転してきている。


 大ツ・バール帝国が誕生して、364年になるが、ギルド支部ができたのは、4年前の、帝国暦360年の時である。


 それは、帝国誕生記念も兼ねて、ギルド支部の設立も許可されたとなっていたが、次期皇帝となる、皇太子のツ・リンケン・クンエイが、現皇帝である、第21代皇帝ツ・リンクン・エイクオンに働きかけて設立したと言われている。


 それには、当時開発されていた帝都の西側の第8区画の開発を途中で中断して、新たに帝都の南側に第9区画の整備に移ったのだ。


 それには、帝国で一気に勢力を伸ばした商人であるイスカミューレン商会の跡取りと、その嫁の影響が強い。


 イスカミューレン商会の跡取りである、スツ・メンサン・イルルミューランと、当時は、第1皇女だった、ツ・レイオイ・リズディアが、南の王国の大学へ留学した。


 それは、ジュエルイアンが大学に入学した翌年に、2人は、留学生として入学した。


 そして、一つ上で同じ学部のジュエルイアンは、成績優秀だったことと、同じように商会の跡取りであったこともあり、イルルミューランとジュエルイアンが、接触するようになり、そして、リズディア達とも友達となった。


 また、ジュエルイアンは、世界を股に掛ける商人の家の後継であり、商会は、ギルドとも交流が有った。


 そしてジュエルイアンは、卒業後に、武者修行として、イスカミューレン商会で働いていた。


 ギルドとも交流があり、イスカミューレン商会とも交流がある、南の王国の商人である、ジュエルイアンが、この第9区画の下請けとして一部の開発を任されていた。


 ギルドの冒険者を相手に、武器や防具を売る鍛冶屋として、ジュエルイアンが、カインクムに依頼をしたことで、カインクムは、第3区画から第9区画に移転したのだが、それ以外にも理由があった。


 その理由とは、フィルランカを嫁にした事が原因である。




 カインクムは、今の第9区画の店に移転する前は、帝都の第3区画に住んでいたが、その隣が孤児院だった。


 孤児院の横にカインクムの店である家兼鍛冶屋が有った事で、孤児院に引き取られていたフィルランカを、カインクムは小さな時から知っている。


 フィルランカとエルメアーナは、同じ歳で女の子同士という事もあり、お互いに気もあったので一緒にいる事が多かった事から、小さな頃から、エルメアーナと一緒に遊んでいて、フィルランカも、カインクムの家に遊びにきていた。


 特にフィルランカは、エルメアーナが学校で教わってきた勉強の内容を聞くのが好きだったので、エルメアーナの学校が終わって家に戻った頃に、フィルランカは家に遊びに来て、エルメアーナから、学校の授業の内容を聞いていたのだ。


 その時は、エルメアーナが先生役で、フィルランカが生徒役になって、おままごとのように学校での勉強の話をしていた。


 しかし、エルメアーナが10歳になった頃に、突然、エルメアーナが学校に行かなくなり、カインクムの工房に入って鍛治仕事を始めるようになった。


 それまでも、時々は、工房に来て鍛治を手伝ったり、自分で簡単な物を作ったりしていたのだが、ある日、突然、学校には行かず工房に入り浸るようになった。


 何故なのかと、カインクムが聞いても、エルメアーナは答えず、工房で鍛治をするのだ。


 カインクムは、鍛治仕事の稼ぎが安定していたので、エルメアーナの学費を払えない事はない。


 だが、安くもない学費を支払っている手前、エルメアーナには、学校へ行ってもらいたいと思っていたのだが、エルメアーナは、頑として学校へ行こうとしなかった。


 そんなになっても、フィルランカは遊びに来ていたが、エルメアーナが学校に行ってないと分かると、がっかりしてしまった。


 学校に行けなかた孤児のフィルランカとすれば、それまで、エルメアーナから、学校で教わった事を教えてもらっていたので、エルメアーナが学校に行かなくなったと聞いて、これからは教えてもらえなくなると、がっかりしたのだ。


 がっかりしていたフィルランカを見て、カインクムは理由を聞くと、エルメアーナから、学校の授業を聞けないからだと言った。


 フィルランカが家に来るのは、エルメアーナから聞く勉強の話が好きだったと聞いたカインクムは、代わりにフィルランカを学校に入れる事を思いついたのだ。




 その頃、カインクムは鍛冶屋に集中したいが、店に出る必要も有るので、信頼できる店番を探していた。


 カインクムの妻であり、エルメアーナの母親が、3年前に病気で死んでからは、1人で、エルメアーナの面倒を見ながら、鍛治と店番とに追われる毎日だった。


 まだ、子供だった2人だが、フィルランカもエルメアーナから授業の話を聞いていたので、簡単な計算程度なら問題なかった。


 そして、フィルランカは、時々、カインクムが店に立つ時に、一緒に接客をしてくれた事があった。


 フィルランカも孤児院で、暇を持て余していた時は、エルメアーナが居なくとも、遊びに来ては、店番を手伝ってくれたこともあるのだ。


 フィルランカは、お客様からも受けが良かった事も、時々、お客から聞かれた値段も正確に答えてくれていたので、お客様からの受けもよく、物覚えも良く、数字にも明るかったのだ。


 それにエルメアーナの友達で、ほとんど姉妹のように接している2人なら、将来2人に店を任せてもいいかもしれない。


 自分が引退した後、エルメアーナが鍛治をして、それをフィルランカが店で売る。


 そんな未来図を、カインクムは描くようになったのだ。




 カインクムは、それまでの投資と考えれば、エルメアーナの代わりにフィルランカの学費を出すのは、エルメアーナのためにもなると考えたのだ。


 ひょっとしたら、フィルランカと一緒に学校に行くと、エルメアーナが言うかもしれないという期待もあった。


 また、フィルランカは、ある年齢になったら、孤児院を出なければならない。


 そして、孤児の成人後の未来は、それ程明るく無い。


 飲食店の店員、宿屋の店員等の職にありつければ良いのだが、孤児が職にありつける事は、それほど多くは無い。


 顔立ちの良い孤児なら、余裕の有る商人や貴族が、パトロンとなり、昼間は、家事を行わせて、夜は、一緒の床につく事を要求される。


 そうでない孤児の女子が選ぶ職業は、娼館に向かう事になる。


 そんな悲惨な未来を考えるなら、エルメアーナの為に店を見てもらう事を、フィルランカにお願いしたら良いと、カインクムは考えたのだ。


 それなら、学校を卒業してから、自分の鍛冶屋に住み込みで働く事を条件として、フィルランカの学費を出すことを、カインクムは、孤児院に了承させる事を思いつくのだった。

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