第6話 エレベーターの子

 あれはいとこの結婚式の日だった。

 僕は二十歳になっても未だに彼女もなし、童貞をこじらせていた。

 そんな時に幸せいっぱいの結婚式を見てイライラしていた。

 飲みなれないビールをがぶ飲みして酔っ払いながら帰宅した。


 自宅のマンションはオートロックの自動ドアで一階で鍵を差し込まないと開かない。

 結婚式に参加したため、慣れないスーツを着ていて、どこに鍵をなおしたかわからなくなった。

 いとこと奥さんの熱いキッスを思い出して更にムカついてた。

 早く家に帰ってベッドに直行したいのに……。

「クソッ」

 そう呟くとドアが勝手に開いた。


 誰かが出てきたんだ。

 一人の制服を着た女の子だ。

 

(あ、僕の行っていた学校の制服だ)


 目が大きくてパッチリとした可愛らしい子。

 そしてイライラしていた僕に笑顔でこういった。


「こんにちは~」


 なんて眩しい笑顔なんだ。

 僕は先ほどのイライラも吹っ飛んで、うれしくなった。

「あ、ちわっ」

 相手は年下にも限らず、緊張してしまった、その可愛さに。


 

 それからしばらく、僕はその後輩ちゃんによくエレベーターで会うことが多くなった。

 名前は知らないけど、気になったから後輩ちゃんと名付けた。

 たぶん新しく引っ越してきた子なんだろう。


 ある日、バイト終わりでクタクタに疲れて帰ってきた。


 僕が集合ポストのダイヤルを回していると後ろから声をかけられた。

 振り返ると例の後輩ちゃんがエレベーターからひょっこり小さな顔を出してこういった。

「あの、乗りますか?」

「あ、うん」

 僕は急いでチラシを手にエレベーターに乗り込んだ。


 後輩ちゃんは振り返ると小さな声で僕に言った。

「あの何階ですか?」

 初めて会話したな……。

「一番上でお願い」

「わかりました」

 なんて優しい子なんだ。


 今日も校則をしっかりまもった三つ編みに乱れのない制服を着用している。

 真面目な子だなぁ。


 その後ろ姿をよく見るとどこか小刻みに震えている。

(ん、緊張しているのかな?)


 ま、まさか!

 わざわざ僕のためにエレベーターを待っていてくれて、尚且つ僕の階を聞いた……。

 僕の家を知りたいのでは?


 この子、僕に惚れているかもしれない!

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