凶 -路地裏からの物語-

トレアドール

Prologue?

 まるで海の底の様な景色が見える。周囲にはもちろん何も無い。ただ、水みたいな感触と、自分が呼吸している証である水泡だけがある。


 そんな景色が長々と続けば普通の人なら退屈で堪らないだろうな…。と俺はまるで他人事の様に考える。そして、

(しかし、どうすればここから元の場所に戻れるのか…?)

 と考え、困った様に自分の頭を手で掻……………け無かった。何故なら、腕が無いからだ。それだけではない、自分の体の感覚は……。


 無い。





 視覚で確かめようとも眼球を動かすことも叶わない。そもそも、視覚と聴覚以外は全て無くなっていた。ただ、この悲惨ひさんな状態でも俺?は楽観らっかん的な考えしか浮かばない。


 海らしき色の場所から時間を掛けだんだん暗くなってくる。そんな事になったら普通の人はもっと焦るだろうが、俺はいつまでも楽観的な考え方をやめることは無かった………。否、悲観的な考え方をしても何も解決しないと脳が悟ったからだ。


 だからと言って、このおかしな空間から抜け出すことを考えない訳には行かない。


 しかし、この聴覚と視覚しかない今の状態で何ができるのか…

 答えは火を見るより明らかだ。何も無い。


(Oh………Shit…、なんてこった。だが、そもそも俺はなのか?そもそものか?)

 何もわからないまま、ただ時だけが過ぎていく。

 こちらの概念で一日は経っただろうか?

 急に視界が視界を埋め尽くす黒から、その真逆の眩しい程の白へと変わった。



 そして……







(………ヲ、タス…………ル。……スコシ…………。)


 急に女性の声が聞こえてきた。

 よく分からないが何故か安心できるような声だ。どこかで聞いたかわからないが。

 とにかく今の俺は声が出せない。その声に答える事ももちろん叶わない。



 すると、急に意識が朦朧としてきた。

(よく分からないが、俺は天に昇れるのか……。こんな空虚くうきょな時間も終わりだ…。)


 そうして俺は

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