第44話 絢斗と配信と自分の想い
晩御飯を食べ、自室のベッドの上でアキちゃんの配信待ちの俺は少し複雑な心境でいた。
アキちゃんが春夏冬だと知った初めての配信で……春夏冬が俺のことを好きだと分かった初めての配信。
俺はどんな気持ちで配信を見ればいいのだろうか。
悩みながら壁にかけられている時計を見続ける。
どんな悩みがあろうとどれだけ幸せであろうと生きている限り時間は過ぎていく。
とうとう配信の時刻となってしまった。
『こんばんはー。アレキサンドロス・アキです。本日もよろしゅうお頼申します』
携帯の中で動くアキちゃん。
おっとりした声にリラックスしている感じ……
声は確かに春夏冬のようだが全然別人のように聞こえる。
『投げ銭、いつもおおきに』
次々にアキちゃんに投げ銭が送られていく。
俺も負けじと、できる範囲で投げ銭をする。
『あー……ハ、ハイブリッヂさんもいつもおおきに……』
俺からの投げ銭に反応したアキちゃん。
戸惑っているのか、少し声が上ずっており、視聴者から心配の声があがる。
『あ、ああ……大丈夫やで。なんでもないから』
だがそこはプロ配信者。
あっという間に平常心を取り戻す。
アキちゃんの声を聞くと心が癒される。
悩んでいる自分がバカに思えるほどだ。
ほわほわした気分で配信動画を見ていると……春夏冬から連絡がきた。
アキちゃんではなく春夏冬からだ。
『お願いだから投げ銭やめて。高橋から貰うのはちょっと気が引けるから』
「…………」
だが俺はそんな春夏冬のメッセージを無視する。
だって俺は心からアキちゃんを応援しているから。
心の底からアキちゃんのことが好きだから!
本日のノルマ分は投資してやる……
「…………」
アキちゃんの可愛らしい笑い声を聞きながら、俺はあることに気づく。
なんだ……俺って純粋にアキちゃんのことが好きだったんだ。
しかしなんで俺はこんなにアキちゃんのことが好きになったんだろう。
アキちゃんのどんなところを好きになったんだろう。
いつからアキちゃんのことが好きになったんだろう。
中学の時、水卜のことが原因で俺は周囲に心を閉ざしていた。
そんな時にアキちゃんの配信を見つけたんだ。
あれは高校一年の時。
アキちゃんにファンはまだまだ少なかった。
俺はその時からのファンだから古参というわけだ。
まぁ今はそんなことはどうでもいいのだけれど。
『ほんでなー、初めて料理作ったんやけど大失敗やったわぁ』
コロコロ笑うアキちゃんを見て微笑を浮かべる俺。
全部彼女のおかげなんだ。
他人と距離は置いてはいたけれど、心は彼女に救われて、そして楽しい日々を送ることができていた。
あの頃の配信で俺は投げ銭で彼女にあったことを相談した。
するとアキちゃんは自分のことのように考えてくれて悩んでくれて……彼女の優しい心に癒され……
「……そうなんだ……そうだったんだよ」
なんてことはない。
俺はアキちゃんの優しさに惹かれていたんだ。
彼女の優しさが俺を癒し、そして俺を救ってくれた。
それは感謝の念に近いものだったのかもしれない。
とにかく、アキちゃんに金銭という形で感謝のお返しをしたいと思ったんだ。
だから俺は出来る限りの投げ銭をして、彼女を喜ばさせようとした。
春夏冬だって同じだ……
水卜の時も俺と彼女のために動いてくれた。
俺が一人ぼっちの時は話かけてくれて、俺の顔色が悪い時は駆けつけてくれて……
やっぱり春夏冬はアキちゃんなんだ。
今、俺の中で二人が同一人物だと認識できたような気がする。
俺は……
惹かれて……いつの間にか恋をしていたんだと思う。
自分の気持ちが分かり、胸が熱くなる。
爆発しそうなほど心臓が高鳴る。
俺は……春夏冬が好きなんだ。
彼女の優しさに恋をしていたんだ。
絶対に届かない存在だと思っていたから、付き合えるなんて考えようともしなかった。
だけど彼女は傍にいる。
俺の隣にいるんだ。
届かない距離ではなく、手を伸ばせば届く距離にいる。
そして春夏冬は俺のことを想ってくれている……
御手洗と水卜には悪いけれど……俺は自分の選ぶべき人が分かってしまった。
俺が好きだった水卜じゃなく。
バイト先の可愛い後輩ではなく。
ずっと俺の傍にいてくれた春夏冬。
配信の中だけど俺の支えになり続けれくれた彼女が、一番好きなんだ。
だとすれば、この気持ちを伝えなければいけない。
春夏冬が好きだとハッキリと宣言しなければいけない。
彼女に直接言わなければいけないんだ。
「…………」
自分の人生の中でこれほどまで興奮したことがあるだろうか。
胸の高鳴りは止まらず、緊張に息が浅くなる。
俺は春夏冬が好きで、彼女にその気持ちを届けなければいけない。
水卜の時よりも遥かに緊張している……
その気持ちに気づいた俺は、アキちゃんの配信をポーッと赤面して眺め続けていた。
そしてその日はまた眠ることができず、朝を迎えることになったのだ。
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