第6話 絢斗と絵麻とメッセージ②
春夏冬がどの程度の男……
そもそも男かどうかも知らないけれど。
まぁそれはどうでもいいんだが。
とにかく、アキちゃんという圧倒的な存在とメッセージのやりとりをしていることに対して、俺は妙な優越感を覚えていた。
チラリとこちらを見た春夏冬に、俺は勝ち誇った表情を見せる。
すると春夏冬はこちらの視線に恐れをなしたのか、バッと顔を伏せてしまった。
『どないしよ! 好きな人が見つめてきてんねんけど!』
アキちゃんからメッセージが届いた。
それはそれは、良きことなり。
俺は喜びにニンマリと笑い、返信をする。
『絶対その人、アキちゃんのことが好きなんですよ! 間違いない。アキちゃんみたいな人を好きにならないわけないんですから』
俺は胸を張ってメッセージを返した。
アキちゃんに見惚れて、見つめていたのだろうなと俺は推測する。
優しい声に穏やかな振る舞い。
彼女の言動を考えるだけで素晴らしい女性だということは安易に予想できる。
彼女の顔は知らないがきっとそうに違いない。
「え……えええっ!?」
隣で携帯を触っている春夏冬が手を震わせながらこちらを見つめくる。
俺は怪訝に思い、彼女から視線を逸らした。
え? 俺何かやったかな?
いや、勝ち誇った顔をしたけれど。
まさかそれが癪に障ったとか?
「どうしたんだよ絵麻。高橋の奴何かしたのか?」
「い、いや……なんでもない……なんでもないよ」
春夏冬を囲む男たちが一瞬俺を睨むも、彼女が否定したことにより怒りは収束したようだ。
ホッとため息をつく俺。
流石に多対一で喧嘩を売られては勝ち目は無い。
一対一でも勝てる気はしないけど。
携帯の方に再び視線を戻すと、またアキちゃんからメッセージが届いていた。
『そんなことあれへんわ! うち、動画と全然違うからハイブリッヂさんも見たら幻滅すると思うわ。だから絶対好きとかありえへん』
「…………」
彼女は自信がないのだろうか。
顔は見えないがモテそうという雰囲気は感じるんだけどな。
俺の勘ではその男性にも好意を持たれているはずなのだ。
アキちゃんがモテないわけがない。
そう考える俺は彼女の背中を後押しすることにした。
『一度声をかけてみるのはどうでしょうか? それで相手の反応をうかがってみればいいんですよ』
相手はアキちゃんのことが好き。
だから声をかけられたら喜ぶに違いない。
それを見たアキちゃんはきっと自信を持てるはず。
俺はそれを期待し、メッセージを送信した。
「チャイム鳴ったな。あーあ。また今日も一日授業受けなきゃなんねーのかよ」
授業が始まるのを知らせるチャイムが鳴り、春夏冬の周囲から男子たちが立ち去って行く。
一人となった春夏冬。
前の席に座っている彼女の友人女性も黒板の方を向いていた。
担任が教室に入って来て、ホームルームが始まる。
隣では春夏冬がまだ携帯を触っているようだった。
すると彼女は何故か俺の方をチラチラと見てきて、顔がほんのり赤くなっていた。
顔に何かついているのか……?
俺は両手で顔を洗う様に擦り、ゴミか何かがついていないかを確認する。
「…………」
パンのクズがついているではないか!
クソ……全然気が付かなかった。
春夏冬はこれを教えようとしてくれていたの。
まぁここは素直に感謝しておくとしよう。
「…………」
数学の授業が始まり教師が授業を進めていくが、彼のこえは子守歌のように眠気を誘う。
俺は腕を組みながら船を漕ぎ始めていた。
「ね、ねえ……」
「…………」
隣から何やら話しかけられたような気がしたが……そんなことよりも眠たい。
俺は声に反応することなく、眠ることを即座に選択する。
と言うか、俺に話しかけていなかったとしたら恥ずかしすぎる。
たまにあるよね。
前から歩いて来た人がこちらに向かって手を振っていると思ったら、自分の後ろにいる人に向かって手を振ってることって。
俺も俺で相手を知りもしないのに手を振り返したりする時もある。
向こうは手を振った俺に対してキョトンとした顔をするが被害者は俺の方だからな!
確かに勘違いしたのはこっちだが勘違いさせたそっちが悪い。
とまぁ今はその話は置いておいてだ……こういう時は反応しないのが一番だと思う。
反応しなければ恥ずかしい気分にならずにすむし、用事があるならまた声をかけてくるだろう。
それが一番の解決法だと、俺は悟っていた。
「……ねえ、高橋」
俺に話しかけている。
春夏冬と逆に座っている男子は決して高橋くんなどという名前では無かったはずだ。
そもそもこのクラスに高橋は俺しかいないはず。
となればどう考えても春夏冬が話しかけているのは俺ということになる。
しかしギャルが陰キャにどんな話があるんだ?
俺は怪訝に思いながらも、目をソーッと開ける。
彼女は少し戸惑った表情で俺の方を見ているようだった。
こいつ俺に何を話すつもりなんだ?
俺はちょっぴり緊張感を覚え、ゴクリと息を呑んでいた。
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