ぼっちの俺はvtuberを愛でるだけの毎日であったが、最近同級生と後輩がぐいぐい来て困っています

大田 明

第1話 高橋絢斗と春夏冬絵麻と学校

 一人はいい。

 他人に気を使わなくてもいいし、周囲に合わせる必要も無い。

 自分がしたいことをしたいだけしていられる。

 自由気ままな生活を送れるのだから。

 だから俺は一人でいいのだ。


 俺の名前は高橋絢斗たかはしけんと

 青春真っ盛りの高校三年生だ。

 まぁ真っ盛りと言っても特に盛り上がりもないもない人生ではあるが。

 

 現在俺は、生徒の話声でうるさいぐらいの学校の廊下を進み、教室へ向かっていた。

 窓から眩い太陽の輝きが差し込んでいる。

 そんな太陽の明るさとは対照的に俺の顔色は暗かった。

 しかしそれは世間一般論での話であって、俺としてはこれが普通である。

 平常なのである。

 教師や親は俺を暗いというが、そんなことどうでもいい。

 友達なんかがいれば明るく振る舞ったりしなければいけないのかも知れないが、俺には友達がいない。だから暗いとか明るいとか、愛想が良いとか悪いとか、笑顔が素敵だとか気持ち悪いとかどうでもいいのである。


 いわゆる俺はぼっち。

 何も気にしなくていいのはまさに最強。

 まさに現代の傾奇者とでも言ったところか。

 ええ、分かってます。それは言い過ぎだって。


 教室の扉を開くと中でも生徒たちは大声で話をしており、俺は短くため息をつく。

 少し辟易するが、まぁ授業中は静かだからよしとしておくか。

 俺が来たことにより誰も反応しない教室の中を歩き、一番後ろの奥から二番目の席につく。

 ここが俺の席だ。


「でさー、メッチャ可愛いの、それが」


 隣の席に座る女子から香水の甘い香りが漂ってくる。

 チラリとそちらに視線を向けると、世間一般論では美少女と呼ばれるであろう女子が、目の前の席に座る女子と楽しそうに会話をしていた。

 

 彼女の名前は春夏冬絵麻あきなしえま

 ギャルである。

 腰まで伸ばした金色に染められた髪は日の光に照らされキラキラ光っており、スタイルは抜群で並の男性ならばごくりと息を呑むほどであろう。

 絹のような滑らかな肌に大きな瞳。桃色の唇はプルンと瑞々しい。

 化粧も少ししており、周囲にいる女子たちよりも派手。

 声も大きいし態度もでかい。

 俺の一番嫌いな人種である。

 ただし爪先は手入れがされており、清潔感に溢れている。

 これだけは高ポイント。

 だがしかし、総合的に見るとやはり俺の嫌いなタイプとしか言いようがないであろう。


 ギャルにはいい思い出が無い。

 そもそも俺がぼっちになったのはあいつ・・・が原因なのだ……

 今はここにいないあいつ。


「…………」


 少し陰鬱な気分になるが俺は机にうつぶせになり、眠るフリをした。

 こいつを見ていても気分が悪くなるだけだ。


「それよか絵麻~京都弁で話してよ」

「ええ? 嫌よ。なんかダサいでしょ、京都弁って」


 そう言えば春夏冬は京都出身だという話を聞いたことがある。

 去年の終わり頃にこの学校に転校してきたらしいが、それ以前は京都に住んでいたとか。

 詳しい話は知らない。

 春夏冬が隣でそんな会話をしていたのを聞いただけで、それ以上のことは分からない。

 まぁ知りたいとも思わないけど。


「そんなこと無いっしょ。絶対可愛いって」

「絶対可愛いことないでしょ。ねえ高橋もそう思うでしょ?」

「…………」


 何故か春夏冬は俺に話しかけてくる。

 それも気安く、まるで友達のように。

 いや少し違うな。

 友達というかいじりやすい都合のいい同級生と言ったところか。

 彼女の顔の方に目を向けないが、笑っているに違いない。


「寝てんじゃね?」

「いや、今来たことでしょ。ねえねえ高橋。どう思う?」

「……京都弁は良い」


 俺は顔を伏せたまま自分の思ったことを口にした。


 京都弁は良い。

 だって俺の好きなあの人・・・が京都弁なのだから。

 悪いわけがない。良いのだ。良い過ぎるぐらい良いのだ!


「そ、そう……? え、京都弁っていい?」

「絶対良いって」


 少し戸惑っている様子の春夏冬。

 すると一緒にいる友人は突然小さな声で彼女に話す。


「ってか高橋に話しかけるの止めときなって。こいつ暗いし、相手にしないほうがいいよ」


 おい、聞こえてるぞ。

 並みの男子ならここで傷つくところであろうが……俺は違う。

 俺の心はすでに強化済みだ。

 バトル物の漫画で言えば、修行イベントを終えた後の主人公のようなもの。

 すでに弱点は克服している。

 

 と言うか、暗いぐらいじゃもう心の針がすんとも動かかなくなっていた。

 これはもう無敵だな、無敵。


「……だ、だよね! そうだよね。隣にいるのが高橋って忘れてた!」

「それならいいけどさ……それよか、京都弁で喋ってよ、絵麻」

「ええー。別にいいじゃん」


 なるほど。

 隣にいるのが俺ということを忘れていたのか。

 納得。

 それなら俺に話しかけた理由が分かる。

 だがこのクラスになってから、ずっと隣は折れなんだから、そろそろ覚えてほしいところであるのだけれど……そんなに俺の存在感は薄いのか?

 まぁあえて誰にも接しようとしない俺も悪いんだろうけど。


 ベラベラと隣で会話をする春夏冬。

 眠ることもできずにいると、自然と彼女の声が聞こえてくる。

 そうこうしていると授業が始まるチャイムを鳴り、担任が教室へと入って来た。


 今日もまた、退屈で気怠い時間が始まる。

 俺はあくびをして窓の外へと視線を向けると……一瞬だけ春夏冬と目が合った。


「…………」


 彼女は俺の方を見ていたようだが、何を考えていたのだろうか。

 まぁどうせ、くだらないことなんだろうけど。

 俺はまた一つため息をつき、倦怠感のある授業に意識を向けるのであった。


 授業が終わり休み時間になると、春夏冬に話しかける男子が集まる。

 陰キャの俺とは真逆の陽キャ集団。

 その中の中心はもちろん春夏冬。

 男子たちはそんな彼女と話をしてデレデレしていた。

 春夏冬は客観的に判断して、美少女と呼ばれる部類の人間であると思われる。

 そりゃ可愛い女の子と話ができたら嬉しいよな。

 俺は別になんとも思わないけれど。


「なあ絵麻。俺と付き合う気とかねえ?」


 一人の男子がポロリとそんな言葉を漏らす。

 まるで連絡事項を伝えるかのように、さらりと言ってしまった。

 こんな教室のど真ん中で、皆がいる中でよくそんなこと言えるなと俺は感心する。

 春夏冬の方を横目でチラリと見ると、彼女と何故か目が合ってしまう。

 俺の方を気にしているような様子だったが……いや、気のせいだろう。


「あ……あはは! それメッチャウケるんだけど!」


 ドッと沸く陽キャ集団たち。

 さらりと告白した男子は苦笑いを浮かべていた。

 

「絵麻、今日も告白されたね。これで今日も記録更新したじゃん」

「そんな記録、記憶してないんだけど……」


 春夏冬は男子の顔を見て居心地が悪くなったのか、走って教室から逃げ出してしまった。

 教室を出る時俺の方をまた見たような気がしたけれど……これも気のせいだろう。

 

 しかし毎日告白されるとは、俺とは住んでいる世界が違うな。

 俺は学校で人から話しかけられることがほとんど無いと言うのに……

 あ、でも今日は春夏冬に話しかけられたな。


 俺は彼女が出て行った扉から陽キャ集団の方に視線を移す。

 皆で振られた男子を慰めているようで、俺はそれを見て肩を竦める。

 ぼっちならそんな落ち込むこともないというのに。


 皆で小さな世界を形成する中、俺は周囲と隔絶するように机にうつぶせになる。

 俺はぼっちでいい。友達も恋人も必要ないんだ。

 今日も俺は一人の世界を満喫し、喧騒の中で目を閉じる。

 そしてあの人・・・の顔と声を思い出し、誰にもバレることなく笑みを浮かべる。


 俺はぼっちでいいんだ……あの人が存在しているという事実があればそれでいいんだ。

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