『僕』の住処
帰ってきたあの人の姿が見えた時、僕はとても――それこそ、あの人に救われ命を拾ったあと時よりもずっとずっと――嬉しくて。あの人もまた、僕の頑張りとたくさんの贈り物をたいそう喜んでくれているようでした。
ひとしきり再会を喜んだ後、僕はあの人のために料理の腕を振るって、精一杯もてなして。あの人は持ち帰った品々を並べたり倉庫にしまったり、時折それらにちなんだ旅の話をしてくれました。そんな楽しい日々が何日か続いて……やがて僕は、またあの人の旅立ちを見送りました。
けれど前回置いていかれた時とは違います。あの人の許可も得て、今日からはここが僕の住処、守るべき場所になった。それにあの人が帰ってくるホームでもあります。
次にあの人が帰ってくるまで、この場所をしっかり守って……それに、もっと居心地の良い場所にしなくちゃ。
でも、これ以上僕にできることってなにがあるんだろう……?
そんなことを悩みながら何日か過ごしていると、思わぬ来客がありました。
「おー、いたいた。こんちわー」
ガラス板のはまった奇妙な帽子を目深にかぶって、大荷物を背負う姿。間違いなく『モグラ』です。
見知らぬ来訪者を警戒する僕に、モグラはあの人の名前を出して言いました。
「ここの所有者のウサギさんから言われてね。住処をつくる材料の提供と力仕事の手伝いを頼まれてね。ああ、安心してくれ。お代はウサギからあらかた貰ってるよ。ただ」
ただ?
「住処が出来上がるまでのメシは、こっちで貰ってくれと。ほれ、これが契約内容だ。字は読めるかい?」
あいにく字は読めませんでしたが、あの人が帰ってきたら事実を確認しようと、その書類をとりあえず受け取って大事にしまっておくことにしました。
「そいじゃ、さっそく一仕事おっ始めますか! 大体は俺がやるけど、住む本人が使いやすくなきゃ意味が無えからな。いろいろ意見を聞くと思うからちゃんと答えてくれよ」
僕はうなずき、モグラが作業を始めるのを見届けてから、ご飯の準備にとりかかることにしました。
一緒にご飯を食べる人が増えるのは、故郷を失ってからは『あの人』が帰ってくるわずかな期間くらいだったのに。それが、これから毎日続くと思うと、いくらかの不安もあったけれど、なんだか楽しみでもありました。
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