第三十話 悲しみの向こうに父を超えて!

 表城門から宮廷内に入っていくと誰も命令していなかったはずだったが城の中をアルエディーの部下達が念入りに探索をしていた。やがて、大謁見室の方から兵士の悲鳴が聞こえ、何事かと思ったアレフ達は急いでその場所へと向かった。そして彼等の見た者は・・・。

「おおぉお、我が子よ・・・、無事にここまで辿りつけたようだな・・・、ほっほっ、随分と立派に成長したものだアレフよ」

「父上っ!生きておられたのですか・・・、しかしこれは一体どう言うことですっ!!この怪物達は?それに・・・」

 アルエディーやアレフ達の目に映ったのは謁見室にひしめく異形の怪物たち、玉座に座る先代国王リゼルグ、そして王の隣に控えるウォード提督だった。その場にいた者達は目の前にいる前国王や提督の異質に気付くが、しかし、それがなんなのか言葉で表現する事は出来ない。

 眼前の前国王リゼルグ・マイスター、幻術士ネア・ニーゲンドボルグによって殺されているはずだった。その者の顔は生きた者と同じ血が通った温かさを持っている様に見えた。だが・・・、何かが違う。そして、再び、リゼルグの口が動き出し始める。

「ホッホッホッ、疲れておるじゃろう。さあ、休め・・・永遠にな。お前立ちかかれぇーーーっ!」

 それまで動きを止めていた異形の者達が一斉に動き出しアレフ達に襲い掛かってくる。

「これはどういうことですか?答えてください父上っ!!」

 迫る異形の者に剣を振りながら答えを求める様に叫んでいた。しかし彼の父親は軽く嘲笑しただけで何も答えなかった。

「クッ、一体なんなんだっ!!」

 アレフ、アルエディー、セレナ、レザード、ルナ、ケリー、そして千騎隊の隊員達、大謁見室で魔物との混戦が始まった。

「一体全体なんですかこれはっ、まったくっ!*************(ファイア・ランス)」

 いつになく真剣な顔で魔力を絞り彼の交差された指から火球が放たれるとそれはやがて槍の様に伸び怪物たちに突き刺さっていった。そして、二、三体を同時に倒しす。セレナは自分の攻撃魔法がそれ程効果を示さないと分かると補助に移り、

「**********************・・・、***********(アクセラレーション)」

 彼女の唱えた魔法は複数の味方に対してその者達の身体的能力を一時的に上げるものだった。

「こんな隠し玉を用意するとは帝国め、卑怯なっ!」

 千騎隊副隊長はいつも手に握る剣を槍に代えて迫り来る敵を串刺しにする。

「このような事になるなら私だけではなく兵を連れてくるべきだった」

 失態続きのルナ、彼女は苛立ちを力に換え敵陣に飛び込んでそこにいるモノ達をを滅多切りに。アルエディーは肩の痛みを押さえながら片手で剣を振り回しその勢いで敵を一刀両断して行く。アレフは何がどうなっているのか分からず、錯乱状態だったがそれでも目の前の魔物を切り倒していた。

 玉座に座る王とその隣にいる提督は彼等の攻防を静かに観戦していた。暫くして殆どの怪物が倒されると今まで喋ることも動く事もしなかった提督が腰に携えていた剣を抜き、そこから歩みだし前に出る。

 ウォードの持つ剣、刃渡り78※セットの両刃の剣。名はティターン、鍔の装飾に三個の純度の高い小さな精霊石が埋め込まれている。それらには高位の闇、炎、天の精霊が宿されていた。持つ者の意思によって剣、斧、槍、手甲に形状を変えられる特殊な武器。アルエディーの大剣を造った名匠ゼオード・ヴォルフィックによって鍛えられた作品。その剣を持つものはやがて走り出し攻撃目標がその範囲内に入ると目にも止まらぬ速さで数回手にする剣を動かした。そして相手は持っていた剣でそれを確実に受け止めていた。

「父さんっ!止めてくれっ!!一体どうしたって言うんだよっなんで」

 アルエディーは右肩にまだ少し痛みを感じていたため父親の攻撃を受け止めるのも精一杯だった。

「息子よ・・・、我が心がある裡に殺せ・・・、さまなくば・・・・・・、我が手でお前やこの場にいる者達を殺してしまう・・・、だから息子よわれに剣を向け戦え」

「どうしてなんだ、分からない・・・、俺にそんなこと出来るかっ!」

※1セット=1㎝


 ウォードの言葉に動揺してしまったアルエディーは父親の激しい攻撃に鎧の縁などを微かに貫かれ無数の小さな傷を負ってしまった。

「やらねば息子よ、お前が死ぬのだそ。そして我と同じく成るきかっ我は死人だっ、息子よ、生き恥を晒させないでくれぇーーーっ!」

 殺され操られてもまだ頑に人の心を持つウォード提督を玉座の陰に隠れて楽しげに、それと同時に忌々しそうに監視する死術士ネクロス・ノア。王国兵が今まで戦った不死兵達は彼によって操られていた。そして、今も独りその男はリゼルグとウォードを普通の死体に施す術よりさらに高度な術で操り親と子の殺し合いを悦楽の笑みでを眺めていたのだ。

 ネクロスは手に印を組むとブツブツと小さく呟きウォードを操る為の呪詛を綴ると提督の表情が少しずつ変化しやがて鬼の形相と成った。提督の剣の速度と鋭さがいっそう増す。肩の痛みが完全になくなったアルエディーは完全防御体勢に入りそれらを全て受け流していた。

〈小僧っ、何を躊躇している!やらねばお主がやられるのじゃぞっ!!〉

 休眠から覚醒した精霊王は宿り主の危機を知って直接アルエディーの心へ話しかけていた。

〈ウォード殿が剣に埋めてある精霊の力を解放すれば万に一つ今の小僧に勝ち目はないのじゃ、だからわしの力を直ぐに解き放てっ!〉

〈・・・、だが・・・〉

〈小僧の気持ちは分からんでない。だがお主がウォード殿の事を思うなら・・・、死人として操られ苦しむウォード殿の事を思うならおのが手でかれを葬ってやったらどうなんだ〉

 精霊王の宿り主は奥歯を強く噛み締め彼に流るる親と子と言う感情を押し潰し騎士として戦士としての心に置き換えた。

〈デュオ爺・・・・・・、俺の魔力を全開にする。だから俺にデュオ爺の力を〉

〈やっと本気になりおったなっ、小僧が持つ魔力、死なない程度に食い尽くしてやるぞ。お主が死ねば悲しむ女子が多いいようじゃからな・・・、我が名は精霊王デュオラムス、我が名を呼べそして召喚せよっ〉

〈いつも一言多いんだよ、デュオ爺は〉

 アルエディーは召喚の呪を唱えるために父ウォードから命一杯間合いを取った。

「subete―no―seirei―wo―tabanesimo―no―seireioudhuoramusu―ware―ha―sono―seitounaru―yadonusi―sono―tikara―no―kagowoware―ni・・・、我がもとへ来たれ精霊王デュオラムス!!」

 大剣を両手で掲げると左手の手袋の精霊石と剣の鍔飾りに納められている精霊石の覆いが完全に開き呼応し輝き始めた。光はやがて刀身全体を黄金色に薄く覆っていデュオラムスがアルエディーの魔力量に比例した全ての精霊の力を貸した状態に成った。

 ウォードのティターンにも黒紫色の光が覆っていた。彼もまた闇、火、天の精霊の力を全開に解放していたのだった。ソナトス将軍と戦ったとき以上の死闘が開始されようとした。

 二人は互いの精霊の加護により身体的能力がアスターの持つ極限の高さまで上がっていた。その動きはまるで軍神と鬼神の対決のようなものだった。互いの剣が何度も打ち合う甲高い音が謁見室にこだまし、それらが打ち合う度に二人の闘気と魔力が放出し辺りにいる異形の怪物の亡骸が消滅し、綺麗な模様の床が剥がれ崩れ室内のいたる所にある物が傷つき壊れ始めていた。そんな二人に誰も近づく事が出来ず大謁見室の入り口付近まで後退を余儀なくされてしまう。

『ガズウンッ!』

 ウォードとアルエディーの剣の鍔元が鈍い音を立ててぶつかり合う。そこから互いに力の押し合いが始まった。力を入れる両腕、気合を入れる顔、下半身の安定のため踏ん張る両足。両者の力が互いのいる場の足元を倒壊させて行く。

「ハァアァアァァァーーーーーッ!」

「フンウゥゥゥーーーーーンッ」

 両者がいっそう腕の力を込めるがしかしややアルエディーが押され気味だった。

「息子よ・・・、強く成長したな・・・」

 ネクロスの術の支配から少しだけ、一瞬だけ逃れアルエディーの成長を喜ぶような調子で口を動かしそう息子に語った。

「父さん・・・・・・、余裕の積もりかぁっ!!」

「だが所詮その程度だ、ハァッ」

 再びネクロスの術に支配されたウォードの返していた言葉はそ探索探知器った。そして、右肘を大きく前に押し出し、その肘でアルエディー、息子を吹き飛ばした。勢い良く飛ばされたアルエディーは床に仰向けになって倒れこむ。その隙にウォードはおおきく跳躍し上から剣を振り下ろす。間一髪それを転げてかわし、素早く体勢を立て直し、その直後再びウォードの剣閃がアルエディーを襲い彼はそれ何とか大剣で受け止めた。

 終わりなき、果てしなき攻防が二人の間で続く。しかし、生のあるアルエディーに体力の限界が訪れようとしていた。それを理解した彼は最後の一撃に力を籠め、剣を下段右下に構え魔力と闘気を練って相手の仕掛けてくるのを待った。それを見たウォードは口元左を小さく吊り上げ笑ったかのような表情を作る。しかし、それに一体どのような意味が在るのか誰にも知れる事はない。

 ウォードは息子の誘いに乗る様にその場から踏み出し瞬時に間合いを詰め、剣を大きく後ろに引き突きの体勢に入った。同時に二つの剣がその軌跡を辿るため動き出し、

『ズブシュッ、プシューーーーーッ!』

 アルエディーの大剣がウォードの体を深く抉り・・・、父親の剣はその息子の左脇と胴の間を傷一つ付けずに通していた。ウォードの傷口からドス黒い色の血らしき物がだらだらと流れ落ち床に崩れた。そして、直ぐにアルエディーは父の体を抱き起こすと、

「良くやった・・・。だが、まだだ・・・、我の首を刎ねなければ何度でも甦り操られるだろう・・・。だから・・・」

「小僧、ウォード殿を安らかに眠らせてやれよじゃ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 息子は無言で立ち上がり目の前の父に剣を振り下ろした。

『ザァクッ!!』

 胴体から切り離されたウォードの首、その表情は満足げだった。やがて彼の体は崩れ落ち細々となり灰燼に帰しと、何処からともなくウォードの声がアルエディーの心に響く。

〈子はいつか親を超えねばならん。たとえ、それが殺す事になってもだ・・・・・・。良くやったぞ我が最愛の息子、アルエディーよ・・・。私の最後のわがままを聞いてくれるか?〉

〈ハイ・・・・・・・・・・・・・〉

〈我が王であり友であるリゼルグの私と同じ苦しみを取り払ってくれ〉

〈ウォード父さんがそれを望むなら・・・、わかった〉

〈有難う息子よ・・・。そして、さよならだ・・・。クリスティーナ我が妻を頼む・・・、それと暫くは我、冥府の許には来るなアルエディー。そして、戦士として、男子として、人として強く生きよ、お前が遣える者達のために・・・・・・・〉

 そう最後に告げると父親の声が彼の心の中から消えっ去って逝った。

〈とおぉおぉおおーーーさぁーーーーーーんっ!〉

 心の中で逝ってしまった父親を呼び戻す様に大きく叫んでいた。しかしその願いは叶わない。

 アルエディーとウォードが激戦中、アレフとその親リゼルグが剣と魔法で交戦していた。しかし、アレフは防御するだけで剣を向けようとはしなかった。アルエディーの様に心を鬼にする事が出来なかったのだ。

「リゼルグ様、我が父、ウォードに代わって我が遣えるべきアレフ王に代わってその苦しみの呪縛を絶つっ!!お覚悟ッ・・・・・、テヤァーーーーーーーッ!」

 そう叫びながらウォードが居た場所から助走し臨界点で高々と飛翔しその勢いでリゼルグを一刀両断のもとにした。前ファーティル国王は断末魔をあげる暇もなくその場に二つに分かれウォードの時と同じように消えて逝く。そして、アレフ、アルエディーの両名の心にリゼルグの優しい声が聞こえ、

〈ほっホッホッホッ、アレフよ、良き友を持てて誇りに思いなさい〉

〈その様なこと父上に言われなくても分かっている〉

〈アルエディー君、流石はウォードの息子だ、我の苦しみを絶ってくれて感謝するぞ・・・、これからもアレフの事を頼んだぞ〉

〈リゼルグ様、神明に誓ってそのお言葉守らせて頂きます〉

〈そうか・・・、アルエディー君とセフィーナの孫の顔を見られんのが心残りだが致し方あるまい。そろそろ、お別れじゃ我が国と民を、帝国を、共和国をよろしく頼んだぞ・・・、さらばじゃ〉

〈父上、その言葉確かに受け止めた。そして、父上とウォード提督が友であったことに感謝する。そのお陰で私はアルエディーと出会えたのだからな・・・・・・〉

〈リゼルグ様・・・・・・・・・〉

 その場に居た者たち全て冥府に旅立った前国王と提督の魂に祈りを捧げた。

「イィーヒッヒッヒ、アァ~ハハッハッハッ、オォーホッホッホ、ゲッヘッヘッヘグワァ~ハッハッハッハ」

 そんな場の雰囲気をぶち壊すように甲高く嫌味で陽気な笑い声が大謁見室にこだまする。

「やぁあ~、やあぁ~、とても面白い悲劇・・・違う親と子の対決、家臣の王殺しと言う喜劇を見せてもらったて僕は大満足だよ、ワッハッハッハ」

「見るからに怪しいやつめっ」

「貴様は一体何者だっ!」

「本当はお前等なんぞに教える名など持たぬが楽しい気分に浸らせてもらったからそのお礼に教えちゃおうかなぁ~~~。ハッハッハッハッ僕の名はネクロス、死術士ネクロス・ノア。覚えてくれても、くれなくてもどっちでも構わないよぉ~~~」

 ネクロスはその場にいる者たちに陽気に笑いながらそう答えていた。

「貴様が父さんやリゼルグ様を」

「ああ、そうさっ、いやぁ~~~、ウォードって男を制御するのは結構骨が折れた。全く嫌な野郎だった、キッヒッヒッヒ」

「赦さんッ!!」

 その騎士が玉座の隣に立っているネクロスに向かって動き出そうとした時、玉座の周りが薄紫に眩く光ると転送方陣が描かれその中から一人の男性と三人の女性が姿を見せた。

「千騎長殿・・・、それ以上動かないで頂きたい。動けば・・・」

 突然現れた男は右手に持つ小刀を一人の女性の綺麗な肌を持つ首筋に当てる。

「おまえは・・・、ホビィー・デストラ」

「初めてお会いした時は散々な言われ様でしたが・・・、これが二度目の邂逅だと言うのにしっかりと私の名を覚えていてくださったのですね千騎長、アルエディー殿」

「姫を放せ一体どうしてお前がセフィーナ姫様と・・・ナルシア皇妃、エアリス皇女には生え抜きの護衛兵を付けさせていたのになぜだっ。それなのに何故?」

「ネクロスが貴方達を惹きつけてくれたお陰であの程度のものたちなら容易たやすい物でした・・・、ネクロス、貴方のお陰で私の仕事が達成できましたよ。有難うそして、ご苦労様でした」

「イィ~ヒッヒッヒ、いいってねぇ、僕も今かなぁ~~~りヤバイ所だったからお前が来てくれて助かったよぉ~~~」

 ネクロスとホビィーが言葉を交わしている間、アルエディーは少しずつ間合いを詰め様とした。だがそれをホビィーに気付かれる。

「千騎長殿、そこを動くなと申したはずです」

 禁術士の持っていたナイフが横に小さく動くセフィーナの首筋が薄っすらと赤く染まった。しかし、それは幻影で彼女の首には一切傷ついていない。セフィーナを傷一つ付けずに捕らえる事が第一目的だったホビィーが本当に彼女を怪我すはずがない。だが、アルエディーやアレフ達の動揺を誘うには十分な効果を持っていた。

「千騎長殿、私が本気であると言うのをお分かり頂けましたか?」

「貴様ッ、一体何が目的だ!」

「フフッ、知れた事を。神を復活させるための神器の一つ虹色の宝玉」

 その言葉にアレフは驚愕の色を浮かべ、なぜ帝国が共和国と王国の二つに戦争を仕掛けたのか理解した。それぞれの国はその昔、混沌の神ケイオシスを封じた三つの神器、サイエンダストリアル共和国の女神の聖仗―ファーティル王国の虹色の宝玉―メイネス帝国の魔剣ディハードをそれぞれ保管していた。それらを手に入れるのが帝国の裏に潜みし者達の狙いだったのだ。

 そして、虹色の宝玉は代々王家の子の体の中に封印され生まれてくるものが男であれ、女であれ体内封印は可能なのだが何故か女子の方がその封印効率が良く、セフィーナが生まれた時にアレフからその宝玉の封印が移植されていた。

「一体何の事だホビィー」

「おやぁ?貴方は知らないのですか・・・、私が求めるそれは千騎長殿が大切にするこの方の中に眠っているのですよ」

 禁術士はそういって顔をセフィーナに向ける。

「アルエディー様。申し訳、御座いません・・・捕まってしまいました」

 何かの術から逃れた彼女はやっとの事で口を開きそう言ったのだ。

「なんともお強い精神力のお持ちなお姫様ですね・・・、それは目の前にいるあの者のためですか。フッ・・・、さてさて、千騎長殿、貴方の大切なお姫様は私の手の内にある。私の言葉に従ってもらいましょう」

「ホビィー、お前の要求はなんだ」

「貴方の力はとても脅威です。そのままにしておけばやがて我々の計画の最も大きな障害の一つになるでしょう・・・、それまでは大人しくして頂きたい」

「そ探索探知器けかっ?」

「そう睨まないで下さい。神さえ復活してしまえば、お姫様は無事にお返しいたしますから」

「アルエディー様、駄目です。この方の言う事を聞いてはいけません。ケイオシスが復活してしまえば私達の存在など無意味です。ですから私に構わず・・・」

「セフィーナ姫様、少々お口が過ぎますよ。お黙りください」

 そう言ってホビィーは彼女に何かをしようとした。

「ホビィー、姫に手を出すな。何でも言う事を聞く」

「それでは千騎長殿の遣える王アレフを斬りなさい・・・」

「ングッ!?」

「フッフッフ、冗談ですよ。私はそこまでネクロスと違いまして卑劣ではありません」

「誰が卑劣だって全く失礼だってぇのっ」

「ネクロス、貴方は黙っていてください・・・、千騎長殿、貴方の持つその強大な力を秘めた大剣を私にお預けしてください。勿論それを呼び出す為の手甲もです・・・、さあ早く」

「アルエディー様お止め下さい」

 しかし、セフィーナの言葉を耳に入れることなくアルエディーはその大剣を前に投げた。それが床に落ちると乾いた音を立てホビィーの方へ転がって行く。続いて手袋も外し同じ方向へ投げた。

「物分りが良くて助かりますよ千騎長殿・・・、お前たちあれを運べ」

 彼はいつの間にか呼び出していた異形の怪物にそれを取りに行かせた。

「次にアレフ王、貴方の持つ剣、神の力の壁を切り裂いたその剣も渡して頂きましょう。ためらっても駄目ですよ。要求を呑んでもらえねばこの二人をこの場で亡き者にします。それがどう言う事かお分かりになりますよね、賢き王の貴方なら」

「卑怯なっ!」

「これは歴然とした交渉ですよ」

 アレフも渋々アルエディーと同じようにエクスペリオンを前に投げ出した。異形の者がその剣をホビィーの前に運ぶため手触れた時、悲鳴を上げながら刹那、消失して逝った。

「チッ、仕方がないネクロス貴方があれを運んでください」

「バカ言っちゃいけないよ。あいつ等が触れて駄目なら僕にだってむりさっ」

「仕方がないですね。これ以上の成果を求めるのは欲深いと言うことですか。まあいいでしょう・・・、それでは次の機会までしばしのお別れです。フッ、次があれば・・・」

「面白かったよ、お前等また楽しませてくれ。じゃぁなぁ~~~」

 ホビィーとネクロスがそう言い残すと玉座の前にいた者達はホビィーの転送魔法で一瞬にして消えてしまった。

「クソォーーーーーーーーッ」

 アルエディーは叫びながら両膝を床に突け、力強く何度も両腕の拳を床に打ち付けていた。そして、その状態でその騎士は彼の手で父親と前国王を討ってしまった事を嘆き、護るべきだったセフィーナを護れなかった事を悔やみ、今までほとんど涙する事がなかったその男は咆哮し大きく慟哭していた。

 そんな彼に対して友であるアレフも旅で心を通わせた仲間のレザードもアルの部下達もそして彼を想うセレナさえも掛けてやる言葉が見つからなかった。


◇   ◆   ◇


 セフィーナ、ナルシア、エアリスを連れたホビィーとネクロスはヘルゲミルのいる教会へと転送していた。再び人質となってしまった皇女と皇妃。それと真の目的だった王国の姫の拉致。それら三人を別室に連れてからヘルゲミルの部屋へと向かっていた。

「さっきは僕の事、卑劣な奴とぬかしおって・・・、そこの女三人を人質にしてあんなこと言うなんってホビィー君の方がよっぽど卑劣ではないかぁ~~~いっ」

「そうですか?私は紳士的に交渉したまでですよ」

「よぉ~く言うよまったく」

「ヘルゲミル様が来たようだ」

「ホビィーか・・・、今まで連絡をよこさず何をやっていた?」

「本来の私の命を全うしていたのですよ・・・、虹色の宝玉を宿した王国の姫を捕らえました」

「ほぉ~~~、そうであったかご苦労・・・、お前を疑うなど無用な心配で有ったな・・・、しかしファーティルの者達は王城を取り戻してしまった・・・、今しばらく戦いが続いて欲しかったのだが・・・」

「それも問題ないでしょう。また我等が手に皇女と皇妃を取り戻しましたから・・・、それらを利用すれば」

「そこまで考えていたのか。いつもながら抜け目のないなホビィーよ」

「ネクロス、今は暫くお前の好きにしていて構わん、ホビィー、お前は我と供に宝玉を取り出す儀式の準備をしてくれ」

「ひっひっひっ、好きにしていて構わないんだな」

「御意」

「ホビィーよ先にヴァレスティンに向かっていなさい、我はマクシスに次の指示を与えてからそこに向かうとする」

 ヘルゲミルの話しを聞き終わるとホビィーとネクロスはそれぞれの思いのままにその部屋を出て行く。ここにいる者達が暗躍する限り帝国と王国の間で戦いは終わる事はない。二国にとって無意味な戦いは果てしなく続くのであった。

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