第二十五話 少数精鋭

 季節は移り火盛の月から水碧の月へと替わっていた。この月、ファーテルは天候が悪く、戦うにはいささかか労を強いられていた。両軍が本格的な会戦を始めたのはこの月のちょうど初め頃であった。


~   ~   ~

 北東から軍を進めて来たアレフとアルエディイー達はピラ原生林地帯を少し抜けた場所に本陣を立てていた。

「アル、これ以上長く雨が続きここに留まってばかりではいずれ兵の士気も下がってしまう」

「アレフ、俺だってそのくらい分かってる。しかし、俺達は神じゃない自然の流れには勝てないだろ?」

「そうではあるが・・・、だが、しかし対策を講じなければ野営ばかり続く、我々にとって痛手を負うだけだ。それに・・・」

「それに食料だって後何日もつか分からない、病気にだってなるって言いたいんだろ、アレフは?」

 アルエディーはアレフの言葉を遮ってその続きとなる言葉を口にした。

「この雨だと後方からの補給部隊も早くは望めないだろうからなぁ。それにセレナの魔法だって限界はあるだろうし・・・・・・」

 テントの窓から顔を出し雨が降る空を確認した。

「さてどうしたもんだろうか?・・・、ルナ!何かいい案はないか?」

「ここから西に約30ガロット進んだ所の先に人口七万五千人ばかりの町があります。そこまでたどり着ければ衛生と食糧の問題はなくなります・・・・・・・・・・。ただし、そこまで行くには神創期時代に造られた砦を必ず通過しなくてはなりません。そして、そこには霧姫さんの情報により帝国の将軍の一人、ソナトス・タイラーとその兵が駐屯しているとあります。それと魔動機五体が確認されてもいるようで・・・・・・」

「そこを落として先に進めって事か・・・」

「はい、そうです。作戦として・・・、向こう側はこの激しい雨では私達が攻めてくることはない、とそう思っているでしょう。ですから、その裏をかいて雨の中でも動ける部隊少数で攻撃を仕掛けるという訳です」

「この雨のなか戦える部隊か・・・、分かった俺とケリーが出よう。それと相手側に魔動機がいるとなるとイクシオスにも動いてもらわないと・・・、ルナ、君はどのくらい騎馬を出せばその砦を落とせると思う?」

 アルエディーはこの暴風雨の中ではミルフィーユの天騎馬隊の出陣は無理だと思い千騎隊と魔動機対策の為、イクシオスを連れて行く事に決定したのであった。

「出来ればアルエディー様の部隊全部出してください」

「全部?ルナ何か作戦でもあるのか?」

「作戦と言うほどの物ではありませんが似た様な物は御座います」

「それは一体どんなものだ?」

「それは移動しながら私がお教えいたします。そういう訳で私もアルエディー様とご一緒させていただきます。よろしいですね?」

「雨の中、移動するのは辛いと思うけどルナ、頼むよ」

「ハイッ、畏まりました。それでは私は準備がありますので失礼します」

「準備が終わったら俺の騎馬の前で待っていてくれ」

 ルナはアルエディーの言葉を聞き取ってから一礼して本陣から出て行った。

「アレフ、それじゃ俺も部隊に集合を掛けるため出るぜ」

「アル、無理をするな。それと気を付けてくれ」

「ああ、判ったよアレフ。ここでしばらく辛抱していてくれ。朗報を持って戻ってくるから」

 アルエディーはそうアレフに言い残すと彼も又ルナを追うように本陣を出て行った。

 外に出ると彼の着ている立派な鎧に〝ポツポツポツンッ〝と大きな音を立て上空から降り注ぐ大粒の雨がそれに当たっていた。アルエディーがその鎧を身に付けるのはセレナに救われてから随分と久しい。鎧の胸の中央にファーティル王国の国章が付けられたもので士官学校を卒業した時、リゼルグ前王が密かに彼に与え授けた物だった。

 その鎧は彼の全身を余す所なく覆う。しかし、動き易くけして重くない。ハルコニュウムという特殊な金属で出来た希少価値の高いものだった。

 アルエディーは雨に打たれながら初めにイクシオスとその部隊がいる大きなテントに向かい出陣を伝えた。イクシオスは直ぐにアルエディーに返事をして出撃の準備を整え始めた。ティークニックの話しで防水処理を施してあるのは隊長機と水上戦を想定して造られた二機のみで合計三体のドラグゥーンしか出撃できないと言われた。しかし、ティークニックは自信のある顔で〝帝国の魔動機なんって目じゃないよ〝と言い張ってもいた。

 次にアルエディーはケリーと部下が集まっているテントに向かい戦いに出る事を伝えるとみな即座に準備を開始し、それから出撃準備を開始してから約30ヌッフ。アルエディーを先頭に部隊は三将軍が一人、ソナトス・タイラーが待ち受ける砦へと移動を開始した。

「よし、みんな出撃準備できたようだな!それじゃっ、出発進行・・・・・・、ルナッ!しっかり掴まっていてくれ」

「ハイッ、心得ております」

 ルナはアルエディーの乗る騎馬の後ろに跨り、その言葉で胴に廻す腕と手の力を強めた。馬が走り出して直ぐ彼女が砦を落とす為の策の一端について上官へと話しかける。

「アルエディー様、80ヌッフほど走りましたら一度部隊の動きをお止めください」

 彼女が言ったその時間は今の進行速度と雨天の視界の悪さから計算して砦からアルエディー達の部隊が見えるか見えないかの距離に達する時間だった。たとえ相手が精霊探索探知器を使っていたとしてもこちらにはイクシオスが乗る新型のドラグゥーンに小規模探索探知器撹乱機を搭載しているので今くらいの部隊の数なら察知される事は無い。

「そして、そこで二手に別れて砦を落とします」

「ルナ、そこで二手に別れて大丈夫なのか?」

「私を信じてください。少々危険を伴いますがアルエディー様に必ず勝利を」

「判ったルナを信じるよ」

「有難う御座います」

 話しが終わると彼女は雨に打たれても一定の温度を保っている騎士の鎧に張り付くように身を寄せた。


†   †   †


 それから、ルナの言われた時間に達すると先頭を走っていたアルエディーは腕を上げ停止の合図を後ろにいるケリーに示した。それに倣う様に彼も又後続に同じ事を示す。そして、アルエディーの脇に副隊長のケリーが並ぶと二人してついて来た部隊の方へ反転した。騎兵達は規律良く二人の前に整列をし、一番後方にイクシオスの部隊三機がみえる。

「ヨオォーーーシッ、今からルナから作戦について説明があるちゃんと聞いてくれよ、みんな」

 激しい雨の音にかき消されないようにみなに聞こえるよう大きな声で彼はそう言葉にし、アルエディーの言葉の後にルナが馬から降りてそれについて語り始める。

 今からアルエディー達の部隊が攻めようとする砦は数千年前に建てられた物であったが今でもその機能を立派に果たしている。しかし、流石に建物の老朽化が激しく正面以外の場所はほとんど修理されていなかった。ルナの策とは砦正面に囮を置き帝国兵の目をそちらに集中させその隙に脇から侵入すると言うことだった。そして、帝国の目が絶対正面の方へ向くようにする為、帝国でもその名が知られている隊長であるアルエディーを囮として起用する事だった。

 ルナの話しが終わると何人かの騎兵がその策について異議を訴えたのだ。理由は自分の隊長にそんな危険な事をさせたくないからである。しかし、心配してくれる部下達にアルエディーは強く返していた。

「お前達が俺の事を心配してくれるのは嬉しい。だがここで俺達が立ち止まっては後方で待っていてくれる多くの兵達を必要以上に苦しめる事になる。だから、みんな!今はルナの作戦に従ってくれ!それに俺だってそう簡単にやられる積もりはない」

「アルエディーの言うとおりだ。お前等しっかりしろっ!」

「そうだ、そうだ!お前等それでも千騎隊の騎馬兵なのか?アルエディーがどんなやつか知ってんだろぉっ」

 操縦席の中からイクシオスは外部拡声器の音量を絞ってルナの意見に反対した者達を咎めていた。

「よしっ、みな分かったなら行動開始だ!」

 その騎士はルナを乗せると再び砦の方角に馬を向け移動した。そして囮の部隊となる者達が彼に続く。その中の一人が視界に砦が見えてくるとルナの命令通りに王国騎兵の旗を準備して掲げ、それを確認した彼女は爆炎の魔法の詠唱を開始した。それは帝国兵に自分達の存在を気づかせる為であった。

 今ルナはアルエディーの前に座っている。アルは彼女が魔法詠唱中に馬から落ちない様に手綱を持つ別の手でルナを支えていた。

「****************・・・・・・****(バダン)」

 前方に構えていた両手に魔力が集中し拳サイズの火球が誕生し十数メートル先に放たれた。それが地上に触れると激しい雨の中でも爆音を立て辺りを燃やし焦がす。


~ 砦の最上階展望室 ~

「おい、今何か大きな音がしなかったか?」

「ああ俺も聞こえた」

 ルナが放った魔法の爆音が激しい雨にかき消される事なく帝国の兵に届いたようだった。そして視界の悪い雨の中、展望室から望遠鏡を使ってその音が聞こえてきた方角を二人して確認していた。

「何か見えたか?」

「いや何も・・・?うんっ?おっ、おい!王国騎兵の旗が・・・」

 言われてもう一人の兵が同じ方角を確認した。

「マジかよっ、この雨の中侵攻してくるなんってバカじゃないのか?」

「俺は将軍に伝えて来るお前は引き続き監視してろっ!」

 一人の兵士が王国兵をバカにした口調で言うと、もう一人の兵は何かを感じてその兵に監視の継続を任せ慌てて将軍の所へ向かった。

「ソナトス将軍、王国軍がここへやってきました!しかも千騎隊のアルエディー騎兵だと思われます」

「なにっ!それはまことか!?・・・、フフフッ、ガッハッハッハッハッ、この豪雨の中、奇襲を掛けてくるとは見上げた根性だ。で敵の数と距離は?」

「数は視界が悪く不明です。距離はおおよそ110ロットだと思います」

「魔動機に乗せている探索探知器で確認を取ったのか?」

「いえ、まだです」

「直ぐに調べさせろ。それから迎撃体制に入る」

「ハッ!ただいま確認してきます」

 将軍にすばやく敬礼をしてから迅速にその兵はこの場を離れた。

「永かった。あの男の方から攻めて来るとは・・・、フッ、出来れば一騎討ちで戦いたいものだが・・・」

 少しして先程の兵が将軍の所へ戻ってきた。

「将軍、報告します!探索探知器に反応なし、目視確認でアルエディー以下、九騎です。これは間違いなく何かの罠です」

「たった九騎だと?・・・・、その裏の視界が悪い所に隠れているのだろう。フフフッ、その罠とやらに乗ってみようではないか」

 ど探索探知器けの王国兵が潜んでいるか予想を立てられなかったソナトス将軍は九頭龍を砦の中に残し約八百の兵をそちらに動かした。


 帝国の動きを確認したアルエディー達。ルナが小さな双眼鏡で砦の方角を確認していた。

「アルエディー様、帝国兵が動き始めました。将軍旗らしい物が見えますのでソナトスもあの中にいるのでしょう」

「ルナ、数は分かるか?」

「兵の展開からして、おおよそ七百から八百だと思います」

「こ探索探知器けの人数であいつ等とやりあおうってのかい?正気の沙汰じゃないぜ、まったく」

「ザイン、泣き言かい?君もフェディルナイツの一員ならあれ位で怖気つかないでよね」

「そうそう、俺達は泣く子も黙る鬼のナイツだぜ」

「ゴーヴァンさん、そのたとえ可笑しいですよ。私達はそんなおっかない集団ではないのですから」

「泣く子も黙っちまうのはゴーヴァ、お前の面だけだぜ。ハッハッハ!」

「ダイラス、アンタだって人のことを言えた顔じゃないだろ?」

「アハハハッ、チェイの言うとおりだね」

「ドーラッド!ダイラス、弟が口の悪い事を言って済まない」

「お前等、私語を慎め!」

 ここにはアルエディー、ルナとナッツァーと言う男がまとめ役のフェディルナイツと言う九人で構成された騎士だけしかいなかった。フェディルナイツとはウォード提督が選んだ優秀な剣士にだけに与えられた騎士の称号で提督の特別隊だった。そして、伏兵など存在していない本当にそ探索探知器けの数で約八百の兵と対峙し様としていた。ケリー率いる残りの騎馬隊とイクシオスたちの魔動機隊は迂回しながら側面へと移動したのである。

「やっこさん達きましたぜ」

「しゃあぁ~~~、ないないっちょ揉んでやるか?」

「はぁ~、なんだザインやる気満々じゃない。さっきの言葉は一体なんだったんですか?」

「スルト、良いじゃないかやる気があれば」

「オイッ、ゴーヴァ!俺とお前、どちらがより多く向こうの兵を倒せるか勝負しないか?」

「良いぜ、勝った方はそうだな・・・?」

「だったら僕たちも混ぜてよそれっ!」

「お前等っ!!、まじめにやってくれ。アルエディー殿の前で私に恥を掻かせないでくれ」

「はぁ~~~、勝手にやっててくれ私は独りで行く」

 ツェードと言う騎士はそう言葉を残すと敵軍の中に突入して行った。アルエディーはそのナイツたちのやり取りを咎めることなく穏やかな顔で見ていた。そして・・・

「ルナ、俺もあの中に入る。落ちない様しっかり掴まっていてくれ」

 副官の返事を確認すると彼は大剣を召喚し、それをしっかりと握り締め大軍の中に突入して行った。そして、それに続く様に他のナイツも四散してゆく。

「seireiou、デュオラムス・・・、デュオ爺、程ほどに力を貸してくれ」

 アルエディイーの召喚の言葉により精霊王がその姿を現した。

「ほっほっほ、小僧、とっかえひっかえ又別の可愛い女子おなごを連れておるのう。お主もなんだかんだ女子に興味なさそうにしているくせにこれか?」

「ジジイ、黙れ!今から戦うって時にどうでもいいこと言うな」

「しょうがないのぉ~~~、それじゃぁこの話しは戦いが終わったときにでもじっくりと・・・*****************************」

 精霊王は騎士と話すのをやめ、何かを唱え始めた。それが終わるとアルエディーの体中に力が湧き出し、もっていた大剣が薄く翠色に輝き始めた。アルエディーが大剣を下方から上方に払うとその一直線上に大旋風が巻き起こった。そして立ち所にその場に密集していた兵は木の葉のごとく後方に吹き飛ばされて行く。

「命が惜しくばその身を引けっ」

 兵隊の中程にいたソナトスがその大きな動きをみてアルエディーの位置を確認すると猪突猛進して行く。兵はソナトスに弾き飛ばされぬ様その進行路の道を開けていった。

「わしは帝国軍ヨシャ元帥に遣える地龍将軍ソナトス・タイラー!アルエディー・ラウェーズ千騎長とお見受けした!一騎討ち願いたしっ」

「俺がそのアルエディー・ラウェーズだ!そちらに有利な状態で一騎討ちをしてくるとは・・・」

「そなたがなぜ、たった十騎でここに来たのか、わしには分からんがお主が勝てば砦を明け渡す事はできぬがお主とその仲間達を見逃してやる事ぐらいはできるぞ」

「いいだろう、ソナトス将軍その勝負、受けてやる!」

「アルエディー様!お願いです。そ探索探知器けはおやめください!!一兵卒を相手するほうが・・・」

 馬から降りたアルエディーに心配そうな顔でその副官はそう告げた。

「ルナ、あの将軍と戦えばその間ここにいる兵は後退することも前進することもない。時間稼ぎにはちょうどいい。もとより俺が危険になるのを承知でルナが立てた策じゃないか?」

「でっ、ですが・・・」

 彼女の顔はさらに心配そうな色になった。

「俺がルナの策を信じたように今度は君が俺の事を信じてくれ!」

 力強い口調で馬に乗る副官を見上げながらその騎士はそう言った。

「・・・、判りました。でも無理はなさらないでください」

 ルナの上官は彼女の言葉に頭を縦に振って答えた。

「アルエディー千騎長、準備は出来たか?」

 騎士はその将軍の言葉に振り返り、ルナの乗る馬を下がらせてから大剣を両手に構えて将軍に合図をした。ソナトスはアルエディーが持つ大剣よりさらに大きい剣、巨剣とでも言うべきかそれを片手で握って構えた。

 その空間に張り詰めた緊張が走る。ソナトス将軍もアルエディー千騎長もその場を動かず相手の出方を窺っていた。将軍もその場にいる兵もどちらも動かない方がアルエディーにとって好都合だった。雨水を含んでぬかるんだ地面を強く踏み締めながらソナトスは左にアルエディーは右にまるで円を描くように少しずつ移動しほんの僅かだけ前進もしていた。激しい雨に打たれながら二人が互いの剣を交える事無く15ヌッフの時間が過ぎる。

 それから、ルナの策が開始されて約30ヌッフの時が経過しようとしていもいた。それは砦の側面に移動していたケリー達がその場に到着しても可笑しくない頃だ。アルエディー、ソナトスの二人は視界の悪い雨の中を互いの発する気だけを追ってその位置を捉えている。周囲全体に緊張が渦巻く。


~砦左側面に到着したケリーの部隊~

「よぉ~~~しっ、あの脆そうな壁をぶち抜く。みんな下がってなっ!」

 三機のドラグゥーンが騎馬隊の前に立ち、魔動砲を放つ体勢を整え、イクシオスは操縦席の中でティークニックから渡された走り書き紙を読んでいた。

「へぇーーー、ふぅ~~~ん、なるほどね・・・、ここをこうして・・・、最後に・・・マジでぇ?まあ、そう言うのも良いか」

 イクシオスは一人呟きながらメモに書かれている通り操作映像投影画面や桿頭などを切り替えていた。

「アルファス、オミクロス、魔動砲準備やめぇ~~~ちょいとばっか俺に見せ場、作らせてくれっ」

「隊長殿、了解であります」

「わかりました」

 アルファス、オミクロスが搭乗する竜機は隊長の言葉に従い砲撃準備体勢を解除した。

「それじゃぁーーーっ、いっちょデカくいきますかぁ土手っ腹に風を穴開けてやる」

 イクシオスは操縦桿を握り魔力を集中させる。竜機の腹部が開きそこに圧水魔源の魔素を集中させていた。

「行っけぇ~~~~~~~~~っ、アキュアル・ブレイザァーーーーーッ!!」

 彼の叫び声と共に腹部に蓄積された高圧水の渦は直径6ロット近くの水柱を作り、その水圧で前方の壁を打ち破った。そしてその力は衰えることなく破壊した壁の向こう側にいた兵士達百数十を巻き込み反対側の壁を貫通したところで砕けるように消えて行った。その威力にイクシオスの部下アルファスとオミクロス、そしてケリーの騎馬隊も驚愕していた。しかし、一番驚いていたのは何よりもそれを放ったイクシオスだった。

「うげぇっ!?、マジかよ?・・・でもなんだかスカッとした」

「よぉおおぉしっ、イクシオス竜機隊長が造った穴から進撃を開始する。みなっ、わたしにつづけぇーーーっ」

 ケリーは号令を掛け静止していた馬を動かし砦内部へと走り出した。彼に続き矢尻の陣形で突入して行く。

「隊長殿、我々も中に突入いたしましょう。相手の魔動機は我々が抑えなければ」

「アルファス、イクシオス隊長は今の一撃で魔力を大量に消費したのかもしれない。先に俺達だけで行くぞ!」

 オミクロスは別の隊員にそう告げると竜機を動かし中へ向かって行った。

「それでは私も先に行きます」

 イクシオスに通信を入れてからその隊員もオミクロスを追った。イクシオスはもう一度、ティークニックのメモを読み返していた。

『新型竜機ドラグゥーン・タイプΣは多目的使用設計でお前専用に作ったものだ。よろこべ状況に合わせて武器を使い分けできるぞ。今日の出撃はこの豪雨の中だろ?水の精霊の力を借りるにはもってこいだって言う訳でその武器の使用方法を書いて置く』


・・・ 操作説明朗読中 ・・・


『大気中の水の精霊の数とお前の魔力注入量でその威力が変化する様になっている。最大魔力で出力される魔源の魔素力は未知数だ。くれぐれも力の配分に注意して味方を巻き込まないこと。最後に・・・、〝アキュアル・ブレイザー〝と叫べ!うぅ~~~んっ、燃えるぜ!』

「はぁ~~~、少しばっか魔力の調整間違っちったかな?」

 大半以上の魔力を消費してしまい気だるさを感じていたイクシオスはそれを押し殺し砦の中へと侵攻して行った。

「アルファス!あのでかいのから叩くぞっ」

「分かったよ、兄さん!」

 赤い竜機に乗るのが弟のアルファス、青い竜機に乗るのが兄のオミクロス。二人は息の合った連携攻撃でイクシオスの到着前に五体の魔動機を倒してしまった。

「隊長の手を借りなくても簡単に片付いたなアルファス」

「向こうの魔動機動き鈍かったみたいですからね・・・、私と兄さんが乗るこれと違って向こうは満足な防水処理されていなかったのでは」

「よおぉしっ、アルファス、騎馬隊の援護に向かおう」

「了解、兄さん」

 ケリーは巧みに部隊に指示を与え陣形を変えながら砦内に常駐する帝国兵を表門側へ追い詰めて行く。一小隊五人構成の騎馬でその何倍もの数を相手にしていた。ソナトス配下の精鋭、九頭龍達は必死になって抵抗するが彼等一人に対して千騎隊、三小隊が応戦。その為、九頭龍達も後退を余儀なくされていた。

「鳳凰陣、集まった帝国兵を前方の門外へ押し出せぇーーー」

「おぉーーーっ!!!!!!!」

 参上したイクシオスの水式魔動砲で跡形もなく吹き飛ばされた表門が帝国兵を飲み込むように口を開けていた。帝国兵はケリーの指揮する部隊と三体の竜機によって確実に後退させられていった。


 その頃、アルエディーとソナトスの一騎討ちの最中、砦の前方の門が倒壊した時の大きな音で将軍は不本意にその方向に気を取られてしまう。

「ソナトス将軍!一騎討ちだというのに余所見かっ隙を見せるとは何ごとだっ!」

 相手が隙を見せたのにも関わらずアルエディーは間合いを詰め攻撃をしなかった。その場から動かなかった。

「フンッ、お主こそ、その隙に攻撃してこないとは余裕のつもりか?」

 再び両者は構えを取り睨み合う。再び周囲は張り詰めた空気に支配されようとしたがそれをルナが破ってきた。

「竜機隊のイクシオスから『砦内部掃除完了、前方を確認そこに俺がいるぜ』と通信がありました」

 ルナはイクシオスが言った言葉をそのままアルエディーに報告をした。

「ソナトス将軍、勝負は見えた、兵を引いてくれっ!今兵を引けば無駄に命を散らす事はない」

「この兵力差で何を馬鹿な事を言うのだおぬしハッ!!」

「ルナ通信機を貸してくれ」

 副官からそれを受け取るとイクシオスに何かを通信してソナトスに後ろを見るように指で示した。

 そこにはこちらに魔動砲の照準を合わせた三機のドラグゥーンが砲撃体勢を整えていた。

「本気かっ!?おぬしまで巻き込まれるぞっ!」

「ああ、本気だ。俺一人の命で後続に待っていてくれる仲間達が無事にここまでこられるなら安いものだ」

「くっ、その目、本気のようだな。この戦い一時預けた。いずれまた決着を付けよう」

 苦渋を飲まされたような表情でアルエディーを睨んでから彼に背を向けた。

「全兵ども、命が要らない者だけこの場に残れぇーーーっ撤退スルッ!!」

 ソナトス将軍は兵を引き連れ、彼の本隊とイリス将軍が本陣を置いている北の町に向かって後退して行った。今回もソナトスの願いは半ば強制的に中断されアルエディーと剣を交えることは叶わなかった。そらから、アルエディーは馬に乗りルナと共にケリー、イクシオスたちが待つ砦へと向かった。そして、その場に到着すると全員で勝鬨を上げ互いに祝福した。

「ルナ、ご苦労様。雨の中寒かっただろ?砦の中にある浴槽で体を温めてくれ。俺は今からアレフ達の所に戻って勝利した事を伝えてくる」

「アルエディー様が直接向かわれなくてもイクシオスが既に通信を入れてあります」

「知っている。だがアレフに直接伝えたいんだ。それじゃ俺は行くから」

「あっ、お待ちください、それなら私も一緒に戻ります!」

「上官である俺の命令を聞け!俺が戻るもでここでゆっくり休んでくれ。それとルナは可愛い女の子なんだからもう少し身体を大切にしてくれよ」

「かっ、可愛いだなんて・・・、私が女の子だからってっ、その考え方は偏見です!」とアルエディーが云ったことに少し顔を紅くしながら、強く反論するルナに対し、彼は更に言葉を続け、

「偏見でも、何でも良いさ!だからルナはここで休んでいろ。君に風邪でも引かれたらこれから先大変だからな」とその騎士はそれ以上話しを続けるのを止め、走り出す。

「ケリーっ、ルナを頼む。ここから出すな」

「ハハッ、大変そうだなアルエディー、分った」

「ルナお嬢ちゃん、余り内の隊長を困らせないでくれよ。言うこと聞いてさっさと風呂にでも入ってきな。君の肌を除こうとする者がいればキッチリ処分するから安心したまえ」


†   †   †


 いつの間にか激しく降っていた雨がやんでいた。アルエディーは馬に乗り、固い土の上を選んでアレフの所へ向かっていた。

「小僧、心配だったのじゃろぉ?女子の身体の事を気遣っていたのじゃろに・・・、おぬしにはもっと優しい言葉は掛けられなかったのか?」

 召喚されっぱなしだった精霊王は先ほどのアルとルナの会話の愚痴をこぼしていた。

「アぁーーーっ、うるせえぇじじっ、うんなことデュオ爺には関係ないだろう?」

「大有りじゃぁっ!!あの女子も可愛い娘じゃ、わしはお話ししたいからのおぉ~~~、お主が嫌われてしまっては近づく事さえできんよ・・・」

「デュオ爺、ルナは大事な俺の副官だ変な事を吹き込まないでくれよ」

「さぁ~~~てっどうしたものかなぁ?ホォッホォッホォッ・・・、所で小僧、おぬしはどの娘が好みなのじゃ?セレナ殿かそれともセフィーナ姫殿か?それともあの小さなアルティアお嬢ちゃんか?はたまたお主が大事と言ったルナお嬢ちゃんか?異国のあの霧姫と言うおなごもええのぉ、蘭玲ちゃんの眼鏡を外した姿も・・・」

「ジジイ、いい加減にしないと鳥のえさにするぞっ!」

「そうかそうか、おぬしはアルテミス殿やルティア殿のような熟年の女が好みなのか。うんうん中々よい目をしておる」

「独り勝手に納得するなっ!それはデュオ爺の好みだろうが?それに二人とも既婚の人だぞ!」

「うむ、人の子は母親に似た女子が好きと言うからのぉ~~~クリスティーナ殿いいかもしれんな。あぁ、そういえば、あのウィ・・・」

「デュオ爺、しばらく眠ってくれ・・・、*****************」

 アルエディーが精霊返還の言葉を口に出して綴ると左手の手袋の精霊石が輝きだしデュオラムスがそこへ吸い込まれるように消え去って行く。

「こぞうっ、もう少し話しに付き合ってくれじゃよぉ~~~~」

 その騎士は精霊王の言葉を手で耳をふさいで聴き逃れた。

 返還された精霊は力を養うため八時間くらい仮の眠りについてしまう。その間は直接心に話しかけてくることもない。静かになって落ち着いた状態でアルエディーは馬を駆りアレフ達が待つ所へと向かって行った。

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