第二十三話 部 隊 編 成
サラディン城小会議室、午後8時32分
「三将侯、キース叔父上様、私のこの決定に異議はありますか?」
「アレフ王様の決定なら、わしは異存ない」
「私もそれで良いと思うわ」
「彼には適任かと」
「うむ、彼ならきっとその期待に応えてくれるだろう」
キースの居城の一室でこれから始まる帝国との戦いを進めて行く上での部隊編成をアレフ王、キース公爵、それと三将侯で行っていた。
「みな、感謝する」
「オイッ、済まないがアルエディーを呼んできてくれたまえ」
「ハイッ、畏まりました」
アレフの隣に立っていた伝令兵に彼がそう伝えるとその兵は敬礼をしてから会議室を出て行く。程なくして、その兵がアルエディーを連れ戻ってきた。そして、アルエディーが用意された椅子に座ると先ほど決定した部隊編成について彼に言い渡した。
「アレフ王、俺に一軍を任すだ、って!?冗談じゃない!俺には無理だ」
彼は独りその面々が決定した事について拒否をした。
「アル坊、何を小さな事を言っている。ウォード提督の息子だろう。男らしくここはビシッと決めたらどうだ?」
「ルティアの言うとおりじゃ。おぬし殿には提督殿の血が流れておる。これくらいどうってこと、ないじゃろ?」
「俺は俺だ!父さん・・・、ウォード提督とは違う・・・」
「アルエディー、軍を指揮する先輩として一言言っておく。戦いの中で兵を指揮するに当たって過剰な自信はよくないが謙虚過ぎるのも又よくないな。君は少し謙虚過ぎる。もう少し自分に自信を持ったらどうかね?」
ルデラーはテーブルに肘をついて腕を組み、厳しい口調でそうアルエディーに諭した。
「しかし・・・」
「みなの言うとおりだ、アルエディー殿自信をもたれよ。それにこれからアレフと共に歩むならこれくらいの事をこなしてくれなくて将来、些か不安になってしまう」
「アル、私の王として、友としての頼みを聴いてくれないのか?」
「・・・・・・」
しかし、その騎士はいまだその事を受け入れるのに躊躇している。
「アルエディー!どうなんだ!」
机の上でコブシを握り判断を決めかねている友に少々怒りの表情でそう尋ねた。しかし、その表情もアレフにとってアルエディーがその任を引き受けてくれる様にするための演技でしかなかった。
「分かった・・・、アレフ王のその命謹んでお受けいたしましょう」
「アル、有難う」
アルエディーから承諾の言葉を受けるとアレフは直ぐに表情を柔らかくし、嬉しそうにそう答えていた。
「それではアルエディー千騎長に一軍を任せるにあたって一人副官を付ける」
「俺に副官?」
「当然だろう、一つの軍を動かすのにアルエディー、お前だけでは辛いだろう?それに三将侯たちもそれぞれ副官を傍に置いているのだぞ」
『チリィーーーンッ♪』
アレフが手元にあった小さな呼び鈴を鳴らすとその澄んだ音が会議室に響き渡る。そして、その音と共にこの部屋の隣の扉が開きそこから一人の女性が姿勢の良い歩行でアルエディーの前に歩み寄ってきた。それから、彼の前に立つと片膝をつき頭を下げて上官に声を向けていた。
「アルエディー様、今日から貴方の副官を任される事になりました」
そう言ってから今一度その女性は顔を上げ上司となる騎士の表情を確認した。その様に挨拶して来たその女性の顔を見てアルエディーは驚いた顔を見せ、そして、しばらく何も言えず沈黙してしまう。
「ほら、何を黙っているアル坊、そんなに私の愛娘が副官をするのが不服なのかい?」
「ルナなのか?どうして君が?それに俺に敬称は要らないって・・・」
「先日のその件に関しましては私がアルエディー様の副官になった事により無効になります。それに尊敬する方を呼び捨てにする何ってやっぱり私には・・・」
「俺の初めの問いに答えてくれ、どうしてルナが俺の副官を引き受けたんだ?」
「そっ、それは・・・」
「ハハッ、アル坊、そんなの決まっているじゃない。坊の為に決まっているでしょ。フフッ、坊のためなら娘のルナはあんな事やこんな事、何だってしてくれるわよ」
「お母様、変な笑い方して可笑しな事を言わないでください」
アレフ、アルエディーや他の将軍を前にしてその娘と母親は口喧嘩の様な物を始めてしまっていた。しかし、良く観察すると口喧嘩だと言うのではなくルティアが娘のルナをからかって遊んでいるだけだった。それから、その場に居た者達はその遣り取りを見て苦笑したり、小さく笑っていたりした。
「はいはい、ルナそう怒らないで・・・。アル坊、ルナの頭の切れは私以上なのは前にも言ったと思うけどうまく遣ってやってね」
「あぁあっ、アルエディー様・・・、その・・・その・・・、大変お見苦しいところをお見せしてしまいました。申し訳、御座いません」とそう言葉にしながらルナはほんのり桃色に染め俯いてしまう。
「・・・、笑ったりして悪かった・・・、ルナ、俺は今回初めて、大勢の兵を指揮する事になる。上手く出来ないことの方が多いはず。だから君の力を貸して欲しい。よろしく頼めるか、ルナ?」
「はい、尽力をさせて戴きます」
ルナはアルエディーのその言葉に答えるため顔色を平静に戻し、意志のある瞳で力強く彼に答えた。その後、他の将軍とキース達を席から立たせ、アレフがアルエディーにアレフ、三将侯とキース達で取り決めた人事について言葉を交わしていた。
「以上がアルの所に配置させる主だった上級士官たちだ。あとの部隊編成はお前に任せるよ」
「・・・本当にアレフ王も俺の下で前線に参加するんだな?」
「キース叔父上様もそれについては許してくれた。寧ろ、私の意志を快く思ってくれたようだ。・・・分かってくれ、決定したことだ。それに、私とアルが前線に出れば若い兵の士気も高まろう」
「フぅ~~~、俺が友として戦いに参加するなって言っても聞いてくれないんだろう?・・・、わかった。ロイヤルガードとしてアレフ王には無理させないし、どんな事があっても護って見せる!もちろん友としてもだ」
「ハハッ、頼もしい言葉だアル」
「フッはぁ・・・、ルナ、明日、・・・、そうだな・・・、十時にここで俺の所の大まかな部隊編成をする。今さっきアレフが言った上級士官たちにここへ来るように伝えて置いてくれ」
「畏まりました」
「アルエディー、ルナさん、もう夜も遅い、ここを出よう」
アレフの言葉に従うようにアルエディーが彼の後に出て最後にルナが扉を閉め小会議室を去って行った。
アルエディーは今日の編成会議で役職はそのままだが一軍を任される事になった。兵の数は上級士官、下級士官、それと志願兵を含めて約三万六千人。それとアルエディーの軍にはこれまで旅をして集まった仲間、レザードとアルティア、李蘭玲、氷室兄妹。副官に任命されたルナ。竜機長イクシオスとその部隊。それと竜機の整備をするために、三導師の一人ティークニック。天騎馬長ミルフィーユとその部下達。そして王、アレフ。だが、しかし、もう二人いるのだがアレフはそれについてアルエディーには教えなかった。
† † †
会議の後、アルエディーは彼の母親クリスティーナの所へ足を運んでいた。
「母さん、こんな時間にごめん」
「アルエディー・・・、浮かない顔ね。今日決まった事そんなに心配?」
「心配と言えば心配かな?俺にできるだろうか?・・・、あっ、母さん、よしてくれ!俺、そんな事されるほどもう子供じゃない」
アルエディーの母親クリスティーナは不安な表情を浮かべているその息子の頭を取りそっと彼女の胸元に近づけた。
「貴方がいくら大きくなっても私の子供である事には代わり無いのよ。少しくらい良いでしょ?」
息子はその体勢から放れ様としたが母親のその言葉を聴いて身を預ける事にした。
「貴方はウォードと私の子・・・、もっと確りして頂かなくては心配で・・・。ウォードも・・・、アレフ王の決定に快く思っているはずです。ですから確りして下さいアルエディー」
今、ここにいない夫の事を想いつつ自分の息子を励ますようにクリスティーナはそう言葉にしていた。そしてアルエディーを彼女の胸なもとから解放する。
「母さん、心配、かけさせてごめん・・・、俺、アレフの為にもみんなの為にも頑張ってみる」
「頑張りなさい。貴方ならちゃんとできるわ」
「有難う母さん・・・、それじゃ部屋に戻るからお休み」
「おやすみなさいアルエディー」
その親子は小さく笑顔を作りながら夜の別れをした。
翌日、小会議室、アルエディーの下にルナによって召集させられていた数十名の上級士官とアレフ、レザードとアルティア、李蘭玲、氷室雷牙と霧姫、ミルフィーユとイクシオス、ケリーが集まっていた。レザードとアルティアにはアルエディーが与えられた人員の中の魔法兵、九百三十名を全て二人の指揮下に置き、諜報活動ができ尚且つある程度戦闘のできる兵、二百四十名に霧姫を頭として任せ、志願兵の中で特に剣技の立つ者たち三百名を雷牙に委ねた。イクシオスの部隊は魔動機の数が限られている為、兵士数を増やすことができない。しかしその分、竜機の整備ができる志願兵をティークニックに試験させ任せる予定になっている。今この会議中、ティークニックはその人材を探しているところだった。ミルフィーユの部隊も再編成が難しく、現状維持となった。
アルエディーの部隊はケリーと共に五十名の二人の部下達とウォード提督の
各部隊編成が終わると各自、自分に与えられた兵士の招集のため会議室を出て行った。それから、アルエディーは最後にルナと部隊編成の決定について話してからその場で別れた。
† † †
王都奪還へ進行を明日と控えた夜の事である。アルエディーは総硝子張りの窓が続く回廊でセレナと話しをしていた。
「セレナ、俺は明日からアレフのために帝国と戦う事になる・・・」
「アル様、私もそれに参加させてくださいって行った筈です。それ何のどうして」
「セレナ約束してくれたはずだ!旅が終わり、帝国との戦いが始まる時はそれに参加して欲しくないって」
その騎士は必死な表情と声で聖女に訴えていた。それは戦場と言う血の海と殺戮に満ちたその様な恐怖の光景を彼女に見せたくなかったからである。
「確かにそうアル様とお約束したかもしれませんけど・・・、ここまで来てアル様のために一生懸命着いて来たのに・・・、何もしないでじっとしていろなんてあんまりです」
彼女も又、必死になって彼に同行できるように懇願していた。セレナの瞳の端に涙が溢れ零れ落ちようとしている。
「セレナ・・・、泣いても駄目なものは駄目だ。・・・、君には戦場なんて似つかわしくない」
「その様な事はアル様の偏見です!・・・、ルナさんやミルフィーユさん、霧姫さん、蘭玲ちゃん、それにティアちゃんが良くて・・・、どうして私が駄目なんですか!私の治癒魔法だってちゃんとお役に立てるはずなのにっ!!」
「くっ!そっ、それは・・・」
彼女の言う正論にその騎士は何も言い返すことができずに言葉を詰めてしまった。
「アル様っ!ちゃんと答えてください。それでないと私納得できませんっ」
廊下の角でそのセレナとアルエディーの会話を立ち聞きする男が二人レザードとアレフ。
レザードは明日から始まる戦いについて母親であるアルテミスに何かを相談していたその帰りに、アレフはキースと矢張り明日からの行動について話し合ったその帰りに偶然、アルとセレナのその会話を耳にしたのだった。
「はぁ~~~、アルエディーにも困ったものですね。セレナさんの気持ちに全然、気付いて上げられないのですから」
「フッ、アルが女性の想いの気持ちを理解できるのであったら遠の昔に私の妹とくっ付いているさ」
レザードは眼鏡を中指で直しながら溜息を吐き、アレフは自嘲気味でそう言った。それから、二人はしばらくアルエディーとセレナの遣り取りを観察していた。
「アレフ王、貴方もお人が悪い」
「そろそろ、場に出てアルエディーにセレナさんの事を教えた方が良いのではないのですか?」
誰も知らないセレナの人事をアレフから聞いた彼はそう言葉にした。
「そうだな、これ以上セレナさんを泣かせるわけにはいかない」
二人は何かを確かめ合って、偶然を装いアルエディーとセレナの前に出て行った。
「こんな時間に彼女を泣かせて一体貴方はここで何をやっているのですか、アルエディー?」
「アルっ!見損なったぞ。女性を泣かすとは」
「いやっ、これは違う何かの間違いだっ!騎士の神に誓ってそんな事はない」
二人の登場に驚き慌てふためき大手を振ってその騎士は弁明した。
「騎士の神?その様な神、聞いた事も見た事もありませんよ」
おちゃらけた表情でレザードはアルエディーに言葉を返し、
「セレナさん・・・、一体アルに何をされたのですか?」
事の次第を知っているのにも拘らず、アレフは甘いマスクでそうセレナに聞いていた。セレナは目じりの涙を指でぬぐい静かな声でそれをレザードトアレフに聞かせた。
「アルっ、友として一万歩ゆずってもその言葉、許すわけには行かないな」
「私も共に旅をした仲間としてセレナさんを外すのはどうかと思います」
「いや、しかし!」
「アルっ、それ以上私にその言葉の先を言っても無駄だ」
「お前は知らないだろうがセレナさんはすでにお前の下、看護兵を指揮してもらうため入ってもらっている」
それを知らなかったアルエディーとセレナの二人は驚きの表情を見せた。セレナの顔は驚きよりも嬉しさの方が滲み出ているような感じだった。
「アレフっ、また勝手にぃっ!!」
「アレフ様、その言葉に嘘はありませんよね」
「可笑しいですね?セレナさんには兵に伝える様、言ってあった筈なのですが」
アレフは嘘を嘘と取られないように表情と言葉を作りそう口にしていた。実際、彼はアルエディーの事を驚かすことだけが頭の中を占拠し、セレナにその決定を伝えるのを忘れていたのであった。
アルエディーはアレフの言葉に落胆の色を隠せなかった。レザードはそんなアルを面白そうな目で眺め、アレフは笑いながら友の肩を軽くたたき、セレナは感謝するような顔をアレフに見せてから嬉しそうな表情をアルエディーの方へ向けた。
これにより、アルエディーがここまで旅してきた総ての仲間が帝国との戦いへ参加する事になった。果たして彼等は無事ファーティル内に強固となって布陣する帝国兵打ち倒し、王都を取り戻すことができるのか・・・。
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