第二十二話 三将侯、再び

 アレフ、アルエディー達一行は城塞都市キャステルまで到達する旅の中で多くの心強い仲間を得て、その都市を治めるキース・マイスターと会見を果たしていた。

 キースはアレフの来訪を喜び、涙を流していた。彼の下には宮廷から逃れてきた宮廷三導師のうち二人が匿われていた。一人は宮廷魔導師のアルテミス・シュティール。もう一人は大智賢師のクロワール・エスペラルド。

 アルテミス・シュティール、王宮の魔法研究の総括を務め王国切手の魔法使いと言われている。年齢は四十代半ば、しかしその容姿はルティアと一緒で二十代と身間違いするぐらいだった。

 クロワール・エスペラルド、文官達の間では彼を知らぬ物はいない。とても聡明で物知りで賢者とも呼ばれている人のよさそうな顔をした老人で前王のよき理解者でありウォード提督とは別の相談相手でもあった。

「キース・マイスター公爵、千騎長アルエディー・ラウェーズ、アレフ王と共にご参上いたしました」

「叔父上様、今までご心配をおかけして申し訳に御座いませんでした。それとお久しぶりで御座います」

「二人ともそうかしこまらなくても・・・、それにアレフ、お前は王たる身、それにあった言葉を選びなさい・・・。アルエディー殿、この度は新たな王であり、私の甥であるアレフを道中ここまで護って頂いて大変感謝の至りに思う」

「騎士として、そしてアレフ王のロイヤルガードを務める俺にとってそれは当然のことです」

「ふむっ、アレフ、よき配下を持ったものだな」

「叔父上様、アルは配下ではありません我が友ですっ!」

「アレフよ、お前はまるでリゼルグ兄さんと同じ事を申すな」

「何がです?」

 キースの言葉に疑問を持ったアレフは直ぐにその意が知りたくて回答を求めた。そしてキースは遠い目をしながら今その生死が分からぬ彼の兄、リゼルグとウォードの若かりし頃の関係が今のアレフとアルエディーに似ていた事を口にした。そしてアレフが言ったのと全く同じ言葉をリゼルグが先々代王のアレフの祖父にあたるその人に言ったのだとアレフとアルエディーに聞かせたのであった。

 その後いくつかこれからのことについてキースから提示があった。

「そう言うわけだ、アルエディー殿、だから今は休んでしっかりと力を蓄えてくれ」

 アルエディーは敬礼をしてアレフをその部屋に残し魔導師アルテミスと共に退出した。

「アルテミス様、無事で何よりです」

「私が逃げられたのもウォード様のお陰です・・・、ですから貴方に何ていってよいのやら」

「別に気にすること無いですよ・・・・、それよりアルテミス様の館に有ったあの大掛かりな転送方陣、アレフとセフィーナ姫を逃がすとき壊してしまいました。・・・、すいません」

「いいのよ人の命はそうは行きませんけど物は壊れても直せますから」

 その二人はこれまでの事を話し合いながら廊下をアルエディーの仲間が待つ部屋へ向かって歩いていた。それから、その部屋に到着するとはじめに二人を迎え入れたのはアルティアだった。

「???モシカシテ、ママ!?・・・、ママァーーーっ!」

 アルティアは嬉しそうな表情でアルテミスに抱きついた。そしてそれを抱きとめたアルテミスは娘をいたわる様に頭を撫でる。

「ママァ??」

 アルティアの言葉を聴くと二人がする行動にアルテミスを連れてきた騎士は唖然とした。そして、それから彼女の声を聞いたレザードが顔を出してくるのだった。

「何だ、母さん、生きていたのか?全く運の強い親ですね」

「母親に向かって酷いこと言うのねレザードは」

「よく言いますよ、アルティアが生まれて直ぐ、私と妹をほったらかしにして宮廷で仕事をしていたのは誰ですか?」

「いいじゃないっ、こうやってアルティアは立派に育ったようだし」

「ちっ、ちょっ、ちょっといいかレザード?」

「どうしたんですかアルエディー?鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」

「レザードとアルテミス様って親子だったのか?」

「はぁそうですよ・・・、言っていませんでしたっけ、私?」

 アルエディーはレザードの言葉を否定するように大げさに頭を横に振った。

「ハハハッ、そうでしたっけ?それじゃぁ~~~、今紹介しておきます。私とティアはこの仕事しか頭に無いバカ親、血の繋がった親子です」

「よくいうわぁ~~~、大学卒業するまで私に散々迷惑駆けっぱなしだった。駄目息子が」

 それからしばらくアルテミスとレザードの口論が始まりアルエディーはそれを止めることができずただ見ているだけだった。アルティアはというとその二人の口論を楽しそうに見ていた。顔を合わせれば事あるごとに口喧嘩をする母と子がそこにいた。

 後から戻ってきたアレフにレザードとアルティアがアルテミスと親子だと言う事を教えるとアレフは驚きもせず当たり前の様に〝知ってる〝と言い返していた。

 その理由とはシュティールと言う珍しい苗字とアルテミスの面影をアルティアの中に見てそう判断していたのだと言う。そして、友に聞こえるか聞こえないくらいかの音量で〝だから私はアルティアに惚れたのだ〝と呟いていた。


†   †   †


 アレフ、アルエディー達が城塞都市に滞在して数日、近隣の町や村から帝国の手を逃れ続々とキャステルに志願してくる兵や元王国兵などが参じていた。そしてその中に三将侯が一人白龍侯のティオード・ローランデルの姿があった。彼もまたウォード提督の手によって王都を逃された人物である。城塞都市の近くまで来るのに約四ヶ月の月日も有していた。それはティオード自身とその連れに賞金首が掛かっていて隠れ隠れ移動していたからである。

 そして、今ティオードは数人の護衛兵とその連れを必死に帝国兵から護りながら背に見えるキャステルへと足を後ろのそこに向けていた。

「くそぉーーーっ!帝国兵ども目、あと少しと言うところで」

 白龍侯は口を動かしながら帝国兵に剣を振り下ろす。彼の直ぐ近くには一人の気品の溢れる熟年の女性が数人の護衛兵に護られながら冷静な表情でティオード達の脚の動きに合わせ後退して行く。

「ソフィア王妃様、今しばらくのご辛抱です。耐えてくだされ」

「ティオード殿、私にかまわず貴方だけでもお早くアレフとキースもとへ向かってください」

「何をおっしゃいます王妃様!ラウェーズ提督殿のためにもアレフ王のためにも必ずやわしの命に代えて貴女様をキャステル内へ、お連れいたし申す」

「ティオード殿のお気持ち嬉しく思います。ですがしかし、ここで貴方が捕らえられてしまうのとそうでないのとこの先、アレフ達の戦いにどちらの方がよいのでしょうか?」

 アレフの母親であるソフィアはこれから先に始まる帝国との戦いにティオードがアレフ達に必要だと判断しそう口にした。

「いや、しかしソフィア王妃様ここまできて・・・」


 ちょうどその頃、キースの城に執務室の一室を借りていたアレフの下にアルエディーが参上していた。

「アル、只今、情報部からキャステル南西城門付近にティオード将軍らしき人物が帝国兵に追われていると報せが入った。・・・私も一緒に向かいたいのですが叔父上様が・・・」

「アレフ、そんな顔するな。俺が直ぐに行って確かめてくる。ティオード将軍の事は俺に任せろっ」

 アルエディーは友の心配そうな表情にそう答え直ぐにその部屋を出て行く。そして彼の部下のいる部屋に移動し手の空いている者、九人ばかりを引き連れ南西側の城門へと向かったのである。


~   ~   ~


「お前ら如き雑兵がっ!王妃様には指一本触れさせぬぞ」

 迫り来る帝国兵や異形のカイブツを熟卓した剣技で切り倒してゆく。しかし切っても、切ってもその数は減らず、いくら剣の技術が凄くても寄る年波には勝てるはずもなく徐々に押されつつあった。ティオードは今年で六十一歳にもなる将軍なのだ。

「くをのぉおぉーーーーーーっ、まだまだじゃぁーーーっ!」

 気合を込めて無理にその将軍は体を動かし、敵を葬ってゆく。

「矢張りっ、ティオード将軍でしたか!今助けに参りますっ!!」

 視界に入ってきた将軍を確認しアルエディーは大声でそう叫んでいた。

「この声は・・・、この声は・・・、アルエディー殿なのか?本当にアルエディー殿なのか?」

 その声のする方に釣られて彼は喜びと驚きの二面をもって後ろを振り向いてしまった。そして、前方にいた怪物の一匹がその隙を見逃すことなく鋭く尖った牙で噛み付こうとティオードに向かって跳躍して来た。だが、しかし、目前まで迫っていたアルエディーの横薙ぎした大剣によって跳ね飛ばされたのであった。

「将軍、敵を前にして背中を見せるなんって、よる年波には勝てなくなりましたか?」

「フンッ、あのような小物、目を瞑っていても倒せるわいっ!」

「・・・、それよりアルエディー殿、わしはソフィア王妃と共にここへ参った」

「なにっ、ソフィア様だって!?」

「ウムッ、故に先にお主は王妃様を連れアレフ王の所へ向かってくれぬか」

「将軍!最後までご自分の任務を果たしてください」

 その騎士は馬から降りるとティオードにそれの手綱を渡し・・・、

「ここは俺が引き受けた。だから、将軍はこれに乗ってソフィア様と一緒に行ってくれ」

「アルエディー殿・・・、かたじけない」

 将軍はアルエディーの真剣な表情に負け、手綱を受け取り直ぐに乗馬した。そして護衛兵に囲まれている王妃の下に行くと彼女を乗せ騎士の方に振り返り目で挨拶をするとその馬を走らせた。アルエディーは将軍のあとに三騎だけ追わせると戦場の中に駆け込もうとした。だが、アルエディーとティオードがその場で少し会話を交えている間、アルエディーの部下達が彼の指示無く適切な移動で怪物や帝国兵を一掃していた。

「隊長、敵軍および異形のカイブツの一掃、完了しました」

「なにっ、俺の出番なしにもう終わったのか・・・、ご苦労様。俺は歩いて帰るから、みなは先に戻ってくれ」

「そう言うわけには行きません。帰路の途中どこに帝国兵や異形のカイブツが伏せているとは限りませんので」

 そうして残りの部下とティオードの連れていた護衛兵と共に人の足の速さでキャステルへと向かって行くのであった。


†   †   †


 将軍を助けた事の報告にアルエディーはアレフの執務室へと向かっていた。

「アレフ、今、戻った」

「無事、ティオード将軍を救出できたようだね。ご苦労様」

「アレフ、ソフィア様も一緒だったんだがもうあったのか?」

「ああ、母上にはすでに挨拶をした。今はセフィーナと一緒にいるよ。母上はアルにお礼が言いたいって言っていたから一休みしてから会ってあげてくれ」

「分かった・・・、後でそうする。ルティア将軍にティオード将軍。三将侯のうち二人がそろったな。あとはルデラー将軍だけか・・・」

「ルデラー将軍なら情報部より報せがあって彼はミレーネ海を航行しながらここへ向かっているようだ。後二日と経たない内に到着するとも連絡を受けている」

「一体ルデラー将軍はどういう経路でそんな所を航海するようになったんだ?・・・、まあ、北の海からここへ来るなら帝国兵との遭遇の心配ないと思うけど・・・」

「それについてはルデラー将軍が到着してから聴けばいい事だよ、アル」

「そうだな・・・、それじゃ俺は自分の部屋に戻る」


†   †   †


 それから約二日が経過し、ルデラー将軍がキャステルの港に到着したのである。船の数は三十隻近く、そして彼の配下が約四千人を超えていた。ルデラー将軍は王都から南方へと逃れ、行く先々で兵を掻き集めながらファーティル王国の最大の港ポートリックから海上へと脱出していた。

 それからは王国内に潜伏させた彼の情報員と連絡を取りゆっくりと海の上を航海しハーモニア地方の形に沿って途中小さな島々に停泊しながらキャステルまで三ヶ月以上にも及ぶ海上の移動の果てここへ到着したのである。

 ルデラー将軍は帝国兵と戦いを交える事が無かったが城塞都市までの航路で幾度もモウストの中で数少ない獰猛な海王類と何度も戦いそれを打ち倒していた。その甲斐あって彼の連れてきた兵士はよく訓練された精鋭ばかりであった。

 城塞都市キャステル、キースの居城―サラディン城の会議室にて


「みな、本当に無事に集まってくれて私はとても嬉しく思っている。これからこの国に住む民のため、そして私のためにみなの力を貸してほしい!帝国と戦うため力を貸して欲しい」

 今この会議室には三将侯―白龍侯ティオード・ローランデル、青龍侯ルデラー・ブルーシア、そして緋龍侯ルティア・ムーンライトとその娘ルナ・ムーンライト。ウォード提督の直轄にあった特務隊隊長―千騎長アルエディー・ラウェーズ、竜機長イクシオス・スティンリー、そして天騎馬長のミルフィーユ・スタンシア。宮廷三導師―大魔導師アルテミス・シュティールとその息子レザード、機械技師ティークニック・ホーラ、そして大智賢師のクロワール・エスペラルド。そして他に続々と集まってきた将官達。レザードとアルティア、そしてクロワールを除けば王国の軍務を司っていた将官と特務官の約六割がそろったのだ。

「一将軍としわしはアレフ王の剣となり楯となり帝国のやつらと戦うつもりじゃ!」

「アレフ王、水上の戦いはこの青龍侯である俺にお任せあれ」

「私の智と剣、緋龍侯の名に賭けて必ずや帝国を追い払って見せよう」

「俺様が造った竜機に掛かれば帝国なんざに負けること無い」

「アルテミス、このわたくしもこの魔力にかけて全力を出すことを誓うわ」

「ほっほっほ、わしは軍の人間じゃないがこの頭を使って作戦くらい立てるお役になりましょう」

「アレフ王は後ろでどかっと構えていてくれ、戦いは俺の竜機隊に任せろっ」

「今まで受けてきた人々の痛みに代わって、僕が帝国なんか蹴散らしてやる。アレフ王様、僕の部隊はいつでも出陣できるよ」

「我々、将官一同、この力を新王のために・・・」

 会議室にいた武官達が諸々にその意気をアレフに示していた。そして最後に・・・

「まだ戦いは始まっていない・・・、だが一度、それが起これば俺はどんな事があってもアレフ王を守り抜き再びエア城の玉座に座らせる事をここに誓う」

「みな、心強い言葉をくれて有難う・・・、そしてアルエディー、お前の力頼りにしているからな」

 アレフの言葉にアルエディーは強い意志のある顔で答えた。

 こうして、火盛の月12日アレフの下に王国軍きってのつわもの達が集結し帝国と戦うためにその意気を王に示したのであった。しかし、その中でアルエディーだけが一つの不安を抱いていた。それは旅の中でずっと思っていた帝国が侵略戦争をしかけてきた理由についての真相を知る前に開戦を余儀なくされてしまう事であった。

 戦いが続けばいずれ帝国の元帥でありアルエディーの友、ウィストクルスとその剣を直接交えなければいけない日が来るとそう思っていたからであった。

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