第十五話 女神ルシリア

 アルエディーとその仲間達はエインの邸宅で一夜を過ごし翌日、エインに連れ立って女神ルシリアの住まわれるペルセア神殿へと向かっていた。女神ルシリア、ペルセアの星に男神アルマと共に降り立った女神。彼女はアルマと共に自ら生み出した子供たちアスター達に秩序と創造の神として慕われ、宗教的には調和、平穏、慈愛の神として祀られていた。

 エインはその様な女神ルシリアについてアルエディー達に聞かせていた。エインの操縦するフライヤーに乗ってペルセア神殿が見えてくると彼は再び口を開き、ルシリアは誰でも簡単に会えるわけではないと口にしていたのだ。神殿の入り口前に到着しフライヤーから全員が降りるとエインがみなに話しかけ、

「ここが神殿入り口です。先ほども言いましたようにルシリア様は誰とでもお会い出来る方ではありません。貴方達のお心しだいです」

「ああ、大体の事は判った。ありがとうエインさん」

「アル君、がんばってくださいね。私はこれから仕事に行かなくてはなりませんのでお帰りは私の妻にでも連絡してください。そうすれば迎えを遣すようにしておきます」

 彼は言葉が終わると軽く微笑んでフライヤーへと戻って行った。アルエディー達は前方の神殿に振り向きその大きさに驚いていた。

 荘厳なる白亜の神殿、クレアフィストが天空に飛び立った後、女神の為にフェイザ達によって建てられた巨大な神殿。入り口付近には扉は無くずっと奥まで続いている回廊と彼等の十数倍の高さもある秀麗な彫刻が施された柱が均等に並び立っているだけだった。彼等はその回廊を奥へ奥へと進行して行く。

 60ロットほど進んで行くと前方に外界とは完全に空間が隔離された密閉型の建物へと到着した。目の前には神殿入り口と違って大きく重々しそうな扉が彼等の行く手を拒む様に閉じられていた。

「この先に女神ルシリアがいるのだろうか?」

「行ってみれば判る事ではありませんか?アルエディー。楽しみです」

「女神ルシリア、いったいどのような方なのだろうか?」

「女神様ですか?私には全然想像できません」

「どうしてかとても緊張してきました」

「ここにいてもし方ありません。早く先に進みましょ?」

 最後のアルティアの言葉にアルエディーは動き出し眼前の扉に手を掛けそれを開く・・・・・・、その扉は軋む音も無くゆっくりと開かれた。見た目以上に軽い感触であったとその扉を開けた騎士は心の中で思っていた。アルエディーはみなに目で合図して中へと進入して行く。

 中に入るとみなそれぞれその広い空間の中に目をやっていた。天井はすべて硝子張りで恒星の光がサンサンと降り注ぎ、床には川を連想させるかのような水廊がいたる所にのびていた。回廊は中央から見て十字型に前方左右にのびている。そしてそれ以外の場所には様々な花が咲き乱れていた。そのつくりはまるで室内庭園のようだった。

 それらの綺麗な造りを驚嘆しながら眺め前進して行く。いくつか似たような空間を越え最後の扉を開けた時、アルエディーはそこの場所に女神がいるのだと思って慎重に扉を押し開いた。・・・、だがしかし、明るいひらけた場所だけであって誰の存在も感じられなかった。一同も同じくそう感じていた。その場所は円形の議会ホールの様な場所だった。アルエディーは周囲を見回し他に先に進めないかと確認するがやはりこの場所が最後の終着地点のようだった。

〈フェイザの奴ら・・・、ルシリアに会うのに何か仕掛けをしている様じゃ。本来なら契約外の事じゃが、ルシリアに会うのにわしが小僧に力を貸してやろう〉

 精霊王が直接、アルエディーの心にそう話しかけ、

〈誰がケイオシスを復活させ様なんてしているか知らないけど、いいのかアスター界のしでかした事に干渉して?〉

〈世界が滅んでしまうかもしれないからな・・・、小僧、よく中央を見ろ〉

 アルエディーは精霊王の言葉に従いホール中に近づきその場所を確認した。彼の腰くらいの高さの台座が計7つ、幾何学的に配置されていた。

〈小僧、わしを召喚せよ〉

「seireiou、デュオラムス俺の声に応えよっ!」

 騎士が精神を集中してそう叫ぶと彼に左手の手袋の精霊石から精霊王らしき靄が現れ、次第に形を形成しその輪郭が浮かび上がってくる。

「みなの者、久しぶりじゃのぉ~~~」

 みなの方を向いて、特に女性の方を見ながらその精霊王はそう挨拶を交わしていた。

「デュオ爺、鼻の下伸ばしてないでさっさと女神に合わせてくれ」

「仕方がないなぁ~~~、じゃぁはじめるとするか。小僧、わしを中央の台座に置くのじゃ」

 アルエディーは手袋を外し、言われた通りそれを中央の台座に置いた。

「*************************」

 精霊王デュオラムスがアスターには理解する事が不可能な言語で何かを口にし、

「小僧、わしを台座から下ろせ、早く」

 アルエディーは直ぐにデュオラムスを台座から取り左の手にそれを身に付けた。それぞれの台座から天に向かって赤、青、緑、橙色、黄色、藍色、そして無色の一筋の光が放たれて行く。そしてその色と同じ炎らしきものが台座に灯り次第に形を形成して行った。朧気だがそれらが形を形成し終えるとアルの隣に揺ら揺らと浮かんでいるデュオラムスに敬礼らしき物をしていた。

 光のリヒト、闇のサリシウス、火のビグウィーン、水のトレーネ、天のシエロ、地のティエラがデュオラムスによって精霊六種の長と現在の精霊王アルテスが招集された。

「デュオラムス様、隣にいる青年と旅立たれた以来ですね。この度は我々に何様でございましょうか?」

「この者達にルシリアを会わせたい彼女を呼んできてはくれまいか?」

「御意に・・・、しばらくお待ちください」

 今の精霊王であるアルテスがそう言うとそれぞれの精霊長が台座の中心に集まりまばゆい光を放つ・・・、そしてその光に包まれながら神々こうごうしく人の形をした何かが降臨してきたのだ。

「みなの者、はじめましてワタクシがルシリアです」

 現れた女神はとても清んだそして聖なる発音、美声でこの空間に訪れたものに挨拶をしてきたのであった。

「久しいのぉ~~~、ルシリア。齢数千万年以上にもなると言うのにお主の美しさは変わらんようじゃの。おっほっほっほっほ」

「あなたのその性格も如何様にも変わらないままですね」

 目の前に突然現れた美しき女神の登場にアレフはその持ち前の好青年の整った顔付きを崩し、それを見た妹のセフィーナは生まれてから始めてみる兄のその様な顔を驚きと共に呆れた表情を作った。レザードは顔を真っ赤にし、鼻の下を伸ばし、掛けていた眼鏡を掛けなおして食い入るように何度もルシリアを眺める。妹であるアルティアはそんな兄の厭らしい行動に持っていた杖で彼の頭を殴っていた。アルエディーはと言うと絶美な姿の女神、ルシリアその美しさに魅了される事無く、頬をポリポリと掻いているだけだった。セレナはそんな彼を見てホッと胸をなでおろす。

「あなた方がここへこられた理由は既に知っています。あなた方地上のアスターの事には極力干渉しないように、と思っていましたがこの度は私やあなた方、アスターとは異なる次元の者が干渉して、アルマの復活をさせようとしているようです。しかし・・・、アルマが復活しても私には彼と対峙するだけの力を今は持ち合わせていないのです」

「そっ、それでは俺達は一体どうしたらいいんだっ!!」

「その者よ、そう慌てなくても・・・、最後までお聞きなさい」

 言葉を荒立ているアルエディーに向かって女神は微笑みそう答えた。

「確かに私にはアルマの復活をとめる直接の手助けはできません・・・、しかし・・・」

 女神は前方に両手を構え聖なる力を込める。それと同時にその周囲が光り、その輝きが一点に集約すると一振りの剣が現れた。

「そのつるぎは?」

「かつて私とアルマが対峙していた頃、その戦いに終止符を打つきっかけを作ったアスターによって鍛えられし剣です。この剣がもつ力によって彼は討たれ、私が創りし聖杖、精霊王デュオラムスと精霊長によって生み出された虹色の宝玉、それとアルマ自身が手にしていた剣によって封印されたのです。この剣に今私ができる限りの力を注いで鍛え直しました。・・・、あなた方アスターの思いが一つとなってこの剣に伝われば無限の力を発揮することでしょう。さあ~~ぁ、この剣を手に取りなさい」

「なんともまぁ~~~、準備のよろしい女神様だ。で一体誰が手にするのですかあれ?私は剣士で無いので論外ですよ」

 レザードはそう言ってアルエディーとアレフを見る。新王と騎士はお互い向き合いしばし何も語らなかった。

「俺は今俺専用の剣を持っている。だからあれはアレフ、お前が手にしろ。王の証としてはもってこいじゃないか」

 その騎士は彼が仕える王の剣技の素晴らしさについて知っていた。だからこれから始まる戦いの為にその由緒ある剣を託そうとしたのだ。

「アル・・・、分かった。あれは私が預かろう。しかし、お前無くして、私の道はありえないと言うことを忘れてくれるなよ」

 友の言葉を理解したアレフはそう答えてから毅然とした態度で前に進み、宙に浮かんでいるその剣を両手にとってその存在を確かめた。柄を握るとまるで持ち主が元からアレフだったようにピッタリと吸い付きその手の中に納まった。そしてその剣に秘められた躍動する力の凄さが柄の中からアレフの身体全体に伝わっていき、身震いさせ、

「・・・、これは凄い・・・、力に溺れぬ様に使いこなさなくては。女神ルシリアよ!この剣の名は?」とそんな言葉を彼の口から漏らせていた。

「かつてそれを使用した者はリクストリッサーと呼んでいました」

「その意は?」

「当時の言葉で蒼き稲妻でしたはず」

「新しく生まれ変わった。この剣の名前にしては相応ふさわしくない様だ」

「それではわたくしからその剣に名前を与える事にしましょう。・・・・・・・・・エクスペリオン」

 女神は既に決めていたかのように美しい声でそう発音した。

「エクスペリオン。とてもいい響きだ。そしてその言葉の意味は・・・」

「聖なる心集いしとき。それぞれの言葉の意を合わせて呼んだものです。これが私にできる今の手助けです・・・、さあ、早く地上に降りてあなた方のなすべき事をなしなさい」

 女神は微笑みながら今、彼等がなすべき事を促した。そして、アルエディーとアレフ一行は一礼し、踵を返して歩き始める。彼等が進行する方向とは逆にセレナだけはみなに背を向けルシリアの方へ歩み寄り、

「女神ルシリア様!私に、私にアルエディー様や皆様をお助けする力をお貸してください!!」

「今の私が持つ治癒の力程度ではこの先起こる争いには何のお役にも立てません。これから先も私はあの人に付いて行きたいのです・・・」

「その娘よ、貴女が想う人のために貴女が持つその力と心を信じなさい・・・、貴女にこれを・・・」

 女神はセレナに精密で綺麗な彫刻が施されている一つの指輪を手渡した。

「これは??」

 彼女の問いに答える間もなく女神ルシリアの全体が光だし虚空の彼方へと消えて行く。

「セレナぁーーーーーーっ、何をやっているんだぁ~~~っ?早く来いよぉ!」

 そして、セレナの背中の方から彼女を呼ぶアルエディーの声が届いてき、彼女は振り返り、指輪を嵌めてから何かを祈り、アルエディーと仲間達がいる方へと走って行った。

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