壊れた歯車 II

ジャックside


「クッソ!!どうなってんだよこの鳥籠は!!」


ガシャガシャガシャガシャ!!


俺は何度も鳥籠を壊そうと、あちこち蹴ったり殴ったりし炎を出したが、びくともしなかった。


炎で溶けるどころか傷一つ付かない。


頑丈な魔法が掛かっている可能性が高い。


アリスに飛ばされたこの空間もどこなのか分からない。


「ここはどこなんだ…?」


暗闇を照らす数本のロウソクが鳥籠の周りにあるだけの空間。


どうにかしてここから出ないと…。


そう思っていると、黒い空間から1つの扉が現れた。


キィィィ…。


扉がゆっくり開いた。


「あー!!こんな所にいたよ?!」


「ジャック!!探してたんだぞ!!?」


扉から現れたのはエースとCATだった。


「エースとCAT!?何でここにいんだよ!?」


驚いた。


何でこんな所にエースとCATが現れたんだ?


それに、俺を探してたって言ったか?


「俺を探してたってどう言う事なんだ?」


そう言って俺は2人に尋ねた。


「Night mareの命令でね。良かったー見つかって。」


CATはそう言って溜め息を吐いた。


Night mare?


「Night mareって誰だよ。」


「Night mareは僕達を作った人でありマスターだよ。」


「作った…?はぁ?」


俺がそう言うと、エースとCATが袖を捲った。


腕の付け根がドールの腕の付け根になっていた。


「エースとCATはドールだったのか?」


「まぁね。Night mareのドールなの。ゼロを助けられるのはジャックしかいないってNight mareが言ったからね。」


「それってどう言う事なんだ?!ゼロが危ないのか!?」


俺はそう言ってCATに尋ねた。


「アリスがゼロを殺そうとしてる。アリスはゼロを殺して本物のアリスになる為に。」


「本物のアリス?どう言う事だよ。何でゼロを殺す事に繋がるんだ!?」


「だって、ゼロが本物のアリスだからよ。」


「は、は?ちょ、ちょっと待って。」


俺はCATの言葉に驚きを隠せなかった。


ゼロがアリス?


「ゼロがアリスって…。え、え?」


「簡単に説明するよ?」


俺の反応を見たエースが事の経緯を説明してくれた。


アリスは本当は異世界の人間で、俺とミハイルが育った教会にある鏡でアリスと出会い、アリスの為にゼロを黒魔術を使って異世界に飛ばした。


ミハイルのTrick Cardの能力で今のこの世界の仕組みを作り替えた。


ゼロの閉ざされた記憶をNight mareって言う人物が一緒に探っているらしい。


エースとCATはNight mareと意思共有をしているから、離れていてもNight mareとコンタクトを取れるらしい。


「じゃ、じゃあ…。俺はミハイルの能力で記憶を変えられた…と言う事なのか?」


「記憶を変えたと言うよりは洗脳に掛かっていた…って言った方が良いね。ゼロが来た事によって作られたこの世界の歯車が壊れ始めてるんだ。」


CATはそう言って頭を掻き分けた。


「だからゼロを殺そうとしてるのか。」


「その通り。今、ゼロは眠っているから殺すには絶好の機会だろうねぇ。」


エースはそう言いながら頬を軽く掻いた。


「全部、アリスとミハイルの夢物語だって事かよ。何でゼロがアリスだって気付いてやれなかったんだ…。」


ガシャーンッ!!


俺はそう言って鳥籠を強く殴った。


俺の側に戻って来たのに、どうして、どうして気付いてあげれなかったんだ。


アリスとミハイルが作った世界に騙されていたなんて…。


「アリスとミハイルは1つだけ間違いを犯した。それが何か分かる?」


そう言ってエースは俺を見つめた。


間違い…。


その言葉を聞いて俺はハッとした。

そうか。


アリスとミハイルの間違いって言うのは…。


「アリスを死んだ事にした事…。」


俺がそう言うとCATが口を開けた。


「正解。アリスは己の欲に負けた所為でゼロをこの世界に戻るきっかけを作ってしまったんだ。まぁ、洗脳に掛かったエースが異世界にいたゼロと出会う事になるとはアリスは思ってもいなかったんだろうね。」


CATは意地悪な顔をしてエースを見つめた。


視線を感じたエースは痛い所を突かれた顔をした。


「うっ…。僕もまんまと騙されたよ。この世界を壊せるのはジャック。君だけなんだよ。」


「俺だけって…。どう言う事だ。」


俺がそう言うとCATがエースの代わりに応えた。


「この世界の歯車はアリス。アリスの心を殺せばこの世界は壊れる。アリスの心を殺せるのはジャックだけだ。ジャックに対する想いがこの世界を動かしてる。」


CATの話を聞いた後、俺は初めてゼロがこっちの世界に来た時の事を思い出した。


初めてゼロに会った時、感情のない子だなって思った。


周りを警戒していて、人なんか信じてないと言うのが直ぐに分かった。


ゼロの放つ言葉は全て冷たく感じた。


最初はゼロの事をアリスを殺した奴を探す為の道具だと思っていた。


だけど、ゼロと過ごしているうちにそんな考えがなくなった。


ゼロが少しずつ感情を出すようになって、俺はゼロの感情を取り戻してやりたいと思った。


ゼロの細い体にある数々の古い傷を見て心が痛くなった。


もう、ゼロに傷付いて欲しくないって思ったんだ。


ゼロの一つ一つの行動が愛おしいと感じた。


ゼロを抱き締めた時、離したくないって思った。


ゼロの体に触れた瞬間に思ってしまったんだ。


"好きだ"


俺はあの時、あの瞬間に気付いてたんだ。


俺は…、俺はゼロの事が好きなんだって。


俺とゼロはこうしてまた、出会う運命だったって。


ゼロ…。


ゼロ、ゼロ…、ゼロに会いたい。


「ゼロに会いたい…。」


その言葉を口に出すと、心がギュウっとなった。


今すぐゼロに会いたい。


この手でゼロの事を抱き締めたい。


「会いに行こうよ、ゼロに。」


そう言ったのはCATだった。


「ゼロを救えるのはジャックだけだよ。その為に僕達はジャックを探してたんだから。」


「だけど、この鳥籠から出られないんだ。何をしてもビクともしないんだ。」


俺がそう言うと、ポケットにしまっていたTrickCardが飛び出して来た。


「俺のTrickCard?」


俺の目の前にあるTrickCardに描かれた絵柄が変わった。


小さな炎だった絵柄が大きな炎の絵柄に変わった。

もしかして…。


そう思った俺は再び手のひらから炎だした。


すると、炎が鳥籠を飲み込んだ。


ゴォォォォォォォ!!!


ビクともしなかった鳥籠はどんどん溶け始めた。


ガシャガシャガシャガシャーンッ!!


激しい音を立てながら鳥籠は壊れた。

「出られたねジャック。」



「どうしてTrickCardの絵柄が変わったんだ?」


俺に声を掛けたエースに尋ねた。


エースは優しい微笑みを浮かべながら答えた。


「愛だよ。ゼロに対する愛で変わったんだよ。愛は何よりも強いからね。」


俺の想いがTrickCardの絵柄を変えた…のか。


「え!?」


手鏡を見つめていたCATが驚きの声を上げた。


「どうしたんだCAT?」


「ま、ま、まずい事が起きてる!!!」


CATは慌てた様子で俺に近寄った。


「だから何が起きてんだよ!!」


「アリスがEdenのメンバーを引き連れてハートの城に突入してるんだよ!!ゼロを殺しに来たんだよ!!」


「「っ!?」」


俺とエースは驚きのあまり声が出なかった。


「早くゼロの所に連れて行け!!」


「い、急ごう!!早く扉を出してCAT!!」


「あ、あぁ!!」


CATはそう言って指を鳴らした。


ボンッ!!


CATが指を鳴らすと、大きな扉が現れた。


「急ぐぞ!!」


絶対にゼロは殺さねぇ!!


俺は乱暴に扉を開け、中に入った。

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