あの世でよろしくやってます。

戸織真理

第1話_死んだ?

「んふふ、逃がさないわよ」


映画に出てきそうな程に整ったスタイルの美しいお姉さんが、俺の腕にしがみついてささやく。

俺は腕に柔らかさを感じながら、これがもっといい場面ならよかったのにと思う。


「げへへ。

俺らが丁寧に色々教えてやるからよ」


酒の臭いを漂わせる筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの男たちも下劣げれつな笑いをして、俺の肩に手を回す。

俺は残念ながら、質の悪そうな三人組に絡まれている。


「あたしたちの所に来なさいよ」


三人に引っ張られ、俺は無理矢理どこかへ連れて行かれそうになる。

必死に抵抗するが、三対一では分が悪すぎる。

その時、ふと後ろから声がする。


「お前ら、一体何をやっているんだ?」


その声に奴らの手が緩まったので、俺は体を三人から引きがして距離を取る。

声の主に女がボソボソ話す。


「いや、これは、何でもないんですよ、マッシモさん」


マッシモさんと呼ばれた男は、元気そうなただのおじさんだった。

だが、明らかに三人はビビっている。


「兄ちゃん、大丈夫か?」


マッシモという人物が、絡まれていた俺を気遣ってくれる。

その隙に怪しげな三人組は走り去っていた。

奴らの後ろ姿を見送りながら、俺はマッシモと呼ばれたおじさんに礼を述べる。


「ありがとうございました。

助かりました。

気付いたらここに居て、ナイフやら鉄砲を持ったあの人たちに絡まれてしまって。

今朝会社に行く準備をしていたはずなのに、おかしいですよね」


俺は何が起きたか分かっておらず、そんな気持ちを彼に吐露とろする。

おじさんは頷いて同調する。


「そうかそうか。

まだ気持ちの整理ができてないんだな。

にしても、兄ちゃん、この界層かいそうに来た早々大変な目に遭ったな。

あいつらみたいな冒険者はほとんどいないから、安心しろ。

それに街に入れば、人の目もあるし、もう大丈夫だ」


俺は聞きなじみのない言葉をそのまま繰り返した。


界層かいそう? 冒険者?」


界層かいそうってのは、死んだ人間が来る場所だな。

説明あったろ?

それと冒険者っていうのは……って、大丈夫か?」


死んだ人間?

血の気が引いていく俺は、言葉をこぼす。


「……死んだ?

なぁ、俺は死んだのか!?」


俺は激しく動揺して、おじさんに問いただす。

彼は少々驚きながら返答する。


「ま、まぁ、いきなりは受け入れられないよな」


死んだことを彼は否定しない。

俺は死んだのか?

顔面蒼白になった俺に、彼はとある場所について語る。


「最初は金の池に行くといい。

金の池へ行くには、そこにある街の入り口から真っ直ぐ行って、大通りに出るんだ。

大通りから小道に入ったらすぐだ。

分からなけりゃ、誰かに聞くといい!

口で言うには、少し分かりづらいからなぁ!

がははは!」


豪快なおっちゃんだと頭の片隅で思うが、俺はそれどころじゃなかった。

死んだ?

死んだって何だよ。


「大丈夫か?

何かあれば、この俺を頼れよ!

あと住宅用品の魔具が必要になれば、我がマッシモ商会をよろしくな!」


茫然と立ち尽くす俺を置いて、マッシモというおじさんは行ってしまった。

最後に何か宣伝していたが、よく分からなかった。

俺はここに留まっても仕方ないと判断し、彼が言っていた金の池に向かうことに決めた。


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