園長先生

「珠ちゃん、おばちゃんと一緒に幼稚園行こうやー。」


母のお里がある島の隣の島に、桂子おばは嫁いでいた。リアル瀬戸の花嫁である。


若いうちから幼稚園の園長さんとして、バリバリ働いていた。


母は、産後の静養期間をお里で過ごした後、隣り島に居を構えていた実の姉の所にしばし厄介になった様だった。


母と再会して安心したものの、赤ん坊という新参者に戸惑っていたと思われる私に、ある朝、桂子おばが唐突に提案して来たのだ。


鎌倉の幼稚園をせっかくお休みして来てるのに、まさかおばちゃんちで、幼稚園ていう言葉を聞くとは思わなかった。


寝起きでもあり、訳が分からずキョトンとしていた私に、快活なおばがたたみかける。


「お友達がようけおるんよ。一緒に遊んだらええよ。おばちゃんも一緒に行くんじゃけ、怖いことないんよ。」


そのおばちゃんが一緒だから怖いんだよ。と私の頭の中は大混乱を来たしていた。


幼児教育に携わり、幼児の心理に詳しかった桂子おばはやはり、母親ベッタリな私の様子に胸騒ぎがしたのであろう。


「なんかさせにゃいけんよ。一日中ボ〜っとさしてたらつまらんで。」

と、母にもハッパをかけていた。


二人の子供を育てながら、園長先生もやっていて、バイタリティ溢れるおばは、当時の私にとっては脅威でしかなかった。


多分、桂子おばにとっても案の定、その朝私が首を縦に振る事はなかった。


呆れ顔で出勤していくおばの横顔は今でも思い出せる。余程ホッとしながら見ていたのだろう。


おばの危惧する通り、産後の母のそばで、私は一日中ボ〜っとして過ごしていたのだろう。


つくづく歯がゆい存在の姪っ子だったろうなあ、と思っている。














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