「優しい父子」

木村れい

第1話 富山市街の親子(父)

「おとうさんなんで遊園地にいけないの?」


「だまってなさい。いま調べてんだから。」




僕らは富山市街の書店にいた。古びた小さな町の書店だ。不審な目でジロジロ書店員が僕ら親子を見ていた。




うちのお父さんは先生をしていた。お父さんに僕はある日、言ったのだ。


 富山の「ダイセンジユウエン」に行きたい。遊園地だ。新潟県は南北にやたら長い。糸魚川市は新潟県の一番下の県境に有り、新潟県でありながら、富山県に近い。遊園地は、富山県が一番に近かったのだ。




 朝早く、父、姉、僕は、3人で北陸線に乗り60分かかり、富山市街の本屋にいた。




 なぜかお父さんは、ダイゼンジユウエンに真っ直ぐ連れていかない。よくわからないが、本屋に入り「行き方」を調べるというのだ。たぶん僕ら兄弟はまだ小さく小学校低学年だった。




「お父さん。わからないの?」 


「だから、待ってなさい。いま調べてんだから。」 




姉も僕も従うしかなかった。


そのうち僕はトイレに行きたくなった。




「お父さんオシッコしたい。」




「なんだね、ちょっと待ちなさい。」




「すみません。トイレありますか?」




「奥の、はい。本当は貸してないけど、いいですよ。」


 メガネに頭にパーマのかかったオバサンが面倒くさげに言った。


「早く行きなさい。」


「私も行く。」


姉もいう。


二人で書店の倉庫みたいなバックヤードのトイレを僕らは使った。


 姉は黄色いトレーナーに赤いチェックのスカートを履いていた。僕は短パンのジーンズに、ティーシャツだった。秋めいてまだ暑かった。


 僕らは急いでトイレに駆け込んだ。 


帰ってくるとお父さんは、まだ旅行ガイドブックのコーナーで立ち読みをしていた。


「お父さんお腹すいた。」


「わかったよ、じゃあ何か食べよう。」




僕らは書店を後にした。お父さんはガイドブックを調べていたが、買わなかった。

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