リリー52(十七歳)
あの威圧的な王様のこと、
そうなんだよね。
なにもしてないくせに、最後に境会の奴らに全てを押し付けて捕まえたって聞いた。
新聞では、王様が戦争中に
あいつ主人公じゃないのに。
マジ許すまじ。
彼はグーさんのお父さんなんだけど、あの人、
うちのパピーをお城に閉じ込めたりもした。
まあでも、身内の噂話では、パピーのお城での拘束は牢屋の中とかではなくて、普通に部屋でお茶してたって、いつも通りに書類見たり本読んでたって聞いている。
だからといって、更迭とか拘束とか、私も軟禁されたことは忘れていない…。
それも含めてグーさんにクレーム入れる。
そんなわけで乗り込んだのは学院の執務室。
学院からグーさんの執務室までのあの長ーい廊下はね、今はルール変更により一人ぼっちではないの。護衛のメイヴァーさんとお喋りしながら歩いて来たよ。
「お待ちしておりました」
うむ。扉を開いた護衛のサイさんも、なんだか久しぶりだよね。
それよりも…。
戦争という大有事があったから仕方がないとは思うけど、あなた、グーさんの護衛なのに、あの森に居ませんでしたね…。
「……何か?」
「いえ何も」
今日はいろいろ文句を言いに来たのだから、その件も、横でしっかり聞いていてね。
** **
目の前から消えた兄。
そして強く抱き締めたリリーの華奢な身体の温かさ。
そのリリーが、セオルを失って溢した涙。
身に起きた異変は全て境会の仕業によるものだったが、それを黙認していた黒幕が国王だと知っている。
父親でもある国王が、長い年月をかけて企んだ野望の全てを明らかにし糾弾することは、今のグランディアには力が無さすぎた。
そして無力なグランディアに突き付けられたのは、国王から言い渡された正式なリリーとの婚約破棄だった。
想像よりも傷付いていた身体は半月の療養を必要とした。その間に決まっていた婚約破棄に、追い討ちに傷心のグランディアは療養を明け、口数少なく黙々と実務をこなす。
そこに、サイから伝えられた報せに顔を上げた。
「リリーから、面会希望が来ている?」
**
「お待ちしておりました」
サイによって開かれたグランディアの執務室。応接間に案内されたリリーは、用意されていたテーブルのお茶菓子に驚いた。
「これは、立派なケーキね」
美しく盛り付けられた焼き菓子の皿。それを鑑定人の様に眺めていた蒼い瞳はきらりと輝く。
「もしかしたら、これは殿下の手作りですか?」
前日に届いたリリーの面会希望。その後すぐに立ち上がったグランディアは、第四王妃の元へ向かい城の一室で無心に粉を混ぜた。
初めて作り上げたケーキは、母親のお墨付きを貰っている。
「もちろんだよ。王都の店や城の職人の物は、君はもう飽きていると思ってね」
うんうんと同意したリリーは、パクリと口に運んだケーキに大きく頷いた。
「良いですね」
上から感想を言ったリリーに背後に控えるサイは驚愕したが、平静を装うグランディアは内心で手応えに安堵する。
黙々と食するだけのリリーを観察し、お茶を口にする。完食した皿から次の焼き菓子に手を伸ばしたリリーに、グランディアはふと語り始めた。
「昔、何代か前の王太子が、ダナーの令嬢と恋に落ち、婚約した記録があります」
「まあ、初めて聞きました」
「彼らは、
「聖女…。成る程。その王太子殿下は、その聖女と結ばれたのですね」
「いえ。彼は、その後すぐに亡くなったそうです」
「……まぁ」
菓子から手を離し、悲恋に深く頷いた。そのリリーを見つめたグランディアは、目線を下に落とした。
「正式に、私たちの婚約が、破棄されたと聞きました」
お茶を一口飲み、こくりと頷いた蒼の瞳は真っ直ぐにグランディアを見つめている。
「ですが改めて、再び申し込もうと思います」
膝に置かれた拳を握り、胸を張り、真っ直ぐにそれを伝えた。
「必ず」
空色の瞳を見つめた蒼の瞳は数回瞬くと、軽くこくりと頷く。了承を見て微笑んだグランディアだが、口許をハンカチで押さえたリリーも姿勢を正した。
「それは取りあえず置いておいて、今日は殿下に、貴方の護衛の皆様について聞きたい事がありますの」
「え?」
「あの森での事なのだけれど、貴方の護衛の皆様は、何処にいらっしゃったのかしら?」
「ええと」
「うちの護衛の皆様は、聖堂の見える丘と、私の傍に二人居たのは分かりましたよね?」
「……ええ、居ましたね。確かに」
「そこでグーさんの護衛は何人、どちらで何をされていたのか、それをお聞きしたくて、今日こちらに来ましたの」
「……ああ、えーと、そうですね」
これにサイは目を見開き、メイヴァーは軽く目を伏せる。グランディアは、こんこんと語るリリーの護衛自慢を、同じ様に身を正して聞いていた。
☆☆☆☆☆☆
リリーVSグランディア
親密度 55 VS 75 親密度
期待度 90 VS 75 好感度
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