リリー52(十七歳)



  王様が、境会の奴らを捕まえたんだって。


  新聞では、戦争中に左側あっちにも右側こっちにも援軍送って、さらに北の同盟国まで領地戦に向けて待機させてたとか、王様の良いとこ取りの嘘ばっかり書いてあった。


  学院行ったらグーさんに、親父みうちの管理はしっかりしてねってクレーム入れる。


  今回の戦争、右側うちはもちろん補給部隊とか、各方面があってこその完全勝利。補給部隊を率いてた、ピアンちゃんのお家とか皆がみんな大変だった。


  ……そう、ピアンちゃん。


  ……いえ、ピアンくん。


  多様性の話が、迷宮入りしたままだった。


  過去世で私、女装が好きとか、男の人がスカート着用してたって、別に良いよねって思ってた。


  難しい問題だとは思うけど、高校入学する時に女子にだけ与えられた選択肢、スカートとパンツ制服選べるよ、について。


  ふと、男子には与えられないの? って疑問がわいた。


  だって丁度その時、ネットで目にしたスカートの始まり。昔むかしは男性だって腰巻き一枚というミニスカートや、ワンピース着てましたってお洒落歴史を持っている。


  機能性や差別などの様々な理由から男はパンツ派、スカート派は女だけねってなったかもしれないけれど、多様性が求められる時代、男にだって、スカートの選択肢があってもいいんじゃない?


  まあそれを、選んだ後に虐め攻撃が発生したら、それこそ多様性の普及活動や教育でカバーしてほしい。


  それにピアンちゃん、むしろあんなにドレスが似合うのならば、応援するのが当たり前…。


  (…………そうだ)


  私、ある事を思い付いた。

 



 ** **




  旧教会跡地の森から学院裏手に出ると、王警務隊が待っていた。負傷したダナーの騎士とそれに付き添うリリーを見送ったアーナスターは、警務隊員を振り返る。


  「境会アンセーマは、もう全て捕らえたのですか?」


  「…………」


  返答は無い。分かっていたが問うてみたアーナスターは、ふむ、と表情の変わらない隊員から興味をなくす。


  厄介なナイトグランドの次男、外された金色の視線をやり過ごした隊員だが、森のあちらこちらから現れた者たちに目を見開いた。


  軽鎧に片手武器を身体に身に纏う。陰に潜むいくつかの小隊を引き連れたアーナスターは、森の奥、境会の大聖堂に向かって歩きだした。



 **

 

 

  王警務隊の手から逃れた母と子は、森の中をひた走る。振り返り振り返り追っ手を気にして走った木々の中、突然目の前に現れた者にぶつかり、短外套の少年は尻をついた。


  「お願いです、見逃して下さい、」


  鍛え上げられた身体、入れ墨を纏う凶悪な人相の男に怯え、母子はその場に震えて縮こまる。だが男の背後から現れた褐色の肌の一人を見て、少年は瞳を瞬いた。


 

  「良いところで会いました。君、泉に居た子だよね?」



  王警務隊から逃げた数人の祭司は、その後行方不明となった。それを秘密に捕らえて、アーナスターは裏で因果律の魔法を研究させる事にした。


  「魔法紋は壊れたので、もう支配は出来ないと思いますが…」


  「紋を操作した経験があるのであれば、壊れても、あると仮定して進められますよね? 因果律に逆らう秘術、なんとしても完成させて下さい」


  アーナスターには、身動きが制限されたあの森での出来事が棘となって突き刺さっている。


  (境会アンセーマの魔法、因果律の支配から逃れる術を、リリー様は取得している。早く、それと同じにならなければ……)


  効率よく祭司を捕らえるのに役立った母と子には、対価として王都に居住先と職を与えた。学院が再開されて数日後、未だ仕事が山積みで登校できないアーナスターの元に、一通の手紙が届けられる。



  「リリー様から?」



 **


 

  偶然街で会ったのではない。


  リリーに劣らぬ様に整えた外出着の姿は、どことなく兄を思い出させる。


  硝子越しの自分に苛立ちを覚えたアーナスターだったが、「お待たせ!」とかけられた声にドキリと胸が高鳴った。


  輝く海の様に美しい青色のドレスを身に纏うリリーと共に、約束をしてやって来た王都の中心街。その中、流行りのドレスを扱う店を訪れた。


  「……ぁの、」


  アーナスターの息のかかる店ではないが、他国の最新を取り入れている。だが少し大人びたドレスのデザインに、自分が考える店をリリーに案内したくなった。


  「リリー様、ここよりも「これ、良いわね!」


  慎重に辺りを見回してドレスを見定めていたリリーは、その中の一つを指差して店員に指示をした。


  「…………」


  黒色は好みだが、全く可愛らしさの無い装飾。


  (このスカートの長さ、飾りの配置、リリー様には似合わない…)


  人型に着せられたそれとリリーを交互に見つめ、絶対違うと口を開こうとしたアーナスターに、「着てみて」と何故か自分が試着を勧められた。


  「??」


  望まれるままに試着し、疑問が拭えないまま開いた扉。満面の笑顔のリリーが出迎える。


  「素敵!」


  「……そ、そうですか?」


  よく教育されているのか、店員はリリーに従い笑顔を浮かべてはいるが、背後の護衛騎士の一人は目線を外し、もう一人は明らかに憐れみでアーナスターを見た。


  「やっぱり、すごく似合ってる。次はこれね」


  「え、」


  振り返ると、アーナスターが今出てきた試着部屋の横には、ドレスを纏う順番待ちの人型がズラリと並んでいる。


  「リリー様? ……これって……?」


  「大丈夫。私に任せて。時間はたっぷりあるのだから」


  「…………はぃ」


  笑顔のリリーに押されたアーナスターは、その日、初めて試着が嫌になるという経験を味わった。

 

 


  ☆☆☆☆☆☆


  リリーVSアーナスター


  親密度 52 VS 89 親密度

  友人度 52 VS 95 友人度

  協力度 75 VS 20 共有度


 

 

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