リリー49 (十七歳)


 

  犯罪者って、生まれた時から犯罪したいわけじゃない。


  目の前の、水に浮いた藁みたいな私にすがりついた、この人見て過去世のある事を思い出した。


  スーパーに買い物行った時に、可愛い天使みたいな赤ちゃんをベビーカーに乗せて、若い夫婦が楽しそうにお買い物していた。


  赤ちゃん、キラキラ輝く瞳で、見る人見る人笑顔になっていく。


  スーパーでパートしていたお母さんも私もウフフって、幸せを分けてもらっていたけれど、夫婦が立ち去った後、「あれも、これも」とお店の人がひそひそしてて、後日、この前の夫婦、赤ちゃん連れた万引きの常習犯だったんだって聞かされた。


  無垢に輝いていた赤ちゃんの、ベビーカーに盗んだ物をつめられていた悲劇。


  それに、心がグッとなった。


  だって赤ちゃん、何にもしていないのに、あんなにキラキラした目で皆を癒してたのに、あの親たちに育てられる、あの子の将来。


  親が万引きオーケーの環境で育ったら、子供だってオーケーになっちゃう。


  親のせいにしないでって言う人もいるかもしれないけれど、子供の人格形成って、100%傍に居た人たち、親と環境の影響が大だよね。


  聞いている感じだと、エンヴィー祭司、幼少期に彼の周りには優しい人が少なかったみたい。


  でも虐待大変だったよね、なんて簡単に声をかけてどうにもならないことも過去世で経験済み。


  虐待被害者って、被害受けてないよ、これは普通だよって頑張って全身をコーティングして、現状を乗り切ってる人が多そうだと思っていた過去世。


  理不尽な虐待と戦っていた時間、自分を護る為の本当は普通じゃない普通だよコーティングをゆっくり剥がして、何が本当に自分に大切なものなのか、判断するのにすごく時間がかかると思うんだ。


  隣のあの子の事を考えていた時、何も出来ない自分は、かける言葉を常に考えていた。


  (この人、それと同じ)


  エンヴィー祭司の過去、子供の頃は盗賊の血筋だって差別されて、知り合いが無理やり性的虐待を受けていた様な話だった。


  それは異常な事なんだよって、他の人たちが、誰も教えてくれなかった様なそんな雰囲気も察する。


  深刻だよ。


  大変な経験乗り越えて大人になってる。


  虐待されて、親を反面教師だと割り切りも出来なくて、心の傷をカウンセラーとか治療も受けられなくて、拗れて、大人になって、前後左右の視界が狭まる。


  そんな追い詰められた人と、静かな泉の畔で二人きり…。


  つまり?


  自分が被害者になる可能性大の大ピンチ。


  愛から気を逸らそうと色々話しかけたけど、全部スルーされて泉を半周したんじゃない? ってくらい後ろ歩きしてる。

 

  じわじわと近付いてきた、今すぐ飛びかかってきそうな雰囲気の人を目の前に、為す術なくじわじわと後退する。


  虐待犯罪者の一部は、過去の生育歴に虐待を受けた人かもしれない。それはある意味被害者だけど、だけど、被害を最悪だったって、他の人にはしないように、自分で断ち切れる人だっていっぱいいるとも想像は出来る。


  (だけどこの人は、断ち切れなくて、今でも虐待に支配されている人)


  聞き間違いだと思いたかった、愛を与えて下さいって言った人が、愛って性交渉でしょ? って言ってる今、その先に考えられる結果は、悪い方向しか思い浮かばない。

 

  さっきから、周囲を確認しているけど、うっかりその辺の森の中を通りすがる、ウォーキングの人影も見当たらない。


  それに実は心の中では非情にも、口から血を流して辛そうにしていた、動くのもやっとのナーラさんたち護衛の皆さまが、実は助けに来てくれているんじゃないとか、甘えた事ばっかり考えている。

 

  (スマホとか、それの役割りを担ってる連絡鳥さんたちが、皆倒れてるよって、空の上から見てて、気を利かせてメルお兄様を呼んでくれるとか、連絡鳥あのこたちオカメインコちゃんとかとは違って、人の言葉のお喋りが苦手だから、そんな奇跡も絶対ないって分かってる。ていうか、この状況でまだナーラさんたちにすがるって、私、本当に最低……あ!)


  詰められた距離、伸びてきた手に、まだ皆に頼る事しか出来ないんだって絶望し、自分はなんて情けない奴なんだって思い出してハッと閃いた。


  「貴方、愛って何? みたいな人によっては意見の変わる悩みより、私が何故、貴方と同じように、この場で動けるのか、その答えを知りたくはないの?」


  「?」


  ぴたりと止まった白い手を見て、内心でガッツポーズに手応えを感じる。


  「私と貴方の共通点、それなら直ぐに答えてあげるわよ!」


  漠然な愛というテーマより、気になるでしょ?


  私の秘密。


  愛か謎か、どちらを取るか日蝕祭司の天秤がゆらゆら揺れている間に、瓦礫の方からあの人たちが現れた。


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