リリー46 (十七歳)



  なんか、グーさんに会いに行ったはずなのに王様の部屋に案内された。


  それで初めてこんにちはって挨拶したんだけど、ちょっと、かなり威圧的だったんだよね。感じ悪かったよ。ずっと書類見てた。


  温厚だって噂だったのに。噂って、やっぱり当てにならないね。


  でも言いたい事は言った。


  フンスッ!


  鼻息荒く、長い廊下を学院に戻る途中、手に持っているケーキを思い出した。グーさんにあげようと思った、うちのシェフ自慢の小さなホールケーキ。


  …………あの人。


  あの案内人、絶対にわざと間違えて国王の部屋に連れてったよね。


  顔はバッチリ覚えてる。


  そして同時に、不自然に私に会いに来た、フェアリオさんも共犯なのだとピンときている。


  「……」


 やばかった。


  だってグーさん、今までこんな事なかった。私を王宮に呼んだ事なんてなかったのに。


 危なかった。最近、自分が悪役だってこと忘れがち。

 

  気を引き締めよう。


  「お帰りなさい」


  待っていたメイヴァーさんにお礼を言って、「会わなかったわ」ってケーキは彼に差し上げた。



 **



  屋敷に帰ったら、更にヤバい事が起こった。


  ステイ領に居るパピーが、国王に呼び出されたって。


  ワタシノセイ?


  マジでショックで落ち込んだ。


  国王に奴隷・ダメ・絶対したら、親が呼び出されるという大惨事。


  兄たちも青くなって飛び出すほどの大惨事。


  (どうしよう……。どうしよう……)

 

  右へ左へ右往左往。どうしよう……。


  更に続く惨事の続きは、次の日、私、国王に不敬罪って言われて、王都に軟禁される事になりました。


  軟禁て言っても、王都から出たら駄目だよって言われただけで、家から外には出ていいから、お買い物にも学院にも通える。


  まあきっと、この不敬罪は右側うちの権力によって軽減された軟禁の中でも軽めの軟禁。


  (……私のせい)


  パピー、まだ王都に来てないけど、来たら真っ先に謝ろう。私のせいで、しかも意見言っただけで、忙しいうちの父親を呼び出すなんて…。


  国王、ゆるすまじ……。


  なんて狭い心の持ち主だ。


  一国の王として、これはあり得ない心の狭さ。


  (…………このまま、何もしないでお買い物していては駄目だ)


  仲間たちは、会う人会う人「大丈夫」、「心配ない」って励ましてくれ、会う人会う人、そのままで、何もしなくていいって言ってくれる。


  でも皆、明らかに忙しそうに走り回って、領地と王都を行き来する忙しさ。


  「リリー様……」


  「ファンくん」


  忙しく動き回る皆に気付いて不安げに現れたファンくん。思わずギュッと抱きしめる。


  「大丈夫よ。きっと大丈夫」


  自分に言い聞かせる様に、私が皆に言われている事をファンくんに繰り返した。ごめんね、子供のファンくんまで、私のせいで不安にさせて。


  「……」


  私のせい。


  過去世でも、勉強不足の私は、思い付きの行動であの子を助ける事が出来なくて、お父さんとお母さんを苦しめた。


  現在世では、お父様とお母様を悲しませないようにしなきゃ駄目なのに、この状況。


  ここで私に出来る優先順位を考えた。


  一番の有効打としては、兄たちに頼るという、兄力本願しかない。私がコツコツ何かをしたって、強権力の我が家の両親の次に権力を握る上の兄に勝るものはない。


  過去世と違い、少しは現在世を勉強しています。


  自分ムダ努力を省いて、時短かつ有効な一撃を持つグレイお兄様に頼ろう!


  助けてー、グレイお兄様ー!!


  駆け込もうとした兄の自室、言い争いの声に入り口で急停止した。


  「兄上、らしくない。急ぎすぎだ」


  珍しくメルヴィウスが止めている。深刻な二人の会話に耳をすませて、そこで、グレインフェルドお兄様がセオさんを疑っている事を知った。


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