リリー41 (十七歳)



  休み明け、私はグーさんに会いに行く事にした。


  微妙な婚約関係が続く中、自発的にグーさんに会いに行く事は避けていたけれど、それと奴隷問題これは別だから。


  時間がかかるから事前に許可は取っていない。だから武器となる護衛は簡単には入れない。


  少し話してくるだけだからと、無理やり仲間たちを置いて王宮区域に踏み込んだ。


  本当に、ちょっと顔を見に行くだけだよ。


  こんにちは、お久しぶりね、今日、お昼ご一緒しませんか? って。


  そしてランチが終わったら、グーさんとグーさんの父親の奴隷に関するあれこれを聞いてみるつもり。


  (でも、一人で王宮に行くのは、少し緊張してしまう)


  前に教えてもらった、グーさんの執務室への近道。実は学院は王宮内にある。


  王宮内と言っても、流石にダナーうちよりもとーっても広い王宮敷地内の、端っこのほぼ王都との境界なんだけど、まあ、一応住所は王宮の敷地内なんだって。


  回廊をひたすら歩き、中庭を横切ると、学院近くにグーさんの執務室があるのだと言っていた。


  (………………遠いな)


  思っていたより遠いよね。


  この距離は、普段なら馬車で移動するお貴族様の怠惰な私。


  授業に体育なんてないよ!


  普段は家に帰ってから、手の空いている仲間の誰かにたまーに運動させられる。


  乗馬とか、ダンスとか、そんな体力強化を少々。


  途中で帰りたくなったけど、ここまで歩いた道のりを思い出して、無駄に引き返すのはやめた。


  (あれ、中庭じゃない?)


  光溢れる中庭を発見。はーやれやれって踏み込んだ庭の中、向こうから人がやって来た。


  二人。


  (……あれって、グーさんと、もう一人は…?)


  深緑色の制服スクラディアの女子生徒は、見た目に美人なのだけれど、あの風貌は、現在世ではなく、どう見ても過去世のSNSにいそうな美人。


   加工じゃないよ。本物の美人。


  (……フェアリーンさんじゃないけど、まさか……)


  ドキンと鼓動が強く打った。


  主人公ヒロインだと思っていたフェアリーンさんやフェアリーエルさんを見かけなくなり、居なくて攻略法が聞けずに残念なような、もうこれで、乙女ゲームが自然に終わってほしいと、それを強く願っている自分もいた。


  だけどあの人、どこから見ても過去世の顔立ち。


  警戒に無言で立ち止まっていた。徐々に近付いて来た彼らも、そんな私を発見して足を止める。


  ハッとこちらに気付いた美人。何故かグーさんの後ろに一歩下がった。


  ニッコリ…。ごきげんよう…。


  『……』


  挨拶しただけなのに、青ざめて俯かれた。


  やばい、私、顔こわい? 主人公ヒロインに対するアレルギー、顔に出てた?


  だってこっちは命に関わるんだよ? ちょっとくらい、怖い顔にひきつってたって、それは当たり前でしょう?


  右側うちの体面考えて、何とか逃げ出さずにこの場に踏ん張った。そしてグーさんに挨拶したけど、また露骨に嫌な顔される。


  更に「どうして来たの?」って冷たく言われたから、ランチにご一緒どうですか? なんて聞く雰囲気でもなくなった。


  (帰りたい……)


  でも逃げては駄目だ。


  「そちらは、どなたですか?」


  なんとか絞り出したよね。初めましてのどちら様ですか? って、初対面では必須でしょ? 自然な流れでしょ?


  もじもじとグーさんの後ろに隠れて、もじもじとグーさんの顔色を窺うSNS美人。そして控えめに口を開いた。



  『フェアリオ・クロスです……』


  やっ…ぱりね…………。



  フェアリーンさん居なくなったから、新しいの異世界召喚されたとか?


  あるよねー、ありえるよねー。


  もじもじしてるけど、彼女、私の事を、しっかり敵認識してる目をしてる……。


  ひそひそと、グーさんとないしょ話してるのも、なんだかとっても作為的……。


  (どうするの、これ、あ、そうか、今はグーさん王太子、ってことは、)


  婚約破棄の、シーン、来た?


  常日頃、死亡フラグ警戒していたのに、小さな頃から脳内でシミュレーションもしてたのに、実際に現場に訪れると、その心構えは何の意味もなく。

 

  あたふた、あたふた。


  何とか平静を装っている風だけど、


  内心では、気が遠くなるほど焦ってる。


  (落ち着いて、死亡フラグ絶対回避、婚約破棄、それを二人は望んでいるはず)


  ならばやることは一つ。


  「気にすることはありません」


  「?」


  「お二人の関係は分かっています」


  「何を言って…」


  「こちらは、世間が知っている形だけのものなのです」


  「リリー?」


  「婚約破棄致しましょう。今、直ぐ」


  「リリエル・ダナー!」



  先手必勝だよね!


 

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