リリー39 (十七歳)


 

  上機嫌で喫茶店に向かう途中、通行人の中に、背の高いお洒落な人を発見した。


  黒のドレスのその人は、他の女性達よりも頭一つ出ている。帽子を被っているが、右肩に流すくせの無い長い黒髪。スラリとした長身でとても綺麗な後ろ姿。


  (……?)


  ウィンドウを見た横顔に、私はまさかを確信した。


  「アーナスターさん!」


  「!?」


  思ったよりも、大っきい声出たよ。レディーとして、ハシタナイって、ナーラさんが背後から睨んでいるのは見なくてもわかるよ。


  振り返った長身の美人は、やっぱりピアンちゃんだった。


  街中で会うなんて偶然だよね!


  これってきっと運命じゃない?


  引き寄せたんだよ、コレが……。


  プレゼントされた黒猫のブローチ。襟元のスカーフを押さえたそれを、見て見てーって、わざとらしく強調する。


  それに気づいたピアンちゃん。うるうるって涙目になった。


  ミートゥー……。


  私もおんなじ気持ちです。お友達、継続されていたって、これで自信が回復しました。


  「よければ、お時間あるかしら?」


  今から皆でお茶するの。ピアンちゃんも、ご一緒しませんか?


  私の突然の思いつき発言に警備員たちは、えっ? ってなったけど、それを無視して新しいお友達にピアンちゃんを紹介する私。


  「……」


  ぽかんと口を開けてピアンちゃんを見上げる少年。うふふ、わかるよ。格好いいでしょ? モデルさんみたいで緊張する? 小学生には刺激が強すぎたかな?


  お互いに見合ったまんまの長丁場。店先だったので、取りあえず店内にお見合いは持ち越された。


 

 **



  (いーねーいーねー)


  期待どおりのお洒落カフェ。メニューにもバッチリ最新スィーツが揃ってる。


  夏の陽気は近付いているけど、今日はかき氷は食べないの。お子様とご一緒なんだよ? こんなチャンスは滅多にない。


  パフェでしょ!


  一緒に大きなパフェ、食べるでしょ!


  緊張して、もじもじと口数の少なくなったファンくん。だから遠慮する彼の代わりに勝手にパフェを注文する。


  ピアンちゃんには、丁重にお断りされました。格好いいピアンちゃん、クールにブラックコーヒーが大人だね!


  私はね、季節限定お花のパフェ! そしてファンくんはたっぷりチョコレートスペシャルだよ!


  一口ほしい。


  ここにマナーとかは関係ない。


  スィーツ交換は基本中の基本なのです。


  お姉さんの私はね、お先にどうぞって、先に味見を譲ってあげるのよ。


  「はい、あーん」


  恥ずかしがると思って、遠慮した瞬間に口に突っ込んだ。


  もちろんナーラ姉さんの鋭い眼光を躱してのスピード勝負。ナーラさん、ローデルートさんセオさんの大人チームは、座席に座らず立ち話。その他の警備の皆様は、外で絶賛待機中。


  顔を真っ赤にお花パフェをもぐもぐ味わうファンくん。相変わらず声は出てないけど、今日はもじもじせずにクールを装う休日のピアンちゃん。


  食べたよね? 美味しいよね?


  では、私もあなたのチョコパフェを一口…。


  ーーガチャガチャ。


  人様のパフェを、天辺からすくったりしないよ。端っこの方の、でもチョコがこぼれそうにたっぷりしてる、側面から…ーーガチャッ。


  (なんか、さっきからガチャガチャうるさいな)


  「これはこれは、こんな所で出逢うとは、運命を感じますね」


  押し付けがましい男の声が、お洒落なカフェに響き渡る。ガヤガヤとやって来たのは、学院内でも有名なプライベートの侵害者。


  その代表みたいに現れたのは、名前交換した軽薄さんだった。


  「ご一緒しても、宜しいですか?」


  「宜しくないわ」


  あなた、お仕事中でしょう? なに言ってんの?


  私の迷いなしのお断りに、軽薄さんは「おやおや」って肩をすくめて軽薄ポーズ。


  それでも立ち去らない図々しさに、うちの警備員達を突破して、ここに入って来れた奴の立場を考える。


  結論。


  面倒くさい事が起きそうだから、早めにパフェの味見だけは完了させる事にした。


  邪魔なんかに負けないよ。奴が話してる間に、せっせせっせとパフェを口に運ぶ。

 

  「……」


  そんな意地汚い私に、いつの間にか人々の目線は集まっていた。

 

 

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