リリー38 (十七歳)
いま思うと、あれってかなりヤバかった。
だって硝子の上に、あの板が倒れてきて、その間に私が挟まれてたら……ゾッとする。
きゅるんが通りすがりで助かった。
あんな奴でも役に立つ事があった。
教室に戻って何食わぬ顔で着席したら、エレクトくんとかメイヴァーさんとか、怪しい顔してこちらを見ていたけど、先生に頼まれたからにはあの現場の事は口にしない。
だってあれ、
先生たちの命が危ない事は想像出来るし、すでに
私の場合は結果オーライだったんだけど、……そういえば。
「トイ語の翻訳は、全て終わったのですか?」
エレクトくんの問いかけに、それなんだよねと首を傾げる。
「その場に、王太子殿下も同席されたのですか?」
険のあるメイヴァーさんにも首を傾げる。
「……それがね、あの教師、居なくなったのよね」
私の不穏な発言に、二人も周りの仲間たちも「はあ?」って雰囲気になったけど、正直、これ以上はいろいろと話せない。
居なくなったというよりは、走り去った様な姿をちらりと見たような。
(他の先生を呼びに行ったとか? ……でもかなり無責任)
怪我をした生徒をそのままに、普通どっか行かないよね?
(しかもフィエル、「教師じゃないな!」みたいな事も言ってた様な?)
かなり怪しい。そう思って後で語学担任に聞いてみようと思っていたら、先生は次の日には突然退職されていて、二度と会うことはなかった。
**
あれから数日、謎の窓ガラス事件のせいか、
でも
お兄様達も最近は忙しそうで、ご飯時にしか顔を合わせない。
それをいいことに、私は最近、解禁された街でのお買い物にやって参りました!
久しぶりの街でのお買い物に心が弾む休日。
気分転換は必要だよね。
警備員は少し多めなんだけど、ナーラ姉さんとローデルートさん、そしていつものエレクトくんも一緒だよ。その他にも、周辺に黒色は潜んでいるよ!
そんな中、今日のお出かけの名目となった、王都教会への訪問がまずは優先される。私の中のお出かけ目的は街ぶらでお買い物なのだが、教会にお祈りに出かけたいと言って、外出許可が下りた事は忘れてはいけない。
早めに祈って商店街へ繰り出そう!
私の事はお見通しのナーラ姉さんの涼しい目線と、穏やか仕様の兄貴に似た顔で微笑むローデルートさん。そしていつものエレクトくん。
到着した教会の門よりも、お向かいのお洒落な喫茶店を見ていた私を、ナーラ姉さんは見逃さない。
しぶしぶと訪れた古びた大きな教会。だけど扉から、見知った顔が出てきてテンションが上がった。
「セオ!」
ここは学院ではありません。今は先生ではありません。私は彼を、普段は呼び捨てしています。
おや?
隣に子供が……?
黒髪に赤い目の小学生くらいの男の子。その大きさに、私は一瞬だけ過去世を思い出したけど、明るい笑顔の子供に救われた。
「あなたがリリー?」
「?」
「私はファンです!」
お年頃の子供のくせに、私のお供の黒色警備員たちにも怯まず勇気がある。
「よろしくね、ファン。年齢は、……六歳くらいかしら?」
「今年七歳になりました」
「あら、私も十七歳になったのよ」
イイネ! おめでとう!!
意気投合した私たち。出会った記念にお向かいのお洒落な喫茶店に行きましょうって、ナーラ姉さんの顔色をうかがいながら誘ってみたの。
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