55
暖かな陽射しが差し込む昼下がり。所用で城下街の公園を通ったセオルは、屋台で飴を買う少年を見て立ち止まった。
「なぜここに、あなたが居るのですか?」
初めて出会った頃より、少し大きくなっている。だがまだまだ小さな子供は、振り返りセオルを見て全開の笑顔を見せた。
周囲を見回しても同伴する大人はいない。
「まさか、あなたお一人ですか? 他の方は?」
「誰もいません。私一人で来ました」
「そんな、まさか、
セオルも体験した魔方陣は、強く思い描く事で長距離の移動を可能にした。
「ご両親が、心配されます」
「大丈夫です。お手紙は置いて来ました」
にっこり悪びれず笑うのは、南の隠された神殿で出会った少年。信じられないと頭を抱えたセオルだったが、握った飴を嬉しそうに見つめた姿を見て何かを諦めた。
「それより、どうされたのですか? こんな危険を冒してまで、ここに来るなんて」
「
ニコッと笑った少年は、漂う焼き肉の匂いにその店を目で探す。目的の串焼きを買い与えたセオルは、近くの席に座らせた。
「それだけではありませんよね? まさか、
見つかれば奴隷として他国に売られる。エルローサ王国の血筋の末路は、小さな少年は見つめるだけの現実。
「それをこの目で確かめたかったのもあります。でも、それはあの方たちが、手をつくしてくれていることも教えられています」
その言葉に、セオルは周囲に人が居ないかと確認する。手にした串焼きを食べるように勧めると、温かい肉に少年はかじりついた。
「
「……」
「今、こうして私たちが残れたことも、
「……お礼は、お気持ちだけで十分です。貴方たちが生きている事で、それは彼らに伝わります」
直ぐに南に帰る事は難しい。少年を無事に神殿に送り届けるために、セオルは彼を保護する場所を考える。
だが串焼きと飴を食べ終わった少年は、思案するセオルを聡い瞳で見つめた。
「セオル殿が言っていたではありませんか、ダナーの姫君の命を救いたいと」
「?」
「僕も同じです。ダナーは我々を助けてくれている。だからそれを、早くお伝えしたくて」
命を救いたいと言った少年は、早く伝えたいと言った。
「何をですか?」
「聞こえたのです。あの音が」
陽射しは、徐々に傾き影は広がる。
「空や大地に響き渡ったのです。また、あの音が」
ガァーーーーーーン…………。
「まるで空を叩く様な、巨大な鐘が鳴り響く様な、大地が震える様な、あの音」
ガァーーーーーーン…………。
「時空を裂いて現れる、この世の理に反した異物。この世がそれを拒絶して、悲鳴をあげているという、あの音」
「結界の石碑を壊すだけでは駄目だった?」
「本来は、結界などの魔術や魔法は、干渉する触媒を破壊すればすむはずなのです。ですが、また聞こえたのです」
**
初めてリリーと親密な距離で触れ合った。今もまだダンスの余韻が身体に残るグランディアは、日々の疲れが軽くなり順調に仕事を進めていく。
(そういえば、今日は
ふと思い出した日程は、グランディアとは無関係の境会行事。興味のないそれは直ぐに忘れて、昼を告げる鐘の音に手にした書類を戻して閉じると立ち上がった。
**
(あれは……?)
リリーに会うために、近道で横切る王宮の光満ちた中庭。だがそこに、いつもならば居るはずの無い少女が立っていた。
スラリと伸びた背筋に、柔らかく波打つ癖毛は、今日は珍しく結わずに下ろしている。
陽光が遮り顔は見えない。だが間違うはずのない令嬢の姿を見て、なぜ自分が居る王宮に居るのかと、胸が高鳴り足を早めた。
「?」
だが足音に振り返った少女、光を浴びる髪は白金、美しい真白い顔の瞳は、グランディアと同じ空色だった。
「……貴女は、何方ですか?」
よく見ると、近くに赤外套の祭司が立っていた。少女はそちらを見ると、壮年の祭司はグランディアに挨拶をして再び少女に頷く。
「フェアリオ・クロスです。王太子殿下に、ご挨拶致します」
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