リリー23 (十六歳)
久しぶりの登校は冬学期からスタート。冬だけど、王都は
(でも前よりも紅葉が綺麗。涼しさがいい感じ)
過去世なら、焼き芋が旨い季節だよね。でも現在世では、スイートポテトや大学芋をアピールする広告を見かけない…。
馬車から降りて、正門から玄関までの長ーい道のりを仲間たちと歩く。
おや?
ざわざわと深緑色の制服たちが遠巻きにこちらをチラ見しているんだけど、今日はなんだか様子がおかしい。
怪我から復帰した私の久々の登校だから?
なんて自意識過剰に考えてみたりもしたけど、周囲の目線は私たちと少し離れた先を行き来する。
(……なにあれ…)
通学生徒たちの前方。玄関の少し手前に、いつもよりも白い奴らが固まっていた。
なる程ね、
男子生徒、女子生徒、パッと見で十人くらいは居るのかな? もちろん彼らは、さっさと玄関に入らずに、もれなく私にメンチ斬っている。
相変わらずだね。今となっては番長のために取ってはいないけど、わたくし、久しぶりの登校で、朝っぱらからメンチ使うほど暇ではない。
なのでここも、いつも睨んでくる幼稚でワンパタな白色メンバーズに、上から笑顔で微笑んでやった。
ニッコリ…。
マミーお得意の嘲りスマイル。
うちのマミーは面倒な来客に対しては、憐れむ様に客人に眉をひそめて、口の端をすこし上げるの。そしていらっしゃいませの声かけもせずに、気だるげに扇をパタリと閉じる。
するとせっかく来てくれたお客様は、係の代表に帰宅してって扉を開かれる。なかなか失礼なシステムでしょう?
いい大人のおじさま達がこれを食らうもんだから、反応は人それぞれ。がっかりする人や、イライラを必死でのみ込んで我慢する人など、被害者は多数見受けられる。
もちろん私も、この嘲りスマイルを取得済み。
私のスマイルに白女子メンバーズは逆ギレしてるけど、白男子メンバーズはそれ以上メンチ斬っては来なかった。
主人公対策に脱悪役したけれど、
「姫様、フィエルです」
「?」
エレクトくんの声かけに、白色たちに取り囲まれる中心を確認する。
「…………」
目が合った。
まあまあそこそこな顔の白髪、赤い目の男。
(キャラが出来上がってる。絶対、あれはどっかで見たヴィジュアル)
おそらくきっと、攻略対象の一人。
思い出せそうで未だに思い出せないゲーム名。でもあの冷たそうな雰囲気のキャラを、攻略したことあったかな……。
白髪、赤い目…。
色的に、ウサギに変身するとかないよね?
今のところ、獣人キャラは登場していないから、この世界にはケモ耳は居ないと思うけど。
でもあの彼が、あの体型密度を度外視して、突然ほんまもんの小さなウサギにキャラチェンジしたら、それはそれで燃えるけど。
萌えるじゃなくて、燃える。
メラッ!
ガチでウサギになったら追いかけて、捕まえて、セクハラって言われても、嫌がって後ろ脚をタンタン地団駄踏んだって、完全無視で撫でて撫でて撫でまくって、お腹の匂いまでくんくん嗅ぐけどね。
今ちょっとだけ、ストーカー気質でヒロインを檻に閉じ込めたり、バッドエンドでたまに変質者と化すヒーローのムラムラが理解できたのかも。
監禁や無許可のおさわりなんて、現実にはただの変態犯罪行為で、推奨なんてもっての他だけど。
でもあのウサギ男、白髪と赤目のキャラなんて、なんてありがちな乙女ゲーム設定だ。吸血ものに多発しそうだけど、意外とそっち系?
学校 × 吸血鬼…あり得る。しかも主人公の名前はフェアリーだし…。でもどのアプリゲームかな…?
やっぱり思い出せないな。
(恋愛ゲームは、あの子にもスチル回収を手伝ってもらっていたから、もしかすると、自分で攻略していないかもしれない)
過去世の両親と共に思い出すのは、私が助けられなかった隣のあの子。
あの子は、あの後どうなったんだろう。
きっと私を叩いたのはあの子の母親かあの男。私の件で奴らが警察に捕まっていてほしいけど、どうなったかはわからない。
ただあの子は、あの後、救われていればいればいいのになって、孤児院に行くたびに考える。
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