リリー21 (十六歳)



  『おとぅさん、おかぁさん、ごめんなさい』



  きっと私は突然居なくなっただろうから、これだけは言っておきたかった。

 


  「…………」


 

  「……、……」



  何か聞こえる…。



  「……ぃつも、あなたは危険な場所に行くのですか?」



  この声は……。


 

  「ご自分の命を、大切にして頂きたいのです」



 


 **




  「…………」


  目が覚めると、そこは多分保健室。お金持ちの貴族たちが来るだけあって、ホテルみたいに立派だった。


  (うちの医務室には負けるけどね…)


  階段から飛んだ時、もう駄目だと過去を思い出したけど、私しっかり生きている。


  (顔とかは、痛くない…。でも身体は痛い…)


  そして今、私の右手をがっちり両手で握って何かを祈っている、黒色メンバーズ・エレクトくんと目が合った。

 

  「姫様!!」


  「ごきげんよう…」


  心配かけて、ごめんなさい。初めて見たエレクトくんの泣き顔に、なんだか私も涙が出た。



 **



  身体のあちこちは今も痛いけど、腕や足に打ち身や擦り傷や痣はあるけれど、すっかり回復した私。奇跡的に頭を打たなかったのが良かったみたい。


  実はセオさんが、私の下敷きになったそうで、彼は片腕を骨折したらしい。


  まだ会えてない。


  だから謝罪も感謝もしていない。


  学院の保健室で目が覚めて、直ぐに家まで運ばれて、それから外に出ていない。階段ダイブのあの後も、黒色メンバーズから、ところどころしか聞いてない。


  エルストラさんは王女から廃位されて投獄されて、彼女の家門も取り潰されたらしい。


  危険人物グーさんも気になるよね。


  それからやっぱり、メインは恐怖の主人公。


  私はしばらく休学だから、グーさんの婚約パーティーには行ってないけれど、主人公ヒロインとくっついている事を祈ってる。


  怖かった。王女のエルストラさんにちゃん呼びで、番長も避ける黒制服の私に向かって突進してきた。


  しかもグーさんを呼び寄せたよね。


  さすが主人公だと思う。


  こうやって、色んな場所で悪役は、逃げ場なく主人公に狩られてしまうのか…。


  やっぱり融和的解決しか生存は見込めないのか?


  「……ふーむ…」


  でもグーさんと彼女がカップルになっちゃえば、私は関係ないよね?

 

  そうすれば、私の生存率はアップしたままキープできる…。


  アフターエピソードは、二人だけでやってね。


  それからお友達第一号のピアンちゃんも、あれ以来会ってない。私は療養中だけど、顔も見に来てはくれないみたい…。


  パピーとマミーは領地から駆けつけてくれた。あと警備員たちのご家族もね。


  マミーは泣かせちゃったけど、パピーは怖い顔してなかったのでほっとしている。


  うちの親ってさ、私に何かあると、直ぐに警備員たちを責めるから困るんだよね。だからあの場に居たエレクトくんのフォローはしっかりしたつもり。


  今も普通に黒色メンバーズしてるから、多分彼は大丈夫。


  でもそんなパピーやマミーたちよりは、ご近所に住んでるはずのピアンちゃん。まだ顔を見ていない…。


  私の数少ない、と言うか、一人しかいないお友達。


  (変態仮…お兄さんの事で忙しいのかもしれないね)


  身内から犯罪者が出ると、世間からの風当たりが強くなるだろうし。


  『……』


  ちょっと寂しいけど、私は悪役だから、しょうがないかもね。


  それはそうと、上のお兄さまの許可が下りたら、早く復学したいと思ってる。


  「姫様、風に当たりすぎると、御体が冷えますよ」


  「そうね」


  「次はエルロギア神について振り返ります。ご準備を」


  「わかったわ」


  こんな感じで、こんな調子なのに、家庭教師ルールさんの復習テストと、厳しいナーラ姉さんのマナー講座は毎日続いている。


  この二人のがんじがらめの監視から、早く抜け出したいのが本音なの。 



 

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