26
護衛たちを遠ざけて設けた、王族と大公令嬢の二人の時間に割り込んできた。無粋な者にグランディアは強い怒りを覚えたが、それをリリーは遮った。
「もちろんよ。こちらにどうぞ!」
リリーの隣に図々しくも並んだ
「…ナイトグランドの、」
王族も
(令息が入学しているとは聞いていたけど、休学しているのか、ほとんど来ていないはずだが)
背を丸めてオドオドと照れるアーナスターに、リリーは親しげに話しかけている。だがその間も、時おり上の空で周囲に気を散らすリリーの姿に、何故かグランディアはほっとした。
「そろそろ次の用意があるので、私は失礼するわね」
呼びに来た護衛の一人と立ち去った。リリーに微笑み見送っていた二人だが、間もなくグランディアが忠告した。
「ナイトグランドはよく名を聞くが、商人のくせに、礼儀は弁えていないようだ」
王子からの厳しい叱責。だがそれを受けたアーナスターは、グランディアに身体を向けると背筋を伸ばす。そしてはっきりとした声色でいい放った。
「我が家は、お客様との信頼関係を第一に努めております」
「ならばよくも、婚約を誓う私たちの間に、図々しくも割り込めたものだな」
「お二人の婚約が破棄されるのは、時間の問題だと、そう皆は語っておりますね」
王族相手に退くことを全くしない。無礼な
「婚約者とのひと時を邪魔するものの台詞としては、ありきたりだな」
「事実今も、リリー様は私の同席を喜ばれました。お二人だけの時間ではありませんでした」
「リリー、だと?」
「はい。リリー様とは、大変親しくさせて頂いております」
「…………貴様、」
握られた拳と相手の表情に、我慢の限界を見て取った。そこでグランディアを正面から見据えたアーナスターは、取り出した封筒をテーブルに置いた。
「ご提案があります」
差し出された封筒を、訝しみながらも開けて見る。中に入っていたのは契約書で、その内容にグランディアは目を見開いた。
「…どういう事か」
「これは、第四王子グランディア殿下に悪くはない条件です。いやむしろ、殿下はそれを、とても欲しているでしょう。
「……」
「
「手伝うだと? 命乞いの間違いではないのか?」
ことり、とテーブルの上に置かれたのは、家紋が印された鎖に繋がれた四つの宝石。それを目にしたグランディアは、客に慇懃な笑顔を浮かべるナイトグランドの次男を睨み付ける。
「我が家の家訓は実力で成果を上げること。生まれた順番は関係ない。私も、殿下と同じ立場なのです」
家を継げる者は一人。その争いに、命を賭ける者たち。アーナスターは宝石を丁寧に敷布に包みしまうと、カタリと立ち上がり優雅に一礼する。
「私は報酬を分かち合う事が、何より嫌いです。それだけ、ご記憶頂ければ幸いです」
「見返りはなんだ?」
「見返りなどは。昔々、祖先がグロードライト王国の建国に助力した我らナイトグランド。お陰で今があります。その時と同じく、王家に尽くしたいだけです」
**
ダナー大公領城下街サテラで行われた捜索。それによりサテラの象徴とされる大噴水広場には、女神とされる少女の存在がいると分かった。
美しくもあり、可憐でもあり、妖艶でもあり、時には素朴でもある。
証言者により印象が違う。だが共通としてあげられる特徴は、女神は孤児に声をかけ、彼らを救っているという点だった。
「孤児を連れ去っていた者として考えられるのは、ケーブ・ロッドの養女であるフェアリーエルですね」
手元の資料を読み上げるガレルヴェンに続いて、トライオンが立ち上がる。
「フェアリーエルに関しては、巫女として
「…ケーブ・ロッドからは、これ以上何も出ないか?」
「はい。ロッドの妻からも、同じ様な情報しか得られませんでした」
ケーブ・ロッドが連れ去られ、養女が王都の学院寮に入ってから、ロッドの妻も屋敷から突然姿を消した。今は空き家となったロッド邸に集められた孤児たちは、別の施設へ移された。
「今回の状況から、
養父母が連れ去られても、境会に関心はない。
「フェアリーエルが王都に移動してからは、サテラの広場で女神の目撃は全くありません」
「…そいつは
メルヴィウスの問いにリリーと学院に通う護衛頭の四人、今はここに居ない二人に代わり、メイヴァーとエレクトが立ち上がる。
「私とフィオラ、他数名の意見ですが、…その、フェアリーエル・クロスは、どことなく姫様に似ていると、そう思いました。ですが他に、姫様よりも、フィオラに似ていると言う者も数名」
近寄りがたい美しさのリリーに対し、白髪に大きな碧の瞳のフィオラは、儚げで可憐な花の印象が強い。ダナー・ステイ一族内で、二人の外見を似ていると言う者はいない。
「それは奇妙な意見だな。アストラ卿も、同じか?」
グレインフェルドに問われたエレクトは、昨日確認したばかりのフェアリーエルの顔を思い浮かべる。
「…確かに、私は何度確認しても、姫様に雰囲気は似てると思いました。パイオド卿は、姫様に見えたような気がしたが、よく見ると全然似てないと断言されています」
それにメルヴィウスは頷いた。
「やっぱりな。セセンテァは、俺と同じ魔除けを刻んでいる。間違いなく、フェアリーエル・クロスには、幻惑の術が使用されている」
「リリエルは、そろそろ例の行事がある。クロスは
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