リリー5 (十三歳)
十歳のお誕生会で各権力者たちに御披露目されてから三年。この間、私に出来たお友達はただ一人。
初めてのおやつの会で隣に居た、引っ込み思案の少年グーさんただ一人だけだった。
なかなか寂しいでしょ?
あれだけ皆でお茶会してるのにね。同性の女の子たちは、誰一人として私と個人的なフレンズ付き合いをしてくれなかった。
これもつまり、悪役だから?
別につんつんしてないよ。パピーの強権力だって発してない。なのに毎月集うティータイム、集まる十人の女子たちは、明らかに業務命令で私とお茶を飲んでる風。
別日に個人的にお手紙くれたり、手土産持参で遊びに来るのは、引っ込み思案のグーさんだけだった。
金髪青目、絵に描いたような王子様の子供バージョン・グーさん。いつも私に珍しいお菓子を支給し、ほんのり笑顔で私の話を聞いている。
あんまり自発的に喋らないグーさん。
はっきり言って、こっちがけっこう気を遣う。
ケーキを食べて、お茶飲んで、クッキーかじって満足した後、グーさんのほほえみの沈黙に耐えきれなくて、いつも私がマシンガントークを繰り広げる。
内容は、主に身内の自慢だよね。
あとは、主に家族の愚痴だよね。
なかなかないでしょ? こんな生粋の悪役一家。パピーの仕事関係者だって、みーんな悪役凶悪人相。ゴッドなファーザーのファミリーなのかって?
それは私にはわからない。
実は彼らの仕事内容は、未だによくわからない。
私だけ、完全にハブられている。
パピーの仕事仲間のおじさんたちを、私は心の中で警備員と呼んでる。その彼らの子供たち。彼らが年々人相が悪くなり、顔や腕に傷が増えていくのを指摘したことがある。
でも虐待による生傷ではないそうなのだ。
何故わかるのかって?
それは訓練によるもので、お兄さまズも同じプログラムを行っているのだそうだ。だからあんまり子供の私が口出さないでって、周りの大人が言っていた。
その現場を見学したことがあるのだが、本物の武器による実技訓練で、彼らは命懸けで試合を行っていた。
しかもなんとそれは、私を含める悪役一家とその一味を、護るための訓練だと言う…。
頭が下がる。実際に彼らに下げたことなど無いのだが。
悪役一家は王族の王様以外に頭は下げなくてよいのよと、マミーに言いつけられている。だから心の中でだけ、いつも警備員たちにペコペコ感謝しているの。
そんな私は、身内自慢を一人だけの友達に披露してるんだ。
聞いて聞いて、すごいでしょ?
優秀でしよ?うちの警備員たち。
きっとグーさんのお家の警備員たちにも、負けないよ!
悪役らしく、自分身内自慢は高らかに。そして家族の愚痴はほどほどに。そんな会話でたまにグーさんは笑ってくれるが、お喋りし過ぎてあとで横で見ていた子供警備員に注意される事もある。でもそれにも笑って許してするのが私。
しかし十四歳を目前に、なんとグーさんが私の婚約者であるとパピーから知らされた。
しかもグーさん、王族だった。
ショック。
なんてこと。
やっぱこれってあれだよね? 乙ゲーには付き物の、ヒロインの攻略対象の王子様に、もれなく付いてくるあの悪役婚約者設定ってやつだよね?
幸いにも、グーさんは皇太子とかではなかったのだが、彼の訪問こそが業務命令だったことに、私は深く傷ついた…。
ならばやるべきことは決まっている。
死亡フラグを回避するためには?
アレでしょっ!
それ以降、私は婚約破棄を熱望するために、グーさんとのお茶会をやめることにした。
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