第99話 2台のN15

 ベース車が決定した翌日には、教師水野によって2台のパルサーが運び込まれていた。

 教師水野は第二練習場の開設時に、3台の部車の他に、練習場整備用のサファリとこの2台積み用のローダーも中古で買ったんだって。

 でもって、これはアトラスって言うの? なんか、明らかにドアの周辺に日産のマークを消したような痕跡があるんだけど、これってもしかしてディーラーで使ってたやつなのかな?


 私も運転して、大会や合宿の時なんかは役立てたいな……と思ったんだけど、私の免許だとこの手のローダーはダメなんだって。

 教師水野の頃だと、1台積みは問題なく運転できるらしいけど、どうやら教師水野は大型も持っているらしく、この2台積みを運転できるそうだ。


 七海ちゃんたちは、2台のパルサーを前に息を飲んでいた。


 「これがダート大会の出場マシンですか?」

 「他の学校の裏をかいてパルサーVZ-Rって選択が渋いっス!」


 七菜葉ちゃんと七海ちゃんが口にした。

 私は、今回の車両制作の概要について話をした。


 「みんな、分かってる人も多いだろうけど、ダート車両は、パルサーVZ-R・N1・バージョンIIのメカをこの赤いボディに移植させるからね!」

 「押忍っ!!」


 みんなは嬉しさのあまりなのか、格闘技連合の頃の返答をしてきて、ビックリした沙綾ちゃんに怒られていた。


 そして、私の話が終わると、みんなの興味は主にVZ-Rの方へと向かって行った。

 エンジンルームを覗き込んで、エンジンのヘッドカバーを見て感動する娘、室内を見て、スカイラインGT-Rと同じシートである事を発見している娘、足回りを覗き込んで見る娘……と、それはそれは凄いものであった。

 しかし、ボディの提供車となる赤いセリエレッツォの方には私と沙綾ちゃんしかいなかった。


 私たちは、これから競技車として生きていくこのパルサーが、今現在どんな動きをするのかを知りたくなって、2人で乗り込むとエンジンをかけて練習場を何周かしてみた。

 まぁ、感想は普通のコンパクトカーのオートマで可もなく不可もなくで、パワーの出方も穏やかで、決して回らないとか、パワーが無いとかいう訳ではないけど、どうにもひと息パンチが無くて……という感じだった。

 このエンジン同士ならば、マニュアルでもそう変わらないように思えちゃうんだよね……。


 とっても普通の車過ぎて、これで本当にダート車になるのかな? と思ってしまったけど、車自体に乗る機会の少ない沙綾ちゃんは、嬉々としてセリエレッツォで練習場を何周もグルグルしていた。


 セリエレッツォでガレージに戻ってくると、既に七海ちゃんを中心としたグループで、ホワイトボードにVZ-Rから何を抜き出すべきかが挙げられていた。

 エンジンやミッション、足回りなんていう定番のものが書かれている他にメーターが挙げられているところに、この間のムーヴの作業をこなしたみんなの成長が見て取れた。


 それらを沙綾ちゃんと見ていて、私はある事に気がついた。


 「あのさ、リアのブレーキは?」

 「容量は同じじゃないっスか?」


 七海ちゃんが、素っ頓狂な声で言ったが、私は言った。


 「いや、それ以前にレッツォのリアはドラムブレーキだよ」

 「ええっ!?」


 七海ちゃんが驚いてパルサーの後輪を覗き込むと、同時に


 「このっ、バカナミ! コンパクトカーの低グレードのリアブレーキって、ドラム式でしょっ!!」


 と沙綾ちゃんが言って七海ちゃんにヘッドロックを決めていた。


 「あと、内装もここまで豪華なのは要らないよね」


 私は、レッツォの室内を指して言った。

 恐らく、このレッツォは、教師水野の見立てではお買い得版のレッツォリミテッドである可能性が高いらしい。

 通常版のレッツォに比べて豪華装備がついていながら、値段はお得というこのグレードの内装は、やはりダート車には無駄なので、VZ-R・N1のものと交換する事にしよう。


 しかも、VZ-R・N1はパワーウインドーじゃないっていうのも、ダート車としてポイントが高くて、軽量になる上に故障因子の少ない手動ウインドーが競技車の主流なんだよ。

 本当は、軽耐久レースに出場したエッセに関しても、舞華ちゃんが言うにはパワーウインドーなしにしたかったんだけど、残念ながらエッセは全車パワーウインドーが標準装備になっていたので諦めたのだそうだ。


 それにしても、挙げていくだけでも結構重作業になるんじゃないかって気がしてきちゃったよ。

 エンジンやミッションなんかは言うまでもないけど、恐らくコンピューターのハーネスなんかも違うから、完全に配線引き直しになっちゃうね。

 同じ車種、型式でも、こうも違ってくるとなんか別の車みたいに見えてきちゃったよ。


 もしかしたら、ボディの補強なんかも違うかもしれないけど、競技車でロールバーなんかも組むからそれはもし違っても、ある程度はカバーできるかもね。

 それで、まずは何をしていったら良いかを考えた際に、最初に出てきたのがセリエレッツォの分解という結論になって、早速場所を移動して解体開始したんだ。

 場所に関しては、結構長期になるので最後尾にしないと、他の車の作業予定が入った際に入庫できなくなっちゃうからね。


 2台並ぶと、確かに凄味という点では、VZ-Rに軍配が上がるんだけど、正直この小豆色の方が見た目的には華があって好きなんだよね。

 みんながどんな外装にしたいのかはまだ決まっていないから、あくまで私の意見としてね。


 最初に手を付けたのは、エンジンやミッションを降ろす関係もあって、フロントのバンパーやグリル、ライトなんかを外したんだ。

 エンジンが違えば、ラジエーターなんかも違ってくるだろうから交換になるし、そうなると、前にエッセを整備した時みたいに前回りの部品が付いていない方が整備しやすいんだよ。


 まずは簡単なところからフロントグリルを外す事にして、裏を見ると4つの突起でライトについているので、それをプライヤーなんかで縮めながら引っ張ると外れたんだ。

 次にライトを外していってから、本丸のバンパーを外したんだ。


 エッセの時にも驚いたんだけど、バンパーってほとんどがビスとか、プラスチックのクリップみたいなもので留まっているんだよ。

 ただ、このパルサーがエッセと唯一違ったのは、バンパーが頑丈な鉄製の芯に乗っていて、それに固定されていた事なんだよ。


 「レインホースって言うんですよ。軽には無い車が多いけど、登録車にはついてるんですよね」


 陽菜ちゃんが嬉しそうに言った。

 どうやら、お父さんが小さい頃からよくバンパー交換なんかをやっていたらしいよ。

 それによると、そのレインホースってかなり頑丈で、鉄パイプで叩いたくらいではビクともしなくて、結構重いんだって。


 「だったら、外して軽量化したら良いんじゃないっスか?」

 「なに言ってんのよ、バカナミ! そんな事したら、ぶつかった途端にフレームにまでダメージが及ぶでしょ!」


 七海ちゃんが不意に言って即、沙綾ちゃんに否定されていた。

 

 「でも……」


 それでも食い下がろうとする七海ちゃんに、私は


 「でもね七海ちゃん、私もそう思うよ。特にダートなんて、ぶつかる可能性が高い競技みたいだからさ」


 と言うと、七海ちゃんは


 「ううっ、確かにそうかもしれないっスね」


 と言って同意してくれたみたいだよ。


 グリルやライト周りとバンパーが外れて、これで、フロント周りはスッキリしたよ。

 遂にここから、メインメニューのエンジンとミッションの脱着にいけるね。 


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『エンジンやミッションの交換って、そんなに簡単にいけるの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。

 

 

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