第7話 かえりみち

 頭を抱えながら、部活が終わった。

 七海ちゃんと3年生は、まだ打ち合わせが続いているので、今日はその他の1、2年生は解散となって、私は沙耶ちゃん達と駐車場まで一緒に歩いた。

 沙綾ちゃんと瀬能せの七菜葉ななはちゃん、一ノ瀬陽菜ひなちゃんだ。みんな同じクラスで自動車部だけど、この2人も例に漏れず格闘系の部の出身者で、七菜葉ちゃんがテコンドー同好会、陽菜ちゃんはレスリング部のエースで、2人共県大会優勝者なんだって。


 「それにしても、最初から困っちゃったね」


 沙綾ちゃんが言った。

 そうなんだ。結局どうやったら良いのか、教師水野の資料は複雑すぎて分からずに、みんなで色々な意見を出し合ったものの、どうやってオルタネータの動力を止めるかで結論が出ずに、結局、教師水野に訊きに行ったのだけど、職員会議がある事を失念していた水野のミスによって、指示は明日に持ち越しとなって、教頭先生から、今日の部活動は終了と強制解散させられてしまったのだ……。


 「水野は、ああいうところがあるから困るんです! 前も職員会議と追試がバッティングして、教頭に怒鳴り込まれたって、ズッキー先輩が言ってましたから」


 沙綾ちゃんが言った。

 なるほど、舞華ちゃんに言われた通り、天然さんなんだ。


 いつの間にか教師水野の愚痴り大会になってしまった私達の集団は、駐車場のサニーのところまでやってきた。

 バイク置き場は、更に向こうなので、みんなとはここでお別れだ。


 「燈梨さんのその車、どうしたんですか?」


 訊いてきたのは陽菜ちゃんだった。


 「ヒナちん、どういう事?」

 「この間、ズッキー先輩とマイ先輩が、燈梨さんは、部車と同じ14シルビアに乗ってるって言ってたから……」


 七菜葉ちゃんの質問に対して陽菜ちゃんが答えた。

 なるほど、そこまでみんな知ってるんだね。

 

 「今、先生から借りてるんだ。私の車は、来週からになるんだよ」


 と答えると、沙綾ちゃんが


 「このサニー、前に結衣先輩が、繋ぎで乗ってた車だ」

 

 と言うと


 「そうなの!?」

 「サヤっち! マジ? これ結衣先輩の車なの?」

 

 と、陽菜ちゃんと七菜葉ちゃんが沙綾ちゃんに聞いていた。


 ちなみに、結衣先輩とは、3年生の伊藤結衣ちゃんだ。

 舞華ちゃんや柚月ちゃんのグループの娘で、自動車部のメンバー、以前は陸上部のエースだったらしい。

 車は、3年生メンバーの定番、R32型スカイラインのGTS25に乗ってる。夏休み前までは2ドアだったけど、事故を起こして廃車になり、4ドアに変わったというのは、部員の間でも有名な話らしい。

 沙綾ちゃんが言う繋ぎとは、2ドアが事故で廃車された後、今の車になるまでの期間、今の私のように代車として乗っていたのだろう。


 「いや、恐らく、山の上の解体屋のオヤジと水野が結託してるから、その関係で水野が貰ったかなんかしたんじゃね? と思うんだよね」


 沙綾ちゃんが、凄く鋭い目つきで考えながら言った。

 なんか、沙綾ちゃんって、遠目に見てると目立たないけど、分析とかは半端じゃないから、実質、2年生で部を回してるのは彼女のような気がするんだよね。七海ちゃんを表に立たせて、上手く裏でコントロールしてるような感じがする……。


 とにかく、ここで白黒つく話でもないので、今日のところはここで解散して、バイク組と別れて私はサニーで家路についた。


◇◆◇◆◇


 別荘に戻ると、エントランスに見覚えのある黄色いランエボが止まっていた。

 私が戻ると、沙織さんと2人が出迎えてくれた。

 沙織さんがこっちでショップ店員だった頃に、よく来ていたJKのグループで、当時から仲良くしていた、自称沙織さんの弟子達のうちの2人だ。


 竜崎唯花りゅうざきゆいかさん。沙織さんに似た感じの明るい茶髪と、右でサイドテールにした髪型、それとメイクがちょっと濃い系。性格は人懐っこくて明るめだけど、頭は良い。車は、表に止まってるランエボVII・GSR。

 

 伊丹朋美いたみともみさん。背が4人中で最も高く、黒髪ロングで目つきがキリッとしている。スポーツが得意で、高校時代はバスケ部で県大会優勝した時のキャプテンらしい。唯花さんの幼馴染で、車は、R30型スカイラインRSターボC。


 あと3人いて、5人グループなんだけど、桃華さんは、東京の大学に行っているので、向こうに住んでいて、フー子さんとミサキさんは、今日はバイトで来られないそうだ。


 「おおっ! 燈梨、学校には慣れたか? って、まだ2日目かぁ……そうだ、オリオリから聞いたよ、例の自動車部に入ったんだって?」


 唯花さんがニコニコしながら聞いてきた。

 やっぱり、私の経緯を知ってるので、学校生活が上手くいくかを心配してくれているのが伝わってきたので、私はニッコリすると


 「うんっ! もうすっかり、みんなとも仲良くなって、早速部活にも出てきたんだ」


 と言ったところで、夕飯の準備ができたので、私は着替えに寝室へと行った。

 

 夕飯の席では、早速今日の部活の事についての話をした。

 今後の活動の話を聞くと、唯花さんはビックリしたように


 「いきなり、耐久レースに出場するのって、かなりチャレンジャーだよ。大丈夫なのかなぁ?」


 と言っていた。

 私は、それがどれくらい大変な事なのかが分からなかったが、沙織さんや唯花さんが言うには、結成仕立ての少年野球チームで、社会人野球にリーグに出るくらいのイメージでいれば良いみたいだ。

 恐らく、高校生で出場してるのは私達の学校くらいで、最低大学生から、メインはそれなりのベテラン勢で、プロ同士が息抜きに出場するなんて場合もあるらしい。


 次に、私はさっきスマホで撮った競技車両を見せると、3人はそれを喰い入るように見ていた。

 すると、朋美さんが


 「エッセは、ベース車としては良いと思うよ。パワーはないけど、その分素直で、重心も低いから、レースに向いてるよね」


 と言ったところ、唯花さんが


 「まぁ、誰かさんは、私のムーヴを横転させたからなぁ」


 と朋美さんに対して嫌味を言った。

 以前に聞いたが、朋美さんは、免許取り立ての頃、唯花さんがお母さんから貰って乗っていたムーヴでサイドターンをしようとして横転させたことがあるそうだ。

 すると、朋美さんは顔を真っ赤にして


 「その話は、今関係ないでしょ!」


 と言ったが、沙織さんと唯花さんはニヤニヤしながら朋美さんを眺めていた。

 私は、早速今日あった出来事を話して、現在、作業が滞っている事を伝えると、3人はそれぞれ考え込んでしまった。


 しばらく沈黙が続いたが、口火を切ったのは沙織さんだった。


 「でも燈梨、オルタネーターだって、勝手には回らないから、指令を伝える電気信号があるはずよ。それを探してスイッチを割り込ませるしかないと思うわよ」


 と言うと、唯花さんが続けて


 「オリオリの言う通りで、どこかに信号線があるはずなんだよね。ミッキーのローレルみたいなエンジンがデカい車だと面倒だけど、軽なら結構隙間あるだろうから、潜って調べてみた方が良いかもね」


 と言った。

 唯花さんが言ったミッキーとは、ミサキさんの事で、ミサキさんのお父さんから譲って貰ったローレルを唯花さんが言い出してATからMTに4人で載せ替えたそうだ。


 すると、スマホを真剣な面持ちで見ていた朋美さんが口を開いて


 「燈梨ちゃん。2人の言う通りかも、オルタネータに繋がってる信号線みたいなのがある事はあるみたいだよ」


 と言うと、その画面をあとの2人が喰い入るように見ていた。


 「なんだよトモ~! 一般的なのじゃなくて、エッセの信号線の位置調べたんじゃないのかよ~!」

 「そんなの調べても、ピンポイントで出てくる訳ないじゃん!」


 唯花さんの言葉に朋美さんが反論しているのを見て、私は嬉しくなった。

 みんなが、1つの目標に向かって必死に考えてくれている今の状況を見て、私はもう、1人じゃないんだと。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 お読み頂きありがとうございます。

 たくさんの★、♥評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。

 今後の、創作の大きな励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。


 次回は

 解決策のヒントを見つけたものの、考えあぐねる燈梨に、唯花が一発逆転のアイテムの存在を教えてくれます。


 お楽しみに。

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