女子高生が『車部中』になっていく話

SLX-爺

プロローグ 転入生

 遂にやって来たんだ。またこの場所へ。

 明日からは、学生生活の再出発だ。


 私、鷹宮燈梨たかみやあかりは18歳だけど、明日から高校2年生として再出発するんだ。

 17歳の冬の初め、家庭の事情で北海道から家出をしてきて、あちこちを転々とする中で、裏稼業人のコンさんの仕事現場を目撃して以降、コンさん曰く『捕虜を軟禁している』と、言われながらも、匿ってかくまってもらって過ごし、家出から1年を迎える寸前に再出発をセッティングしてくれて今に至る。


 コンさん達が取り計らってくれたおかげで、私は世間的に『毒親』に分類される母さんと、それを黙認し、世間体のために私を家に縛り付けていた兄さんとは離れて、私が見つけたこの地で1人で暮らしながら、再出発を図る事になった。

 

 借りたアパートに入居するのは土曜日からになるので、今週は隣県にある、コンさんの師匠の別荘から通学することになるんだ。

 私の新たに通う学校は、高原の小さな街の外れにあり、非常に交通の便が悪いため、学校側からバイクや車での通学が奨励されているという全国的にも珍しい高校なのだ。


 なので車の免許を持っている私も、2年生としては例外的に4輪通学の許可を貰っている。ただ、私の車は、こっちに来る時のゴタゴタでコンさんの家に置いてきたために、今週はコンさんの二番弟子である沙織さんが、こっちに泊まり込んで車で送ってくれているんだ。

 

 初日は始業時間の1時間前には学校に到着し、職員室で説明を受けながら、編入するクラスの発表を受けた。

 正直、校内設備の説明に関しては受験前に説明会に行き、その上で転入試験の合格発表の時にも聞いているので新鮮味はなく、おさらいの様なものだった。


 この学校って、バイクや車通学目当てに転入してくる学生が多いって、話は聞いてたけど、今回はどこかの会社の施設ができる関係で転入生が多く、1年生が3人と、2年生が私を含め2人入学するらしい。

 もう1人の2年の転入生は男子らしい、さっきから私の方をチラチラ見てる気がするけど、転校に慣れてないのは私も一緒なのでチラ見されても困るかな……。


◇◆◇◆◇


 始業時間も過ぎ、あっという間のお昼休みになった。

 朝、職員室で一緒だった男子とは違うクラスになったから、このクラスには転入生は私1人だった。

 

 初めての転校と、1人だけ前に立っての自己紹介って、かなり緊張したけど、終わっちゃうとなんでもなく、そして授業もスムーズに進んでのお昼だった。

 転入初日だけに、まだクラスに溶け込めていない私は、戸惑っているところに


 「燈梨さん」


 と声をかけてきた娘を見て、私は安堵した。

 彼女は、荻原七海おぎわらななみちゃん。背は、女子としては標準の私より少し低めで、いつもポニテにしてるが、その位置は日によって違うのが特徴の可愛らしい娘だ。ちなみに今日は左サイドでまとめている。


 彼女は、私をこの学校と引き合わせてくれた2人の恩人の後輩で、夏休みに学校見学に来た時から、親しくしてくれた頼れる娘だ。


 「あ、七海ちゃん。必死だったから分からなかったけど、一緒のクラスだったんだね~。良かった」

 「燈梨さ~ん、忘れないで欲しいですよ~、自分はずっといましたよ~」


 ちなみに七海ちゃんの一人称が『自分』だったり、何度言っても敬語を使ってくるのは、彼女がつい最近まで各種格闘技に精通していて、色々な格闘技の大会に出場している選手で、空手部の副部長だった事に関係してるんだ。


 つまり、七海ちゃんはズブズブの体育会系なので、私が年上である以上は、そう呼んでくるのだ。

 私的には、あまり年上という壁を作って欲しくないんだけど、まぁ、おいおい言っていくしかないよね。


 ちなみに七海ちゃんの空手の試合というのを、動画で見た事があるんだけど、小柄で可愛らしい七海ちゃんの外観に似合わず、強豪の選手にもガンガン向かっていく、ファイティングスピリッツ旺盛なスタイルなんだよ。


 「七海ちゃんは、学食派なの?」


 七海ちゃんに連れられて学食に向かいながら、訊いてみた。


 「自分は、料理とかしたことが無いっス! 子供の頃からトレーニングと、練習ばっかりだったので……」

 「そうなんだ……」

 「だから、憧れちゃいますよ。料理できる人に」


 七海ちゃんが一瞬見せた、寂しそうな表情を見た私は


 「私の引っ越しが落ち着いたらさ、一緒にやってみない?」

 「良いんですか?」


 こちらを、ぱぁっとした表情で見上げた七海ちゃんに


 「うんっ!」


 と、頷いて言った。


◇◆◇◆◇


 七海ちゃんに連れられて学食に行くと、クラスの女子全員が集結していた。

 正確には、その日試合だったラクロス部の2人以外という事にはなるんだろうけど、全員が集まっていた事に驚いていると、間髪入れずに七海ちゃんが私の背中を押して前に出すと同時に


 「みんな~、注目! 今日は、ウチらのクラスに、待望の転入生として、鷹宮燈梨さんが来たっス。燈梨さんには、色々な事情があって……」


 と紹介ついでに、とんでもないことまで話し始めたために止めに入った。

私が、ここに至るまでに辿った経緯については、あまり知られたくないよ。

 すると、七海ちゃんがニヤッと笑って


 「とまぁ、燈梨さんが今日からクラスの仲間に加わったよ~、だから当然だけどみんな、仲よくしようねぇ。私からの、お願いだゾ」


 と、今までになく可愛らしく言った。


◇◆◇◆◇


 七海ちゃんのお陰で、お昼の時間でクラスのみんなとの距離が一気に縮まったのは、嬉しかったよ。

 今までの私って、家が厳しくて学校にいる間しか自由が無かったから、クラスの娘達とも仲良くなった事って無かったんだ。

 だからいきなり高2デビューって言われても、上手くできるか不安があったんだけど、安心したよ。


 元々聞いてたけど、この学校って事情があってダブりで転入してきたり、数年遅れで入試受けて新入生で入って来る人もたまにいるから、別に壁を作られたりとか、妙な詮索される事無くクラスに溶け込めるんだって。


 午後の授業も、順調に進んだ。

 ほぼ1年ぶりの授業は、久しぶりなのと北海道の高校と範囲が変わっているんじゃないかってのがあって、凄く不安だったけど、基本は同じだったし、最近は沙織さんの子分の大学生で、教職課程をやってる唯花ゆいかさんに教わっていたので普通について行くことが出来た。

 先生も『分からない事とか、不安があったら後でいいから訊きに来てね』って心配してくれてるので、学校生活への不安は1日目で消し飛んでしまった。


 放課後になり、クラスの女子に囲まれながら20~30分話していると、七海ちゃんがやって来て


 「燈梨さんは、先生の命により借りて行くよ~。じゃぁ、みんな燈梨さんは、このまま帰りだからね~」


 と言って、私を連れだした。


 廊下を歩きながら、七海ちゃんが言った。


 「部なんですけど、明日正式に入部と案内なので、今日は1、2年生との顔合わせと、先生との打ち合わせて終了です」

 「そうなの?」


 とても残念だった。

 私は、夏休みに学校案内をして貰った段階で部に関しては決めていたのだ。だから、今日から早速、入部できるものだと思っていた。

 私にとって、人生で初めての部活を楽しみにしていたのにお預けとは……。


 七海ちゃんに連れられて入ったのは、転入試験を受けた別棟にある教室だった。一応、プレートには『第二視聴覚室』って書いてあったけど、中にそれらしい機材は無いので、空き教室だろう。


 そこには、40人くらいの女子生徒がいて、私たちが入って来ると一斉に歓声を上げた。

 この中の大半の顔に見覚えがあるのは、学校案内の際に部活に見学に行った際に、顔を合わせているからだ。


 「みんな~。燈梨さんが今日から転入してきて、これから入部の手続きに行ってくるからね~。活動は明日からだけど、今日は最初に顔合わせと挨拶だけね~」


 と七海ちゃんが言うと、みんなが一斉に1列に並んで、自己紹介を始めた。

 最後に私がみんなに自己紹介をしたが、まだ硬い感じがしたのか、みんながシーンとしていたのが、ちょっと怖かったかな……。


 「七海ちゃん。私の自己紹介、硬すぎたかな? みんなとの間に壁を感じちゃったんだけど……」


 自己紹介が終わり、先生の元へと向かう途中で私は不安をぶつけた。


 「そんな事ないっスよ。ただアイツらの大半も格闘技系の部の出身なんで、ちょっと上下関係に厳しいというか、最初の距離の取り方が掴めないというか……そんな感じなんですよ」


 七海ちゃんは、こちらを向いて苦笑いをしながら言った。

 そして


 「でも、信じて欲しいのは、みんな燈梨さんが入部してくれて、とっても嬉しいんです! それは間違いないですから」


 と、私の手をしっかりと握りながら言った。


 七海ちゃんは職員室に入ると、1人の教師の元へと私を連れて行った。


 「先生、お願いします。それじゃぁ、燈梨さん。また明日」


 七海ちゃんはそう言うと、職員室を後にした。

 私はその得体の知れない教師と共に残された。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 多数の作品の中から、お読み頂きましてありがとうございます。

 転校生の燈梨が、珍しい高校の自動車部に入部して奮闘していく物語を執筆予定ですので、長い目でお付き合いよろしくお願いします。


 ★、♥評価、ブックマーク等頂けますと、今後、作品を続けていく活力になりますので、宜しかったら、お願いします。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。

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