糸を引く者 肆

同時刻 牛魔王邸周辺の森


丁達と牛頭馬頭達は今だに交戦中だったのたが、ピタッと動きを止める。


一同は一斉に、空に開いた黒い巨大な穴の方に視線を向けた。


「おいおいおい!?何なんだよ、あの穴!!てか、なんか出てきたんだけど!?」


李が叫び声と同時に、穴の中から大きな芋虫達が出て来ていた。


「おや、この妖気は何でしょう。いや、妖気と言って良いものでしょうか」


「おい、白沢。お前、察しが付いてんだろ」


そう言って、牛鬼馬頭は白沢に尋ねる。


「いやいや、私にも分からない事はありますよ。まぁ、強いて言うなら…。"異形の者"と言った所でしょうか」


「あ?異形だぁ?」


牛頭馬頭は、白沢の言っている意味が全く分からなかった

白沢は何かを含んだ笑みを浮かべながら、丁に声を掛ける。


「貴方は何かを感じているのでは?」


「あ?テメェ、うちの隊長に気安く話し掛け…」


「異形の者、この世の者ではない奴等が出て来てる昔、村長'らから聞いた事がある」


李の言葉を遮るように、丁が何かを思い出しながら呟いた。


「本当なのかどうかも思っていなかったが…。本当に異形の者が出て来たのか」


「その話の続きは、こうじゃなかったですか?『異形の者が現れし時、この世の終わりを示す時。異形の者がこの世を占める時、一人の王が生まれし時』ってね」


丁が口に出した伝承の続きを白沢は流暢に語る。


「一人の王だと?そんなのただのおとぎ話かなんかだろ」


「それが現実に起こっているじゃないですか。ほら、空に大きな亀裂が…」


白沢に促された牛頭馬頭は空を見上げた。


大きな亀裂が空一面に入っており、亀裂の間からも巨大な芋虫達が湧いて出て来ていた。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁあぁあ!!?」


「李、うるさい」


高は耳を押さえながら、大声で叫ぶ李を睨み付ける。


「おいおい、あの芋虫。よく見たら人間の死骸達が固まった物だぞ」


胡の言葉を聞いた丁達は再び、巨大な芋虫達に目を向ける。


様々な格好をした数百人の死骸達が、同じ状態で一つに固まっていたのだ。


「お遊びはここまでにしましょう、牛頭馬頭」


「あ!?何でだよ!?お前が…」


「我々の王がお呼びですよ。どうやら、本腰を入れて動き出すようだ」

 

「…ッチ」


白沢の言葉を聞いた牛頭馬頭は、持っていた武器を下ろす。


「貴方達もご自身の王にお伝えなさいな。この世の終わりが近いと。そして、この世に王は一人しかいらないとね」


「俺達を見逃す気か?」


「見逃すもなにもねぇ…。私達の王からお呼び出しを受けたので、行かないといけなくなりましたし。暇つぶしには丁度良かったですよ」


「暇潰しだと?」


「暇つぶし以外にありますか?」


丁の問いに答えた白沢の目は氷のように冷たかった。


その目を見た牛鬼馬頭も思わず後退りしてまう程。


「次に会う時は殺し合いの時ですね。さぁ、行きますよ?牛鬼馬頭」


「分かってる」


二人は丁達に背を向け、森の中へと姿を消した。


「何なんですか、あの白沢って奴!!暇つぶしとか言いやがって」


「李、白沢は言葉通りにしていたんだよ。俺達とは遊んでいただけだ」


「くっそおおお!!あの糞ガキを殺し損ねた!!」


「近いうちに会う事になるだろうな。それよりもだ、本当に世界が終わりに向かってるのだろうか」


李を宥めつつ、丁は再び空に目を向ける。


大きな亀裂の入った空からは、異形の者達が溢れ出て来ていた。 


ドォォォーンッ!!!


その時、丁達の目の前に白い鳥居が降り立つ。


「「「うわぁあぁあっ!?」」」


三蔵と猪八戒、沙悟浄の叫び声が重なり合う。


勢いよく鳥居の中から、悟空達が一斉に飛び出して来た。


その後ろから哪吒と風鈴の二人も飛び出す。


「若!!ぐへぇっ!?」


ドカッ!!


「あ、悪りぃ」


悟空を受け止めようとした李だがタイミングが悪く、悟空に蹴り飛ばされてしまう。


「痛たたたた…って、ここはどこだ?下界なのは間違いないだろうけど…」


「牛魔王邸の近くに降りちゃったみたいだねぇ。お兄ちゃん、大丈夫?」


「おい、風鈴。俺の言葉に反応したんなら、俺を起こしてもバチは当たらないのでは…」


自分よりも沙悟浄を優先した風鈴に三蔵は問いただす。


「三蔵、大丈夫?」


「うぅ…、哪吒の優しさが逆に辛い」


「え?辛い?どこか怪我したの?」


「いや、哪吒。俺はどこも…、強いて言うなら心が…」


「心?少し休んだ方が良い」


三蔵を起こした哪吒は、三蔵を木陰の下に移動させる。


「なんか、三蔵の扱いが雑過ぎて可哀想になってきたなって…。おいおい、あの空の穴は何だ!?」


猪八戒の叫び声を聞いた三蔵達は、一斉に亀裂の入った空を見上げた。


「なんじゃ…こりぁぁぁぁぁぁ!?」


「お前のそう言う反応するからだわ、扱いが雑にされんのわよ…」


「え!?俺の反応の所為!?」


「オーバーリアクションだからじゃね?」


「うぐっ?!」


猪八戒の言葉により、三蔵の心に大きなダメージが入る。


「若、実は…。若達が来る前、白沢って妖怪とやり合ったのですが…」


丁から事情を聞いた悟空達は、再び空に視線を向けた。


「異形の者ってのが出て来ちまってるって事…か。そもそもよ、何で出て来たんだ?誰かが意図的に呼んだって事か?」


「呼んだとしたら毘沙門天等か?」


「じゃない?観音菩薩達が呼ぶ理由が思いつかんし」


「猪八戒の言うとおり…なのか?」

 

猪八戒と沙悟浄の会話を聞きつつ、悟空は違う方角の方に視線を向ける。


「ここら周辺が血臭ぇ。あの芋虫ども、一斉に血臭ぇ

場所に向かってんな」


「あ、本当だ。虫達が向かってる場所に向かうか?移動するのには変わりないし…」


「觔斗雲(きんとうん)で行った方が早いだろ」


三蔵の問いに答えながら、悟空は觔斗雲を召喚した。


ボンッ!!


大きな雲が悟空の目の前に三つ召喚され、悟空達は三手に分かれて觔斗雲に乗り込む。


ふわふわとした柔らかい雲はゆっくりと上昇し、芋虫達の後を追うように移動を始める。

 

「おおおお、觔斗雲の乗り心地やばいな。思った以上に乗り心地が良い」


悟空の隣に座っている三蔵が絶賛する中、後ろに座っている哪吒は顔を歪ます。

 

「悟空、あそこの寺の集落…」


「桁外れの死臭の量がしてるって言いたいんだろ」


「うん、数人所じゃない」


哪吒と悟空が話す中、三蔵がいきなり自身の鼻を指で摘み出す。


「ゔっ、生ゴミみてぇな悪臭がっ…」


「これが死臭だよ、三蔵。腐ったゴミみたいな匂いは」


「沙悟浄は平気なわけ…?」


「鼻で息してねーならな。口でした方が良いぜ、それが布で鼻を覆うかだな」

 

「布なんがないよ…。仕方ないから口で息するよ…」


沙悟浄の提案を断った三蔵は、なくなく口呼吸をする

事に。


「お、おい。そんな事より到着したみたいだぜ。これは…、思った以上に凄い事になってんな」


猪八戒の視線の先に広がっていた光景は、目を疑う物だった。


廃墟した寺達の外装に芋虫達が張り付き、飛び散った赤い液体を啜っている。


抱き合っていた死骸達が顔だけを前に出し、必死に舌を出して舐め回す。


風鈴が地面に飛び散った赤い血を指で拭い、指を鼻に近付て匂いを嗅ぐ。


「これ血だねぇ、人間の。死臭が漂ってるのは…、あそこからだね」


そう言って風鈴は、とある寺を指差す。


悟空達は寺に建てられた鳥居を潜り、神門を通り抜け参道を歩く。


拝殿の奥にある本殿の入り口から、夥しい量の血が流れ落ちている。

 

「これ全部、血だよな…?」


三蔵はあまりにも多い血の量を見ても、今だに信じられない様子。


悟空一人だけが本殿の中に入り、血溜まりの中を歩き始める。


「入りたくねーなら、お前は外にいろ。丁、お前等は三蔵の側にいろ」


「分かりました」


悟空の命令を聞いた丁は、返事をしながら頭を下げる。


「え、それは流石に…って、悟空!?」


「不安なら風鈴も置いてくから」


トンッと三蔵の肩を叩いた沙悟浄は、悟空の後を追うように本殿の中に入って行く。


何も言わずに三蔵の肩を叩いた猪八戒も本殿の中に入って行った。


「三蔵の子守りして待ってますか」


「子守りって何だよ!?」


風鈴の言葉に対して三蔵が反応した直後、哪吒の短い言葉が漏れる。


「あ」


「「あ??」」


三蔵と風鈴の言葉が重なった直後、血に夢中になっていた芋虫達が一斉に三人に視線を向けた。


「なんか嫌な予感しかしないんだけど…」


「それは同感だね」


「なーぜに、あの虫達は俺達の方を向いたんだろうね?」


「あ、それ言ったらヤバイんじゃない?」


風鈴と三蔵が話す中、ゾロゾロと芋虫達が三蔵達を取り囲むように集まり出す。


「二人共、お喋りしてる暇はないけど」


哪吒は持って来ていた太刀を構え、戦闘体制を作る。


「まぁ、大体の予想は付いていたけど…。仕方ないね、三蔵の馬鹿みたいな大声の所為だしね」


「お前が喧嘩を吹っかけて来たんだろ…うがよ」


風鈴は自身の武器である風火二輪(ふうかにりん)を構え、三蔵は霊魂銃を構える。


「動き出しますよ。皆、戦闘体制に入れ」


丁の掛け声と同時に芋虫達も動き出す。


「「ギィェェェェエ!!!!」」」


ドドドドドドドッ!!!


芋虫達は一斉に三蔵達の方角に走り出した。



孫悟空ー


「うぎゃぁぁぁあぁあ!!」


三蔵のうるさい叫び声が背後から聞こえて来る。


俺は振り返る事なく進んでいると、沙悟浄がチラッと後ろを振り返った。


「三蔵の叫び声が聞こえるんだが…、大丈夫か?」


「何の為に哪吒と丁達を置いて来たのか、分かってんだろ」


「まーなぁ。しっかし、お前は本当に三蔵に厳しいねぇ。少しは優しくしてやれば?」


「それはお前に任せるわ」


ズンッ!!!


沙悟浄と会話していると、体に錘(おもり)が乗ったような感覚がした。


どうやら、それは沙悟浄と猪八戒も感じたらしい。


この感じ…、初めて親父と会った時と同じ威圧感。


神のオーラ…と言うものなのか。


『悟空』


少し低い女の声が聞こえ、女が俺の名前を呼んだ。


俺を呼んでるのか…。


「悟空」


俺の腕に刺青のような形で入り込んでいた雷竜が、いきなり飛び出した。


「うおっ!?雷龍!?びっくりした」


隣にいた猪八戒は雷龍の姿を見て、声を上げて驚く。


「伊邪那美命の気配だ。何故だ?死んだ筈の伊邪那美命の気配がするのだ」


「伊邪那美命って、悟空の母ちゃんだよな?どう言う事だ?本当は生きてたって事か?」

 

「黄泉の国に落ちたら、必ずしも死ぬとは限らないが…。飛龍は伊邪那美命の最後を見届けたと言っていた。奴が嘘を付いているとは思えんが」


「行くしかねーよな。確かめるにしろ、広間に行かな

きゃな…。本当に伊邪那美命がいるかどうか…」


雷龍と猪八戒の会話を聞きながら、如意棒を適当な長

さに伸ばす。


『親子水入らずで、話をしようじゃないか。お前にとっても、私にとっても必要な時間だろうからな』


さっきから伊邪那美命らしき女が、俺の頭の中に語り掛けて来る。


俺だけを誘い出すような…、そんな言葉ばかりを並べる。


「沙悟浄、猪八戒。お前等は来るな」


「は、は?まさか、悟空だけ行くつもりか。俺達も行くに決まってるだろ」


「伊邪那美命が俺だけ来いって言ってんだよ。親子水入らずで話をしようってな」


「いやいや、怪し過ぎるだろ。罠に決まってる!!」


猪八戒は俺の肩を掴みながら、言葉を吐く。 


「俺も今回ばかりは猪八戒と同意見だ、嫌な予感がする。本当に会話するだけなら、俺達は邪魔をしない」


「お前もかよ、沙悟浄。いつの間に俺に対して過保護になったんだ?」


馬鹿にするような言葉遣いで、沙悟浄に問う。


沙悟浄の手が俺の頭に乗り、優しく頭を撫で出す。

想像していなかった行動をしてきたな。


「お前はなんでも一人で解決しようとするな。俺達を

頼る事を覚えろよ?」


「はいはい、分かりましたよ」


沙悟浄の手を軽く払い退け、広間の前まで歩きを早めた。


少しの気恥ずかしい気持ちを掻き消すように。


閉まっていた襖を勢いよく開けると、鼻が潰れそうな程の強い死臭が漂う。


床には死んだばかりの人間達が転がっていた。


血で作られた洋式のテーブルと二人分の椅子、茶器までもが血で作られている。


だが、二人分の椅子の一つには既に女が座っていた。


白と黒のツートンカラーの長い髪、右頬は火傷で爛れている女だ。


背中からは骨の羽が生えており、額からは黒色の角が一つ生えている。


真っ赤な瞳が俺を捉えるのに時間は掛からなかった。


持っていた煙管を口から話し、煙を吐きながら言葉を放った。


「お前が悟空?」


「伊邪那美命なのか、アンタ」


「ハッ、その名で呼ばれたのは久しぶりだな。後ろの男どもは何だ?連れて来たのか」


そう言って、伊邪那美命は沙悟浄と猪八戒は睨み付ける。


「まぁ良い。悟空、そこの椅子に座れ」


伊邪那美命は気怠げにテーブルに肘を付き、俺に座るように促した。

 

言われるがままに椅子に腰を下ろし、正面から伊邪那美命を見つめる。


これが本当に伊邪那美命なのか…?


「お前は息子から生まれた分身と言う存在なのか?」


「は?」


「私の息子は美猿王であって、お前は須菩提祖師とやらに作られた存在だろ?」


「だとしたら?俺はお前の息子じゃないって事だな」


俺の言葉を聞いた伊邪那美命は、意地悪そうな笑みを浮かべる。


「芋虫達を出しているのはお前だろ?伊邪那美命」


「今はもう伊邪那美命じゃない。黄泉津大神、それが今の私の名前。黄泉の国の女神と言う所だな」


「簡単な理由?」


「お前が集めている経文だ」


何故、伊邪那美命が経文の事を知っている?


そもそも、伊邪那美命は俺達が経文を集めている事まで知ってんだ。


「何故、知っているかと言いたい顔をしてるな。私が

無天経文を手にしているから、経文の存在は知っている。それと、お前達が集めているのを知ったのは息子の美猿王から聞いた」


「まさか、美猿王の側に付いたのか…?」


沙悟浄の言葉を聞いた伊邪那美命は、口元だけで笑う。


「さて、次は芋虫達が何故に出て来たかの問いだったな。五本の経文が下界に揃ってしまった影響だろう。経文自体が異形の存在が故だ。五本の経文を集める事は、世界全体の秩序を丸々変えちまう事になんだよ。そりゃあ、世界に影響を及ぼすよなぁ?」


「お前、何で美猿王に付いた。鳴神の所に何故、戻ろらない」


「何故?何で、神側にいる男の所に戻らなきゃいけない?世界を作り変えるのだ。神のいない世界で幸せになる為だよ、私と飛龍、それから息子と」


伊邪那美命はほくそ笑みながら、つらつらと言葉を並べる。


「ここに来たのはな、お前の顔を見る為だ」


「理由は何だ」


「愛着が湧くのかどうかを確かめに。だが、湧かないなぁ。やっぱり、作りものには」


「伊邪那美命殿、その物言いはやめてくれ」


沙悟浄が俺の隣に立ち、伊邪那美命に向かって言葉を吐く。


「沙悟浄、お前…」


「伊邪那美命殿、悟空は俺達の大事な仲間だ」


まさか、沙悟浄がこんな事を言うとは思わなかった。


俺が傷付いてると思っての事だろう。


だが残念な事に、全く傷付いていなかった。


目の前にいるのは、美猿王を産んだ母親の女。


俺を産み出したのは須菩提祖師…、爺さんだからだ。


鳴神だって、本当は美猿王の父親なのだ。


俺の親父は爺さんだ。


そりやぁ、伊邪那美命から見たら、俺は可愛くないだろう。


「あははは!!!仲間ごっことはなぁ。面白い、実に面白いなぁ。だが、甘いなぁ」


「何?」


「甘いと言ったんだ。美猿王の所にいる鬼達は常に殺気立っている。なのに、お前等は平和ボケしているように見える。本当に殺し合いが始まろうとしているのに、お気楽だな」


「…」


伊邪那美命の意味の含んだ言葉は、沙悟浄を黙らせるのには十分だった。


「天竺に行くのは私達だよ、悟空。それに、これから壊れて行くぞ?神の綺麗事は」


「この世界は何一つ綺麗事はねーぞ。お前も知ってるだろうけど」


「大きな戦が起きる前にお前の顔が見れて良かったぞ」


「そうかよ」


「それと、美猿王から。渡しておくぞ」


そう言って、小さな紙包をテーブルの上に置いた。


伊邪那美命は本当に顔を見に来たらしく、椅子から腰を上げ指を鳴らす。


パチンッ。


ボンッと黒い鳥居が現れ、伊邪那美命は吸い込まれるように中に入って行った。


「本当に悟空の顔を見に来ただけなのか?それよりも伊邪那美命殿、美猿王側に行ったって…。無天経文を所持してるって?情報量多過ぎだろ!!」


「落ち付け、猪八戒。確かに情報量が多いが…」


猪八戒と沙悟浄の会話を聞き流しながら、渡された紙包を開く。


中に入っていたのは指の爪だった。


しかも、両手分の女の爪だ。


見覚えのある爪紅(つまべに)の色、赤色のグラデーションカラーの爪紅。


これは…、小桃の爪だ。


爪の裏には地肉と血がべっとりと付着している。


美猿王、俺に喧嘩を吹っ掛けてやがったな。


バキバキバキバキッ!!


紙包をテーブルに叩きつけた瞬間、血のテーブルが粉々に砕けた。


「ど、どうした!?」


猪八戒は砕けたテーブルを見て唖然としていた。


「猪八戒、沙悟浄。美猿王の城とやらに早く行くぞ」


俺の中で怒りと言う感情が沸騰する。


黙って広間を抜け、本殿を出ると三蔵達は芋虫達を倒した直後だった。


「あ、悟空…って。ど、どうした?」


三蔵は俺の顔を見てギョッとする。


黙ったまま再び觔斗雲を出し、先に乗り込む。


「お前等、さっさと乗れ」


「ご、悟空?」


「聞こえなかったのか?さっさと乗れ」


「は、はい…」


三蔵は恐る恐る、俺の隣に乗り込む。


沙悟浄達も乗った事を確認し、軽く右手を挙げる。


ゆっくりと觔斗雲は上昇した後、右手を振り翳す。


ブンッ!!!


「うおおおおおおおおお!?」


スピードを上げた觔斗雲は、三蔵の悲鳴を暴風が掻き消す。


こんな所に寄ってる場合じゃなかった。


クソが、俺とした事が伊邪那美命に誘き寄せられた。


俺達を乗せた觔斗雲のスピードを再び加速させた瞬間だった。



『空間軸転(くうかんじてん)』


謎の男が呪文を唱えると、空間全体が百八十度ひっくり返える。


地上が下になり、地面が上に変わってしまったのだった。


空間自体がグニャッと歪み、觔斗雲が消滅させられた。


「なっ!?」


「は、はぁ!?どうなってんだ!?」 


三蔵と猪八戒の声が重なった時、悟空達の体は落下して行く。


「うわぁあぁぁあ!?」


三蔵が叫び声を上げる中、風鈴は冷静に状況を分析する。


「これ、着地点はあるのかなぁ?空に落ちてるって事だよね」 


「冷静に分析してる場合か!!」


「こう言う時の為の式神だよねー」


李のツッコミを受け流しながら、風鈴が式神札を取し、「出(いで)よ、式神」と呟く。 


ボンッ!!


現れた巨大な鳳凰が三蔵達を受け止め、空中を舞う。


「た、助かったぁぁぁぁ」


「安心してる場合じゃねーよ、三蔵。この状況、分かってんのか」


「状況も何も…。俺達は今、結界の中にいるんだろ?そのくらいは分かって…」


「「「「は?」」」」


三蔵と悟空の会話を聞いていた猪八戒達の声が重なる。

「え、え?」


「おいおいおい!!結界ってどう言う事だよ!?」


「どう言う事もなにも…。結界から抜けるには術師を倒さないと…」


「どこいんだよ、その術師は!!」


三蔵の胸ぐらを掴みながら猪八戒が叫ぶ。


その瞬間、空間に大きな穴が空き芋虫達が現れる。


「「で、出たぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」」


三蔵と猪八戒の叫び声が重なった直後、物凄い勢いで伸びた如意棒が現れた芋虫を突き飛ばした。


ドゴォォォーン!!


「ギェェェエ!?」


「邪魔だ、退け」


悟空のゾッとする程に冷たい声が結果内に響いた。

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