誰よりもキミを思う 壱


源蔵三蔵 二十歳


弔いの儀式が終わる頃には、既に夜になっていた。


俺達は花の都の姫である小桃の屋敷に訪れていたのが…。


「うおおおおおっ!!小桃、無事かあぁぁぁ!?」


背の小さな丸々と太った中年男性とふっくらした女性が、傷だらけの小桃を見て泣き出している。


「そんなに泣かなくても…。」


「だって、何百年ぶりに帰って来たんだぞ!?しかも、そんな傷だらけ…でって。悟空様!?」


小桃の隣に立っている悟空を見て、凄く驚いていた。


「お久しぶりで御座います、悟空様!!ほれ、お前も挨拶を!!」

 

「は、はいっ。ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。」


そう言って、小桃の両親は悟空に向かって深く頭を下げたのだ。


屋敷にいる使用人達も、悟空の言葉を聞くまで顔を上げないつもりでいるのだろう。


こうして見ると、悟空って凄い妖なんだな…。


威張る訳でもない、大声を上げる訳でもない。


悟空は静かに口を開け、「二、三日泊させてくれ。」と呟いた。


「えぇ、それは勿論かまいません!!お客人の手当てと食事をご用意させて頂きます。」


小桃の母親の言葉を聞いた使用人達は動き出す。


「お部屋にご案内しますね。お着替えも用意させて頂きます。」


「こちらへ。」


俺と猪八戒、沙悟浄、小桃は使用人に案内され、別室で治療を受ける事になった。 


各自、4畳程度の個室に通され汚れた服を脱ぎ、上半身を露わにし傷口を消毒されて行く。

 

嫌な痛みに耐えながら、使用人達が施す治療が早く終わる事を願った。


「はい、これでお終いです。首元の歯型は消え掛かっていましたので、軟膏だけ塗らせて頂きました。」


「え?あっ。」

 

使用人に言われて、哪吒に噛まれた部分に触れる。


「お着替えはこちらに。失礼します。」


パタンッ。


「哪吒と石、2人を助ける方法はないのかな。」


石にも俺の血を飲ませたら、助かるんじゃないか?


そう思ったが、毘沙門天の気を引く役がいなくなってしまう。

 

どうして、こうも物事は上手くいかないんだ。


誰かを助ける為には、誰かを犠牲にしないといけな

い。


今回の場合は哪吒と石だ。


「いや、考えればあるはずだ。うしっ!!」

 

気合いを入れるように髪をハーフアップに結び、黒い浴衣に袖を通した。



三蔵達がいなくなった後、観音菩薩が悟空に声を掛けた。


「悟空、少しだけ話したいんだが良いかな。」


「俺もお前に聞きたい事がある。」


「それは奇遇だね。少し、外で一服しよう。」

 

「若、僕達もお供します。」


悟空と観音菩薩が部屋を出ようとしたが、丁が声を掛ける。


だが、悟空の代わりに答えたのは邪だった。


「王の考えが分からないのかな。僕達が付いて行くのは、野暮ってもんだよ。」


「何だと?」 


邪の言葉を聞いた丁は、キッと邪を睨み付ける。


「そうだよね?王。僕等はここで、待っていた方が良いでしょ?」


「あぁ、お前等はここにいろ。」


「ほら、言った通りじゃないか。僕達は大人しく待っていよう。あの観音菩薩って人は、王を殺すつもりはないだろうしね。」


観音菩薩を見ながら、邪は言葉を放つ。


「それは勿論。石、君達もここで少し休みな。どのみち、三蔵が戻ってこないと話が出来ないから。」


「…。」


石は黙ったまま、風鈴と共に部屋の隅に移動して腰を下ろした。


悟空と観音菩薩が部屋を出て行った後、天が石の目の前に立ち口を開く。

 

「ねぇ、お前らの所の毘沙門天ってさ。そんなにやばいの?」


「は?何なんだ、お前。」


「さっき、お前が王の前で話してたろ。王がいなくなっちゃったし、暇潰しに教えてよ。」


「暇潰しって…。」


天の言葉を聞いた石は、ドン引きしていた。


「天、この人達も色々あるんだよ。暇潰しって言うのは、良くないなぁ。」

 

「あ、兄者。」


「毘沙門天って聞いて引っかかってた。何でかなって、思ってたんだけど思い出した。僕達、兄妹を牢屋にぶち込んだ神だよ。あぁ、思い出したら腹が立つな。」


ゴキゴキゴキッ。


邪は音を立てながら自身の爪を伸ばし、手の甲には血管が浮き出ている。

 

「牢屋にぶち込まれた?お前等が?」


「そうだよ。王が下界に落とされた後、あのクソ神は

僕等に術をかけた。捕まえて牢屋にぶち込む為にね、僕達と王を引き剥がしたうえに。」


李の問いに答えは邪の隣で、天がハッとしている。


「…そうだ。あの野郎が、王を落とした…。僕と兄者を…、牢屋に入れた。何百年もずっと、ご飯を食べさせなかった。あははは!!そっか、兄者。僕達、あのクソ神を殺す必要があるよねぇ?」

 

「詳しく教えてよ、クソ神の事。毘沙門天の全てを壊してやる為に、必要な情報を、ね?」


そう言って、石に顔を近付け口角を上げた。


「我々にも教えて貰いたい。若を陥れた神を野放しにする訳にはいかないな。」


「君達って、花果山に住んでた猿だったよね?毘沙門

天様が連れて来た。」


「黎明隊所属の胡、お前等に化け物にされた猿の一人だ。全ての元凶の毘沙門天は、若の脅威になるだろう。我々は若の邪魔になるものを全て、排除するのが役目。俺達も話に入れて貰う。」


風鈴の問いに答えた胡もまた、話を聞く為に天邪鬼等の隣に立っていた。



孫悟空ー


観音菩薩と屋敷の庭に出て、丁度いいベンチがあったので腰を下ろす事にした。


カンカンッと煙管の叩き、中に詰まった葉っぱを落とし、新しい葉を詰めマッチで火を付ける。


ジュッ。


スゥッと息を深く吸い込み、フゥッと優しく息を吐く。


隣にいる観音菩薩も同様に、煙管の煙を味わってい

た。


「まずは、アンタの話から聞く。」


「そう?じゃあ、お先に。君、牛魔王の記憶の世界に行った?」

 

「どう言う理屈か知ねーけど、行ったぞ。牛魔王、い

や宇轩の時までの記憶の世界って言って良いのか?」


「どうやら、須菩提祖師の息子だって事も知ったようだね。そこで、君は天帝とも合っているだろう?」


その言葉を聞いて、糸目の男を思い出す。


まさか、あの男が天帝だったのか?


「君だけに言うけど、天帝がようやく目を覚ましたんだ。毘沙門天の呪術を解いてね。牛鬼が、宇轩を殺し体を乗っ取った事、須菩提祖師の過去も知った。」


観音菩薩の言おうとしているのは、俺が聞きたかった事なのかもしれない。


そう思い、俺は観音菩薩に問う事にした。


「お前が話したい事と俺の聞きたい事は、同じかもしんねぇな。先に言わせろ、牛鬼と美猿王の過去を教えろ。」


「…、やっぱり。牛鬼に何か言われたんだね?そう、僕が君に言いに来たのは、美猿王と牛鬼の関係と鬼について。それから…、森羅万象(シンラバンショウ)、彼女の事も。」


ズキンッ!!


頭の奥に激痛が走ると、脳内に美猿王と鬼達の映像が流れる。


だが一瞬の出来事だった為に、何の事か分からなかった。


何なだ、今の映像は。

 

ズキンッ、ズキンッ!!


再び頭の奥に激痛が走り、脳裏にまた映像がフラッシュバックされたのだ。


男女三人の子供達が大きな泉の周りで、仲良さそうに遊んでいる。


パリーンッ!!!


だが次の瞬間、その映像に大きなヒビが入った。


誰の記憶だ。


誰の記憶だ、これは。


「悟空。その様だと君が直接、見ないといけないようだ。君のお父さん、鳴神が美猿王と鬼の伝承の書を見つけてね。下界に降りて、生き残った鬼達に会いに行ったんだ。」


「生き残った?どう言う意味だ。」


「…。美猿王と鬼達はずっと、神達と対立していたんだよ。神達のやり方に意を反した鬼達は、皆殺しにされてしまったけどね。美猿王も同様だ、彼は生まれ変わり続けて一人で戦って来たんだ。」


「美猿王が…?」

 

観音菩薩の言っている事が本当なら、美猿王は世界を変えようとしていたのか?


「牛鬼とは、何百年も前から関係があるのを聞いた。二人の関係は何だったんだ。」


「神々が最初に作った人種だよ。」


「だから、それは牛鬼から聞いたんだよ。分かりやすく言えよ、まどろっこしい言い回しをすんな。」


「それしか分からないんだよ。今、生きている神達はその事すら知らないんだ。」


観音菩薩が嘘を言っている様には、見えなかった。


「その伝承はどこにある。」


「天帝邸の書庫にあったんだ。」


「あった?今は、どこにあんだ。」


「閻魔大王(エンマダイマオウ)が持って行ってしまってね。取り戻そうとしたんだけど、頑なに渡そうとしなかったんだよ。」

 

そう言って、観音菩薩は苦笑いをする。


*閻魔大王 死者の霊魂を支配し、生前の行ないを審判して、それにより賞罰を与えるという地獄の王。 閻魔王。 閻魔大王*


閻魔大王についての事は、女好きとしか知らない。


「閻魔大王…、地獄から出て来た事なかっただろ。今更、美猿王と鬼の伝承が必要になって出て来たのか。」

 

「誰かに指示を受けていたら?どうだろう。」


「閻魔大王が命令に従うタマか?」

 

「さぁ、どうだろう。」


観音菩薩は弱々しく答えた後、煙管に口を付けた。


「おい、珍しく弱気じゃねーかよ。」


「あの伝承は君が読まなければならないんだよ。それが、君に最も重要な事なんだ。」


「だけどよ、観音菩薩。その伝承とやらは、地獄にあんだろ?どうやって、取りに行くんだ。」


俺の言葉を聞いた観音菩薩は、ニヤリと笑う。


その時、俺は嫌な予感がした。


「ふふ、そのまさかなんだよねー。」

 

「テメェ、さっきのは演技だったのかよ。」


「君は優しいよ、僕が保証する。君が須菩提祖師と出会った事は、幸運だったようだ。彼もまた、君の側を離れたくなかったんだね。」


観音菩薩の言葉を黙って聞いたまま、俺は煙管に口を付ける。


「悟空、魔天経文は君を主人に選んだ。それは毘沙門天にとって、脅威になるだろう。須菩提祖師と小桃ちゃんが、命懸けで守ってくれた。本当に感謝しかないよっ…て、君にお客さんのようだ。」

 

「あ?客だ?」

 

後ろを振り返ると、包帯だらけの小桃が少し離れた場所に立っていた。


観音菩薩は立ち上がり、俺の肩を軽く叩いてから部屋に戻って行く。


「あ、ごめんなさい。邪魔…、しちゃった?」

 

「邪魔じゃねーけど、どうした。」


「大した用じゃないんだけど…、隣…、良い?」


「あぁ。」


小桃は緊張した様子で、俺の隣に腰を下ろす。


「白虎の事、本当にありがとう。」

 

「別に、お前の泣き声がうるせーから持って来ただけだ。」


「う、うるさくないもん。」


「あ?わんわん泣いてたのは、どこの誰だ?」


そう言うと、小桃は恥ずかしそうに視線を他に向ける。

 

小桃の鎖骨部分に大きな傷を縫った跡が、包帯の隙間から見えていた。


太ももや腕、至る所に紫色の痣や切り傷が、痛々しを表している。

 

パサッ。


俺は着ていた白いマントを小桃に着せ、傷口が外の風に触れないように隠す。

 

「え?」


「着とけ、夜は冷えるだろ。」


その言葉を聞いた小桃の顔が真っ赤に染まる。


「あ、ありがとうっ。だ、誰にでも優しいの?」


「はぁ?」


「だ、だって!!こんな、ナチュラルにマントかけたり…。あ、あの泡姫って子にも優しかったし。」


「泡姫?アイツは、男嫌いだぞ。」

 

「悟空の事は好きそうだったよ?」


さっきから小桃が、何を言いたいのか分からないが…。


どうやら、ヤキモチを妬いているらしい。

 

体がデカくなっただけで、中身は子供のままだな。


昔もよく、俺の周りに女が集まると泣きそうな顔をしていたしな。


今もそうだ、泣きそうな顔をして下を向いていた。


俺は小桃の顎を軽く持ち、グイッと上げてやる。


「まだまだ子供だな、お前は。」


「あっ…。ごめんなさ…っ。」


「フッ、優しくしてほしいのか?」


思ったままを口にすると、小桃は顔を真っ赤に染めあげる。


反応からして、当たっているようだ。


「えっ、え?」


「500年ぶりに外に出て、女に優しくしたのはお前だけだ。」


「え…?」


「ほら、子供は寝る時間だろ。ゆっくり寝ろよ。」


ポンポンッと小桃の頭を撫でてから、腰を上げ部屋に戻った。


カツカツカツ。


ズキンッ!!


長い廊下を歩いていると、再び脳の奥に激痛が走る。


「クッソ…、頭痛てぇ…。」


そう呟くと、頭の中に美猿王の言葉が響き渡ったのだ。


「あの神の野郎の言っていた、伝承。俺の事が書かれてるらしいな。」


「そんな事を聞く為に、出て来やがったのか。」


「お前も気になっているだろう?牛魔王が言っていた言葉を。」


激しい頭痛の所為で、美猿王の言葉が頭に入って来ない。


「どうやら、俺は何か忘れてるらしい。変わって、すぐに閻魔大王の所に行きたい所だが…。何せ、引き摺り戻されたお陰で、鎖に繋がれてしまっている。」


「取ってこいって、言うんじゃねーだろうな。」


「正解。話が早いじゃないか。」


「今回ばかりは、お前と同意見だ。」


「さっさと取って来いよ。」


そう言うと、美猿王の声がしなくなり頭痛が止まる。


「ムカつくな野郎だな…。」


そう呟きながら壁に手を着き、頭を押さえたまま床に膝を付いた。



ベンチに取り残された小桃は、顔を押さえながら蹲った。


「こんなの反則だよ…。」


そう言って、小桃は悟空が着せたマントを掴み顔を埋める。


小桃に対する悟空の優しい口調を浴び、好きと言う気持ちが加速していた。


悟空の一つ一つの仕草に、小桃は目を奪われて行く。


「悟空をもっと、好きになりそうで怖い…。」


「幸せそうだね、君。」


「誰…?」


マントのフードを深く被った少女が、小桃の前に立っていたのだ。


「君にお願いがあって、ここに来たの。」


「誰って質問に答える気はないの?」


「お願い聞いてくれたら、教えてあげる。」


「…?」


少女はその場でクルッと一回転し、再び小桃に視線を向けた。


フードの中から深緑色の丸い瞳が見え、月明かりに反射しかキラキラと輝いている。


「お願いって、何?」


「私に会いに来て欲しいの。」


「会いにきって…。今、目の前にいるじゃん。」


「目の前にいるのは、私じゃない。私は、封印されてるから。」


その言葉を聞いた小桃は、少女に近付く。


マントの袖から見えた白い肌に緑色の枝の入れ墨が、ビッシリ入っていた。


「封印を解いて欲しいの?」


「うん。」


「どうして、貴方は封印されているの?何か悪い事をしたの?」


「何も。私は理不尽に神に作られて、神に捨てられただけ。」


「捨てられた…って。」


「私は封印を解いて、神を皆殺しにする。美猿王を殺し続け、鬼達を皆殺しにした神を殺す。」

 

少女の声色は怒りの感情が含まれており、嘘を言っているように思えない。


「貴方は一体…、何をしようとしてるの?」


「神のいない世界を作り、私達のような妖怪だけの世界を作り上げる。」


「そんな事が出来るわけが…。だって、どうやって?」


「私なら出来る。私は…、美猿王の帰る場所を作りたいの。貴方は必然的に私の封印を解く事になる。だって、そうするように動かしているもの。私がね?」


「何…、者なの?」

 

「強いて言えば、死んだ者を甦らせる事が出来るかな。」


そう言って、少女は不敵に口元を緩ませる。


「それ、本当なのか。」


小桃がバッと後ろを振り返ると、泣き腫らした顔をし

た緑来が立っていた。


ツカツカツカツカ!!


緑来は少女の前まで歩き、確かめるように少女に尋ねる。


「アンタの封印を解けば、陽春を生き帰らしてくれるのか!?」


「ちょ、ちょっと緑来さん!?本当かどうか、分からないんだよ?」


「君の言う事は間違ってない。だけど、僕はっ、陽春に会いたいんだよ。会いたくて、会いたくて仕方ないんだよ…。」


そう言って、緑来は再び泣き出した。


少女は緑来の手を掴み、言葉を放つ。


「貴方の願い叶えてあげるよ。どんな姿になっても、会いたいならね。言葉を話せなくても、人の形をしてなくても、愛せる?」


その言葉を聞いた小桃と緑来は、息を飲み込んだ。



源蔵三蔵 二十歳


手当てを終え部屋を出ると、沙悟浄と猪八戒の二人に会った。


「お、三蔵。治療は終わったみたいだな。」


「さっきね、二人も?」


「そうだよ。あ、広間に食事が用意されてるって。」


「広間に行けって事?」


「じゃない?広間はこっちだって。」


猪八戒を先頭に、俺と沙悟浄は長い廊下を歩み始める。


大きな桜の描れた襖の前に到着すると、中から話し声が聞こえた。


どうやら、ここが広間らしい。


襖を開けると、大きなテーブルの上には沢山の料理と

酒が置かれていた。


テーブルを囲んでいたのは、観音菩薩と丁達、天邪鬼の二人と石に風鈴だけだった。


悟空や小桃、緑来の姿は見当たらない。


「あれ?悟空達は?」


「若はまだ、戻って来てません。僕、探して来ます。」


俺の問いに答えた丁は、そそくさに部屋を出て行った。


「三蔵、食事を摂ったら、天界に行こうか。哪吒の体も気になるから。」


「分かった、軽く腹に入れとくよ。」


観音菩薩の隣に腰を下ろして、近くにあった麻婆豆腐を口に入れた。


「人間の食べ物も悪くないねー、兄者。」


「そうだね、腹は膨らまないけどね。」


「確かにー、クックッ。」

 

天邪鬼の二人は仲良さそうに、一つの皿の料理を食べている。


席の隣に座っていた風鈴は沙悟浄の隣に行き、料理分

けて始めていた。


取り分けた料理を沙悟浄に渡し、猪八戒にも渡す用意を始めた時。


ガラッと襖が開かれ、丁と悟空が入って来た。


悟空の顔色は悪く、唇の色も白に近い色に変色している。


「王、顔色が優れていませんね。どうされましたか?」


「何でもねーよ。」


「休まれた方が宜しいですよ、若!!俺、用意して来ますよ!!」


「李。座って、飯食っとけ。お前等も食える時に食っとけ。三蔵、まだ行かねーのか?」

 

邪と李と話した後に、俺の方を向いて声を掛けてきた。

 

「天界がもうすぐ昼時になる。三蔵の食事を終えてから、天界に行こうかって話になったんだよ。」


「そうか。」


沙悟浄の言葉を聞いて、悟空は少し離れた場所に腰を下ろす。

 

すると、悟空の周りに丁達と天邪鬼の二人が座り直していた。


様子がおかしい、俺の目から見ても分かる。


話をしたいけど、今は石と哪吒の事を優先するしかない。

 

「観音菩薩、そろそろ。」

 

「そうか、もう出発した頃かな。」


観音菩薩と石が立ち上がったので、俺は食事を終え立ち上がる。


「悟空、暫く三蔵を借りるよ。」


「何で、俺の許可が必要なんだよ…。」


「ふふ、君の仲間でもあるじゃないか。」


「はぁ、三蔵。」

 

観音菩薩の言葉を聞いた悟空は、俺を視界に入れながら口を開いた。


「さっさと哪吒を助けて帰って来い。」


悟空が俺を気に掛けてくれた言葉を言ったのは、始めてだった。

 

俺は柄にもなく嬉しくなって、何度も頷く。


それを見た悟空は白い唇を少し緩ませ、軽く笑った。


「じゃあ、行こうか。」


観音菩薩が札を取り出し、指を鳴らす。


すると目の前に白い鳥居が現れ、中は黒い渦が出来ていたのだ。


「この中に入れば、天界に繋がってるよ。」


「分かった。行ってくるよ。」


そう言って、俺達は黒い渦の中に入り天界に向かった。

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