神獣殺し
同時刻 天界
神獣山(シンジュウヤマ)
*神獣山 名前の通り神獣達が生息している山。*
大きな木と岩が生い茂る巨大な山の山頂に、朧車が停車した。
「へぇ、ここが神獣山ねぇ…。」
「羅刹天様、あまり体を乗り出すと落ちますよ。」
「おい、雨桐(ユートン)。俺様がそんなヘマする訳ねーだろ!!調査に来た事を忘れた訳じゃねーし。」
「なら良いですけど、数週間前から神獣の惨殺死体の件でしたね。体の臓器と血が抜かれた状態で発見されていると…。何者かが殺しているんでしょうけど。」
雨桐は資料を見ながら、依頼の内容を振り返っていた。
「そんな紙っ切れ見たって、分かんねーだろ。降りるぞ、雨桐。」
そう言って、羅刹天は朧車の扉を開けた。
バンッ!!
「貴方なら、そうしますよね。分かりました、現場に行きましょう。」
「ハハッ!!だよな!!行くぞ、雨桐!!」
羅刹天は意気揚々と朧車から飛び降り、雨桐も続けて飛び降りた。
ガサガサガサガサ!!
タンッ!!
着地に成功した羅刹天と雨桐は、周囲を見渡す。
神秘的な湖に、小さな鳥達の鳴き声が響き渡っていた。
「夢物語に出て来そうな光景ですね、羅刹天様。」
「おい、雨桐。あれ、見てみろ。」
羅刹天の指差す方向に雨桐が視線を向けると、何体かの神獣の死骸が木に吊るされていた。
「死骸ですか。まるで、食料を得る殺し方をしていますね。血抜きをして、肉を捌き、臓器を取り出している。狩り目的で殺しているのに間違いないでしょう。」
「問題は誰が殺したかだろ。」
「そうですね、天界の人間だと言う事は確かでしょう。」
「あ、あの、貴方様は羅刹天様でしょうか。」
そう言って現れたのは、白い肌をしたキリンだった。
「あ?そうだけど、お前は神獣か?」
「は、はい。羅刹天様のお噂は聞いております、この度は神獣の位に昇格したと。どうして、こちらに?」
「観音菩薩から調査だよ、神獣狩りをしてる奴のな。お前、ここに来た天界人を見たか?」
「はい…、我々の狩りを始めているのは…。」
キリンが口を開こうとし時、何人かの足音が聞こえて来た。
羅刹天はキリンを物陰に誘導し、身を隠した。
ガサガサガサガサガサガサ…。
「あ、あったぞ!!」
「良かったー!!他の神獣に喰われた跡はないな。」
「早く、捌いて持って帰ろうぜぇ。」
「アヒャヒャヒャ!!」
茂みから現れたのは、天界軍の制服を着た天界人だった。
醜く太った体を揺らしながら、神獣の死体に中華包丁を振り下ろしている。
グチャ、グチャ。
狂った様に笑う男達は、楽しそうに神獣を捌いている。
「あれは…、天界軍か?何で、神獣なんか捌いてんだ?」
「最近、天界軍達が現れ、神獣達を次々に殺し回っているんです。どうやら、誰かの命令のようで…。最初は、の者達の体は細かったのですが、次第に膨よかになり始めて…。」
「死んだ獣達の体を切り付け、なお楽しんでんのか。」
キリンの言葉を聞き、羅刹天の目が釣り上がる。
「羅刹天様、如何なさいますか。」
「あの野郎達から、誰の命令か吐かせる。俺はあの野郎共に制裁を下してやる!!」
タンッ!!
一瞬で兵士達の元まで飛び、中華包丁を持っている
兵士に回し蹴りを食らわれた。
ドカッ!!
「ガハッ!?」
「な、何だ!?」
「貴様は羅刹天!!?ガハッ!!」
羅刹天は兵士等の言葉を無視し、次々に兵士達を殴り飛ばす。
ドカッ、バキバキッ!!
「おら、立て!!」
「ひ、ひぃ!?」
「テメェ等、散々喰ったのにまだ喰いたりねーのか!?あぁ?!」
ドカッ!!
兵士の頭を乱暴に掴み、膝蹴りを食らわす。
「ガハッ!!」
「おっと、意識は飛ばさないで下さいよ。」
シュルッ。
膝蹴り食らった兵士の首に毒蛇が巻き付いた。
「寝ればこの子が貴方の首に噛み付きます。死にたくなければ、羅刹天様の問いに答えなさい。」
雨桐はそう言って、兵士の顔を上げさせる。
冷たく見下ろす羅刹天は、兵士に問いを投げ掛ける。
「誰の命令だ。」
「そ、それは…。」
「お前は俺の問いに答えるしかねぇんだよ。お前にも神獣にした事をしてやろうか?」
「ひっ!?わ、分かりましたよ!?毘沙門天様の命令です!!これで良いでしょ!?」
「雨桐。」
羅刹天の言葉を聞いた雨桐は、手を挙げた。
その瞬間、毒蛇が兵士の首に思いっきり噛み付いた。
ガブッ!!
「あがっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!ゴフッ!!」
兵士は叫びながら血を吐き、その場に倒れた。
「毘沙門天の野郎…、糞野郎じゃねーか。」
「羅刹天様、この事を観音菩薩様達にお伝えした方が…。」
「あぁ、分かってる。行くぞ、雨桐。」
「はい、羅刹天様。」
羅刹天と雨桐はこの事を話す為、呼び寄せた朧車に乗り込んだ。
天帝邸 書物室
鳴神と飛龍隊は、観音菩薩の依頼で鬼について調べる為、書物室に訪れていた。
ガサッ、ゴソッ、ガサッ、ゴソッ。
飛龍隊の部隊達は、全ての本棚に収納された書物を一つずつ、確認する作業に入った。
「隊長、こっちに"鬼"に関する書物は無いで
す!!」
「隊長ー!!俺達の方にも無さそうです!!」」
「お前等、ちゃんと内容を読んでんのかよ。」
飛龍隊の副隊長、雲嵐(ウンラン)が呆れた様子で言葉を吐く。
鳴神は淡々と書物に目を通し、次々に本棚に収納されている書物を取り出す。
「ちゃんと見てますよ!!」
「俺達を何だと思ってるんですか、副隊長!!」
「アホ。」
「「なっ!?」」
雲嵐と隊員達との言い合いを聞き、鳴神が口を挟む。
「おい、真面目に探せよ。」
「「ウ、ウッス!!すいません、隊長!!」」
隊員達は鳴神の言葉を聞き、慌てて書物に目を向けた。
鳴神が手に取った書物は、他の書物と装飾が違う物だった。
白い生地に赤い花の刺繍が施された布に巻かれた書物を手に取り、鳴神は布を剥がす。
パサッ。
すると、1枚の紙が床に落ちた。
鳴神は紙を拾い上げると、目を丸くさせた。
「これは…、美猿王の絵?それに隣にいる奴等は…。」
紙に描かれていたのは、美猿王と取り囲んでいる男女の絵だった。
その男女の額には、鬼の角が生えており、鬼と言う事が一目で分かるものであった。
「まさか、この書物は…。やはり、鬼に付いて詳しく書かれてある。」
「隊長、これを…。」
雲嵐はそう言って、ボロボロの書物を鳴神に渡す。
受け取った書物の中身を見て見ると、そこには神々
に謀反を起こし、鬼達と天界軍が戦争した事が記されていた。
もう一つ、美猿王と牛鬼神々は、最初に生み出した神以外の人種である事が記されていた。
「な、んだと…?美猿王と牛鬼が最初に生まれた人種?神は妖を作り出した…のか?」
鳴神の言葉を聞いた隊員の1人が、口を開く。
「た、隊長。もし、それが本当なら…!!神が妖を作り出して、争い事を作り上げたんじゃ…。」
「で、でもよ?そうだとしても、目的は何だ?わざ
わざ、こんな面倒事を起こさないだろ?」
「確かに…。頭がこんがらがって来た…。」
雲嵐は鳴神の後ろから、書物の中を覗いていた。
「隊長、この事は観音菩薩に話しますか。奴なら、何か知っているやもしれません。」
「いや、この事は俺達だけで調査する。奴は、毘沙
門天が回した監視人に付き纏われてる。毘沙門天に勘ぐられたくねーしな。」
「分かりました。でしたら、生存している鬼達に聞いて回りますか。」
「お前等、行くぞ。」
鳴神の掛け声を聞いた隊員達は、書物室から出ようとした時だった。
「おや、これはこれは…。飛龍隊ではありませんか。こんな所で、何をしておられるのですか?」
書物室の前にいた石を連れていた毘沙門天が、声を掛けて来た。
「テメェには関係ねぇ、邪魔したな。行くぞ、お前等。」
「「ハッ!!!」」
そう言って、鳴神と飛龍隊は書物室を後にした。
鳴神の後ろ姿をジッと見つめた毘沙門天は、石に視線を送る。
「石。」
「はい。」
「風鈴に鳴神の監視をさせろ。」
「分かりました。」
「石、本当に哪吒の代わりに実験体になるのか?今なら、辞められるんだぞ?」
トンッ。
フッと軽く笑いながら、毘沙門天は石の肩を叩く。
「毘沙門天様、僕ならどうなったって構いません。ですから…、哪吒にはもう…、何もさせないで下さい。」
石は毘沙門天の前で膝を着き、土下座をした。
「人形であるお前が、哪吒に何を抱いてる?恋愛感情だとでも言うつもりか?道具のお前が、私に意見するのか?!」
ドカッ!!
毘沙門天は怒りの感情に身を任せたまま、石の腹に蹴りを入れる。
「ガハッ!!」
「調子に乗るなよ、石。哪吒をどうするかは、私次第だ。お前等は私から逃げる事など出来ないんだ。実験体に名乗り出たのはお前だろ?なら、私に黙って従えば良い。良いな、石。」
「ゴホッ、ゴホッ…。」
「毘沙門天様、吉祥天様がお呼びで御座います。」
スッと現れた布で顔を隠した男が、毘沙門天の耳元で囁く。
「分かった。コイツ、独房に入れておけ。実験の準備が出来次第、解放しろ。」
「かしこまりました。」
「百合でも摘んで行こうか…、吉祥天に何か土産を持っていかなくては…。」
毘沙門天は少し浮き足気味で、石に背を向け歩き出していた。
「おい、大丈夫か。」
「はぁ…?お前は…、誰だ。」
隠し持っていた短剣を取り出し、石は男に向かって振り下ろす。
男は石の足を引っ掛け、短剣を持っていた手を払い除け、床に叩き付ける。
ドゴンッ!!
「この顔を見たら、思い出すだろ。」
そう言って、顔に掛けてあった布を外すと、鮮やかな黄緑色の長い髪が現れる。
「アンタ、観音菩薩側の人間の…、天部?」
「私の変幻の術を見破れないなんて、毘沙門天も相当、焦っているな。君に用があって来たんだよ。」
「僕に?」
「君、哪吒と言う子を助けたいそうだね。」
「っ!?」
天部の言葉を聞いた石は、驚きの余り言葉を失った。
「毘沙門天は、哪吒を離す気は無いよ。それは君が一番、分かっているでしょう?」
「…。」
「君は何か、焦っているように見える。毘沙門天に背くのなら、何故に彼の命令に従う?」
「哪吒の体が壊れ始めて来てる。妖石(ヨウセキ)を通して、送られる毘沙門天様の命令に背き続けたからだ。毘沙門天様は、哪吒の体に毒を打ち込んでる。解毒剤を持ってるのは、毘沙門天様なんだ。」
石の言葉を聞いた天部は、石の体を解放する。
「成る程、毒ですか。」
「僕はどうなったって、構わない。哪吒を助けれれば、それで良い。」
「君は、どうして…。哪吒をそこまでして、助けたいのですか?皆、自分の命の方が大切でしょうに。」
「この感情が何なのか、僕には分からない。だから自分よりも哪吒を優先しする。それだけです。」
天部は石の言葉を聞き、後ろを向いた。
そこに居たのは、観音菩薩と如来、明王の3人だった。
「石、その感情は愛だよ。」
「愛…?」
「君は、哪吒を愛しているから、そう思えるんだ。良いかい、石。今、石は分岐点に立たされている。哪吒が死ぬか生きられるかのね。」
「っ?!どう言う意味だ。」
石はそう言って、観音菩薩に尋ねる。
「毘沙門天は哪吒を殺すよ、近い未来に。」
「は、は?何で、そんな事が分かるんだよ。」
「私の使える技の一つさ、哪吒に使われた毒の解毒剤は、こちらでも作れると言ったら?」
「っ!!作れるのか!?」
「ただでは作らないよ、取り引きをしようか。」
観音菩薩の言葉を聞いた石は、次の言葉を待った。
「我々が毘沙門天の実験室を行き来する時間を設けてくれ、妖石の仕組みさえ分かれば、君達を自由に出来る筈。ただ、毘沙門天にこの事がバレれば…。君は殺されるかもしれない。」
「…。」
「私達は、哪吒や君達のして来た事を全て許した訳ではないよ。だけどね、君達はやり直せる。この世に生まれた生(セイ)として、生き直しなさい。」
「哪吒を…、助けてくれるんだよな?僕が犠牲になれば、哪吒は解放されるんだよな?そうだよな?観音菩薩。」
座り込んでいる石と目線を合わせる為、観音菩薩は腰を下ろす。
「一緒に助けよう、石。」
「あ…、あぁ…。」
石の黄色の瞳からポロポロと、涙の雫が零れ落ちる。
石には太陽の光に照らされた観音菩薩は、本物の菩薩のように神々しく見えていた。
「毘沙門天が実験室に居ねー時なんか、あんのかよ。あの野郎、ずっと実験室に篭ってるだろ。」
明王は頭を掻きながら、言葉を吐く。
「ありますよ、実験室に来ない日が1日だけあります。」
「本当かよ!?いつだよ、それは!!」
「最近、神獣の惨殺死体が増えたでしょ?」
石の言葉を聞いた天部は、ハッとした表情を浮かべた。
「まさか!?」
「毘沙門天様と吉祥天は、神獣殺しをしています。丁度、3日後に…。神獣山に出掛けると言っていました。」
「何と言う事だ…。何故、神獣ばかりを殺すのですか?」
「血ですよ、妖怪人間や吉祥天様が美を保つ為に殺しているんです。殺した神獣達の臓器は、吉祥天様の食料として取っています。3日後に食料が切れる、毘沙門天様は吉祥天様を連れて、山に行くでしょう。残りの死骸達を兵を使い、更に細かく捌きかせています。」
天部の問いに石は、事細かに答える。
「はぁ!?神獣を喰ってるだと!?おい、観音菩薩!!これは大罪だろ!!」
石の言葉を聞いた明王は、驚きのあまり大きな声を出してしまった。
「石、吉祥天だけでは無いだろ?」
「はい、毘沙門天様に従ってる神達も、兵士等も神獣を食しています。」
「やはりな、毘沙門天側にいる神々達の体型が丸くなったのも、それが原因か。」
如来はそう言って、納得している様子を見せた。
「石、3日後に行動を行う。この事は、私と君との取り引きだ。誰にもこの事は公言はしないで欲しい。」
「分かっています。僕は、貴方の動きに見合う働きをします。僕の言葉を聞いてくれたのは、貴方と哪吒だけでした。観音菩薩、貴方との取り引きをお受
けします。」
「ありがとう、石。」
伸ばして来た石の手を取り、強く握り返した。
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