宮殿の本当の宝 壱

宴が終わって四日が経った頃であった。


牛魔王は、美猿王が住処にしている水簾洞に入り浸っていた。


何故か宴が終了した後、牛魔王は美猿王ともに花果山まで着いて来たのだ。


水簾洞の中に、長老や丁達が美猿王に住みやすいように家具を起き出した。


そのお陰でただの洞窟ではなくなり、快適な部屋となった。


牛魔王も水簾洞をいたく気に入ったようすだった。


水簾洞に住み着く牛魔王を見て、美猿王は疑問に思っていた事を口にする。


「お前さ、いつまでいる訳?」


美猿王の言葉を聞いた牛魔王は、備え付けられていたソファーに寝転んでいる。


テーブルに置かれた木の実をむしゃむしゃと頬張っていた。


美猿王は真顔で牛魔王の事を見ながら、口を開く。


「へ?俺等兄弟なのにそんな事言うの?さみしーなー」


そう言って、牛魔王は眉を下げる。


美猿王は牛魔王の顔を見て、思わず眉間に皺が入り怪訝な顔を見せた。


「気持ち悪りぃぞ」


「な!?」


寝転がっていた牛魔王が驚きながら体を起こした。


「魔王って案外暇なんだな」


そう言って、美猿王は皮の剥かれた桃に手を伸ばし、口に頬張る。


甘い香りと味が口の中に広がり、幸福感を得た。


「暇なのも今日で終わりだせ、兄弟」


「あ?」


「そろそろ来る頃か」


そう言って、牛魔王が立ち上がった。


「何が来るんだよ。」


美猿王がそう言うと、どこからか鴉が飛んで来た。


バサバサッ!!


牛魔王が手を翳すと鴉が腕に止まり、鴉の足には文が巻かれていた。


牛魔王は文を開きじっくり中身を見て、暫く黙っいる。


「おい、何じっくり見てんだ?」


頬杖をつきながら、美猿王は牛魔王に尋ねた。


すると牛魔王が美猿王の横に腰を下ろし、文を見せて来た。


文に目を通すと、書かれていたのは屋敷の見取り図だった。


「何処の屋敷の見取り図だ?」


「四海竜王の屋敷の見取り図だ。案外、時間が掛か

ったな。」


「お前、ここにいたのは見取り図が届くのを待っていたからか?」


美猿王が牛魔王に尋ねると、「正解」と言葉が返って来た。


「…って言うか、四海竜王って誰?」


そう言って、美猿王は質問を投げ掛ける。


「はぁ?お前そんな事も知らねーのか…。ここの猿達は一体何を教えて来たんだよ…」


溜め息を吐きながら、牛魔王が頭を抱えた。


「俺に言ってくる事は、大体この山周辺の猿や妖怪の話だけだったな。俺ぐらいしかまともに戦える奴いねーし」


「成る程ねー。ここの連中は美猿王頼みって訳か」


「そうなるな。それより四海竜王の話が途中だろ」


「そうだったな」


牛魔王がゆっくりと四海竜王について説明を始めた。


四海竜王は四海を治めるとされる4人の竜王の事だそう。

牛魔王は、四海竜王の宮殿にある武具を奪う事が目的のようだ。


「へぇー、四海を治める竜王ね。武具を手に入れてどうすんの」


美猿王は興味なさそうに牛魔王に言葉を投げ掛ける。


「四海竜王の鱗で作った武器はどんな攻撃も防ぐ武具でな。俺のコレクションとして欲しい」


「フーン」


「一緒に行くぞ」


牛魔王が美猿王の事を誘うのは、これが初めてではない。


これまでも、牛魔王はありとあらゆる悪行を美猿王としてきた。


宝を奪うのは勿論、土地を奪う為に人間を殺したりも一緒にしてきたのだ。


美猿王は牛魔王のやる事に口を出さないし、出す気もない。


牛魔王と共に行動する事は、美猿王にとっては楽しみの一つだったのだ。


「お前も素手だけじゃ無理だろ?武具も扱えるようになった方が良いぜ?」


そう言って、牛魔王は美猿王の肩をポンポンッと叩く。


武器か…。


確かにこの山を攻めて来た他所の猿達が、持って来てた事があったな…。


あの時は避けても、剣とか槍の刃が掠るから厄介だったよなー。


確かに武器を扱えるようになったら良いよな。


美猿王は今までの戦いの光景を思い出し、牛魔王の案を飲む事にした。


「そうだなー、いつ行くんだ」


「今日の夜中にでも行くぞ」



「行動早!!」


牛魔王は行動に移すのが早い、動かない時はとことん動かない。


「夜中まで時間は…あるな。よしっ、移動するぞ」


牛魔王が高級品の懐中時計を見ながら、再び立ち上がった。


「何処に?」


「海の入り口」


「は、はぁ…?」


「ホラホラ!!夜中までには着かないと!!」


「へーいへい」


美猿王と牛魔王は、海に向かうべく水簾洞を出た。



美猿王 十四歳



水簾洞を出ると、牛魔王が自分の影を操り大きいバイクを作り出した。


牛魔王の能力は、自分の影を自由自在に操る事が出来る。


影を使って刀や槍、影武者や乗り物も色々作れる。


なんともまぁ、器用な奴だなと思う。


「本当いつ見ても面白い能力だよな」


「惚れた?」


影のバイクに跨った牛魔王が、ニヤッとしながら呟いた。


「アホか」


俺は牛魔王の頭を軽く叩いてから、後ろに跨った。


「惚れても良いからな」


「うるせ!さっさと行くぞ!」


「へーい」


ブンブンブン!!


牛魔王はうるさい音を立てながら、バイクを走らせた。


他愛のない話をするのも、コイツとなら悪くない。


そう思えるのも、俺が牛魔王に気を許してるだ。


山道をバイクで降り暫く走らせると、周りが暗くて見えないが海に着いたらしい。


「暗くて何も見えねーな」


「そんな急ぐなよ」


シュルルルッ!!


バイクの姿をした牛魔王の影が、ランプの形になった。


牛魔王がフゥッと、ランプに息を吹きかけると明かりが付いた。


「本当に便利な能力だよなー」


「アハハハ!!美猿王だって身体能力があるじゃん。さっこっちだ」


牛魔王はそう言って、浜辺を歩き出した。


俺は牛魔王の後に付いて行くように歩く。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


砂浜を歩いていると、満月に照らされた海に海中に続く階段が海から浮き上がっていた。


「海の中から階段が出て来た!?」


「満月の夜に海中に続く階段が出て来るんだよ。満月は四日後だったから美猿王の住処にお邪魔してた訳」


「だから四日間いたのか…」


「正解」


ますます、コイツの考えている事が読めない。


冗談は沢山言う癖に、頭の中で考えている事を言わない。


本当に食えない男だコイツは。


だからこそ、この男と一緒にいるのは飽きないのだろう。


「宮殿に行くのは俺等だけか?他の六大魔王は来ないの?」


「来ないよ。お前しか誘ってねーよ」


「混世は牛魔王の事好きそうなのに誘ってないんだな」


俺の言葉を聞いた牛魔王は、苦笑いをしながら言葉を吐く。


「あー混世ね。アイツは使える時に使ってるだけだからあんまり呼ぶ事ねーな。それに美猿王の戦闘力の方が俺には必要だから」


そう言って、俺の顔を見て来る。


牛魔王の目は嘘を言っていなかった。


本当に俺が必要なんだと分かった。


牛魔王の言葉を聞いて胸が熱くなった。


強い奴に認められたような気がして嬉しかった。


それは、戦っている時に味わう快感に似ていた。


「ったく。仕方ねーな!!とことん付き合ってやるよ!」


「アハハハ!!美猿王のそう言う所が好きだぜ」


「は、はぁ!?好きってなんだよバーカ」


「照れるな照れるな!!さっ行くぞー」


「ま、待てよ!!」


さっさと階段を降りて行く牛魔王の後に、慌てて付いて行った。


階段を降りるらと透明なトンネルが視界に広がる。


鼻を摘まずに水中で息が出来るのは謎だった。


「何で息が出来るんだ?水の中なのに」


「美猿王さ、この飴食っただろ?」


牛魔王がポケットから出して来たのは、透明な飴が入った袋だった。


確かに、この飴は牛魔王が水簾洞に入り浸っていた時に、何回も口に放り込まれた飴だった。


味は特にしなかった飴。


「この飴を食ったから息が出来るのか?」


「この飴の原料は鯰震の鱗(ウロコ)から作った飴だ」


「げ、鱗の飴を食わさせたのかお前!?」


うえー、気持ち悪くなって来た…。


ん?


だから息が出来るのか?


何で?


「何でって思ってるだろ、簡単な事さ。鯰震は水の妖怪だからな。水の妖怪の鱗を食べれば一時的にその能力を使えるんだよ。だから美猿王にも食べさせたそれだけだ」


牛魔王は博識なみな言葉をつらつらと並べる。


「何でも知ってんな」


「知識は大事だぜ?色々知っていた方が役に立つ事が沢山ある。これから美猿王が知らない事教えてやるよ」


「それはどうも」


そんな事を話しながら、透明なトンネルの中を歩いた。


透明なトンネルの中に魚は入って来れないみたいで

外で魚が沢山泳いでいる。


大きな鯨も鮫も、クラゲや亀も気持ちよさそうに泳いでいる。


海の中は神秘的で、夢物語の中にでもいるようだ。


普段は目にしない美しい景色が、トンネルの外に広がる。


暗い水中の道を歩いていると、目の前から煌(きら)びやかな宮殿が現れた。


「うっわー、眩しい」


目を細めながら、宮殿を見つめる。


「あれが、四海竜王の宮殿だ」


「あれが…」


宮殿の周りには色鮮やかな珊瑚が沢山立っていた。


それから、宮殿の門に兵が何人か見えた。


「何人か、兵がいるみたいだな」


「ここからは、慎重に行くぞ。なるべく気配を消してだ」


牛魔王の目がスッと変わり、宮殿の間取り図を見つめた。


相変わらず、切り替えが早いよな…。


「あんまり騒動を起こしたくないから裏から入るぞ」


「了解」


「行くぜ、兄弟」


そう言って牛、魔王が俺の前に拳を出して来た。


「ッフ、ヘマすんなよ兄弟」


俺達が何かやる前に必ずやる儀式みたいなもの。


コツンッ。


俺達は軽く拳同士をぶつけて、兵に見つからないように裏側に回った。

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