宮殿の本当の宝 壱

宴が終わって4日が経った頃であった。


牛魔王は美猿王が住処にしている水簾洞に入り浸っていた。


「お前さ、いつまでいる訳?」


「へ?俺等兄弟なのにそんな事言うの?さみしーなー。」


「気持ち悪りぃぞ。」


「な!?」


寝転がっていた牛魔王が驚きながら体を起こした。


「魔王って案外暇なんだな。」


「暇なのも今日で終わりだせ兄弟。」


「あ?」


「そろそろ来る頃か。」


そう言って牛魔王が立ち上がった。


「何が来るんだよ。」


俺がそう言うと鴉が飛んで来た。


バサバサッ!!


牛魔王が手を翳すと鴉が腕に止まった。


鴉の足には文が巻かれていた。


牛魔王は文を開きじっくり中身を見ていた。


「おい、何じっくり見てんだ?」


頬杖をつきながら牛魔王に尋ねた。


すると、牛魔王が俺の横に腰を下ろして文を見せて来た。


文に目を通すと書かれていたのは屋敷の見取り図だった。


「何処の屋敷の見取り図だ?」


「四海竜王の屋敷の見取り図だ。案外、時間が掛か

ったな。」


「お前、ここにいたのは見取り図が届くのを待っていたからか?」


俺が牛魔王に尋ねると「正解。」って言葉が返って来た。


「…って言うか、四海竜王って誰?」


「はぁ?お前そんな事も知らねーのかよ…。ここの猿達は一体何を教えて来たんだよ…。」


溜め息を吐きながら牛魔王が頭を抱えた。


「俺に言ってくる事は大体この山周辺の猿や妖怪の話だけだったな。俺ぐらいしかまともに戦える奴いねーし。」


「成る程ねー。ここの連中は美猿王頼みって訳か。」


「そうなるな。それより四海竜王の話が途中だろ。」


「そうだったな。」


牛魔王がゆっくりと四海竜王について説明を始めた。


四海竜王は四海を治めるとされる4人の竜王の事で、牛魔王のは四海竜王の宮殿にある武具を奪う事が目的のようだ。


「へぇー、四海を治める竜王ね。武具を手に入れてどうすんの。」


「四海竜王の鱗で作った武器はどんな攻撃も防ぐ武具でな。俺のコレクションとして欲しい。」


「フーン。」


「一緒に行くぞ。」


牛魔王が俺の事を誘って来た。


「お前も素手だけじゃ無理だろ?武具も扱えるようになった方が良いぜ?」


そう言ってポンポンッと肩を叩かれた。


武器か…。


確かにこの山を攻めて来た他所の猿達が持って来てた事があったな…。


あの時は避けても剣とか槍の刃が掠るから厄介だったよなー。


確かに武器を扱えるようになったら良いよな。


「そうだなー。いつ行くんだ。」


「今日の夜中にでも行くぞ。」



「行動早!!」


牛魔王は行動に移すのが早い。


動かない時はとことん動かないけど。


「夜中まで時間は…あるな。よしっ、移動するぞ。」


牛魔王が高級品の懐中時計を見ながら再び立ち上がった。


「何処に?」

「海の入り口。」


「は、はぁ…?」


「ホラホラ!!夜中までには着かないと!!」


「へーいへい。」


俺達は海に向かうべく水簾洞を出た。


水簾洞を出ると、牛魔王が自分の影を操り大きいバイクを作り出した。


牛魔王の能力は自分の影を自由自在に操る事が出来る。


影を使って刀や槍、影武者や乗り物も色々作れる。


「本当いつ見ても面白い能力だよな」


「惚れた?」


影のバイクに跨った牛魔王がニヤッとしながら呟いた。


「アホか。」


俺は牛魔王の頭を軽く叩いてから後ろに跨った。


「惚れても良いからな。」


「うるせ!さっさと行くぞ!」


「へーい。」


ブンブンブン!!


牛魔王はうるさい音を立てながらバイクを走らせた。


山道をバイクで降り暫く走らせると、周りが暗くて見えないが海に着いたらしい。


「暗くて何も見えねーな。」


「そんな急ぐなよ。」


シュルルルッ!!


バイクの姿をした牛魔王の影がランプの形になった。


そして牛魔王がフゥッとランプに息を吹きかけると明かりが付いた。


「本当に便利な能力だよなー。」


「アハハハ!!美猿王だって身体能力があるじゃん。さっこっちだ。」


牛魔王はそう言って歩き出した。


俺は牛魔王の後に付いて行った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


砂浜を歩いていると満月に照らされた海に海中に続く階段が海から浮き上がっていた。


「海の中から階段が出て来た!?」


「満月の夜に海中に続く階段が出て来るんだよ。満月は4日後だったから美猿王の住処にお邪魔してた訳。」


「だから4日間いたのか…。」


「正解。」


ますますコイツの考えている事が読めない。


冗談は沢山言う癖に、頭の中で考えている事を言わない。


本当に食えない男だコイツは。


「宮殿に行くのは俺等だけか?他の六大魔王は来ないの?」


「来ないよ。お前しか誘ってねーよ。」


「混世は牛魔王の事好きそうなのに誘ってないんだ。」


「あー混世ね。アイツは使える時に使ってるだけだからあんまり呼ぶ事ねーな。それに美猿王の戦闘力の方が俺には必要だからな。」


そう言って俺の顔を見て来た。


牛魔王の目は嘘を言っていなかった。


本当に俺が必要なんだと分かった。


牛魔王の言葉を聞いて胸が熱くなった。


強い奴に認められたような気がして嬉しかった。


戦っている時に味わう快感に似ていた。


「ったく。仕方ねーな!!とことん付き合ってやるよ!」


「アハハハ!!美猿王のそう言う所が好きだぜ。」


「は、はぁ!?好きってなんだよバーカ。」


「照れるな照れるな!!さっ行くぞー。」


「ま、待てよ!!」


さっさと階段を降りて行く牛魔王の後に付いて行った。


階段を降りると透明なトンネルが現れた。


鼻を摘まずに水中で息が出来るのは謎だった。


「何で息が出来るんだ?水の中なのに。」


「美猿王さこの飴食っただろ?」


牛魔王がポケットから出して来たのは透明な飴が入った袋だった。


確かにこの飴は牛魔王が水簾洞に入り浸っていた時に何回も口に放り込まれた飴だった。


味は特にしなかった飴。


「この飴を食ったから息が出来るのか?」


「この飴の原料は鯰震の鱗(ウロコ)から作った飴だ。」


「え、鱗の飴を食わさせたのかお前!?」


うえー、気持ち悪くなって来た…。


ん?だから息が出来るのか?


何で?


「何でって思ってるだろ、簡単な事さ。鯰震は水の妖怪だからな。水の妖怪の鱗を食べれば一時的にその能力を使えるんだよ。だから美猿王にも食べさせたそれだけだ。」


「何でも知ってんな。」


「知識は大事だぜ?色々知っていた方が役に立つ事が沢山ある。これから美猿王が知らない事教えてやるよ。」


「それはどうも。」


そんな事を話しながら透明なトンネルの中を歩いた。


透明なトンネルの中に魚は入って来れないみたいで

外で魚が沢山泳いでいた。


暗い水中の道を歩いていると目の前から煌(きら)びやかな宮殿が現れた。


「うっわー眩しい。」


「あれが四海竜王の宮殿だ。」


「あれが…。」


宮殿の周りには色鮮やかな珊瑚が沢山立っていた。

後は宮殿の門に兵が何人かいた。


「何人か兵がいるみたいだな。」


「ここからは慎重に行くぞ。なるべく気配を消してだ。」


牛魔王の目がスッと変わり宮殿の間取り図を見つめた。


「あんまり騒動を起こしたくないから裏から入るぞ。」


「了解。」


「行くぜ兄弟。」


そう言って牛魔王が俺の前に拳を出して来た。


「ッフ。ヘマすんなよ兄弟。」


コツンッ。


俺達は軽く拳同士をぶつけて兵に見つからないように裏側に回った。

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