六大魔王
俺の目の前には男女6人が座っていた。
「誰だよ、其奴(ソイツ)」
巨大な体で、ガタイの良い傷だらけのスキンヘッドの男が、太々しい声を出した。
俺を睨み付けながら、頬杖を付いた。
「美猿王だよ、俺が招待したんだ」
「あー。猿山の王様か」
ピクッと、自分の眉毛が動いたのが分かった。
「あ?テメェ、今、なんて言った」
男の放った言葉に嫌味が含まれていたのが分かった。
俺がそう言うと、スキンヘッドの男が持っていた酒を強く机に置いた。
ドンッ!!!
「あぁ?テメェ、誰に口聞いてんだあぁ?」
グイッ!!
体が大きいから俺の方に体を寄せるだけで、顔が近付いて来た。
近距離で俺達は睨み合っていると、牛魔王がスキンヘッドの男の顎を掴んだ。
ガシッ!!
「俺の客だ。丁重に扱えって、言った事を忘れたのか」
そう言って、グッと顎を掴んでいる手に力を入れた。
グググッ…。
「ゔぅ…?!こ、コイツが客だって知らなかっだよ!!悪かった、悪かったよ!!」
「最初に言ったはずだよな?もう少し、その頭を使え。分かったかな混世(コンセイ)」
混世と呼ばれた男は、黙って何度も頷いた。
どうやら、牛魔王に逆らえないらしい。
「ごめんね、美猿王。コイツ悪い奴じゃないんだけど、頭が悪くてさ」
牛魔王が俺に謝罪して来た。
むしろ謝罪と言うか、混世って男の悪口になっているが。
混世って奴も、牛魔王には逆らえないみたいだな。
上下関係がしっかり立てられる。
「いや、別に」
「コイツは混世って言うんだ。皆んなも俺のお客は
丁重に扱ってくれ」
「へぇ…。その子が牛魔王のお気に入り?」
白髪の長い髪に黄色の瞳で、狐の耳と尻尾が生えている女が俺に話しかけて来た。
「お気に入りがどうか知らねーよ。俺は呼ばれたから来ただけだし」
「若!!」
青い顔をした丁が小声で話し掛けて来た。
「何だよ」
「あの人は黄風(コウフウ)大王ですよ!!妖怪の中でもっとも長く生きている妖ですよ」
「へぇー。アンタ長生きなんだな」
「若!!」
俺が黄風大王に向かって喋ると、丁が大声を出した。
「構わぬよ、変に気を使われる方が鬱陶しいからの。美猿王の付き人も気にしなくて良い」
「わ、分かりました。」
「私は黄風じゃ。そして、此奴は私の付き人だ」
黄風大王がそう言うと、後ろから白虎の妖怪が現れた。
「宜しく頼む」
「よ、宜しくお願いします…」
白虎に対しても丁はガチガチの様子だった。
「美猿王。コイツは黒風(コクフウ)だ」
牛魔王が焦げ茶色の髪は前髪が長くて、顔がよく見えない男を連れて来た。
コイツが牛魔王の仲間なのか?
「よ、宜しく…」
「あ?なんて言ったんだ?声が小さくてよく聞こえるねぇーよ」
「ヒッ!!ご、ごめんなさい…!!」
黒風が物凄い勢いで謝って来た。
別に怒った訳ではないので、少し驚いた。
「え?いや、謝らなくても…」
「ヒィ!!」
コイツ…、俺にビビり過ぎだろ。
「アハハハ!!ソイツの事気にしなくて良いよ!いつもこんなんだからさ」
アクセサリー同士がぶつがる音をさせながら、薄い青色の肌をした黒髪短髪の男が話し掛け来た。
「鱗青(リンセイ)。黒風の事をあまり虐めるでない」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
巨大な鯰(ナマズ)が体を引き摺りながら、俺と鱗青の前に現れた。
「鯰震(ネンシン)の言う通りだ。黒風は人見知りなんだ悪いな美猿王」
「あぁ。お前の連れは変わってる奴が多いな」
「まぁな。コイツ等は妖だからな」
「美猿王と言ったか。我は鯰震だ」
「どうも」
一応、軽く頭でも下げとくか…。
ペコッと軽く頭を下げといた。
「若…。ご立派です!!」
パチパチ!!
丁は俺の姿を見て拍手をした。
俺が常識ない奴って、思ってんなコイツ…。
そんな事を考えていると、肩を叩かれた。
「こっちに座れよ」
そう言って、牛魔王は隣の席を叩いた。
ここに座れって事か?
「あぁ、どうも」
牛魔王の隣に座ると、ガラスのグラスを渡して来た。
「美猿王は酒飲めるの?」
「あー。あんまり飲んだ事ねぇな。うちの山、酒がなかったから」
「え!?じゃあ、何処で酒飲んでたの?」
「俺の山に攻め来た他所の猿から、酒とか色々ぶんどった。そん時ぐらいだな」
「アハハ!!そうかそうか!!この酒は美味いぞ」
「へぇ。」
「ほら、注いでやるからグラスこっちに向けろ」
「あぁ」
俺は牛魔王の方にグラスを向けた。
トクトクトクッ。
グラスの中に透明色の酒が注ぎ込まれた。
「改めてようこそ。」
「ここは、お招きありがとうって言うべきだよな?」
「堅苦しいのは良いよ。乾杯」
「乾杯。」
チン。
俺達は乾杯しグッと酒を流し込んだ。
今まで飲んだ事がない切れのある酒の味だった。
これは…。
「な、美味いだろ?」
牛魔王はニヤニヤしながら、俺の顔を見た。
「あぁ。これは美味いな!!」
「そうかそうか!!もっと飲め!!料理もほらほら!」
俺と牛魔王は楽しく酒を飲んだ。
混世以外は俺と牛魔王の周りに来て、一緒に馬鹿騒ぎをした。
戦い以外で楽しいと思った事がなかったのに、こんなに宴が楽しいモノだと思わなかった。
牛魔王と俺はとにかく話が合って、会話が途切れる事はなかった。
酒の瓶が10本目空いた時、牛魔王が赤い盃を出して来た。
「なぁ、美猿王。俺と兄弟にならないか?」
「「えぇぇぇ!!?」」
混世や黄風大王、黒風大王、鱗青、鯰震、丁が大声を上げた。
何をそんな驚いてるんだコイツ等。
そんな事を考えながら俺は酒を流し込んだ。
「牛魔王!!本気で言ってるのか!?」
大きな声を出しながら、混世が牛魔王に近付いた。
「そんなに驚くか?」
「当たり前だろうが!!誰とも兄弟になろうとしなかったお前が美猿王と!?」
「あ?」
牛魔王と話していた混世が、俺の方に顔を向けて来た。
「コイツと血よりも深い兄弟盃を交わすのか?!俺が盃を交わしたいと言った時は、断ったのに!!」
「そうだ」
「っな!?」
混世のこの慌てようは…。
「丁」
「ハッ」
俺が、丁の名前を呼ぶと直ぐに俺の後ろに来た。
「兄弟盃とはそんなに凄い事か」
「はい。兄弟盃とは血よりも濃いお互いを信頼し裏切る事のない契りの事です。本来、兄弟をする事は珍しいんですよ」
「へぇー。だから、混世が慌ててんのか」
「そのようです」
俺と丁がコソコソ話していると、再び混世が俺に罵声を浴びせて来た。
「こんな猿と盃を交わすなんておかしいだろ!?」
「混世。牛魔王の前で、美猿王の事を悪く言うのはやめよ」
「あ?黄風は、黙ってろ」
話に入った黄風を混世が睨み付けた。
「や、やめなよ…」
アタフタしながら、黒風が2人の間に入った。
「うるせぇ!!割って入って来んなよ黒風」
「黒風は、関係ねぇだろうが」
黒風は止めに入っただけなのに、八つ当たりしてんじゃねぇよ。
良い加減うるせーなコイツ。
俺はそう言って混世を見つめた。
「テメェ!!!」
「混世」
「「っ!!」」
背中がゾクっとした。
牛魔王の方を見ると、黒いオーラが背中から出ていた。
こんな感覚は初めてだ。
混世も顔を青くしていた。
混世が萎縮する程のプレッシャーを牛魔王が与えているのが分かる。
「殺すぞ、テメェ」
「あーぁ。牛魔王の事、怒らせちゃったねぇ」
鱗青がヤレヤレと言って頭を掻いた。
ゴンッ!!
ガシャーンッ!!!
牛魔王が混世の頭を床に叩き付けた。
「ガハッ!!」
混世の口から大量の血が吐き出され、空中に血飛沫が飛び散る。
気を失った混世はその場で力なく倒れた。
「アハハハ!!やるじゃん牛魔王」
「わ、若…、笑い事では…」
つい、面白くて笑ってしまった。
丁が顔を青くしながら、俺の笑いを止めようとしていた。
「美猿王。こんな状態だが、どうだろうか」
牛魔王はそう言って、血塗れの手で酒を持った。
この強い男と一緒なら、つまらなかった日々が楽しくなるのかな。
兄弟と言う言葉の意味が分からないけど、俺の心臓が高鳴ったのは確かだ。
俺は、この男に興味を持っている。
それは、本能的に興味を惹かせたこの男の魅力に、俺が見せられたと言う訳か。
「若…。どうなさいますか?」
心配した丁が耳打ちして来た。
俺の考えはとっくに決まっていた。
赤い盃を牛魔王の前に差し出した。
「俺はお前と兄弟になってやるよ、牛魔王。俺を楽しませてくれるのは、この先お前しかいないだろ?」
俺がそう言うと、牛魔王な大声で笑った。
「アハハハ!!やっぱり俺の目に狂ってなかったな兄弟!お前を退屈させねぇよ。違う世界を見せてやるよ」
牛魔王が俺の盃に酒を注ぎ、俺は牛魔王の盃に酒を注いだ。
そして、牛魔王の右腕と俺の左腕を交互に組み盃に入った酒を喉に流し込んだ。
牛魔王にとっても美猿王にとっても初めて盃を交わした相手であり、血よりも濃い兄弟盃を交わしたので合った。
この事は全ての妖達に広まった。
美猿王と言う名も知れ渡るのに時間は掛からなかった。
この世で最も最悪な兄弟が誕生した瞬間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます