宴の招待
そして季節は巡り、花果山の木々達はピンク一色に染まっていた。
美猿王は、人の歳で言うと十四歳になっていた。
水簾洞(すいれんどう)を住処にしていた。
水簾洞とは、この火山島の中で最も美しいと言われている洞窟の事である。
淡い青と紫色が混ざった水に、光輝く水晶が彼方此方(あちらこちら)に埋まっていた。
美猿王は、とても気に入っている場所だ。
それから、この火山島で美猿王に敵うものはいなかった。
美猿王は歳を重ねるごとに、火山島のあらゆる山を占拠して行った。
美猿王は、自分に支えている猿達にあらゆる知恵を与えた。
作戦を立ててから行動することや、どうしたら相手の心を壊し、二度と自分達に手を出さないようにする方法など、残酷な殺し方を教えた。
美猿王は戦っている時しか、喜びを感じなかった。
沢山の死骸を見ては、如何に自分が優位に立っているのかを実感する事が出来るからだ。
長老は、そんな美猿王をただ見ていた。
恐ろしい力を持つ美猿王は、雷龍の贈り物なのだから仕方がないと思っていた。
だが、誰一人として美猿王の行動を止める事はなかったのだ。
何故なら、それは自分達が如何に安全にいれるのかが大事だった。
美猿王は、長老や他の猿達の言葉を耳に入れなかった。
たが丁や黎明部隊の猿達だけの言葉は、耳に入れたのだ。
それは黎明部隊は、自分のモノだと思っていたからで、自分の軍隊とも思っていたからだ。
美猿王 十四歳ー
「暇だ」
俺は、水簾洞の光輝く水晶を見ながら呟いた。
誰も、この花果山を攻めて来る者はいない。
それに、火山島に住む猿達は俺をビビって喧嘩を売ってこない。
たまに、妖怪と呼ばれる怪物が攻めて来るがソイツ等も、大した腕をしていない。
やり合っても、すぐに相手が死ぬからつまらん。
「美猿王よ。また、戦いの事を考えておいでですか…?」
杖をつきながら、歩いてくる長老が目に入った。
この爺さんは、猿の中で1番歳を食ってる猿で皆に長老と呼ばれている。
「平和なのは、つまらん」
そう言って、近くに置いてあった桃を口に運んだ。
パクッ。
口の中に甘みが広がり幸福感を得た。
桃は俺の好物だ。
よく丁に桃を探して来いって命令をする程、俺は桃が好きだ。
「もうこの火山島には、美猿王に敵う者はおりませぬ。山の猿達は美猿王の強さに怯え、手を出して来ませぬ」
「あーあ、つまんねーの。面白い話とかねぇの?」
「わ、私に聞かれても…。面白い話ですか…」
長老はそう言って、頭を抱えた。
ビクビクして目が怯えてて、俺の顔色ばかり伺ってる。
そんなあからさまにビビられるとなー。
長老は、長生きしているが強さや知恵がない。
ただ、生きて来ただけの猿だ。
俺みたいに見た目が人の形をしている猿はいない。
「若。今、宜しいですか?」
長老の後ろから現れたのは、俺の護衛役である丁が現れた。
「長老様?いらしたのですか?」
「おお!丁か!ワシの事は良い!美猿王に用事か?」
そう言って、丁の背中を押した。
この爺さん、丁を盾にしたな。
「それで?何の用事だ丁」
「は、はい。実は美猿王宛に文が届きまして…」
「文?俺にか?」
「こちらが文です。」
丁は俺に文を渡して来た。
俺は文を広げ内容に目を通す。
長老に文字の読み書きは教わっていたので、ある程度の文字は読める。
文を出して来たのは、牛魔王って奴で、宴を開くから俺にも参加して欲しいって内容だった。
「美猿王よ。文にはなんて、書かれていたのですか…?」
「あ?あー、なんか宴を開くから来てくれって
さ」
「宴!?主催者は誰なのですか!?」
長老が前のめりになって、俺に近寄った。
「牛魔王」
「「牛魔王!?」」
俺がそう言うと、2人は驚いて大声を上げた。
「有名な奴なのか?」
桃を口に頬張りながら、丁に尋ねた。
「牛魔王って言ったら、妖怪の六大魔王の1人ですよ!!妖怪の中でも、もっとも強いと言われているんです!!その妖怪から、宴へ招待されているんですよ!?」
丁は、早口で俺に説明した。
妖怪の中で、1番強いって事か…。
俺より強い奴に会った事ないから、会ってみたいな。
何か面白そうだし。
「それで、美猿王よ。宴への参加はどうしますか?」
長老が俺に問いて来た。
「何か面白そうだし、参加してみるわ」
「ほぉ!!そうですか、そうですか!!いやー、美猿王が、六大魔王達の宴に招待されるとは!!」
長老は、嬉しそうにしていた。
お前が呼ばれた訳じゃねーのに。
「分かりました。では、私はその事を伝えに行って来ます。」
そう言って、丁は立ち上がった。
「どこから送られて来たか書いてねーぞ?場所分かるのか丁」
「牛魔王の手下の奴等が、花果山の麓(ふもと)で待機しているんですよ」
「へー。牛魔王は、用意周到だ事」
「では、行ってきます」
「あぁ」
丁は、俺の返事を聞いてから麓に向かって行った.
「ワシは、宴に着て行く服を調達せねば!!」
カンカンッ!!と杖を着ながら水簾洞を出て行った。
「張り切り過ぎだろ」
頬杖をつきながら呟いた。
自分の事ながら、周りが浮き足立っている所為で客観的に見ていた。
それから暫くして、丁が戻って来た。
どうやら宴の日程や場所を聞いたらしい。
宴は明日行われるそうで、牛魔王の手下が俺を迎えに来るそうだ。
護衛役として、丁も同行する事になった。
長老達が持って来た服を何着も着せられた。
俺の顔が良いから何でも似合うと言って、着せ替えが四時間続いた。
いつの間にか寝てしまっていたらしく、丁に叩き起こされた。
「若!!起きてください!!支度をしないと間に合いませんよ!!」
支度?
あぁー、牛魔王の宴に行くんだったか…。
「めんどくせーな」
「面倒くないですよ!!さ、起きてください!!」
「へーいへい」
俺は重たい体を起こした。
体を起こすと、丁が手際良く俺の服を脱がし始める。
昨日長老が決めた服を素早く着せて、髪の毛を整えた。
長老が選んだ服は、こんな感じだ。
黒い生地に白と金の椿の絵が刺繍された大きめの長袖に黒いズボン、小さいアクセサリーだがちゃんと存在感を出している。
「カッコイイですよ、若。長老様が選んだ服がとても似合っている」
「そりゃどうも。お前もその格好で行くのか」
「はい。長老様が、ご用意してくれたので…」
丁の服装は、俺と似たような服を着ていた。
「美猿王!!丁殿!!牛魔王の使いの者が来ました!!」
黎明部隊の一匹が、俺達に話し掛け来た。
「分かった。では、参りましょうか」
「あぁ」
水簾洞を出ると、長老とこの山に居る全ての猿が居た。
「美猿王よ…。無事に帰って来て下さい」
長老が泣きながら、俺に近寄って来た。
「別に戦いに行くわけじゃねーんだから心配し過ぎだろ。それに、ただ酒飲みに行くだけだろ。」
「で、ですがー!!」
「長老様。私も居ますからご安心して下さい」
泣いている長老を見兼ねて、丁が会話に入って来た。
「だ、だが…!!」
丁に向かって、グダグダと話している。
段々と、イライラが溜まり口に出した。
「五月蝿い」
俺がそう言うと、長老はピタッと動きを止めた。
「いちいち五月蝿せぇ。見送りに来たなら黙って見送れ」
長老を睨みながら話した。
「も、申し訳ありません、美猿王…」
「丁がこう言ってんだから黙ってろ」
「若…」
丁が俺の顔を見て涙目になっていた。
「「美猿王様。お迎えにあがりました」」
仮面を被り黒いマントを着た人の姿をした妖が、2人立っていた。
「牛魔王の使いの者か」
「はい。こちらの馬車にお乗り下さい」
そう言って、牛魔王の使いが黒い馬の馬車に俺達を案内した。
「どうぞ」
ギィッと音立てながら、馬車の扉を開けた。
「長老様。行って参ります」
「気をつけるのじゃぞ!!しっかり美猿王をお守りしろ」
「はい」
「さっさと行くぞ、丁」
俺はそう言って、馬車に乗り込むと丁は慌てながら馬
車に乗り込んだ。
牛魔王の使いの者は、俺達が乗り込んだ事を確認すると、馬に鞭を打ち馬車が走り出した。
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