第28話 『木星へ』

パイソンは無理をせず、ロケットボートを操っていた。

レーダーで確認すると、ロックはもう既に小惑星帯を抜けただろう。ミツルもそろそろ小惑星帯を突破する。

しかし、ここで焦っては良くない。

ロケットボートにこれ以上の損傷をさせてしまっては致命的だ。

自動燃料補給ロケットを使用すれば、一気にトップに立てるだろうが、切り離しが出来ない以上、リスクは存在する。木星をターンして、またこの小惑星帯を抜けなければならない。自動燃料補給ロケットと、小惑星が衝突すれば、爆発する可能性も秘めている。現段階での機体の損傷はこれ以上は避けたかった。


パイソンは小惑星帯を抜けた後の、木星までの加速を考えていた。

ピットインをしないとなれば、木星を使い、最高速での加速スイングバイが出来る為、一気にスピードを上げられる。燃料のロスも、最小限に抑えられる。

ロックもミツルも唖然とするに違いない。


パイソンは、小惑星帯を抜け、徐々に見えてくる木星の姿が好きだった。

真っ暗な宇宙空間に佇む大迫力の巨大ガス惑星の神秘さは、何度見ても感動を覚える。

少しずつ縮小をしていってはいるが、大赤斑が織り成す模様を横目に、レースの後半戦に向け毎回気合いを入れるのだ。

このレースを最後に引退をするパイソンにとって、生きている内に木星を肉眼で見る機会は、今回が最後になるだろう。だからこそ、しっかりと目に焼き付けておきたいと、パイソンは思った。


しかし実はこの木星も、小惑星帯に次いで、危険なゾーンなのだ。

木星の巨大重力に引き寄せられる彗星や隕石などが相当数、存在するからだ。万が一、それらの接近に気がつかなければ、致命的な結果になりかねない。

木星の美しさに見とれてしまうのは、気をつけなければならない。


「司令塔、こちらパイソンだ。小惑星帯を抜けたら、ブースターエンジンを点火させる。自動燃料補給ロケットの準備を頼む」

パイソンは司令官に無線を入れた。


「了解した。だが何か違和感があれば、必ずピットインをしてくれ」


「ああ。分かってる。何も問題はないさ」

パイソンは自分に信じ聞かせるように言った。


パイソンがちょうどレーダーを確認すると、ミツルのロケットボートも小惑星帯を抜けたようだ。

ブースターエンジンを点火させて加速したらしい。


「待ってろよ、ロック、ミツル!一気に抜き去ってやる!」

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